◆27 なんでみんなコッチ見んの?
「ザッキー何見てんの? エロいやつ?」
エロいやつちゃうわ、バイト求人じゃ。学校で見るかそんなの。
ひたすらスマホをタップしていると、キクタンがのぞき込んでくる。
「えー真崎バイトすんの?」
委員長も人のスマホをのぞき込む。
「する。申請書出してOKでてる」
ほら、オレの家って、中身はめっちゃ円満だけど、端から見たら、家庭環境が複雑ぽいじゃん? 先生へのバイト申請一発OKでした。
「えーはやっ。オレもバイトしたい」
キクタンおまえサッカー部だろ、この学校で部活きっついのにバイトするのどんな体力バカだよ。運動部系の奴等はバイトとかしねえって、佐伯も言ってたのに無理だろ。
「真崎君それは……もしや……夏のイベントの軍資金稼ぎ……」
草野さんに言われるまで気が付かなかった!
そうだよ、夏と冬のイベントとか! そういうのすっかり忘れてたわ!
オレもなかなか忙しくて、あーそうだよなーせっかく学生に逆再生してんだからでかい例のイベント学生のうちに一回は行ってみたい~!
「草野さんは行くの? 例のイベント」
「あたしサークル参加だから」
な……なんですと……。
「学生の身じゃ、なかなか軍資金面でつらいものがあるけれど、とりあえず一般より先に入れちゃうんで、壁サーのチェックしてる新刊はゲットできる」
チャキっと眼鏡の中央を指で押し当ててどや顔をオレに向ける。
まじか……。
「そこで真崎氏に相談が。サーチケ融通するんで、搬入手伝わない? ついでにうちらが回ってくる間に店番してくれるとありがたい」
そうは言うけど男子ご用達サークルは日付違うんだよな。確か。
草野さんは少年漫画二次BLサークルだろ。腐女子サークルの店番とかはハードル高えよ。
逆再生前だったら、一も二もなく食いついたかもだけど、今はSNS系が結構幅効かせてるから、ネットで事足りるし、やっぱバイトもしたいし、莉奈ちゃんととりあえず科学博物館に行きたいし。父の日に感動した隆哉さんが家族旅行とかも企画してるっぽいのオカンから聞いたし。
「バイトが決まらない限り何とも言えない、ごめん草野さん」
「まあねーみんないろいろあるもんねー」
「夏休みボランティアとかもありますよね」
水島さんがそういうと、キクタンが頭を抱える。
「あーそれめんどくせえ!」
学校側が指定するボランティアの受付に行って、トータル二日ほど、ボランティア活動を行いレポートを提出するというのが、夏休みの宿題の一つになっている。
「でもさ、お前等、気持ちは早くも夏休みになってるみたいだが、その前に期末があるのを忘れてないだろーな」
いきなりオレ達の会話に割り込んできたのが担任の岩田先生だった。
みんなガタガタと慌てて席にもどり、日直の号令を受けてSHRを受けた。
「真崎君、遥ちゃん借りていい?」
放課後、クラスの女子からそんなことを言われた。
え? なんでオレの許可を取るの⁉ オレは首を傾げる。
「お買い物に付き合ってほしくて~」
あ、はい、それはもう、反対しませんけど?
ていうか水島さんがクラスの女子友とのお付き合いがあるのは理解してますよ? なんでオレにいちいち許可を取るのさ。
草野さん以外にも水島さんにお友達はたくさんいます。
いい子だからね、女子からも人気者だね。
オレに声をかけてきた柏木さんは両手を組んでこうのたまった。
「よかった~遥ちゃんの彼氏ものわかりいい~」
ちょ、待て誰が誰の彼氏⁉
水島さんも慌てて違う違うって手を振ってる。
オレと水島さんの様子を見てクラスの女子は首を傾げる。
草野さんがすすっと近づいて、柏木さんに耳打ちする。
「え? マ⁉ 付き合ってないのー!?」
オレと水島さんはうんうんと首を縦に振る。
だからそんなオレにいちいち断らなくてもいいんだよー。
「えーじゃー遥ちゃん合コンに連れてってもいいのー?」
合コン……だと……。
ダメダメダメダメー!
条件反射で叫びそうになったぞ。
キミ達は先日の体育祭をもう忘れたのかー!?
合コンなんかにこの子連れて行ったら、女子に飢えた男どもが群がっちゃうだろー! 大人しい子だとわかったら、いくら草食男子多数と言われてる昨今ですが、合コン参加するような男は自信持ってるからぐいぐいくるよ⁉
「遥ちゃんがいるのといないのとじゃ、男子の出席率が違うしー」
「遥ちゃんが出るとなると男子の幹事がちゃんとスペックのイイ男子を揃えてくれるんだもん~」
か、彼氏でもないのに合コンに行っちゃダメとか言えない……。
そんな合コンなんて初見であった男と付き合うのは危険だからよしなさいとか、お前はどこのお父さんだよみたいな発言したらドン引かれてしまうだろうし「このまま遥ちゃんが彼氏もいない高校生活を送らせる気?」とかこの水島さんを取り囲む女子友達からつるし上げられてしまう。
「えと、あの、幸星君、わたし合コンとか行きませんよ?」
オレは水島さんの顔を見る。
「ほんと?」
「はい」
オレは両手で顔を覆う。
ああああ、よかったあ、会ったことはないが海外出張中の水島さんのご両親も安心してくださいね!
水島さんもお年頃だから彼氏ができてもいいんだけど、まだちょっと心配なんだよ。こんな可愛い子と付き合えたら、高校生男子なんて抑えきかねーだろ。
心配でしょうがないよ。中身アラサーなおっさんとしては。
「あー……よかった……」
そう呟いて顔から手を離すと、目の間にいる水島さんは顔を真っ赤にさせていた。
え?
そしてなんだか水島さんを取り囲んでるお友達と草野さんと教室に残ってるクラスメイト達の視線が……刺さる?
え? なんでみんなコッチ見てるの?
水島さんは顔を真っ赤にしたまま、友達を促して教室を出て行った。
え、何どうゆうことなのこれ⁉
なんのフラグなのコレ⁉
草野さんに視線を向けると草野さんも水島さん達のあとを追うように教室を出ていく。
えーハッキリ言ってほしい。
オレなんかやっちゃいました!?
「真崎お前……男ならはっきり言わないと」
委員長⁉ え、この状況を説明してもらえるの?
いやいや、言語化されていれば理解できる。
オレが顔を両手で覆っていたからその間に何が起きたのかよくわかってないし、何を言えばよかったんだ?
「いや、委員長、はっきりさせちゃダメだ! 俺達のわずかな希望が減るから!」
「そうだ!」
「えーハッキリさせようぜーめんどくせー」
男子がわいわい言い始めると、スマホに着信音。
――おそくならないように帰ります。
水島さんからのメッセージ。
――気を付けてね。もし遅くなるようなら連絡して。駅の改札まで迎えに行くから。
だんだん暑くなるとまた世の中ヘンなのが湧くからな。うちの莉奈ちゃんといい水島さんといい可愛いから心配ですよ、もう父親の気分ですよ。
オレがそう返信をしたところで委員長は厳かに周囲の男子に告げる。
「お前等、往生際悪いよ、だってさっき水島さん、真崎のこと名前で呼んでたじゃねーか」
あ……。
うん呼ばれました、名前で呼ばれる経緯はいろいろあるんですよ?
男子の視線がオレに集中する。
その視線が鋭く痛い。
いや、全部説明するよ? 話せばわかると思うんだよ? みんな落ち着こうか。
オレがみんなを宥めようとしているところへ、委員長はとんでもないことをのたまった。
「もーお前等、はよ付き合えや」




