◆30 夏休み突入です。
「えー! お兄ちゃんお姉ちゃんと花火大会行くのー!?」
莉奈ちゃんが叫んだ。
夏休み最初の月曜日。優哉もオレも莉奈ちゃんも夏休み入ったはずなのに学校だ。
でも一時間はずれてゆっくりな登校で、オレが食器を洗い終わるのをまっての、莉奈ちゃんのお言葉です。
「莉奈、一緒に行くのはダメだ。墨田の花火大会なんて、人がどんだけ来ると思ってる。何十万人と来るんだぞ、車道も歩道も規制がかかって大変だからな。お前まだ小さいから、迷子になったらどうする。しかも土地勘もないところだぞ」
優哉がビシっと莉奈ちゃんに言う。
墨田川方面はオレはこの生活を始めるまで住んでいた場所に近いから、なんとなくわかるけど万が一莉奈ちゃんとはぐれたらと思うとぞっとする。
もう少し大きくなってからじゃないとあの花火大会は怖いなあ……。
「大きくなったらって、来年なの?」
「……」
「……」
でた……子供特有のアレだ。莉奈ちゃん物分かりイイ子のはずだけど……やっぱりそうくるかあ……でも気持ちはわかる。
オレも子供の時そうだった。でもそんなこと口に出したが最後、あのクソにぶん殴られてましたけどね。
「夏休みになったのに、コーセーお兄ちゃんと遊べないの! 夏休みになったのに、お兄ちゃんあるばいと行っちゃうし、お姉ちゃんと花火大会とか行くし、莉奈と全然あそんでくれないの! 莉奈も学校のプールあるし! 莉奈がそうぞうしてた夏休みとなんかちがう!」
莉奈ちゃん……。それはオレも同じ気持ちです。
夏休みの序盤って、なんでこんなに学校通わなかいかんのか……。
優哉も自主夏期講習と部活だしな……。
オレは莉奈ちゃん目線にしゃがみこんで両手を広げると、莉奈ちゃんが飛び込んでくる。
莉奈ちゃん迷わず体当たり! 的に飛び込んでオレの首に縋りつく。
「幸星……莉奈を甘やかしすぎ」
優哉が呆れ気味に呟くけど、でもオレは嬉しい。
両手を広げて迷わず飛び込んでくれる子なんて、逆再生前にはいなかった。
カラに閉じこもったオレは独りだった。
新しい家族に馴染めなかった。
学校もそうだった。
社会に出てもそうだった。
過ごす日々はいつも一人。
だから、きっとあの時、トラックの前に飛び出したんだろう。
誰もオレに関心をもたないし、オレ自身が誰にも心を開かないままだったから。
「あら、何、生き別れた兄弟の再会、みたいな一幕をやってんのアンタ達」
オカンが声をかける。
今日はオカンはお休みの日。
「莉奈ちゃんまだ小学一年生なのにオレの思ってることを言語化して言ってくれたよ! それってすごくない!? そんでもって、同じことを考えてたとか、オレと莉奈ちゃん兄妹なんだなー、って感激してしまった!」
莉奈ちゃんを抱き上げてオカンにそう言う。
「お兄ちゃん!」
「もう、莉奈ちゃんを連れて学校行っていいかな?」
「ダメでしょ」
「あほだろ」
オカンと優哉に突っ込まれた。
「ダメらしいよ、莉奈ちゃん」
「莉奈、プールのスタンプもらわないとダメなの」
莉奈ちゃんすごく残念そうに呟いてる。可愛いなあ。めっちゃ癒される~。
「そうかあ、プールのスタンプ貰わないとダメなのかあ。じゃあオレも学校いかないとな」
「うん」
真崎家の子供達はそれぞれ学校の支度をして家を出る。
お兄ちゃんと遊ぶ~とはいってくれるけれど、ここのところは学校でお友達とお約束して遊びに行くことも多い。
今日も暑いから、お外で遊ぶのはほどほどに、水分補給も忘れずにするんだよ。
そんなことを言いながら、三人で駅に向かうと、水島さんが制服でマンションから出てきた。
「あ、おはようございます」
「お姉ちゃん、おはようございます!」
「おはよう、莉奈ちゃん。莉奈ちゃん日焼けした?」
「莉奈プール入るから、ひりひりするの」
「日焼け止め、ぬっちゃいけないんですよね」
「うん、プールのしょうどくがあるから、だめなんだって。でもちょっとならいいんだって。咲子ママがね、日焼けするとひりひりするからって、ちょっとスースーするクリームつけてくれるの」
「そうなの」
夏本番で、湿度もめっちゃ高くて、歩くだけでもうんざりな感じですが、目の前の水島さんと莉奈ちゃんのやりとりを見て微笑ましくて癒される……。
なんて思っていたら、莉奈ちゃんがいきなり話題転換してきた。
「お姉ちゃん……コーセーお兄ちゃんと花火大会行くの?」
莉奈ちゃんの言葉に水島さんが固まる。
うわあああああっ言い訳したいっ! 女子と一緒に花火大会に行くんだなんて、嬉しそうに家族に報告したわけではないということを!
バイト先で、土曜日でなくてもいいよねって確認したら、そこから家族(優哉)に伝わって広まってしまったという事実を!
「う、うん」
「莉奈も行きたいって言おうとしたらね、莉奈ね、優哉お兄ちゃんに止められたの、莉奈はちっちゃいからまだダメだって言われたの」
「あー……」
「莉奈も花火見たいの~」
「莉奈ちゃん、花火買って、みんなでやる?」
オレがそう言うと、莉奈ちゃんはオレの方に振り返る。
「ほんと!?」
「うん、マンションの敷地内で、よかったら。こっそりやろうか?」
「わーい! じゃあ、お姉ちゃんも一緒!」
「え、私もいいの?」
「みんなでやるのー! 夏休みの絵日記に書くの!」
おう……小学生の夏休みの宿題。定番その一、絵日記。
オレの小学生の頃なんか、そんなにたくさん書くことねえ! とか思ってた。
だって小冊子まるまる一冊とか、無理だって……。
莉奈ちゃんの夏休みの宿題で出された絵日記は三枚なんだよ。
A4サイズの紙に絵の部分と文字の部分の罫線があるんだよね。
小学校の夏休みの宿題も地域によってなのか時代によってなのか、いろいろ変化してるよなあ。
「大きい花火大会いけなくてざんねんだったけど、みんなで花火するならいいの!」
莉奈ちゃんがそう言うと、優哉が呟く。
「莉奈……もしかして、絵日記に書くイベントが欲しかったのか?」
莉奈ちゃんと水島さんは花火は大きいの見るのもいいけど手で持つのもいいよね~なんて話している。
小学校の正門前に行くと、莉奈ちゃんはお友達の姿を見つけたのか、「みほちゃんとかすみちゃんだ」と呟く。
お友達に声かけしたい雰囲気が見てわかる。
「じゃあね、お兄ちゃんお姉ちゃん行ってらっしゃい! あ、それとコーセーお兄ちゃん!」
「うん?」
「かわいい子にはちゃん付けで呼ぶのって、前に言ってたから、お姉ちゃんにはみよじじゃなくてお名前でちゃんづけしないとダメだと莉奈は思うの! じゃーねー! みほちゃーん、かすみちゃーん。おはよー!」
莉奈ちゃん……最後にすげえ爆弾落としていった……。莉奈ちゃんの後ろ姿を見送って、俺達はそのまま駅に向かう。
「莉奈のイケメン力が半端ねえな」
優哉がぼそりと呟く。
ああ、間違いなくお前と同じDNAだよ。
「莉奈が言うようにお前、水島さんのことを名前で呼んだら?」
面白がってるね、オニイチャン。
その件に関してノーコメントを貫いた。
水島さんに失礼でしょ、彼氏でもないのに名前呼びとか。
当たり障りない学校の課題について話を切り替えて、三人で雑談しながら駅に到着すると、改札で、見覚えのあるひょろっとした後ろ姿が視界に入る。西園寺君だ。
「和希―」
優哉が西園寺君に声をかける。
西園寺君が優哉の方を見て手を挙げる。
「真崎兄弟か……」
そして西園寺君が水島さんを見てオレと優哉の顔を見る。
「水島さん、優哉のクラスメイトの西園寺君、バイト先で一緒なんだ」
「幸星君のクラスメイトの水島です」
水島さんは西園寺君にそう言ってぺこりと頭を下げる。
西園寺君も会釈をする。
「文英の制服ってことは、弟……お前……まさかこの子と花火大会一緒に行くとか……おま……なんだよ、血は繋がってなくても兄弟だな。兄貴はモテモテ弟は美人の彼女持ちとか、めちゃくちゃリア充じゃねーか! 爆発しろ!」
彼女じゃないから爆発しないっつーの!
ていうか、西園寺君、そのことを優哉にラ○ンに流した件は、小一時間問い詰めたいんですけど!?




