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◆54 台風は過ぎました。





土曜の夕方から夜にかけて、関東地方に直撃した台風は、無事過ぎ去りました。

隆哉さんがオカンを迎えに行ってる間、俺のスマホのラインが「明日開店からバイト出勤よろ」という西園寺君からのメッセージが入った。OKスタンプを押して返信しておく。

遥香ちゃんは明日、ご自宅に戻ります。

職場からもどってきたオカンも隆哉さんも、心配してて、オカンなんかは……。


「明日、あたしが遥香ちゃん送る」

「え……で、でも、大丈夫です。それに、その恥ずかしいぐらい散らかってると思うので……養生テープとか散乱……」


両手を振って、遥香ちゃんが断るも、オカンはすごく現実的な発言をする。


「うん。だから、あと片付けも込みで、マンションの水道電気系統が無事か確認もしたいし、ちゃんと機能するか見ないと安心できないし。ご両親に連絡とった手前」

「そんな、咲子さん、お仕事のお休みなのに」

「いいのいいの、主婦はそんなもんなの」


隆哉さんも、オカンの言うマンションのライフライン機能が正常か確認するのは賛成らしい。オレも賛成。ほんとはオレが行きたいけど、バイトだからいけない。おかん頼む。ごめんね遥香ちゃん。


「男手が必要になったら連絡して、僕はちょっと明日は仕事の件で連絡くるかもだから、家にいるけど」


あー多分部下の出勤ができるかどうかとか、取引先の状況とかそういうのかな……。

TVニュースであちこち浸水状況とか流れてるし、東京の河川氾濫するかも……までいったもんなー。エリアメールがバンバン流れてるとかSNSでもコメント多かったし。


「ありがと、隆哉さん」

「じゃあ、俺はなんか買い出しとかあればするけど?」

「ありがとう、優哉君」

「メモはください。主婦の買い物は慣れてないんで」

「莉奈も、莉奈も、遥香おねーちゃんちにいきたい!」


みんなが役割分担してるところを莉奈ちゃんが主張する。


「莉奈ちゃん……」

「莉奈も、いっしょにいく、おてつだいする! だって遥香おねーちゃん、莉奈のおようふくのおかたづけしてくれたから、莉奈も遥香おねーちゃんのおうちおかたづけするの!」


遥香ちゃんは莉奈ちゃんの言葉に「じゃあ、莉奈ちゃんお手伝いお願いします」というと莉奈ちゃんは嬉しそうに何度も頷いていた。




とにかく、翌日オレはバイトに出勤。ごめんね、遥香ちゃん。迷惑だったらオレあとでオカンと莉奈ちゃんにお気持ちお伝えしますからね!

チャリでバイト先まで行くと、西園寺君がシャッターを開けてcloseの札をだしていた。

準備中だからね。

「おー真崎弟、悪いね、朝から出勤で」

「お店は大丈夫だった?」

「うん、浸水とかもないし、こっちはね。ただ、開店前に搬入する物流がまだこない。台風直撃の後だから道路状況がよくないんだろうな」


ですよねー。でもこういうセリフ。親戚のおねーさんのお店のお手伝いするバイトの高校生じゃねえな。西園寺君、店長って呼んでいい?


「バイトの片岡さんがね、住んでるアパート浸水しちゃってね、しばらくこれそうもないんだわ」


片岡さんとは、ここのバイト土日で入ってる大学生の人です。以前問題を起こした女子に追っかけられてた人でイケメンですよ。うちの優哉さんとタイプの違うイケメンです。


「マジか! どんくらいなの?」

「冷蔵庫死んだらしい」


ああああ、それやべえヤツじゃん!


「TVとノーパソとレンジは死守したとか自慢気だった」


……わかる……自慢していい片岡さん……。


「そんなわけで、真崎弟、今月土日も頑張ってくれない? テスト期間ぎり入るまで。土曜日学校ある日は夕方からでいいんだけど」


おっふ。でもそれは仕方ないな、オレもいろいろと軍資金は欲しい。ノーパソほしい。五年ぐらい前の型落ちならバイト代でもいけそう……な気がするし、他にもいろいろあるしな。

隆哉さんはオレのこと、あんまり物欲ないとかいうけど、物欲ありまくりよ? でなきゃ初めての接客業とかバイトにしないですからね。

それはおいといて、いい機会だから稼ぐか。


「いいよ」


朝から入ったバイトは結構ヒマだった。そりゃー中にはバイトの片岡さんみたいに台風後の残骸処理とかでお買い物とかできないよね。

でもお昼過ぎからわさわさと人が入ってきた。やっぱ水系は買われていったな……。

パスタ麺とパスタソースなんかも。


「休憩行ってきていいよー」


本物の店長の言葉に甘えて外出。

商店街にあるド〇ールさんに入る。ミラノサンドとカフェオレを頼んでイートインでもぐもぐすることに。マ〇クがあればそっちがよかったんだが、少し駅よりだからバイト先から遠ざかってしまう。

普段は4時間の夜バイトだから休憩とかなかったから新鮮というか。

しばらく土日にバイト……片岡さんのかわりだからロングタイム勤務だろうし、その時は弁当作ろう。今日はしかたないので外食する。

店舗のカウンター席は商店街に面してて、外がよく見える。もぐもぐしてるオレも外から見られてしまうわけなんだが……。

あれ? ボッチ飯って久しぶりじゃね? 特にこういうイートインでのボッチ飯。

アラサーの時ってお一人様で、店に入っても、さくさく食ってさっさと退散せなって気持ちになってたような気がする。自意識過剰もいいところなんだけど、誰もオレなんか観てないんだろうけど、なんか見られてる気がして、さっさと食って退店してたなあ。

そんなことをしみじみ思って外の風景を見ていたら、見慣れた顔が通り過ぎようとした。

誰かって? 優哉ですよ。いつもオレが行くスーパーを超えてここまで何しに来てるのオニイチャン。

そんなオレの心の声が駄々洩れたのか、優哉は二、三歩、歩いたところでこっちを見た。

そして慌てて戻ってガラス越し両手をバンて広げて、こっちを見下ろす。

オレがミラノサンドを食うか? ってガラス越しにジェスチャーしたら、即行で店の中に入ってきた。


「バイト激励しにきたオニイチャンに隠れて外食ですか、オトウトよ」


隣のスツールに座る優哉に落ち着けやと無言で手で制する。


「休憩中、あと二時間で帰る。お買い物してくれたオニイチャン、なんか食べる? 奢るぞ」


オニイチャン、買い物をカウンターに置いてなんか持ってきたぞ。

ジャーマンドッグにアイスコーヒーですか。

そして優哉の注文を受けたカウンターの店員さん。優哉がこっちにくるまでガン見してる。

ああいう目にハート作ってる視線には無視なのに、オレには気が付いたのかよ。

女子のハート視線の無視機能とかついてるのかよ。敵視とか殺気とかはすげえ敏感に感じる人? けど敵視殺気とか優哉に向けてたわけでもないんだけどな。


「なんだよ、奢るっていったのに」

「オトウトの金で奢られるわけには……オニイチャンだから、一応」


でもジャーマンドッグとかってお前には足りなくね?

まじまじと手に掴んだジャーマンドッグ見てるし。


「美味いんだけどさ、足りない」


ジャーマンドッグ、ドリンクかよ!? の勢いで優哉の手から胃袋に入っていった。

そうか……今度それっぽいもの作ってやるよ。パンからはやりませんよ? 市販のものでやりますよ。バイト先でマスタードとソーセージは見繕っておこう……。

優哉はストローをくわえてオレにメモを見せる。


「一応、咲子さんのメモ通りに買ったけど、なんか買い足りないものない?」

「……ないな、今日は生姜焼きかな」

「そうなの?」

「多分ね」

「やった。水島さんちに行ったのに、咲子さん、また水島さんお持ち帰りしてきたよ?」

「はい?」

「夕飯も一緒に食べちゃいなさいって」


そのうち一緒に住みなさいとか言い出しそうな勢いじゃね? 

遥香ちゃんにも遥香ちゃんのペースがあるんだぞオカン。

高校生は忙しいんだ。主に課題とか宿題とか。そこを思っていたら、どうやら今、真崎家で莉奈ちゃんと一緒にその課題やら宿題やらやってるらしい。


「しばらく土日もバイト入るからオレ」

「え⁉」

「他のバイトの人、今回の台風で住んでるアパート浸水したらしい。落ち着くまでオレ代わりに入ることになった」

「そっかー莉奈の学芸会は観にいかれないのか」

「はい⁉」

「俺も土曜授業で観れないけどな」


オレはカウンターに頭を乗せる。

なんだよ、それ超ショックだわ。隆哉さん、是非その学芸会はビデオに収めてください。


「演目はなに?」

「オズの魔法使い」

「……莉奈ちゃんのドロシーを見たかった人生でした」

「お前、莉奈が主役前提かよ!?」


他に誰が主役をやると言うのだ、うちの子以外いない! 

これ発言しちゃうと「うわ、完璧モンペだなお前!」とか言われかねない。


「実際ドロシーらしいけど」

「マジかよ~……」

「オズの魔法使いってどんな話だったっけ?」

「え? 優哉知らないの?」

「昔読んだような気がするけど忘れた。なんか旅をする話なのは覚えている」


うん。まあそうなんだけどね。

登場人物多いし、小学生の学芸会劇としては無難なチョイス。

実際それを演目としてやる小学一年生には内容理解できるかどうかなっていう部分はあるけど。

高学年なら理解できそうだけど。でも小学生学芸会演劇って学年よりちょい上的な演目セレクトする先生ってたまにいるよね?


「台風でオズの国にとばされたドロシーが、故郷のカンザスに帰る為に、一緒に飛ばされた愛犬トトと、旅の途中で会った「かかし」と「ライオン」と「ブリキの人形」と一緒にオズの魔法使いを探すんだよ」

「よく覚えてるな、そして無事にオズの魔法使いに会ってカンザスに帰るわけか」


いいや、オズの魔法使いには会わないんだよ。

オズの魔法使いは願いを叶えてくれない。

自分にない知恵や勇気や心が欲しくて、魔法使いに会って与えてもらおうとした、旅の仲間たちの願いは叶わない。

彼等が欲しかったものは、実は最初から彼らの中にあったから。

カンザスに帰るアイテムの銀の靴も、ドロシーは最初に手に入れていた。

ちょっと考えると深い話。

足元を見ろとかそういうことかと。


「隆哉さんがいつも通り頑張って撮影すると思うから、ちゃんと見れば、えー何これそういう内容ってなると思うぞ。変なアレンジとかしてなければ、多分ね」

「アレンジ……」


「オズの魔法使いは、願いをかなえてくれないんだ」


優哉はバッドエンドだったっけ? と呟いた。

だから見ればわかるよ。

オレもリアルタイムで観たかったな。

莉奈ちゃんのドロシー。

きっと絶対可愛いんだよ。





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