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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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37/94

◆36 やっぱり優哉はイケメンだと思う。





嫌な夢を見た。

息が苦しくて、オレは小さい子供になっててクソ親父に押さえつけられてる夢。

極めつけがオレの顔面に冷水をぶっかけやがる。

そこで目が覚めた。

うっすら目を開けると、莉奈ちゃんが両手を挙げていた。


「ご、ごめんなさい。莉奈、お兄ちゃんに、ぴたしたの」


うん? 『ぴた』? ああ、額に冷却シートつけてくれたのか。


「莉奈ちゃん」

「はい?」

「今何時?」

「パパがかえってきたから、えっと、えっと、8時?」


夜の8時か……。


「ママ……咲子ママー、コーセーお兄ちゃんおきたー」


莉奈ちゃんがパタパタとオレの部屋から出て行って、入れ替わりに優哉が部屋に入ってくる。優哉の影が視界に入った時、さっき見た夢を思い出して、一瞬身体が硬直するけど、優哉の顔を見て、全身の力が抜けた。

オレは小さな子供じゃないし、優哉はあのクソ親父じゃない。


「悪かったな……部活だったのに……」


オレがそう言うと、優哉はベッドの端に腰かける。

そう、あの時、優哉は学校の部活のユニホームジャージを着ていた。でかいスポーツバッグ肩にかけて、いかにも部活してましたって恰好でわざわざ来てくれた。


「ごめんな、優哉」

「なんで謝んだよ。違うだろ」


えーだって面倒かけたし。


「最初……咲子さんと親父の再婚したての時は、莉奈も戻ってきて、面倒だなって思ってたよ。親父との二人暮らしのサイクルが確立されてて、そこで莉奈だけじゃなくて二人も家族が増えるとどうしていいかわからなくて」


ドキリとした。

それ逆再生する前のオレまんまじゃんよ。

オレの場合は面倒っていうより、コンプレックスが強くてああなった感じだったけど。

えーもしかして逆再生前の優哉ってそういう気持ちがあったのかな……だとしたらオレと優哉は絶対にコミュニケーションとれないはずだよな。


「けど、お前はそういう俺とは違って、莉奈に話しかけてあれこれ世話やいて、おまけに俺や親父の分の弁当とかまで作るヤツで」


あーそれは……ついでです……だって効率悪いだろ、オレと莉奈ちゃんだけっていうのも。

莉奈ちゃんまだ小さいんだぞ、あんな可愛い子が一人寂しくぽつーんなんて、考えただけで泣きそう。

一緒に住んでて自分だけの世界で完結なんて、オレや優哉ぐらい育っていたらできないこともないだろうけど6歳の子にはできないよ。


「お前が歩み寄って莉奈や俺達に世話焼いてるのに、俺だけ自分の生活だけなんてできないだろ。おまけに、お前はあほみたいに主婦業やってくれてるんだから」


……そういうけど、優哉の方が大人だよな。逆再生前のオレだったら、引きこもりだ。


「そんなお前が困ってるなら、どこにいようが行くよ、だって俺お前の兄貴になったんだから。兄貴らしいことさせろ」


やべ、泣きそう……。

やっぱこの人、外見だけじゃなくて中身もイケメンかよ。


「で、お前が会ったクソな男って、お前の元親父か?」

「うん……」


平日の昼間にスーツも着ないでフラフラあんなところにいるとか、オカンと離婚してからろくな人生歩んでなさそうだった。

多分いい生活してねえよ。アレ。

どーみたってオレを殴って金せびろうな雰囲気、満々だった。どこの昭和のヤンキーだよ、見た目は普通のおっさんなのに。

ガタイは優哉の方が断然いい。


「オカンから聞いてるかもしれないけど、元親父に虐待っぽいことされてたんだよね。ガキだったから記憶も薄れてるはずなんだけど、一気に思い出した」

「……」

「だから自分よりガタイのいいヤツに会うとドキドキすんだよな」

「……誰かにつけられてる気配はなかったから、もう大丈夫だろうけど、お前が前に住んでいた場所に近いとこに行くなら、俺も気にかけておくから」

「……オニイチャン過保護」

「お前の今の親父の方が過保護だ。きっと今頃『いいとこ優哉が全部持って行った! 僕がお父さんだよ!?』ぐらい思ってそうだ」

「そうかな」

「絶対そう。あと、お前、最近飯食ってないだろ、たんぱく質とってねーだろ、夏バテで絶対体力落ちてんだよ、がっつり食え」


わかるけど優哉みたいにガツガツ食えねーよ。元々インドア人間だし。

でもまあ。


「気を付けることにする。ありがとう優哉」


「幸星~あんた大丈夫~? うどん食べれる?」


オカンがドアから顔を覗かせる。


「うん。なんか麺類が食べたかったから、食べる」


優哉が立ち上がってくれたので、のそのそとベッドから出て足を床につけると、一瞬頭がぐらついた。

リビングダイニングに入ると、隆哉さんが心配そうな表情でオレを見てた。

そして莉奈ちゃん、莉奈ちゃんはずーっとオレにぺったりくっついていた。

心配かけちゃったね、ごめんね莉奈ちゃん。

そしてオカンのうどんは美味しかった。

夏バテ気味だからって冷たいものとかさっぱりしたものとかしか食べてなかった。

エアコン効いてるからか、あったかいもの食べてなんとなく胃が動いてる感じ……?

優哉の言ってたちゃんと食えは、うん正しい。

料理するの好きだから、作ってる時点でおなか一杯になる。味見で満足しちゃうのもよくないか。

食べ終わったら、オカンと隆哉さんに昼間にあったことを話してみた。




「今日は昼間、上野の科学博物館に行ってたんだけど、そこでばったり実の親父に会った」


オカンは顔を真っ青にさせたけど、隆哉さんは冷静だった。


「別に話したわけじゃない。あいつは話したそうでオレの方へ歩いてくるんだけど、オレそれだけで具合悪くなって、水島さんが博物館の方が空調効いてるからって、そこへ連れて行ってくれて、莉奈ちゃんがオレのスマホで優哉に連絡入れてくれてタクシーで帰ってきた。優哉はつけられてる気配はなかったって。あ、タクシー代は夕飯用財布から出した。ごめんなさい」

「本当に話してないのね?」

「話してない、話してもきっとろくでもないこと言い出しそうな感じがしたし、それが予想できたから一気に具合悪くなったし、こっちは水島さんも莉奈ちゃんもいるから二人に何かあったら嫌だったし」


「うん、わかった。ありがとうちゃんと説明してくれて」


隆哉さんはそう言った。


「何より幸星君が無事だったのがよかったよ。そういう偶然はそうそうないだろうけど、元の住まいの方向へ行くときは気をつけないとね」


大江戸博物館もかっぱ橋商店街もアキバも行きたいんだけどな……。


「離婚して何年も経ってるけど、あの様子じゃ、まともに働いてるって感じでもなさそうだった」


「でしょうね」


オカンもムカついてるみたいで、投げ捨てるような口調だ。

莉奈ちゃんもオレの膝の上に載ってコアラよろしくぎゅーしてきてる。

この子すごいな。めっちゃ精神安定剤的な何かだな。


「何事もなくてよかったよ、幸星君、あとはその夏バテなのか夏風邪なのかをちゃんと治してね」

「はい」

「じゃ、ちょっと横になってきなさい、そのまま寝て、体調整えて」

「朝はあたしが支度するから、ちゃんと寝るのよ?」


隆哉さんとオカンに促されて、オレは頷く。


「莉奈も一緒にお兄ちゃんの傍で寝る~」

「えー莉奈ちゃん、夏風邪きついよ?」

「莉奈はだいじょうぶだもん。お兄ちゃんと寝るの~」

「うーん」

「莉奈、怖い夢みたら、パパと咲子ママと寝るの、だから幸星お兄ちゃんコワイ夢見ないように莉奈がそばにいる~」


莉奈ちゃんの寝相が気になりますが、今日はこれだけ怠いから、気にならないかな?

オレが莉奈ちゃんと手を繋いで自室に戻る。

リビングダイニングのドアを閉める時、隆哉さんは穏やかな笑顔でいたから、オレはその場にいるオカンと隆哉さんと優哉に「おやすみなさい」を伝えて、ドアを閉めたので気が付かなかった。

これはあとで優哉やオカンが言ってたけど、隆哉さんは表情に出さないけど、オレに接触しようとした元クソ親父に腹を立てていたようで。


「めったに見ないぐらい、激おこだった」


らしい。

隆哉さんの性格って、穏やかな感じだから、怒るって全然想像できないんだけど、優哉がちょっと怖かったと呟くんだから相当なんだろう。




オレはオレで、体調がよくなかったのか、自室に戻ってベッドに横になるなり、泥のように眠った。

そして莉奈ちゃんは精神安定剤よろしく寝相も悪くなくて、オレはぐっすり眠ることができた。

なにより怖い嫌な夢はもう見なかった。






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