◆22 とんでもないです、借り物競争
クラス対抗リレーのスタート開始。そこそこの順位についたうちのB組です。
1学年9クラスあるからね。上位にいるだけでもすごいわー、進学校の中なのに、うちのクラス脳筋多いの?
男子体育会系の子が多いのかな。女子もなかなか足が速かったり?
そんな中でアンカーとかねーだろ。
佐伯がまた足が速くて、あいつ一位を抜いたんだよね。トップでオレにバトン回してくるとかさあ。
アンカーが出そろうところで、キクタンが声をかけてくる。
「ザッキー、抜かせるなーいいかートップで走れよー水島さんの為に!」
「はあ⁉」
キクタン、お前、またナニ謎発言かましてくれちゃってんの⁉
水島さんが女子に囲まれて質問攻めになってない⁉
お前がアンカー走れよ!
オレが言い返す前に佐伯すでに最後のコーナー回ってきてるから、なんも言い返せないし! お前、このタイミング狙ってヘンなこと言うな!
バトンを受け取ったらとにかくダッシュで走り出した。
他のクラスもアンカー速い奴を揃えてるから、背後からプレッシャー感じるけど。
とにかくキクタン、お前、ふざけんなよ、戻ったらただじゃおかねえ。
ギリギリながらも一位でゴールしたよ!
だが。
キークーターンー‼ 許すまじ!
「愛の力だね!」
オレがゴールから戻ったら、真っ先にそんなことを言うキクタンにげんこつを作って頭を挟む。
「ウメボシしないで! 痛い、ザッキー痛い! 華奢なくせに力ある~~」
「やかましいわ! その傷をつねり上げないだけ優しいと思え!」
一位で何よりでしたけれどね!
「ほんとお前、水島さんに失礼だろ! オレはどーでも、水島さんに謝れ!」
「真崎、真崎、そのぐらいで」
委員長と佐伯がオレとキクタンの間に入って止める。
なんで止めるの、このお調子坊主にはもっときつく言い聞かせないとダメだろ?
「そうだよ~。あたし的には、真崎君×菊田君でもいいんだけど、この後を考えたら、こうしておいた方が遥香はいいかもしれないし~」
腐女子、お前も何言ってくれてんの⁉
今の発言いろんな意味でちょっとお話しが必要だよ⁉
「だから、俺、さっき言ったじゃん。この後、二年の借り物競争で、水島さん引っ張られてしまう可能性があるだろって」
「それは聞きましたけど⁉ それとキクタンの発言と何の関係が⁉」
「この後の競技で、水島さんが告白を断る口実があるのはいいことかと相談を受けた」
委員長がいうと佐伯とキクタンと草野さんも頷く。
「はい⁉」
「だから、真崎がいるからって水島さんは二年の告白を堂々と断れる」
「待て待て、それは違うだろ! お前等、水島さんの立場を考えろよ、いいか? 確かに水島さんは可愛いし、賢いし、優しいし、敬語女子で大人しくてもしっかり者で、モテる要素が満載の女子ですよ、そりゃー二年があわよくばと思うかもしれないよ⁉ だからってオレを引っ張り出すのもおかしな話じゃねーの」
「偽物でいいのよ」
「は?」
「なんかつきあってるっぽい男子がいるみたい~っていうのがあれば、借り物競争で遥香にアプローチする二年が減るし、もし、それに怯まないで遥香を引っ張り出して告っても、ごめんなさいの口実にはなるでしょ?」
「……それ、水島さんは承知してんの?」
「恋愛ごとには鈍感でぽわぽわしてるあの遥香が、そんなことを考えるわけないっしょ、あたしの企画ですけど?」
腐女子! お前!
「それにしたって、他にいねーのかよ!」
お前等、なんで目のハイライト消してオレを見るの?
「え?」
「真崎、それお前がいうのかよ」
委員長がため息混じりに呟く。
「は?」
「水島さんはクラス内でも可愛い、大人しくて真面目で敬語で優しい、そんな彼女は誰にでも平均的に接するが、お前は違うだろ」
「は?」
「主に会話率が」
佐伯が言う。
「部活も一緒だし~」
キクタン……お前……お前等、たったそれだけで決めるのかよ⁉
「一緒に送り迎えもしてるみたいだし~」
家が近所なんだよ! 水島さんの家庭の事情を聞いたら、ほっとけないだろ⁉
「ぶっちゃけ実際付き合ってねーの?」
なわけねーだろおおお!
一年の席に戻りがてら、水島さんに声を掛けられる。
「あの、真崎君……ご、ごめんなさい……なんか変なことになっちゃったみたいで」
なんでそこで水島さんが謝るんだよ~、違うだろー。
「いいえ、逆に水島さんに大変申し訳なく思う次第です」
がっくりと項垂れてオレが呟く。
オレが水島さんとの距離が近く見えるから、端からもそー見えるってことだよね。
「優哉みたいなイケメンだったら水島さんの名誉も守れたんじゃないかと思うと、申し訳ない……オレでごめんなさい」
「え、なんでですか? 逆にわたしがごめんなさいですよ?」
「は?」
「えっと……真崎君は……結構女子の注目高いから……」
小さい呟きでしたけど?
「はい?」
あの、水島さん、それはもしかしてオレがキモイとかダサいとか暗いとかで噂されてるにすぎないのでは?
「その、女子からは人気、ありますよ? 真崎君、優しいし」
いやいやいや、ねーだろ!
あっぶね、オレ今、逆再生の補正が何かかかってんじゃないかと思ったよ。
「わたしが、そんなモテるわけないのにね、汐里が心配しすぎなの」
水島さんが照れたように笑った。
いや、そういう笑顔はオレじゃなかったら誤解してると思う。
ああよかった。オレ、中身アラサーで。誤解してないよ。うん。
そして注目の借り物競争です。
でもこの借り物競争、別に男子だけに告白系カードが準備されてるってわけじゃない。
女子にも同じカードが準備される。
怖いわー、告白大会。悲喜こもごもとはまさにこのこと。
告白カード引いても無難な告白とかあるよ?
「入学してから仲良くしてくれてありがとう!」
とか女子同士で走ってそんな告白とかね。そういうのは中身おじさんなオレとしては微笑ましいけどね。
でも、ガチの告白の方が盛り上がっちゃうわけだ。やっぱり。
盛り上がるけど怖いと思ったのが、女子から告って断った男に対して、観戦中の女子からやいのやいのブーイングが発生したりな。
女子……お願い……抑えて、抑えてあげて、そこは個人の気持ちを尊重してやって、お願いだから……。
今時の男子、メンタル豆腐並みに柔らかくて繊細だからね!
……って思ってたんだけどさ……。
男子も男子で断られたら諦めろっていうの!
ギラギラしすぎだろ!
わかるよ? わかる。そりゃ高校二年で彼女ができたらハッピーだもんな。
けどさあ……二年男子マジでこれに参加してるの? ふざけてないよね?
水島さんこれで三回目のお呼び出しだよ⁉ この子を弄って遊ぶために引っ張り出したらオレ怒るよ?
「一年B組のっ! 水島さんいますかっ!!」
まただよ……うん……ダメだ、ガチできてるわ。二年男子の目が真剣すぎるだろ。
水島さんは自分がモテるわけないのにねとか言ってたけどさ、思い出そうか、この人との出会いを。帰り道一人で駅ビルにいたら、大学生二人組にナンパされてたんですよ。絶対ヤバイじゃん!
確かに二次元みたいに水島さん集中とかないよ? なかったけどね、三回に一回は水島さん駆り出されて走らされてる。
まず、最初二回ほど、告白カードで引っ張り出される。そこで水島さん断る。
そうなると今度は気になる人カードで引っ張り出される。「さっき告白されて断りましたが、水島さんに好きな人とかいるんですか?」とか聞かれて、まじ公開処刑もいいところだ!
逆再生前の時、モテる=リア充=爆発しろとか思ってたオレめっちゃ反省。
優哉といい水島さんといい、モテる人って、結構メンタル強くないと生きていけないかもしれない⁉
湿度のある炎天下で何回も走って、距離はそうでもないだろうけど……また水島さんは真面目だし、告白を断る前提だから、二年男子がちゃんと一位になれるように相手に合わせるように全速力で何回も走ってるし。
「草野さん!」
「なにー?」
「水島さんを保健室に連れて行って! ヘロヘロだから、これ以上走らせたら倒れるぞ!」
「おっけー」
草野さんは水島さんと仲良しだからな、体調悪くなったらお迎えにきてくれる親御さんは海外でいないのわかってるよね。
「テントじゃなくて保健室な! 涼しいところで水分摂らせてやって」
「はあい、遥香―行くよー」
「お前も付き添えば?」
委員長が言う。
「なんで?」
「途中で水島さん倒れたら草野さんだけじゃ手が足りないだろ。男手があった方がよくね?」
キクタンと佐伯が赤べこのようにうんうんと首を振っている。
「ほら、同じクラブのよしみだし」
委員長がオレを犬のように行った行ったと手で押し出す。
なんだよもーオレが行ったらへんな噂たっちゃうだろー。
いやいや……たつわけねーか。
とりあえずオレは草野さんと一緒に水島さんをガードするように校舎一階にある保健室へ付き添うことにした。
そして当然、オレは水島さんの事を気にかけていたため、クラスの連中の生ぬるい視線には気が付かなかった……。
「水島さん大丈夫? これスポーツドリンク」
「あ、ありがとう……」
保健室へ向かってる途中で自販機で買ったスポーツドリンクを水島さんに渡す。
「昼もここで飯食っちゃえよ、午後にダンスだけだから、無理しなくていいし」
「あたしもここにいる~涼しい~」
草野さんは長椅子にベタ―と身体を横たえた。
腐女子……お前もキクタン並みに自由だね。つーかそこは水島さんを横にしろっていうの。
「オレは戻るから」
「あ、あの、真崎君……その……ありがとう」
あーうー、わかるわー二年の男子が告りたい気持ちがー。可愛いもんよ。
「草野さん、自分が横たわってないで、水島さんを横にしてやって」
「へーい。真崎君お母さんかよ」
やかましいわ腐女子。
オレは保健室を出てクラスの席に戻ると、二年の最後の走者が走り出していた。
そしてまた一年のうちのクラスの前で止まる。
おいおい、水島さんいないぞ、みんな水島さんが保健室に行ったって伝えただろうな。
「一年B組の真崎―!」
「え?」
オレ? な、なんで? しかも女子じゃなくて男子⁉ 何、アンタその手にしてるカードは何? ちょ、待って、何?
オレはクラスの連中に押し出されて二年の走者と走らされた。
「はい、今二年の吉井君が持ってたのはー気になる人―!」
マイクでカードの内容を知らされる……。
気になる……人……だと……。
一部の女子の黄色い歓声が聞こえる。そこ腐女子御一行様⁉ 草野さんの同志⁉
放送委員からマイクを渡された二年の走者がオレに向かって言った言葉は……。
「さっき、水島さんを保健室に連れってって、いちゃこらしてると聞きました! 本当ですか⁉ 真崎君は水島さんの彼氏なんですか⁉」
……馬っ鹿やろおおお! どんな風評被害だよ! ちげーよ!
ていうかクラスの連中何言ってくれちゃってんの⁉
放送委員もニヤニヤしてる!! もしかして放送委員はこの体育祭が一番楽しいだろ⁉
放送委員がオレにマイクを渡す。
「他に女子の付き添いもいました! いちゃこらしてません! 彼氏じゃないです! ちなみに付き添いの女子からオカンかと言われましたが何か⁉」
するとうちのクラスの席の方から「ああ~~」という声が聞こえてきた。
なんだよ、そのいかにも同意、納得の「ああ~~」は!
うちのクラスの「ああ~~」を聞いた二年の走者とマイク担当の放送委員が、なんだかちょっぴり気の毒そうな表情でオレを見ていた。
二年の走者の気がそれた感はわかったんで、ほっとしましたけどね!




