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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆29 花火大会に誘われた!?

 





 接客バイト初めてだったけど、基本的な挨拶「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」は欠かさず、あとは西園寺君と店長にいろいろ教えてもらって初日を終了した。

 輸入食料品雑貨店だから、いろいろ見たことない食材を見てう~んと唸る。

 スーパーと違って割高だけど、ちょっと使ってみたい調味料とかもあるし、茶葉やコーヒーとかの種類が豊富。品出しがワクワク、何が出てくるかな~と思いながら段ボール開けて手に取ってみたりね。

 ドキドキするのは接客ですけど。

 会社帰りのOLさんとか学校帰りの大学生とかが、ワインやチーズなど宅飲み女子会用の食材とか買いにきたりする姿を見かける。特に金曜日の夜とか。


「土日の日中もそれなりに混むんだ、その時間は主婦層が多いよ」


 というのは西園寺君の言葉。

 テラス席があるけど、夕方にはクローズ。日中に開放してる。そこはお茶やコーヒーを試飲する人が腰かけたりする場所なんだよね。だから最近は中高年のご婦人層のリピーターが増えてるらしい。

 個人店舗ならではってことですね。

 輸入食料品雑貨っていろいろ面白い。




「バイト決まった~昨日から行き始めてるんだ」

「え、そうなんですか?」

「うん。輸入食料品雑貨の個人店舗なんだけど、男性従業員が多いから気兼ねなくいろいろ聞ける。優哉のクラスメイトもいるんだ。うちの最寄り駅と隣の駅との間の商店街にあるお店で、『ジョイサンス』ってお店」

「あ、行った事あります! 可愛いお店ですよね! えー幸星君そこでバイト始めたんですね」

「うん」

 金曜日、学校帰りに水島さんにバイトのことを話した。

「じゃあ、心強いですね、私バイトしたことないです」

「親御さんが心配しちゃうよ、独りで日本に残してる娘がバイト帰りで何かあったら」

 ご両親が海外じゃ、夕方から夜のバイトとかはなかなか。バイト帰りは危ないからオレも反対。

「何曜日に入ってるんですか?」

「木金で、忙しければ日曜祭日にヘルプの電話が入るんだって」

「週末は混みそうですもんね」

「うん」

「そうですか……えっと土曜日は……?」

「一応はずれてるけど」

 オレがそういうと、水島さんはちょっとホッとしたようだけど、次に続く言葉がとても言いづらそう……。

「あ、あの」

「うん?」

 どうした? なんの相談だ?


「あの……あのね……その。よかったら……その……来週の土曜日にアルバイトなければ……花火大会に行きませんか?」


 今……オレの耳、ちゃんと水島さんの言葉を拾ったならば……。

 水島さんから花火大会に行こうって言われた……?

 水島さんは俯いて、耳まで真っ赤にしている。

 マジ!? アラサーまで生きてたけど、女子から夏のイベントに誘われたことなんかありませんでしたよ! そんないい思い出とか全然ないまま死んじゃって逆再生したけどね! うわ、うわー!

 いやいや、調子に乗るな、結局『みんな一緒に~』とかいうオチがあるから! それ、お約束だろ!


「えっと、他に行くメンバーとかは……」


 ああ~これが優哉だったら、あっさりといいよーって言えるだろうな。こんな姑息な予防線とかまったくしないだろうよ。でも、オレそんな対女子スキル持ってないから! もう誘われたって事実だけで脳内のキャパが……。


「まだ誰も誘ってません……」

「えっと、じゃあ……その、他の人は誘わないで」


 わーわー! 何言っちゃってるのオレ!? 何調子に乗っちゃってるの!?

 ここは普通『メンバー決まったら知らせて』ぐらいが妥当だろ!?

 あのね、落ち着こうか。今の発言水島さんじゃなかったら秒で「はあ? 何それ、キモイ」ぐらい言われかねない発言だよ!?

 だけど、だけど、もしかしたら、オレまた明日にはトラックに轢かれて死んじゃうかもだし、ほら、人生って何があるかわからないからさ!

 水島さんは、可愛くて、よくできたお嬢さんで、それに対して逆再生してるとはいえ、中身は一回死んだおっさんのオレなんかとは全然釣り合わないだろうけど。

 こんな可愛い子と二人で花火大会なんて、オレの人生でもうないかもだから!



「で、できれば、二人で行きたい」


 みっともな! 女子に言わせておいて、できれば二人で行きたいとか要望を押し付け!?

 水島さんがドン引いて「他の子も誘うつもりで~」とか言うつもりだったらどうするよ!?

 でもね、でも……夏のイベント花火大会ですよ!?

 ギャルゲーで言えばワクワクしちゃうイベントですよ!

 それをリアルで目の前で言われちゃったら、舞い上がっちゃうよ!

 水島さんを見ると、水島さんは何度も頷いてこう言った。


「わ、私も、できれば……二人で行きたいです」


 その言葉、ドップラー効果でオレの脳を侵食した。



 でも帰宅したらすぐにバイト。

 気持ちを切り替えてちゃんとお仕事しないとと……そう思っても、自然に顔がにやけてしまう。わー自分で自分がキモイ!


「ねえねえ、和希―今日、真崎君めっちゃ笑顔だね」

「客商売だからあれぐらい笑顔なら受けもいいし、問題ないだろ」


 店長と西園寺君のそんな会話すら右から左に耳からすり抜けちゃうぐらい、オレはバイト業務をこなしながら、学校帰りのことを頭の中で反芻していた。

 お店がだいたい閉店間際になって落ち着いた頃、閉店準備をしていた西園寺君から声をかけられた。


「なんかいいことあった?」

「はい?」

「オレにもめっちゃ笑顔!?」


 オレは片手で顔を抑える。

 えー会って間もない西園寺君に指摘されるほど……舞い上がってる?

 舞い上がっちゃってますね。はい。


「お客さんも可愛いバイト君だったね~とか言ってた。やっぱり笑顔の接客は大事!」

 店長もうんうんと頷いている。

「あ、あの、来週の土曜日って……普通にシフト休んでて大丈夫ですか?」

「大丈夫だけど……あ~なんだ~花火大会か~デートですか~」

 店長……なんて鋭い……。

 そりゃ都内でも大きな花火大会だから有名だけど……。

「なんだと!? お前! 彼女持ちなのか!?」

「わー! か、彼女じゃないです!」

「え~でも~女子なんでしょ~一緒に行くの~」

「は……はい」

「キャー、和希、聞いた? もうあたしモダモダしちゃう~!」

「モダモダすんなアラサー女子」

「だって、和希からそういうコイバナっぽいこと聞いたり相談されたことないし! 前回のアルバイトの子はアレすぎたし!」

 ああ、前回のバイトの子って優哉が言ってた店長に八つ当たりした子のことかな。

「店混んでもヘルプは入れないから安心して~、でも日曜日は出てくれるとありがたい~」

「あ、はい。わかりました。じゃあ、お先に失礼します」


 オレがそう言ってペコリと頭を下げると二人は気さくに手を振って見送ってくれた。




「ただいま~」


 帰宅すると莉奈ちゃんが玄関先で丸くなってた。

 猫なの!? 子猫なの!?


「莉奈ちゃん!? どこで寝てるの!?」

「おう、お帰り~」

 優哉が玄関まで出迎えてくれる。

「リビングにいるか自分のお部屋で寝ないと!」

 オレはそう言って、莉奈ちゃんを抱っこする。

 む? この子は子猫じゃなくて子狸さんですか? 抱っこするとわかるんだ。狸寝入りだろ。莉奈ちゃんぐらいになると体重の掛け方がわかってるからな~。重く感じないってことは、起きてるってことかな?

 オレの荷物を優哉が受け取って、オレの部屋のドアの中へ置いてくれた。

「大丈夫、10分ぐらい前までリビングにいた。お前が帰宅するまで起きて待つとか言ってたんだ」

「熱中症にはならないね」

「大丈夫だろ」

 でも水分補給させたほうがいいかもなー。

「莉奈ちゃん? 子狸莉奈ちゃんは~起きてるかな~? 水分補給できるかな~? 出来る子なら抱っこしてお部屋まで運んであげるけどなー」


 莉奈ちゃんを抱っこしたままリビングに行くと、莉奈ちゃんを腕から降ろす。でも莉奈ちゃんはオレの足にくっついたままだ。隆哉さんとオカンの二人に「ただいまー」と声をかけるとオカンが立ち上がりキッチンに向かう。

「おかえり幸星、ゴハン用意するね」

「うん」

「莉奈、幸星君が戻ってきたから、落ち着いてこっちきて映画見よう。幸星君ゴハンだから、お兄ちゃんバイトでごはんまだだから」

 隆哉さんに促されて、莉奈ちゃんは隆哉さんの隣に座る。

 何度も放映されてるファンタジーアニメの映画だったので、莉奈ちゃんは大人しく隆哉さんの傍に座って見始めた。

 オカンが用意してくれた晩飯にいただきますと言って、手をつける。

 夕飯を食べ始めるオレの対面に座ってスマホを弄ってた優哉が一言。


「咲子さーん、幸星、来週、水島さんと花火大会デートだってー」


 優哉の言葉を聞いて、麦茶が思いっきり気管に入って盛大にむせたのは言うまでもない。


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