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◆1 死んじゃったけど異世界転生はできないそうです。

 



 真っ白な視界と、ぼんやりした感覚。

 意識が何となく戻ったかなーとは思うものの、霞がかった感じ。

 これはやっぱりあの世というやつですか?

 いや、あの世でもなくね? なんもない空間すぎる。

 天国でも地獄でもないというのは、わかる。

 うーん……人助けのつもりだったんだけど、半分自殺っぽいからな。

 突っ込んできた軽トラに、身代わりで飛び込むなんてさー。

 自殺する人は地縛霊になって成仏できないとかそんな話を漫画やアニメなんかで見るけど、この何もない空間は撥ねられた現場だったりして?

 オレの意識がそう認識しないだけで実はオレの死んだ現場だったり?

 ありえる。

 すっごい現世に未練があるとか、この先、生きていてもいいことあるさー、なんて期待はできなかったし別にいいんですけどね。

 ただなあ……他人にあのオタグッズを始末させることになるのか……その点が未練といえば未練か。でも大きく考えてこの世の未練がそれぐらいっていうのも、陰キャボッチだったからこそとでも言えるのか。老衰で天寿全うしても、どうせ独居老人だっただろうし、同じことだよな。うん。

 そんなことつらつらと考えていると、目の間に光が。真っ白な空間なのに、それが光だっていうのは眩しいって思ったからなんだけど。

 そこに現れたのはどう見ても日本人じゃないスーツ姿の美女だった。


「真崎幸星さんですね。あ、わたくし、こういう者です」


 スーツ姿の美女がオレに名刺を渡すが、文字読めない。何この文字。

 そしてこの人どう見ても日本人じゃない系統。北欧系でもアジア系でもない……なんだろ、オリエンタル系美人。でも日本語上手いな。

「申し訳ありません、最初から日本語仕様できていませんので、念じていただければ日本語に自動変換します」

 どんな名刺だよ。それ。

 オレは名刺に視線を落とすと、名刺は日本語に文字を変えていく。その名刺には「天界 地球エリア 女神研修員 セルケト」と記載されていた。天界って……何?

「真崎幸星さんは、20XX年の12月、後輩の結婚式当日、某所にて軽トラックに撥ねられて死亡してますがー」

 やっぱオレ死んでんだな‼

「あなたのこれまでの人生のデータを検証した結果……」

 ……人生とかそれってデータとれるの? ……神様なら可能?

「本来ならば異世界に転生させるはずでしたが、そちらは今、飽和状態なので、真崎幸星さんが生きておられた現実世界に逆再生させていただくこととなりました」

 ……飽和状態……。

「そうなんです。近年、大変人気でして……異世界転生を設定して飛ばす神も、異世界転生希望者も。現在、異世界転生のシステムを拡張しておりますが、このシステム改善に併せ、現行世界への再生システムを新たに開設致しました」

 ……へーやっぱり人気なんだー異世界転生。そうだよなー神様からいろいろチート能力もらってオレsugeeeだもんね。いままでの残念人生をリセットして、オレtueeeのカタルシスだもんね。

 ていうか異世界転生ってあるんだ⁉

 うっわ、確かにできたらいいなとは思ってたけどさ。

 でも俺は現行世界の逆行。

 タイムスリップっていろいろしょぼくない? なんとなくだけど。

 チートだってもらえなさそうだし。どんなに逆再生しても残念人生ザ・エンドの未来しか見えませんがな。

「でも、別世界線なので、従来になかった設定ができます」

 いいよ、別にそんなの。逆にこのまま成仏できないものなんすかね。

「まあまあ、そんなに諦めなくても」

 だってさーもう一度人生送っても、大して変わらなさそうじゃない。

 ノーベル賞がとれちゃうぞとか、プロアスリートになれちゃうぞとか、そういう可能性を秘めた人生送っていたわけでもないし、家庭環境なんて物心ついたガキの頃は劣悪だったし、あのクズ親父がいる世界なんて逆にぞっとするし。絶対に馴染めそうにない。

 母親が再婚した時は、まだなんとかなるかなーとは思ったけど、でも再婚した相手の連れ子がめっちゃイケメン、リア充だったのでコンプレックス刺激されまくって、陰キャボッチコミュ障にさらに拍車がかかった状態だったんだよなー。

 うん。やっぱ、めんどくさいんで、結構です。成仏できませんかね?

 オレがそう思うと、目の前の美女、セルケトさんは、悲しそうに眉を八の字にさせてしまった。

 ……ちょ、やめてくれないかな。そういう顔するの。ずるくない?

「やっぱり……そう思われますよね……人気ないんですよ、現行世界逆再生ルート。異世界転生ルートは大人気ですけど。わたしも、本来ならそっちを担当したかった……」

 セルケトさんはペタリと膝を折って、手をついてハラハラと涙を流す……この人も苦労してんのね……神様なんて苦労とは無縁のものとか思ってたけど。

「わたしは研修員なので、神様になるためにこういう部署に配属されたのです。そして真崎さんのいうように、このシステムを提案しても、快諾してくださる方はおらず……」

 ああ……そうなると評価が下がって神様にはなれなくて、研修員のままってことか……、それはそれで気の毒っていうか……。

 そうだよなー別世界線っていっても特典もメリットもなさそうだから、提案されてもそれに乗る人はいなさそう……。

「ですよね……不慮の事故でなくなった方にこのことを提案しても絶対に異世界転生を主張されてしまうんですよ」

 で、その人たちは異世界転生できてんの?

「半々です」

 半々って何? どゆこと?

「その方がこれまで生きていた人生において、やり直しがどうしても必要とされる方は異世界転生に回します。そうでない方は……」

 そうでない方は?

「普通に成仏して転生をまちます」

 ふーん……。どのみち転生は変わらないわけね。

 成仏しても、記憶抹消でまた輪廻転生ってやつか……。

 結局同じなんだな……じゃあいいか現行世界逆再生でも。

「え?」

 だから、いいよ、現実世界逆再生。どのみち転生するんでしょ?

 生きるのって面倒くさいんだけど、でも、どのみち転生するっていうし、異世界じゃないだろうけど。現行世界の別世界線なら、いろいろ変わってたりするんでしょ?

「はい! それはもちろん‼ できる限りサービスさせていただきます‼」

 美人さんからサービスとかいう単語を聞くと、なんか別の想像してしまいそうなので、やめてください。

「や、でも、いろいろ特典つけさせていただきますから‼ 真崎さんが異世界転生じゃなくても別世界線で幸せな人生送れるように‼」

 別世界線への転生での特典って何?

「えーと、そうですね、異世界転生してオレTUEEEすると同じぐらい、やり直して幸せをつかむのが目的なので、真崎さんが逆再生したい年齢を選択することができます」

 ふーん……子供の頃がいいんだけど、オレの実父ってあんまりなクズだったから……高校生の頃がいいかな。子供だとなぐられっぱなしだけど、それぐらいだったら少しは反撃できるかもしれないし。

「はい」

 学生もう一回なんでしょ? オレ、めっちゃ勉強できるってわけじゃなかったから、社会人の状態でもう一度テストとか勉強とか理解できるか不安なわけ。

「はい、そこは記憶のバックアップをさせていただきますので、大丈夫です」

 え。マジ?

「異世界みたいに~とはいきませんけれど、当時の学力等の記憶をバックアップさせてバフもかけておきます」

 え、バフって何? どういうこと?

 いきなりゲームワード。オタなオレにはわかりやすいけど⁉

「成績の向上です。ちゃんと勉強するのが前提条件ですけど」

 あーでもそれって、世間一般では当たり前って感じですが……。

 ちゃんと勉強すれば成績があがるって、それは当たり前じゃないのかな……。

 まあオレは例のごとく、あんまり勉強しなかったタイプで一人で遊んでたっけ。

 主にゲームとか……漫画とか……そうです現実逃避してました。ごめんなさい。

「ま、まあ、そうなんですけど! 理解習熟度が上がっているので短時間でもすると真崎さんの過去よりもいい成績が出やすくなるって感じにできます」

 それがどういう感じなのかはわからないけれど、まあいいか。うん。よろしくお願いします。せっかくだからやり直してみよう。いい学校に入れるかもだし。

「他にご希望ありますか?」

 うーん……あ、携帯とかパソコンとか家電とか、そういうのは15年前の状態になるんだよね?

「ああ、そこの進化は、真崎さんの亡くなった状態のままでというのがご希望であれば、可能です」

 え……いろいろすごいね。さすが神様、それ可能なんだ。へーじゃ、それでお願いします。

「か、神様ではないのですが……他にも、あったら便利だなっていうスキルもつけられますよ!」

 セルケトさんは神様と言われて照れたみたいだ。

「おまけでつけておきます。きっと、あ、よかったって、思っていただけるものです!」

 なんだろ? 楽しみにしておく。まあいいや、別にそれぐらいかな。

「えー随分、謙虚というか……欲がないというか……いい人なのに、そういうところを見て

 もらえてなかったなんて! 救済の意味も込めてこれもあれもつけます!」

 セルケトさんはタブレットみたいなものを取り出して、画面に向かって指を滑らせている。

 なんだろ、異世界転生じゃない分、できる限りのことしてくれてるのかな? なんか逆にすみませんって感じ。

「数少ない現世界逆行ですし、別世界線ならではっていうことで、いろいろ特典盛っておきました!」

 まあ……そうは言ってくれるけど、あんまり期待しないでおこう。

 だって結局はオレの学生時代だもの。

「あ、あと、この私との会話は、真崎さんが別世界線にトリップしたら、記憶から消滅します」

 ちょ、何それどこのスパ〇大作戦⁉ 


「では素敵なハッピーライフを別世界線でおすごしください!」


 最後のセルケトさんの言葉がドップラー現象でオレの頭に響くと、意識はまた反転したのだった。






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