◆41 水島さんと約束した。
どーしてオレはここにいるんでしょーかっ!?
話は数日前にさかのぼる。
バイトの前に水島さんのマンションに寄ってお土産を渡したんだ。
そしたら、水島さんのお母さんがいつもお世話になってるから夕食一緒にどうですかって誘われました。
お友達のおうちに御呼ばれとかっていつぶりよ? 小学生以来じゃね? 逆再生してるから20年ぶりぐらいじゃね? しかも女子のお宅は初めてじゃね?
とはいうものの、オレもバイトや夕飯の支度なんかもあるから家族に相談してみますって言って、その場、うやむやの社交辞令で終わるかと思ってたのになぜかそれがうちの家族に知れて双方の親同士が電話で「お世話になってます~」的な挨拶してて、今回水島さんのおうちにお邪魔してる状態です。
そう、なんと水島さんのおうちにお宅訪問してる次第です。
とりあえず手製のドライフルーツのパウンドケーキなんかを持参しましたよ。だって水島さんウチに来る時、いつもちょこちょこいろんなスイーツ作って持ってきてくれてるし。
味見の時は莉奈ちゃんには大人の味がすると言われましたが、優哉や隆哉さんは全然OKでしょと言ってくれた。
なので緊張しつつもお宅訪問したんだけど、案内されたリビングには水島さんのお父さんもいらっしゃったよ!
「あ、あのこれよかったら」
オレがパウンドケーキの袋を渡すと、水島さんのお母さんが驚いて袋を受け取る。
「あらら~本当に作る子なのね~料理男子すごい~」
複雑そうなお父さんも、受け取った袋を見て驚いていた。
水島さんのお父さんがガテン系のがっしりしたタイプでした。
隆哉さんとはちょっとタイプが違う。
アジア系の国をいろいろ三ヵ月周期で点々とする予定で、今は台湾の支社にいるらしい。
支社を各地で回るなら、水島さんを連れてはいけないか……。
「幸星君すごいでしょ?」
「よかったわねえ、お料理作るお友達ができて~」
「水島さんにはいろいろとレシピ教えてもらって、助かってます」
「君は将来料理人になるのかい?」
水島さんのお父さんに尋ねられた。
「いえ、あの、料理はなんというか……趣味というか……生活の為というか。水島さんがお話されてるかもしれませんが、ウチは母が看護師ですから夜勤についてる時もあって……妹がまだ小学一年ですから。ちゃんとご飯は食べてもらいたいなって」
「これだけ作れるのに……」
「料理人は厳しいですから、進路はまだ考えてるところです」
ほんと、進路はまじどうするかってところだ。逆再生前よりも高校の成績はいい感じだから、もっと上とか行けそうな気もするし……。
それに料理人を仕事にするならもっと腕が必要だし。経営とかも勉強しなきゃだし、作って食べさせるだけが料理人じゃないから。
逆再生前も、好きだからを仕事にはしなかったなあ……オレ。
一応オタクだけど、アニメーターやイラストレーターとかすごいなあと思うけど需要する方が好きっていうのもあったし、そういった関連職種にはつけない。
仕事になっちゃうとダメなの自分でわかってるから。
逆再生前は今よりもっとできない子だから、内定もらったらそこでいいと思って、いろいろ他にも面接して選ぶとかはしなかったし……。
水島さんとお母さんは食事の支度の為にキッチンに戻って行った。
その後ろ姿を見送ってると、水島さんのお父さんから爆弾を投下された。
「それで、真崎君はうちの遥香とどこまでのお付き合いを……」
ちょ、お父さん!? お、お、オレ、ただのクラスメイト! 彼氏じゃないよ! お宅のお嬢さんとはお付き合いどころか告ってないよ!
飲んだ紅茶を噴出さなかったことを誰か褒めて! 思いっきり咽ちゃったけどね!
いきなりすぎるよ! ゴングなって秒でいきなりの右ストレートみたいなもんだよ!?
同級生の女子のお父さんなんてただでさえ攻撃力あるよ!?
そこへガツっときましたわ~。
「ま、まだクラスメートですから!」
「まだっていうことはそのうち付き合うの?」
小声で言うと、お父さんはニヤニヤしてる。
すげえ余裕だあ。
オレ莉奈ちゃんがボーイフレンド家につれてきたら、ここまで余裕な態度とれないぞ!
「想像したより落ち着いてる子だからもっとお澄ましで答えるかと思ってたけど、そこは新鮮だねえ」
「き、緊張してますから、普通にっ」
「うーん。高校生の男の子なんかもっとはっちゃけてるか、彼女の家にきてもガチガチになってるかのどちらかと思ってたんだけど。彼女じゃあなければ落ち着いてもいるよなあって思ったんだよね」
落ち着いて見えるの、ぼんやり別の件を考えてただけですから!
どうもいろいろ考え事してると落ち着いてるように見られてしまう。
けど、この爆弾を投下されてからオレの脳内はいろいろわたわたしてるよ!?
オレがもう少し、自信満々な性格の突っ走っちゃう系だったら、彼氏面もしちゃうだろう。
だけどさあ、冷静に考えてみろよ、まだ付き合ってない。付き合ってないどころか告ってない。
花火大会には行ったけど、だって友達だって行くだろそこは。ああでも二人で行きたいって思ったし、いやデートとかしてみたかったし、憧れてたし、デートしたりするの。
でもオレには非常にもったいない。
「み、水島さんはクラスの男子には人気です」
それ以外にも人気です。
「オレには高嶺の花かなって……」
「今時の子なのに結構古い言い回しするね、高嶺の花とか」
ガワは高校生ですが中身アラサーなので。
「うちの遥香は大人しいが出来過ぎ感があるからなあ。親バカ発言かもしれないけど、普通にいい子だから」
「水島さんいい子ですよ」
「でも付き合ってないんだ」
なんで父親が勧めるような発言するの!? え、ただの確認?
「あの遥香が連れてきてるから、てっきりそうかなと思ったんだけど、どっちも奥手なのかな」
「いやあの、オレ、妹いるんですが、妹のボーイフレンドなんかウチに連れて来たら、お父さんみたいな対応できませんけど!?」
「だって女の子なんて遅かれ早かれ嫁にいくじゃないか。最近はそうじゃない子も増えてるけど。遥香は大人しいから下手な男は選んでほしくないし、真崎君ぐらい奥手なら逆にいいかもしれないねえって思ってね」
はははって笑ってるし。
「自慢の娘なのに誰からも選ばれないのは可哀想だろ」
「いやいやいや、水島さん選ばれますから、モテモテですから、ていうか選べる感じですけど!? 選び放題ですよ!?」
「そっか、最近の子は女の子が引っ張らないとダメか、草食男子かー遥香は最近の子にしては内気で奥手だからなあ、親はそこがいいと思うんだけど」
オレはうんうんと頷く。いや、いいと思います。
親じゃないけどいいと思います。
「ご家族の方からのお電話もあったし、遥香に似てる感じで大人しめの子だから、からかいがいあるなあ、でもほんとチャラチャラしてる男だったら敷居またがせなかったけどね」
ひいいいいい。
やっぱ父親あああ!
「お父さーん幸星君、ご飯できましたよー」
水島さん、タイミングナイス!
「さー飯だ飯」
お父さんに促されてダイニングテーブルに座るように促された。
そして夕飯ですが、多分水島さんのご両親が食べたかっただろう手巻き寿司だった。
夏場でさっぱりしてて、海外にいたご両親も食べたい日本食って感じだね。
テーブルにいろいろ具材のお皿を並べるからハレ感もある。
マグロのたたきなんかはごま油とニンニクを和えててなんかちょっぴりユッケ風だし、厚焼き玉子とか、ツナとかコーンとかキュウリだけじゃなくてカイワレ大根、セロリとかも用意されて彩りもあって、うむむ~参考になるなあ。
「今度ウチでも作ってみます」
これなら莉奈ちゃんも食べる量を自分で調節できるよね、バイキングぽくて、お楽しみ感があるし喜ぶかも!
「幸星君、この間夏バテで倒れちゃったから、自分で量を調節できる手巻き寿司がいいって思ったの」
「え、倒れちゃったの?」
「夏は湿度が高いからねえ、グアムあたりだとそうでもないけれど」
う、もしかして男のくせに夏バテとか頼りないとか思われちゃう?
夏バテも確かにあったかもしれないけど、あれはメンタルがね、トラウマがね。
でもそれをいちいち語るのもまた男らしくないしなあ。
「うん、オレ、料理作るけど味見で結構満たされちゃうんで。小食で燃費はいいんですけどね」
「お兄さんの優哉君はたくさん食べるよね」
「その分たくさん動いてるからだと思う。この間、部活の試合観に行ったけど、どこの少年漫画の主人公だよと言いたいぐらいの身体能力でした。めっちゃカッコイイ」
「お兄さんもいるのか」
「はい、すごく頭もいいんです。なんだかんだで面倒見いいし、いい兄貴です」
「兄弟仲がいいのねえ」
「普通ならケンカしそうなもんだけどなあ。あ、でも高校生になれば落ち着くのか、小学生までか兄弟喧嘩なんて」
「兄弟喧嘩はしたことないです……そのうちするかもしれませんが……オレの母と、兄と妹の父が再婚した家なんです。兄とは同じ年だから、なんだか兄というより友達感覚なので」
「え? そうだったの?」
お母さんもお父さんも驚いてる。
えーそこ水島さん説明してなかったのかあ。
別に隠すことでもないから言っても大丈夫なんだけどなあ。
「聞いてませんか?」
「そこは聞いてないわー」
「あと、水島さんは、学校では保健委員で、女子のお友達もたくさんいて、成績もいいですよ、化学が好きだって言って化学のテストはクラスでトップでした」
「こ、幸星君! 学校の先生になってます!?」
えーだって、水島さんがウチで餃子作った時なんか、オレの学校の様子を語ってくれたのでここはオレも報告しておいた方がいいのかなと思ったよ?
「ウチの妹も水島さんと仲良くしてもらって、遊びに来てくれる時、楽しそうです」
「こ、幸星君の妹の莉奈ちゃんはすごく可愛いんだよ」
あ、水島さん敬語抜けてる……。
そうだよねえ、ご両親だと普通に話してていつもより子供っぽいというか……。
水島さんの敬語って、あんまり親しくない人だと敬語な気もしてきた。
うちの真崎家のみんなにも敬語だけど、オレとか莉奈ちゃんとかだと時々敬語がはずれてる時もあるからなあ。仲良しの草野さんは普通に話してるっぽいし。
でも、緊張した水島家訪問だったけど、思ったよりご両親も気さくな人っぽくてよかった。
「すっかりごちそうになっちゃって、お邪魔しました」
オレは頭を下げる。
「幸星君を送ってきます」
「ダメ、いらない、水島さんは女の子だから夜は外にでちゃいけません」
オレがそう言うと、ご両親がニヤニヤして水島さんを見てる。
「だけど、いつも送ってくれてるから!」
いや、ちょっとご両親、このお嬢さんを止めようかとオレは思った。
なのに……。
「下のエントランスまでならいいんじゃないの?」
水島さんのお母さんがそういうと、水島さんはぱあっと顔を明るくさせる。
「じゃあ、下まで送ります」
下までなら……大丈夫かな……。
オレと水島さんは廊下に出ると、水島さんは小さい声で、ごめんなさいと呟いた。
「え? なんで?」
「だって、その、いきなり、ごはんとか誘っちゃって、お父さんに何か言われた?」
「ううん」
年頃の娘を持つ父親の範囲だし、むしろ緩い方だったんじゃないかな。
水島さんがこんなに恐縮してるのは、別に彼氏と彼女とかじゃないのに、お互い付き合ってるってわけでもないのに、いきなり親と対面でごはんとかっていう状況についてなんだろうけど。
オレの人生でそんなことなかったから、新鮮といえば新鮮だったし……。
「むしろ、自慢の娘さんが連れてきたお友達がオレでごめんなさいだけど」
「なんで、幸星君はそう言うの?」
「はい?」
「いつも『オレでごめんね』って」
オレは固まった。
水島さんの声が震えてた。
振り返って見下ろした水島さんは泣きそうだった。
「私は、幸星君すごいなって思ってるよ」
「あ、え、ちょ、泣かないで」
「泣いてないですよ」
泣いてんじゃん……えー……。やっぱオレが泣かした……んだよな。
「ごめん」
「ごめんじゃないです、謝らないで」
「うん……えと、あの、ほんと、泣かないで、今日は楽しかったから、オレ、友達の家でご飯なんて初めてだったし、ね?」
「ほんと?」
「うん。嬉しかった、生きててよかったなって思った」
クソ親父に殺されるかってぐらいの暴力とか、実際アラサーで事故って死んじゃってるから、余計に。
オレの人生にあるとは思わなかった体験だったもん。
「それは大げさな……気がする……」
「大げさじゃないよ、オレ、水島さんのご両親に会えて嬉しかったよ、緊張したけど、楽しかったよ、いつもしっかりしてる水島さんがちゃんと子供になってて可愛かった。そういうの見ただけでも、よかったなあって思うから、泣かないで」
「じゃあ、幸星君は「オレでごめんね」って言わないでね」
「うん、気を付ける」
「約束して「オレなんか」って言わないでね。私の自慢の……友達なんです」
自慢の友達かあ……これも言われたことあったかなあ……女子からないな……。
嬉しいな。
水島さんみたいなこんないい子から友達って言ってもらえたんだ。
オレはもっと自分に自信持ってもいいのかな。
「うん約束する」
水島さんはようやく安心したように顔を上げて微かに笑ってくれた。




