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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆52 朝早く遥香ちゃんとパンを作る。






風呂から上がると、隆哉さんが遥香ちゃんのパソコンで海外にいる遥香ちゃんのご両親とスカイプしてた。

ちなみに、遥香ちゃんはすでに夕飯もお風呂も一人でご自宅で済ませてますから、前回のようなくだりはありませんよ。ほんの少し残念……。いやいや、無事で何より。

ていうかさ、遥香ちゃん、先日お泊りした時のスウェット着てる! ちょっともー、何度でも思うけど袖とか裾とかぶかぶかで可愛いんですよ、本当に。

一家みんなでパソコンの前にいる状態はちょっとシュールだけど、遥香ちゃんのご両親はこれで安心してくれてると思う。うちのパパン隆哉さんはイケオジですよ。そしてとても頼りになりますよ。

しかし莉奈ちゃん、隆哉さんの膝の上でスヤアな状態。最近バイトから帰宅するとよく見る光景なんですけどね。

オカンがオレの晩御飯を用意しようとその場から立ち上がった。


「向こうに連絡してくれてたんだ?」

「ご両親もこれで安心でしょ? あんたおなかすいたでしょ?」

「あんまそうでもないかな……」


なんだか今夜はいつもと違うとテンションだし、空腹感がすぎると別にって感じになるんだよな~。


「お茶漬けならどう?」


まったく小食なんだからという表情をされたけど、お茶漬けときいて、首を縦に振る。

なんか食べたくなった。貧乏性なのか汁物が一緒なの割と好き。麺類とかも焼きそばよりも汁もの系が好き。

オレの食欲があるのを安心したのか、オカンはキッチンに向かった。

オレはみんながいるリビングの方へ歩いていく。

ソファの背に手をかけてPCをのぞき込むと、遥香ちゃんのご両親がいた。


「幸星君、ありがとう!」

「とんでもない、いつもお世話になってますから」

「もう本当に心強いわ、ご近所にいてくれて! 最後に幸星君に挨拶したかったのよ」

「じゃ、お母さんもお父さんも、おやすみなさい。また連絡します」

「わかった、真崎さん、娘をよろしくお願いします」

遥香ちゃんのお父さんが隆哉さんにそう言うと、隆哉さんは「お任せください」と請け負って、スカイプを終了させた。

これでなんか一安心って感じ。


「幸星、ごはん」


タイミングよく、オカンがオレに声をかける。


「へーい」


キッチンカウンターのスツールに座ると、カウンターに出されたのは漬けマグロの出汁茶漬けだった。

わー! 永〇園だと思い込んでいたよ。オレが最近料理するから「負けない」とか思ってるのか? ワサビ醤油に漬け込んだマグロと、その上に薬味、小葱と白髪ねぎ、みょうがと大葉に白ごまをちらして、昆布だしで。

永〇園でもよかったのに! ありがたく頂きます。

うま、昆布だしに僅かな鰹節の味。ちょっとだけ麺つゆ使ってる? 薄口しょうゆとみりんも入ってるなこれ。出汁が旨い。

サラサラなお米としっかり味のついたワサビ醤油漬けマグロのパンチのある味と薄味出汁のコラボ。

わーこれなら食べられる。


「あ、幸星なんかいいの食ってる」


優哉、お前夕飯食ったんじゃないの!?


「えー! 優哉君漬け丼食べたよね?」


オカンはそう言いながら、小鉢にきんぴらごぼうを盛ってオレの前に出す。

ああ、そうだろうね。多分これが出るってことは漬け丼だろ優哉なら。


「マグロとサーモンの漬け丼とイカもそうめんになってて、きんぴらごぼうも里芋の煮物もほうれん草の胡麻和えも美味しゅうございました。咲子さん。和食万歳。でも人が食べてると美味しそうに見えない?」


食うなあお前。

ちなみに海鮮丼になった経緯は、オカンも明日の朝食昼食夕食分はとにかく確保したけど、今夜の分が思いつかなくて、サーモンとマグロの柵があったから単価高いけど非常事態! とか思って購入した模様……。


「ちょっと食う?」

「お前はちゃんと食べろ。でも今度作って、出汁茶漬け」

「いいけど~でも、優哉の胃には足りない感じじゃね? がっつり系の味が好きだろうし」


お前、何故そんな悲しそうな目でオレを見るの!?


「ごめん、作るから、その顔ヤメテ」


オレがそういうと、優哉はオレの頭をくしゃくしゃとかき混ぜてスツールの隣に座る。

遥香ちゃんが隣のスツールに座る。


「ごめんね、幸星君、迷惑かけちゃって」


えーそこは「ありがとう」って言ってほしいんだけどな。

ああ、これか。「オレでごめんね」って言って、遥香ちゃんが泣いちゃったのは。


「迷惑じゃないし、そこはごめんねじゃないよ」


オレがそう言うと、遥香ちゃんは、うんと頷く。


「ありがとう……幸星君」


そんなしみじみと言われちゃったら照れちゃうなー。

オカンがキッチンの冷蔵庫を開けてうんうん唸ってる。


「何? 優哉が食い過ぎたの? 明日の買いだめした食料つきた?」


オレがそういうと優哉は「ちょ、オレはそこまで食ってない!」と抗議の声をあげる。


「パンが足りないかな~洋食と和食半々の朝ごはんでいい?」

「ゴハンとパン食べるの好きです」


そう言ったのは優哉。

お前、炭水化物×炭水化物(パン×ごはん)って……。しかも言い方が莉奈ちゃんに似てる。さすがDNA。


「あ、あの、よかったら、わたし朝、パン作ります。幸星君、強力粉ある?」


遥香ちゃんが任せてください! 的な感じで声をあげる

マジ? 遥香ちゃん!?

オレは完食したお茶漬けの椀に箸をおいてスマホをとりだし、レシピを検索する。

オレ作ったことないよ、パン!

強力粉とドライイースト、お菓子作る時に買って結構余らせているんだよ、そういえば!

オカンは食料ストッカーを開けて「あーあるある!」と声を上げた。


「オレも作る! 優哉、オレを起こせよ、いいな! 焼き立てパンだぞ、トーストと違うんだぞ!」


そこは夜更かしするなと言われるところだが、さすがに焼きたて出来たてパンの魅力に期待値が上がったらしい。うんうんと優哉は頷いた。




スマホのアラームが鳴る。

んー朝……なんでこんなに早くアラーム設定したんだっけ? 学校? 


「幸星君、幸星君」

「むー」


トントンと腕を軽く叩かれる。

遥香ちゃんの声……がするけど……なんで? 夢? 

手を伸ばすとちゃんと遥香ちゃんが手をとってくれる。夢ならちょっとぐらいぎゅーしてもいいかな……。遥香ちゃんを引き寄せようとしたら、彼女は言った。


「幸星君、起きて起きて、パンを焼かないと……」


んん!?

そうだ、昨日、遥香ちゃんを家に避難させたんだ!

学校は休校、そんで、今朝は遥香ちゃんとパンを焼く!

あっぶねえ! ここで引き寄せてぎゅうしちゃったら、オレ一家全員からフルボッコだよ!

慌てて上半身を起こして目をこする。


「起きる、起きます。遥香ちゃん早起き、おはよう」

「おはようございます」


寝起きに遥香ちゃんとか、マジでドッキリ。

遥香ちゃんは人差し指を唇に当ててシーってジェスチャーをする。

何を朝から可愛い仕草で、なんかオレを試してるのこの子?

遥香ちゃんはオレの横に視線を落とす。オレも視線を追うと、そこには莉奈ちゃんがスヤアな状態で眠ってる……。ちょ、ヤメテ、心臓に悪いよ! 莉奈ちゃん! またまた寝ぼけてやってきたのか!


さて、さて、身支度をしてキッチンに立つ。

お菓子作りとかしていてよかったよ~材料ほぼほぼある。ただバターは有塩なんだよな。

塩を入れずにバターの塩気でなんとかなるだろうか……。

莉奈ちゃんはハチミツでごまかされそうだけど。

強力粉とドライイースト、牛乳と砂糖。今回は卵なしでいきます。

牛乳はレンジで温めて、バターは常温で戻す。ダメだったらレンジで調節しよう。

まずは強力粉をボウルに入れてドライイースト、砂糖、レンジであっためた牛乳(材料の分量はネット検索したとおり)これをぶっこんでひたすら撹拌。

粉っぽさがなくなったぞ。これを取り出してバターを練りこむわけだね。

練り練りを続けていると遥香ちゃんは小さく生地をとって丸める。


「幸星君、もういいかもしれない。丸めると表面がつるんってなってます」

「そう? えっとこれで一度発酵させるんだっけ?」

「うん。幸星君の家のオーブンレンジは発酵機能がついてるので、まずはそれで」

「え、その機能初めて使う」


遥香ちゃん、オレの家のレンジ機能把握とかすげえ。改めてレンジの取説を見ると、結構このレンジでつくれるメニューのレシピとか載ってる。

ふむふむ。またの機会にちょっと挑戦してみます。

遥香ちゃんが取り出した生地をまた戻して耐熱ボウルに入れてレンジで発酵させる。

この一次発酵で20分か……。

結構発酵時間がかかるもんなんだな。パン屋さんが早起きなわけだ。

オレは遥香ちゃんにミルクティを淹れてマグカップを渡す。

実はうちには遥香ちゃん用マグが置いてあるんだよ。

コーヒーメーカーをセットして、リビングのTVをつける。

台風は今、東海地方だ。午後から夕方だな……関東上陸。

どの番組も昨日と同じで端に台風情報とか鉄道の計画運休のお知らせとかを流している。ベランダの窓から見える空は、雲が流れるけれど晴れるような感じはなく重い感じ。上空の風の流れが速いのは目視できる。


「はい、幸星君」


遥香ちゃんはオレのマグカップにコーヒーを淹れてくれて、もってきてくれた。


「わーありがとう」


受け取って、一口コーヒーを飲む。香ばしい香り、後味に残る僅かな酸味。カフェインで一気に脳が動きだす感じ。

ソファに座って、二人でTVを見る。


「えと、このあと、生地のガス抜きして成形して二次発酵でいいんだっけ?」

「はい、ガス抜きした生地を並べてオーブンで焼きます」

「結構時間かかるね、でも楽しみ」

「……はい」


早朝のテレビって、大して面白いのやってないよね。当然だけど。

ニュース番組をつけてパンの発酵を待ってると遥香ちゃんがうとうとしてる。

声をかけたら「は、起きてますよ!」とか言って頑張って寝ないようにするんだろうけど。

工程としては後半だから、寝ててもいいんだぞー。

なのに、レンジの音ではっと意識を戻して、立ち上がる。

レンジの耐熱ボウルを取り出すと、ふっくらと生地が膨らんでる。


「これを成形してガス抜きね。なんかあれ、ハイジに出てくる白パンみたい」

「ハイジ?」


ん~名作劇場アニメ知らない世代だな。オレはギリギリ後半でやってる作品見てから、過去作品シリーズが気になってネットで調べて動画配信でだいたい見ちゃいましたけどね。


「いまCMでパロディになって流れてる。懐かしのアニメとか特番でも流れてるあれですよ」

「ああ」


名作なんだよー。

隆哉さんは世代的にドストライクだよなきっと。


「知り合いのおばあさんに、ハイジがお土産の白パンを渡す話があってね、それまで硬いパンを食べてたおばあさんは感動するの、それを見てハイジも無邪気に喜ぶという……チーズ作ったりする描写もあるんだ、すごくおいしそうなんだよ」

「えー今度見てみたい」

「でも、昔作られたアニメだから全50話以上で長いんだ」


今時はワンクールで終わっちゃったりするもんね、一年通して放送はぷ〇きゅあぐらいか。

そんな話をしながら、ガス抜きと成形が終わって、二次発酵する。


「え、あのアニメそんなに長いの?」

「長いんだよ。原作の流れに沿って作られてるから、オレは個人的に気に入って、そのシリーズいろいろ視聴したけど、どれも本当に名作です。莉奈ちゃんにも見せたいけど、オタク化が進んでしまいそうで躊躇う」

「え~でも、名作シリーズなんでしょう?」

「うん、小公女とか、赤毛のアンとかトム・ソーヤなんかもあったけど……個人的にはもっとマイナーなやつがオレは好き」

「マイナー……」

「一家で無人島に漂流してサバイバルする話」

「え、何それ」


今の家族なら……無人島に漂流しても、あの作品の家族みたいにサバイバルして生き残れそうだなとオレはなんとなく思った。

二次発酵も終わり、あとは焼きに入る。サラダを二人で用意してる頃に、オニイチャンが起きだした。

本当は優哉が起こしてくれるはずだったよね。


「ちょ、早いな、二人とも」


だってパンは時間かかるから、逆算して起きないとダメなんだよ。だから優哉に起こせって昨夜言ったんじゃん。……とは言わなかった。

遥香ちゃんに起こしてもらったので無問題ですよ。






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