◆46 文化祭は楽しかったよ。
「真崎ー休憩入っていいぞー俺が代わる~」
「あ、お願い」
タコ焼きの焼き係終了。
逆再生前は文化祭って、オレ何してたっけ?
……雑用? いろんなところ見たりしてない? してないな。
スマホを見ると、なんかラ〇ンがはいってきてる。
莉奈ちゃん迷子!?
隆哉さんがPTAの当校の歴史を見てると、「おとなり行ってくる」と言って出てって隣の教室に行ってしまい、隣に行ってみるとその姿はなかったとか。
優哉は!?
隆哉さんの連絡を受けて校内探しまくってる様子。
莉奈ちゃんどこ!!
焦ってると水島さんから連絡が! 「幸星君、莉奈ちゃん来てる」とのこと。
直で電話する。
「水島さん! 莉奈ちゃん確保して! 隆哉さんから離れたから!」
「幸星君のお父さんときていたんですね?」
「なんか隆哉さんが見てたところがつまらなかったみたいでお隣いってくるって言って一分しないでもう隣の教室からいなくなったから! 水島さん、タピオカのところ!?」
「はい」
文化祭で来校者の多い廊下をできるだけダッシュで走って、水島さんの担当してる教室にすべりこんだ。
莉奈ちゃんは水島さんをはじめ、二、三人の生徒に囲まれていた。
「コーセーお兄ちゃん!」
教室に入ると莉奈ちゃんがタピオカミルクティの紙コップを持って、ぱあっと顔を輝かせる。可愛いんだけど、ちょっとまて。
普通に喜んで抱っことかしちゃダメ!
「莉奈ちゃん! どうして隆哉さんとはぐれちゃったのかな?」
莉奈ちゃんは「あ」と言って紙コップに視線を落としてしょぼーんとする。
莉奈ちゃん、心配したんだよ、子供は好奇心旺盛だし、隆哉さんが見てたのはあまり興味ないものかもしれないけど、お隣行ってくるで行動範囲広げても、一度戻って、また行先告げないとダメでしょ。
オレは莉奈ちゃん見つかったと隆哉さんと優哉に連絡を入れる。
心配させてたのがわかったのか、莉奈ちゃんは「ごめんなさい」と小さく言う。
心なしか一回り小さくなってしまった感じ。
莉奈ちゃんには甘いけど、危ないことをしたら怒るよ。
「隆哉さんに……お父さんにごめんなさい言えるかな?」
「はい」
オレはぽんぽんと莉奈ちゃんの頭に手を乗せる。
「真崎―この子、真崎の妹?」
莉奈ちゃんを囲んでた同じクラスの立花さんが尋ねる。
「うん」
「てっきり遥香ちゃんの妹かと思ったよ~一人できょろきょろしてるから、声をかけたら『はるかおねーちゃんのタピオカやさんにいきたいの』とか言うから……連れてきたんだけど」
中央の廊下で一人でキョロキョロしていた莉奈ちゃんを見て立花さんは声をかけたという。
おおお、よかった~まじよかった~面倒見よさそうな女子と行動してて~。ストライクゾーンの広い男子だったらどうなっていたことか! まじありがとう! 立花さん!
「ごめんね、ありがとう立花さん」
オレがお礼を言ったところで隆哉さんが教室のドアから顔を覗かせていた。
「莉奈!」
「パパ! ごめんなさい!」
「心配したよ、すぐ戻ってくるって思ったのに。ああもう、今日はパパが一緒だからって安心してたらダメだね、キッズ携帯とりに戻っておけばよかったよ」
お出かけの際、莉奈ちゃんはキッズ携帯を忘れてしまい、隆哉さんは取りに戻ろうとしたんだけど莉奈ちゃんが「はやくお兄ちゃんの学校いく」と言ってきかなかったそうだ。優哉も一緒なら油断もするよな。
優哉も慌ててこの教室に駆け込んできた。
ちなみに優哉は屋台を回っていたらしく、この教室に来る時も数名の女子にストーカーされていたっぽい。
優哉がこの教室に入った瞬間、女子の態度がそわそわし始める。
「莉奈~」
優哉も安心したみたいだ。
「優哉お兄ちゃんごめんなさい!」
「クラスの女子が声かけてつれてきてくれたんだって」
優哉は自分の額に手をあてて溜息をつき「女子でよかった……」とぼそりと呟く。
やっぱ心配するところそこだよね。まして優哉自身がすでに軽くストーキングされてる感じだもんな。優哉がこの教室にはいってきた時点で、水島さんと莉奈ちゃんの傍にいた女子もそわそわしちゃってるし。
莉奈ちゃんはわかってないのかタピオカミルクティの紙コップを持ったまま、オレと優哉を見上げている。
「水島さんは休憩入った?」
「うん、これから」
「オレも。迷惑じゃなかったらオレんところの家族といろいろ見てまわる? 誰かと約束してる?」
莉奈ちゃんが嬉しそうに顔を明るくさせる。
「お姉ちゃんも一緒!」
「えっと、じゃあ、莉奈ちゃんがせっかくきてくれたし、みんなでいろいろ見て回ろうか」
「うん!」
ちょうど、キクタン達のウォーターボーイズも開場時間だから観に行くか。
オレは立花さん達にもう一度「ありがとね」と言って、教室から出て行こうとすると。ぐっと服を引っ張られた。
な、なんすか!?
「ちょ、今の、成峰のイケメンじゃん……真崎、知り合いなの!?」
声量を落として尋ねられた。
……ああ、それを訊くか……。ちょっと考えたけど、するっと言葉が出てた。
「家族なんで」
「は?」
「あのイケメンは血はつながってないけど、オレの兄ちゃんなの」
オレがそう言うと、立花さんの手の力が緩む。
うん、鳩が豆鉄砲を食った……って言葉、今、オレの目の前にいるこの子達に当てはまるよな。
キクタンも委員長もこのこと知ってるけど、女子には伝えてなかったんだな、今の今まで。
オレは教室を出て隆哉さんたちと合流した。
キクタン達のウォーターボーイズは、夏休み中に練習にぶっこんだな、ぐらいの完成度。
莉奈ちゃんも知ってる曲が多かったのか、手拍子して魅入ってる。
流行のJPOPのメドレーをBGMに、観客をわかせていた。
それから優哉はウォーターボーイズを観終わると、茶道部の野点に参加していた。お抹茶と和菓子を堪能していたけれど、お茶を点てる亭主役の生徒が緊張と興奮している様子にちょっと同情した。ゴメンね、オニイチャンはお抹茶とお茶菓子だけが目当てなんですよ。でもさすがというべきか作法完璧なところが優哉らしいといえば優哉らしい。
うちのクラスにも顔を出して、莉奈ちゃんが「怖いけど、入る~」とか言って入ろうとしたのを見守っていたけど「みんな一緒なの! じゃなきゃ入れないの!」とか言うし、莉奈ちゃんを見た、うちのクラスの男子連中が何この可愛い生き物! 的な感じでノリノリでお化けやってくれてお化け屋敷出たころ、莉奈ちゃん半べそだった。
「莉奈ちゃん、お絵描きできるところ行こうか」
そんな莉奈ちゃんに水島さんが宥めるように言うと、莉奈ちゃんはテンション駄々下がりながらも、こくんと頷く。
お絵描きできるところってアレですか?
あなたのお友達のクラブですか?
「み、水島さん、そ、それはもしかして……」
「汐里、絵、上手なんだよ。幸星君見たことないでしょ?」
体育祭の応援フラッグとかで、デザイン力がありそうなのはわかってるけど。
「莉奈ちゃんに、ぷり〇ゅあ、描いてもらおう」
ドキー! なぜオレと莉奈ちゃん、そして優哉もニチアサ勢だとお察しなのか!?
莉奈ちゃんがいろいろ喋ったのか!? その可能性は一番高いですけどね!
「幸星君のお父さんも、隣の教室が図書委員主催で古本リサイクルしてるから、いいかなって思って」
あ、そこはありがたい。実はオレも物色したい。みんなでウチのクラスの画伯のいらっしゃる部に顔を出したら、受付の子から部誌をもらって莉奈ちゃんはぱらぱらとめくる。
「みんなじょうず~」
莉奈ちゃんご機嫌が直ってきたかな?
ちょうど依頼を受けてイラストの引き渡しが終わっていた草野さんがオレ達を見て声をかける。
「お~遥香~真崎……君と……えっと……」
「オレのツレです」
「……」
そりゃクリエイター魂に火が付くような三次元キラキラな三人が目の前にいれば声失くすわな。
「マジっすか……」
「汐里、莉奈ちゃんにこれ描いてあげて」
水島さんがスマホを草野さんに見せる。ぷり〇ゅあの画像を検索してくれたのか。ありがとうございます。
「おっけーいいよー」
教室の三分の一のスペースは、部員がお客さんから頼まれたイラストを描いてるスペースにしているみたいだ。
草野さんは自分のスマホで画像を検索してじーっと見ると、席に座って描き始める。
「隆哉さん、隣のリサイクル本のところへ行ってても大丈夫ですよ。オレ、莉奈ちゃんと一緒にいるから」
「ほんと? じゃあ、お言葉に甘えてちょっと覗いてくるね」
教室内に張り出されてるイラストを見て、うーん結構いろいろだな……ソシャゲのキャラクターとかも描いてる子いるし、少年漫画系の子もいるし……草野さんぷり〇ゅあとか描けるのかな……。
シャーペンでざっくり当たりをとるとそのままペンを使って描き始めた。
すげえなこの人。動きがある一枚絵とかぷり〇ゅあで描けるんだ。
ていうか上手いよ。
待ってる間、莉奈ちゃんと一緒に部誌を見てたけど、その中でもダントツで上手い。
えーこの人、プロになれちゃうんじゃね?
草野さん、ジャンル的には少年漫画二次BLとか言ってたけど、バトルシーンとかも普通に描けちゃうんじゃないの?
色もつけていくけど、影の濃淡とかも上手いし。
すげえな。
「はいどうぞ~」
そして早いし。
「わー! かわいい~! ありがとう、おねえちゃん!」
莉奈ちゃん両手でイラストを受け取ってにこにこしてる。
「早いな!」
「萌えが入ってないから、萌えが入ると逆に遅い」
「……そういうものですか画伯。草野さんそっち方面行くの? 進路」
「まっさかー! これで食っていけるわけないっしょ」
ひらひらと手を振って言う。
「仕上がるまでびた一文お金入ってこないデンジャラスな世界ですよ。一発OKならいいけどリテイク有りだし」
草野さん、そういうところあるよな……。
趣味の割には結構リアリストとというか。
そこへ漫研の場にそぐわない一団が入ってくる。チアをやってる渡瀬さん達だった。
「真崎! (優哉が)来てるなら来てるって言ってよ!」
開口一番、渡瀬さんの言葉。
「「何が?」」
オレと優哉がその一団に振り返って、渡瀬さんに返す言葉がシンクロする。
渡瀬さんはまさか優哉がオレと同じように、返事をするとは思わなかったようだ。
莉奈ちゃんが、オレの前に立って、ぷるぷるしながら渡瀬さんを見上げてる。
大丈夫、いじめとかじゃないからね。
優哉はオレと渡瀬さんを見比べる。
「だってオレ屋台に入ってたから。そろそろ休憩終わりでまた戻らないとだし……渡瀬さんとキクタン演目時間が被ってて、キクタンの方に行った。父も来てるし」
保護者がいるよって言うと、渡瀬さんみたいなタイプでも緊張するよな。
「だいたい誘うとは言ったけどちゃんと紹介するとは言ってないので、そこは渡瀬さんの力量で」
「……幸星……」
ゴメンね優哉、もうオレ優哉で釣ったりしない。
それに、この場合、相手の女子にもリスクがあるっていうのを伝えておいた方が今後もいいかな。
「でも、優哉にアタックするのはかまわないけど、そうなると、渡瀬さんのそれ全部オレに筒抜けになるの覚悟してよ? 優哉は、オレのオニイチャンだからね」
阿鼻叫喚とはこのことか。
女子の声煩い。
莉奈ちゃん両手で耳を塞いでる。
そしてそこの腐女子、「何その設定、ごはん三杯いける!」とかわけのわからんこと言わないように。




