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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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53/94

◆51 好きな子の前ではかっこつけたいじゃないですか。






バイトは21時に閉店。店内に残るお客様に閉店の呼びかけをすると、お客様もレジを素早く済ませて店を出ていく。この状況じゃ、買うもの買ったらすぐ帰宅だよね。

西園寺君がパソコンで作った張り紙を店舗前のガラスドアに掲示していた効果もあったと思う。

クローズの札をドアに表示させて店長と西園寺君が二台のレジを集金回収していく。


「真崎君、いいよ、あがっても」

「はい」


店長の言葉を受けて事務所に戻り、スマホのラ〇ンを開く。

水島さんに今バイト終わったとラ〇ンを送る。

いつもならすぐに既読がついて「お疲れ様~」って返してくれる。

逆に「バイト終わったころかな?」ってメッセが届いてることがある。

そして最後には「また明日ね」って挨拶を交わしてる。

別に長々とした会話はしていないけど、ほんと端から見たら、何それな感じだけど、オレも水島さんも短い何気ない会話のやりとりで一日が終わるのはいいよねって、そうラ〇ンで話をしてた。

だからこの既読が付かない状態に胸がざわつく。

スマホのニュースでも関東に近づく大型台風の話題がトップだ。

物干し竿は外しておけとか、養生テープで窓を補強とか、何年か前の震災の被災者たちが経験したライフラインが途切れた場合の話とか……。

もう一度事務所のTVをつけると、どのチャンネルも気象情報が片隅に流れているし、ニュース番組はその話題を中心に放送している。

とりあえずオカンに帰るスタンプを送るか電話するか迷ったけど直に電話してみた。


「オカン? オレ。今帰るけど、寄り道していい?」

「は? 何言ってるの、まだ雨は降ってるわけじゃないけど、風は強くなってるんだから、まっすぐ家に帰ってきなさい!」

「水島さんが心配なわけ」

「遥香ちゃん?」

「水島さんは、今日学校だったし、ウチみたいに災害の為に食料や生活用品、買いだめとかしてないと思う。今日はスーパーに寄らなかった」

「……」

スマホの向こう側で「咲子さん、電話貸して」と隆哉さんの声がする。

「幸星君?」

「隆哉さん?」

「うん、寄ってきてもいいよ。ていうか、彼女、ウチに連れてきなさい。海外にいるご両親に連絡とれるアドレスも一緒に控えてきて、僕のパソコンから無事を知らせることができるでしょ?」

「はい」

「本当に大きな台風だから。万が一になったら、避難場所に指定されてる莉奈の小学校にもみんなで移動できる。緊急事態だから遠慮なんかしてても四の五の言わせず連れてきなさい。電気は冷蔵庫があるから、ブレーカーはおとさなくてもいい。水道とガスの元栓は閉めてくるように」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ、気を付けるんだよ」

「はい」

電話を切ると、今度は水島さんに直接電話をかけた。

「幸星君……あ、バイト終わったのね」

「うん。あのね、水島さん、うちにおいで」

「え?」

「台風が近いから、オレの家にきな」

「だ、大丈夫だよ、幸星君のおうちのマンションと同じくらい、建物の構造はしっかりしてるし、ここ七階だし、浸水の心配もないし」

……なんでそういうこと言うかな。

へこんじゃうぞ。いやいや、へこんでる場合ではない。


「ダメ、緊急事態だから、ウチに避難する! 今から行くからね!」


有無を言わさず、通話を切った。

「どうしたケンカか?」

西園寺君が事務所にやってきた。

「ううん。ちょっと強く出てみた方がいいかなって思ったんだ」

もっと優しい言い方をしてあげた方がよかったかもしれない。

でも、それだと、きっと水島さんは「大丈夫」を繰り返すだけだ。

オレもそうだから。

でも、それだとオレが心配だからダメ。

頼ってくれよ。

一番最初に会った時みたいに。

あの駅ビルで、ナンパの二人組を振り切る為、全然面識のないオレを頼ったじゃないか。

おかしいよ、へんだよ。頭いいのにあほの子ですか、キミは。

一番最初に会った時から半年過ぎて、オレは水島さんの友達になった。

一緒に学校に行って、テスト勉強したり、クラブ活動したり、学校行事に参加して、料理作って、莉奈ちゃんと一緒におでかけもしたよ。

そのぐらい時間が経過してるのに、なんでここで遠慮するんだよ。

意地っ張りだ。

そういうところ、オレもそうだからわかるけど。

相手がオレに関心がなかったり、嫌われてると感じたら、オレだってこんな強く出ない。

自分にとって大好きだし大事だし、そういう相手にはすごいとか、強いとか、思われたい。よく見られたい。

カッコつけていたい。

でもね。キミは間違ってる。命大事にだってば。

だからここはオレがカッコつけたい。

今、行くから、泣かないで待っててね。


これでカッコつかなかったらどうしようだけど、店の外はかなりの強風だった。

チャリじゃなくてよかった。チャリで行こうとしたら、優哉に止められたのを受け入れて正解。

追い風に煽られたり、向かい風に視界を遮られそうになったりしながら、オレは水島さんのマンションのエントランスに来た。

オートロックの前で水島さんちの部屋番号を押した。

インターホンは画像が映るタイプだから水島さんはオレだってわかってる。ここでロックされたまんまだったらどうしよう……いやいやスマホで呼び出すぞ。そんな決意をしてると、カチンとドアロックは解除された音が響く。

まだ停電がくるまでの強風じゃない。いきなり電線が切れたりしないと思って、エレベーターでフロアに上がった。

部屋の前のドアチャイムを鳴らすと、水島さんがドアを開ける。

「幸星君……」

やっぱり怖いのを我慢してたのか水島さん涙目だった。

手に持ってたのは養生テープ。窓ガラスの補強をしていたのか。



「オレ『困ったら言ってね』って水島さんに言ったよね? 水島さんは『頼りにしてる』って言ってくれたよね?」



大きい目が水分含んでキラキラしてる。

涙腺決壊だ。ぽたぽたと透明な雫が白くて柔らかそうな頬を伝っていく。


「幸星君……こ、怖かった……の……ほんとに……来てくれるって思わなかった……」



よかった。

大丈夫だよ、もう心配しなくていい。

そう思ったら、水島さんを引き寄せていた。

莉奈ちゃんをぎゅうするみたいに。抱き寄せて、ポンポンと背中を叩く。

この子は、オレが差し伸べた手を振り払わないって、オレ自身がどこかで信じてる。

いくら友達でも、そんなぎゅうはダメです、セクハラですとか言われても、この時ばかりは聞かないよ!

キミのこの小さな肩を背中を抱きしめても嫌われないことを祈る。


「怖かった……怖かったよ!」


そういう本音を、最初から言ってほしかったな。

でもいいや、今、聞けたし。

おまけにぎゅうしても怒られないし。

そうだよね、一人では怖かったよね。

大人しくて静かだけど、強い子だけど心細かったよね。


「きてくれて、嬉しい……ありがとう……」


よかった。頼られてる? 頼りにされてるよね?

ぽんぽんする手を止めてぎゅっと抱きしめた。

細いのに、壊れそうなのに、壊れないんだな……あったかくて、柔らかくて、いい匂いする。

ごめんね、こんな時に。

でも人生はじめて家族以外の女の子をぎゅうしたので感動してる。

もうこの勢いで名前で呼んじゃっても引かれないかな。


「よく頑張ったね、()()()()()


遥香ちゃんはうんうんと頷く。

「よし。支度して、オレの家に行こう」

「幸星君……?」

「海外のご両親の連絡先、控えてる? 着替えと、それだけ持ってればいいから。雨はまだ関東にはきてない。ガスと水道の元栓だけ閉めて行こう」

「……でも」

「もし、どうしてもいやだって言うなら、オレは遥香ちゃんの傍にいるけど、万が一を考えてみて。何かあった時に、緊急避難所の学校にはみんなで移動できる」

「……うん……」

「じゃあ支度して」


遥香ちゃんは素直に身支度と軽い着替えをリュックに詰めてきた。

遥香ちゃんはノートパソコンを立ち上げる。


「幸星君、ちょっとだけ待って、いまつながるかも」

「うん」


ご両親と連絡が取れるってことか。

スカイプで話したのは海外にいるご両親だ。

いまご両親はシンガポールにいるらしい。日本との時差は一時間。向こうも夜。仕事は終わってるはずだ。

遥香ちゃんはご両親に今の状況を話していた。

大型の台風が近づいていること、真崎の家に避難すること。


「遥香ちゃん、オレからも話す」

「え? 真崎君いるの?」

PCから遥香ちゃんのお母さんの声がした。

遥香ちゃんの隣に座ってモニタを見ると、遥香ちゃんのお母さんとお父さんもいる。

「夜分遅くお邪魔しています。いまバイト帰りです。遥香ちゃん、台風過ぎるまでうちでお預かりします。うちの親もそうした方がいいって言っています。そちらでも日本の天気の状況はネットで調べればわかると思いますが、明日の午後に関東は暴風圏内に入ります」

「ええ」

「首都圏の交通網JRをはじめその他の鉄道も計画運休を明日から開始するし、学校も休校です。安全の為に、遥香ちゃんはうちに避難させます。遥香ちゃん、このノートPC、持っていこう。ウチでつなげれば、ご両親も安心だから」

「うん」

「ありがとう、真崎君! 遥香をお願いします」

「お母さん、このPC持ってくね」

「そうして」

「オレの家についたら、回線つないでまたご連絡できると思います」

「わかったわ、気を付けてね!」

「じゃ、お母さん一度切るね!」

パソコンの電源を落としてケースにしまう。さらにごみ袋で包む。万が一、雨が降り出しても濡れないように。そのPCはオレのデイバッグに押し込んだ。

戸締りと元栓閉めて、鍵をかけて戸締り確認して廊下を歩きだす。

マンションのエントランスまで出た。

ガラス戸の向こう側の街路樹が風に揺れてしなってる。


「よし、雨は降ってない……」


オレは遥香ちゃんに手を差し伸べると、遥香ちゃんはぎゅっと手を握り返してくれた。


「行こう」

「うん。あの、ね」

「何?」

「どうして、名前で呼んでくれたの?」

「あーうーん……迷惑だった?」

「ううん。嬉しかった、安心しちゃった」

「そっか」


ああ、よかった。名前で呼んでも、大丈夫だった。


「本当は、ずっと名前を呼んでみたかったんだ」

「呼んでくれてもよかったんですよ?」

「うん。遥香ちゃんが嫌じゃなければ、これからは名前で呼ぶ」


遥香ちゃんはうんと頷く。

逆再生前にも体験しなかった大きな台風が近づいてるのに、なんでこんなにフワフワしてるんだろうな。

可愛い子と一緒に手を繋いで、名前呼び合っちゃう状況が、リア充すぎるからか?

遥香ちゃんの顔を見ると、彼女は嬉しそうにオレを見る。

こんな強風の中なのに、二人そろって笑顔だなんて、なんなんだよ、リア充滅びろとか言われそうだけど、でも、言われたとしても全然へこまないし、むしろいいだろとドヤ顔で言い返せる気がする。

いつも学校から帰る時と同じように、オレ達は他愛無い会話をしながら家へと向かう。


ただいつもと違うのは、家の玄関を開けるまで、ずっとずっと手を繋いでいたことだった。






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