◆25 父の日のリサーチをしてみた
6月の第三日曜日は父の日です。莉奈ちゃんはパパにケーキとか言ってたけどさ。
ケーキか……どうするかな。
隆哉さんは甘いのも食べるけど……どうしたらいいんだろ。
「真崎君、これタピオカミルクティおいしいよ!」
部活の時に先日作ったタピオカを持参して、先輩達にタピオカミルクティにしてみてと言ったら調理実習室にいる先輩達のテンションがかなりハイに。
片栗粉で作ったから厳密にはなんちゃってタピオカなんだけどね。
ストローないからマドラースプーンですくって食べながら飲むって感じになったけど全然抵抗なさそうで安心した。
「タピオカ代として、先輩達は父の日に何を贈ってるか聞いてもいいですか?」
オレがそう言うと、ほとんどの先輩達は残念な子を見るようにオレに注目した。
「……うちらにその質問は間違ってる。父の日とかするわけないじゃん」
あああああ。そうですよね、男だろうと女だろうと、親がうざいと思うお年頃。
ましてJKならば「え~お父さんの洗濯物とあたしの一緒に洗わないでえ~、え、お父さんもうお風呂入っちゃったの? もう~ちょっと~勘弁してよ~あたしシャワーなの~?」ぐらいは親に言ってのけるよね⁉
ましてや父の日とかねーわ。
そりゃ先輩の言うとおりだ。質問の相手が違うか。
ちなみに水島さんは考え中らしいです。でもちゃんと父の日にプレゼントするんだね。どこをどうやったらこんなお嬢さんに育つんだ。
うちの莉奈ちゃんも是非水島さんのように育ってほしい。
小学生高学年ぐらいになって「えー兄貴たちも親父も先に風呂入っちゃったの―!? もうやだー、あたし洗いなおすー!」なんて発言されてしまったら、オレ確実に引きこもるよ?
「真崎少年は父の日に何か贈るの?」
「一応」
莉奈ちゃんが言い出したことなんだけど、オレが実質作ることになるとは思うんだよね……。どーしたもんかなー。
部活が終わって水島さんと一緒に下校しようとしたら、水島さんが躊躇いがちに言った。
「あの……真崎君にお願いがあって」
「はい?」
「あのね、ちょっと買い物につきあってもらってもいいですか?」
え? いつものスーパーじゃないの?
水島さんと帰る時って、スーパーに寄るんだよね。
「父の日に、シャツを贈ろうと思うんです」
ほほう。ネクタイじゃなくてシャツなんだ。
ネクタイは海外の職場ではしてないそうだ。暑いんだって。なるほどね。それでシャツなんだ。
でもオレのセンスあんまりよくないぞ。
優哉が常に選んでるもんなー。あいつオレが絶対に着ない色とかチョイスしてくるんだけど、優哉が選んだならって着てみると、莉奈ちゃんやオカンの受けがよかったりするんだよね。
「お洒落さんじゃないけど、いいの?」
「えーでも、真崎君、私服いいですよ?」
「それは、優哉チョイスだからだよ」
「え? お兄さんが選んでるんですか?」
「うん、そうだ、優哉に連絡してみようか」
ラ〇ンで連絡すると自宅の最寄り駅で待ち合わせすることになった。
お洒落さんがいれば大丈夫だよね。
そんで優哉と合流したんだけど、優哉の顔が幾分呆れたようだった。
なんでそんな顔してんだ?
「お前はアホなのか、せっかくの放課後デートに兄貴を呼ぶとかねーわ」
デートじゃないよ! 買い物だよ!
「だって服ですよ? オレのセンスのなさは優哉が知ってるだろー」
「それは口実で水島さんが一緒に放課後デートしよ? って誘ったってことだろ」
「違う! それはないから! お前、水島さんはそんな軽い女子じゃないんだよ!? 海外出張中のパパに父の日の贈り物しようっていうのが偉いでしょ! お前、視点が違うから!」
だいたいそれさ、お前が言うならまあいい。オレとかその他が言ってみろ?「放課後デートにアンタを誘う? ないわー。ていうか勘違いもいいとこじゃね? 思い込みキモイんですけどー」と横から水島さん以外の女子からそう言われるの確実だろ。
「ごめんねー水島さん、鈍い弟でー」
「あ、あの、父の日の贈り物なんで、男の人の意見が複数伺えるのは、正直ありがたいです」
「ほらみろ。純粋に買い物なの! お前さあ、イケメンだから許されることは多々あるって自覚しなよ? 放課後女子から買い物付き合ってって言われてもデートだ! なんてはしゃげるのは『ただしイケメンに限る』ってヤツなんだよ!?」
「……帰っていいかな?」
駅の階段に向かって行く優哉の制服の端を掴む。
「ヤダ、ていうか参考にしたいんだよ! うちの父の日用も!」
オレがそう言うと優哉は肩越しに振り返って意外そうな顔をしていた。
いやー莉奈ちゃんがケーキとかいうけどさー、世間一般は父の日にケーキはないだろ、よっぽど甘いお菓子大好きパパンならわかるけどさ。隆哉さんは作ると食べてくれるけど、進んで買ってくるわけではないし。
普通はどんなものを贈ったりするのかなんとなく興味?
思い起こせば父の日なんて全然やったことないや。
オカンが保育園に入れてくれた時に保育園の先生に「父の日でーす」なんて言われてもピンとこなかったし、父親っていうワードだけで固まってたし、父の日用の工作とか似顔絵とか、やらされたんだろうけど記憶にない。
記憶にあるのは、クソ親父にサンドバッグにされてた日々とオカンがオレを連れて逃げ出すきっかけになったアイロンを背中に押し当てられた事。
これすっげえ傷になってて、オレが死んだ時まで残ってたんじゃねーかな。
逆再生した今も身体はかなり傷が残ってる。逆再生前の痛みとかはねーけど。
莉奈ちゃんが無邪気に「一緒にお風呂入ろー」とか言ってきた時も、オレはこれを見せたくなくて断った。
もちろん、莉奈ちゃんが大きくなったら黒歴史にしかならねーというのも理由だけどね。オニイチャンとお風呂に入りました~なんてさ。
優哉も隆哉さんも多分知らないかもしれない。
知ってるのは箱根のセミナー合宿で一緒になったキクタンと委員長で、オレが大浴場にいかないで、割り当てられた部屋についてる浴室に入るっていったら服を剥かれた。
キクタンは「げえ……ザッキーお前何その傷……ひどくない!? 何したんだよ!?」と顔を青ざめさせるぐらいだったから、これまだ相当な傷なんだよなー。ぶっちゃけ鏡で自分の身体は見たくねーし。
そんな父親に関することはだいたいトラウマなんだけど……。
今現在、隆哉さんは義理ではあるけど父親で、逆再生前には会話はもちろん親孝行的なこと全然しなかったから負い目があるというか……。
生まれて初めての父の日とかやってみてもいいじゃない? ぐらい考えているわけで……。
「父の日とかお前が言うとは思わなかった」
優哉が呟く。
「あー……優哉は、オカンから聞いてる? オレのトラウマ」
「だいたいは」
「そうかあ……、とりあえず一生に一回ぐらいはちゃんと父の日とかやってもいいんじゃないかなと思ってさ、経験的に。母の日って定番じゃん? カーネーション贈るって浸透してるじゃん? 父の日とかどうなのかなと……優哉はやったことある?」
「幼稚園で似顔絵書いたぐらいで覚えてないな」
「えーそんなもんなの?」
「そんなもんだよ、父の日なんて高校生になってもやるヤツはいねーだろ、母の日もいない方が多いんじゃね? ていうかウチは毎日が母の日だけどな」
毎日が母の日ってなんだよ。
「咲子さんが仕事に行ってる時、代わりにいろいろやってんじゃん、幸星が」
「人間食わなきゃ死んじゃうんだろ」
「そう言うけどお前あんま食べないだろ」
「これは胃が小さいだけ。オカンがオレを連れてあのクソから逃げるまで飯抜きとかもされてたからだよ。これでも食えるようになったんだぞ」
そんなことよりも、目的のアイテムですよ。
メンズ服のフロアに行くと、やっぱりどこも父の日フェアとかやってて、いろいろ置いてあった。
へーやっぱ、小物とかも定番なんだー。小銭入れとかパスケースとか、服ならネクタイとか。
水島さんはいろいろシャツとか見て、考え込んでる。
やっぱりいいなあ、可愛い娘が父の日に買い物とか。
色で決めるのかと思いきや、ちゃんと素材を見てるんだよねー、肌触りとか洗いやすいかとか。あ、若い男の店員が水島さんに近づいたけど、でも優哉がそれをうまく対応してる。
「水島さん決まったー?」
「はい、真崎君のお兄さんがいろいろアドバイスしてくれました」
お会計すませて父の日用にラッピングされた商品を手に提げて、嬉しそうだ。
さすが我が家のお洒落番長だね。ちゃんと選んであげたんだ。
「あの、前から気になってたけど、『真崎君のお兄さん』は呼び方長くない? 優哉でよくない?」
オレがそういうと水島さんは真っ赤になる。
「うん。それは俺も思ってた。なんかまぎらわしいかなって、水島さんなら別に名前で呼んでもらっても構わないよ?」
うん……優哉の場合、名前も知らない相手から「優哉く~ん」とか語尾にハートマークつけて言われてそうだ。
「は、はい、じゃ、えっと……幸星君は、プレゼント決まりました?」
なんでオレー!? いやキュンとしちゃったよ? いやするでしょ?
ちょっとそこのイケメン、何ニヤニヤしてんの!?




