◆40 ボランティア課題をしてきた。
家族旅行から帰宅したらボランティア課題が待っていた。帰宅した直後にまるで監視するかのようなラ〇ンのメッセにビビりましたよ?
委員長とキクタンで一緒にボランティア課題。
課題は地域ボランティアで住区センターのお祭りのお手伝い。
学童保育室と併設されて放課後小学生が遊んだり、お年寄りがサークルなんか作っていろいろ活動する公共施設なんだけど、まあそのイベントのお手伝いです。
でも高学年になるとこの公共施設とか使う子は少なくなるらしい。
今は習い事や塾の子が多いからな。
指定された時間と待ち合わせ場所に行くと、キクタンと委員長はもうきてた。
「お前……どこに行ってた」
キクタンお前さんどこに行ってたんだよぐらいに日焼けしている。
「え~あ~海? とか?」
なんで疑問形だよ。
「ザッキーは? どこか行った?」
「海……とか?」
「水島さんと!?」
「なんでだよ!? 家族旅行だよ!?」
そういうとキクタンがオレの手を握る。
「よかった、オレだけじゃなかった。ザッキーも卒業してない」
「はあ!? 何がだ!?」
「えーまじかー真崎は結構なんだかんだでトントン拍子でやっちゃってるかと……」
委員長が呆れたように言う。
「何をやるの!?」
「彼女ができたらやるこたあ一つだろ」
キクタンお前鼻息荒く何を言っちゃってくれてんの?
「彼女いませんけど、何か!?」
キクタンと委員長がオレから一歩引く。
「お前……まさか……まだ水島さんとは付き合ってない……だと!?」
「委員長もキクタンもなあ、いい加減にしとけよ? 水島さんはめちゃくちゃハイスペックでしょ? あれだけ見た目の中身もよければそれなりの男じゃないと釣り合わない前から言ってるよな?」
「馬鹿かお前は、今だからチャンスなんだろーが」
キクタンは反論する。
「同じ高校生のステージなんだよ多少のつり合いのなさとかはナッシング! 二年後は大学生、そこからまたカーストがガラリとかわるから、大学卒業したら今度は就職カーストで変わるから、そこからが長いから! そこで彼女見つけるのは難しいから! チャンスのある今のうちに付き合えよ!」
……あほだと思ってたキクタンがなんか将来のことを語りだしたぞ?
彼女を作るか作らないかのみの将来像だけど具体的だぞ?
「おま、付き合えって……」
「俺だったら告ってる」
委員長はサラっと言う。
「はい!?」
「確率的にOK貰える比率が高い。お前と水島さんとの距離なら絶対OK貰える」
すげえ自信だな。
「ねえだろ」
「むしろ踏み込まないお前は異常」
「はい!?」
「これで水島さん以外に好きな女子がいるって言ったら、お前をタラシ認定する」
いませんけど、好きか嫌いかで言えば水島さん好きですけど!?
でもパーフェクトすぎでしょ、あの人。
ほっとけないところもいろいろありますけどね。
性格が大人しすぎるところが心配。今時女子はもっと気が強いから。
あ……この課題終わったらお土産渡しに行かないと……。
ちなみに二人にカバンからお土産を取り出して渡す。
まあ普通のお菓子ですけど。家用に買ってきたやつです。そこから二枚ほど失敬して二人に一個ずつ渡した。
「これ家族旅行の土産」
オレがそう言うと、委員長はため息をつく。
「まあなあ、真崎の場合は再婚家庭で家族構築が忙しい時期だからそっちに向かわないのか……」
いやいやかなり円満ですけどね。
そういうことにしておこう。
住区センターのお祭りは小学生からお年寄りまで楽しめる物としてやってて、ボールすくいとか模擬店とか、室内の飾りつけとか、背の届かないところとかをフォローしたり、完全に裏方作業です。
キクタンや委員長はそっちに回ってオレはバーベキュー要員に駆り出された。
お年寄りのサークル発表とかもろもろあるけど、バーベキューまでやるんだよね。
今回のボランティアはそれの準備要員というか。
カレーを作るらしいんだけど、子供達もお料理参加でやってて大鍋とかの準備とか後片付けとかがメインなんだけど、子供達が怪我をしないようにとか火傷しないようにとか見守る。お年寄りもいるけどね。
外にブロック積んでかまど作って大鍋用意して、子供達がきゃっきゃしながら玉ねぎや人参、ジャガイモを切ったり、肉はこま肉で冷蔵庫に保管、ジュースやスイカなんかもふるまうらしい。
「せんせい~ピーラーないの~」
高校生でも先生ですか、オレが中身おっさんなのを察知してるからです? 子供は鋭いから? おばあちゃん達はオレがピーラーなしで野菜の皮を処理しているのを見て「あら上手ねえ」なんて言ってくれてる。
「包丁は気を付けてね~猫さんのお手てにするんだぞ~」
「はあーい」
保護者の人もいるけどもっと小さい赤ちゃんとか抱っこしてる人がいたり、二歳児とかもいるからそっち見てたり幼稚園児以上はもう住区センタースタッフが担当。
この状況でバーベキューとか人手は必要だよなあ。
なんの都合かわからないけど、本来はバーベキューはバーベキューで毎年やるらしいが今年は一緒にやってるみたいだ。
ブロック積んで火おこしするのはおじいちゃん達。
子供達が切ったじゃがいもを大鍋に入れて簡易かまどに持っていく。
野菜を炒めていたらおばあちゃん達がお肉をもってきてそこへ投入、オレは木べらをおばあちゃん達に任せて、事務所に戻って大きなやかんで各鍋に水を投入する。
この段階になるとおじいちゃんおばあちゃんとかキクタンや委員長も火の周りに子供が行かないように見守る。
小学生ならある程度近づいて鍋の中を見たりはさせてるけど。未就学児はもうほんと傍で見守るしかない。
ちなみに飯盒でお米も炊いてるけど、この規模の人数では足りないので給湯室にでかい炊飯ジャーがあるわけでそれもご飯を炊いてます。
使い捨てのプラスチックスプーンや発泡スチロール製のどんぶりの準備もこの時点でやる。
住居センターの役員やスタッフって高齢者多いのか、この祭りがそういう限定なのかわからないけれど、スタッフの人があれこれ準備しそうな感じを察してオレもなるだけ手伝う。
手が足りないと思ったらキクタンや委員長に声をかけたりね。
なんかあれだ、文英祭のシミュレーションみたいだよな。
そんでもってお昼は一緒にカレーを食べました。
今回のボランティア、お弁当無しで近場で選んだ委員長偉いぞーさすがー。
だいたいが弁当持参でボランティアだからな。
ちなみに水島さんは保育園の保母さんのお手伝いらしい。(これはラ○ンのやりとりで知りました)
おじいちゃんがカレーが終わるとデザートに大玉スイカをカット。
オレはおじいちゃん達がカットする手際をじっと見る。
「やってみるか?」
おじいちゃん一人がオレに声をかけてくれた。
おばあちゃん達からも、「包丁の扱い上手いんだからやってみなよ~」と勧められてお調子に乗ってやってみた。
だが実物まな板の上にある大玉スイカを見ると難しそうだな……。
円形を縦半分によくカットできるよな~。
「失敗してもいいぞ、あとで調整するから」
あざまっす。その言葉があるのとないのとでは緊張感が違う。迷わず最初の一刀をいれてみる。
「お兄ちゃんなかなか上手いな」
うん。最初の一刀が上手く行った。あとは半円を半分にさらに半分にとカットしていく。
中央が一番甘いからな。
みんなでスイカを食べてからお祭りは終わった。
子ども達も鍋や飯盒釜とかは洗ってくれたのでそれを指定の場所に片していく。
水場に引いていたホースを片付けたりもして、飾りつけも取り外してセンター内を掃除してボランティア終了。
あーうちの近所にもこういった祭りあったら莉奈ちゃん連れて行きたいなあ。
「結構あっという間だったな」
委員長が言う。
「オレもう少しカレー辛くてもよかった」
キクタンが言う。
「小学生がほとんどだから甘口カレーなのは仕方ないんじゃね? オレはトマト缶を入れたかった……」
「トマト缶!?」
「何それ、ホールトマト入れるのか!?」
「酸味が増して結構うまいよ?」
「え~こんどお袋に頼んでやってみる~」
う、うん、男子高校生は自分でカレーはつくりませんね、はい。オレだけですね。
「よしこれでボランティアのレポート書いて宿題終わりか」
委員長さすがや……選択書道なんだよな……委員長も……。だから選択の宿題ないんだよ。
「えートミー終わり? 宿題見せて!」
……キクタン……安定の宿題やってない状態だな……。
「一科目につき500円で手を打とう」
「げ。ザッキーは?」
「美術が残ってるけど……」
美術は問題なんだよな~……上野の西洋美術館に行きたかったんだけど、科学博物館であのクソ親父とエンカウントしたからあんまり近づくのも躊躇うんだよ。
「上野の美術館は?」
委員長が言う。
「オレ今そっちの方角に行くと運気が下がる」
「何それ! 女子なの!?」
「いやマジで、いろいろあってしばらく上野近辺は行きたくない。もう少し時間がたたないと……ミュシャ展でいいかな……アレって美術の先生的には評価どうなの?」
「微妙じゃね?」
「でも漫研も美術部もそっち流れるんじゃね?」
「だよなあ、見てて面白いからもうそっち行くか~」
うん評価は捨てた、アンテナにクルものに行く。夏休みだしそれでいい!
「じゃあな~二学期な~」
キクタンと委員長と別れて電車に乗り込む。
オレはスマホをとりだして水島さんに連絡しようか悩んだ。
実は家族旅行のお土産渡してない。
親子水入らずだったら悪いしな~って思って連絡入れるの躊躇うんだよね。
別に日持ちしないものでもないんだけどさあ……二学期でもいいかなあとは思うんだよね。
とりあえず家族グループに帰るコール流しておく。ついでに夕飯のリクエストも聞いておく。優哉と莉奈ちゃんは自宅だし、オカンと隆哉さんは仕事……。
帰りにスーパーに寄って食材を物色するかあ。
なんて思っていたら、そのスーパーでばたり水島さんと会ったよ!
サッカー台で買い物を詰めていたら背後から声を掛けられた。
「幸星君?」
振り返ると水島さんと多分水島さんのお母さんだよね?
一緒にお買い物ですか!
オレはペコリと頭を下げる。
水島さんがお母さんにオレを紹介する。
「同じクラスの真崎幸星君」
「真崎です」
「初めまして、遥香の母です。遥香から聞いてます。お世話になってます」
うむ、水島さんお母さん似なのね。
「どこかの帰りですか?」
水島さんのお母さんの言葉に頷く。どわ~緊張する~。
「はい、ボランティア課題をしてきたところです」
いつものオレじゃないとか思われちゃったらアレだけど、でも、同じクラスの女子のお母さんとか話したことないからね!
「そういえば遥香は保育園だったわね、真崎君は?」
「住区センターのお祭りのスタッフです」
「そうなの、遥香がいつも話してくれてて、お夕飯にも御呼ばれしちゃってお世話になってます」
「いえいえ」
「今日も夕飯の買い出しなのかしら?」
「はい、家族にリクエスト聞いたんですが、今日はなんでもいいよとしか返ってこなくて、悩みました」
「遥香が言うように、本当にゴハン作ってるのねえ」
「うちは家族が多いし、母の職業上不在の時も多いので」
「でも幸星君はお料理上手なの」
そんな会話をしながら帰り道は水島さん親子と一緒に歩く。
「そうだ、あのね、この間家族旅行に行って、お土産あるんだ、明日バイト前に水島さんに渡したい。ご両親が帰国してるなら足りないかもだけど、お菓子なんだ、お土産定番で意外性もなにもないけど。予定ある?」
「ないです」
「じゃあバイト前に立ち寄るね、連絡する」
「はい」
いつも静かな感じでニコニコしてる水島さんだけど、今日はいつもよりニコニコしてる感じ、オレはそれじゃあと会釈して水島さん親子と別れた。
よかった……オレちゃんと挨拶できたよね?
キョドってなかったよね?
ていうか、水島さん、一体お母さんにオレの何を話してるの!?
でも印象は悪くないって感じだったよね? けど、あの対応を額面どおり受け取っていいの? どうなの? 大丈夫?
うわああ、大丈夫だと誰か言って!!




