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◆17 莉奈ちゃんの運動会

 




 よっしゃ。おかずはオカンに任せた。オレは初挑戦のお稲荷さんをやる。

 お揚げの仕込みは昨夜からやってみた。

 クック〇ッドレシピ、頼りになります。

「幸星、アンタ本当に料理するの苦痛じゃないのね」

「うん。割と、慣れてるのもあるし、一人分よりも家族分の方が食材をそれなりに使えて作ってる~って気分になるし」

「助かるわあ。アンタ内弁慶すぎるから、もうてっきり家庭内引きこもりになるんじゃないかなって思ってたのよ~」

 ドキリ。あ、ま、まあね、それはね、15年前にもうやりつくした感があってね。

「隆哉さんと再婚する挨拶の日なんか、やっぱり気が進まないのかなって思ってたぐらいだから」

「えーそれは普通に緊張するって」

 別世界線に逆再生したから挙動不審でしたとか言えないじゃん。

 お稲荷さんは初挑戦のワサビと、あと莉奈ちゃん向けにゴマ稲荷。

 それをせっせと詰めながら会話を交わす。

「それでオカンは何を作ってんの?」

「定番? 甘めの卵焼きとから揚げとウインナーとブロッコリーあとアスパラのベーコン巻き。フルーツも用意しました。ブドウとさくらんぼう」

「おお」

 やっぱ今日の主役は女子だからね、フルーツ大事。


 隆哉さんは場所取り要員で朝ごはんを食べたら即、莉奈ちゃんの学校に向かった。

 優哉はお弁当やら水筒やらビデオカメラ等々をオレと半分で持ってもらう。

 莉奈ちゃんと一緒にみんなで学校に向かう。

 莉奈ちゃんの髪は今日はオレが結わきました。

 水島さんがやってくれたお団子髪にしてる。動画で研究したよ。

 莉奈ちゃんそれ気に入ったのね。

 長いサラサラの髪ですが、運動会だから結わいておかないと。

 荷物を置くと、しばらくしたら児童たちが校庭に集合する。

 隆哉さんスゲーなビデオ片手にベストポジション移動しまくり……。


「なあ、優哉、お前が小学生の頃から、あんな感じか?」

「いやー親父が来てくれたのは覚えてるけれど……ああいう状態なのを見たって感じはないな……こういうのって、本人はもうイベントに集中するだろ」


 そっかー……まあオレの小学生の運動会の記憶は遥か彼方だが、オカンが仕事でこれないとかもあったのはうっすらと覚えてるような……まあ普通にイベントに集中するよね。

 開会式が終わればすぐに莉奈ちゃん一年生の徒競走だ。

 莉奈ちゃんは足が速いようで、午前の最終の種目1~3年の混合リレーにも出るんだって。

 隆哉さんも運動神経とかいい方だよねえ、多分。真崎家のDNAだな。

 小学校の運動会って保護者多いな、でも隆哉さん背が高い方だからカメラも全然余裕だよなあ。

 オレは莉奈ちゃん視点でローアングルでスマホの動画に収めます。スマホを取り出して移動する。

 もう真剣な表情とか可愛いではないですか!

 ピストルの音に驚かないでスタートダッシュ。

 速いぞ莉奈ちゃん。

 オレ……結婚できなくても子供の保護者になった気分ですよ。

 もうそれだけで莉奈ちゃんの存在に感謝するね。

 徒競走の動画を撮り終え立ち上がったところで、隆哉さんに呼び止められた。


「幸星君、そのローアングルで撮った動画、あとで編集するから僕のメールに送っておいて」


 ……マジか……隆哉さん……本物のパパンの愛は違うね!

 小学校の運動会のプログラムを見て、あーそろそろきっと、オレの学校も体育祭実行委員会が開かれるんだろうなと考える。

 大会中に流れるBGMも最近のヒット曲とか流してて、オレの子供の頃とかとは違うなと思っていた。

 しばらく莉奈ちゃんの出番はないので、朝から隆哉さんが並んで確保したビニールシートに戻ると、優哉がいないどこ行った。


「オカン優哉は?」

「近くのコンビニに行ったわよ。水筒だけじゃ飲料足りないだろうって、莉奈ちゃんが一等取ったら立ち上がって行っちゃった」


 優哉もちゃんと莉奈ちゃんの勇姿を見たんだな。

 ほどなくして優哉が戻ってきたんだけど、優哉が通り過ぎるたびに女子からの視線が熱いじゃないですか。

 小学校の運動会ですけどね、保護者がいるでしょ? 若いお母さま方の視線、そして卒業したと思われる現在中学校に通う女子生徒、みんな、どこのモデルさんかと優哉に視線を向けてすれ違うたびに小さい悲鳴が聞こえる。

 家にいるとわからないけれど、外に出ると顕著だな。

 そんな保護者から児童に「アレ誰のお兄さんなの!?」と囁かれている。

 優哉は普通に高校に通学してても、アレじゃね? 

 こんな状態かね。朝は地獄のラッシュ時間帯だからそういうのは多分ないのか。

 でも放課後はそうでもないから、大変かも。モテるとかいいなと普通の一般的な男なら思うかもだけど、これはちょっと問題だろ。本人大変そうだ。


「幸星、どれがいい?」


 コンビニの袋をオレの前に広げる。

 清涼飲料水系のペットボトルが幾つか。

 オレはライチ味のペットボトルを取り出す。


「おにーちゃーん」


 莉奈ちゃんがオレ達のいるシートに座る。

 つぎはダンス玉入れなんだね。


「莉奈ちゃん、足速いね、スマホで動画とったよ」

「わー! ありがとう! 一年生は次の次にダンス玉入れなの」

「莉奈スゲー汗だな」

 優哉が丸めたタオルで莉奈ちゃんの顔をポンポンする。

 莉奈ちゃんはタオルの感触が気に入ってるのか優哉のぽんぽんを嫌がる素振りはない。

「でも、玉入れはヤなの」

「入らないの?」

「違うの、白組の子が莉奈にわざと玉入れの玉を当てるの」


 ……なんだと、どこのクソガキじゃああ! うちの娘にわざと当てるだとおお!? いや、妹なんだけど、もう気持ち的には父親ですから!


「へ、へえ……何組の誰かなー」

「同じ組のゆはらかずきくん」

「幸星、顔ひきつってる。どこのモンペだよお前」

「莉奈ちゃん頑張って、当てられそうになったら逃げるんだぞ」

「うん」


 どれどれ、莉奈ちゃんを入場門まで送りがてら、その『ゆはらかずき』なるクソガキの面をおがんでやる。

 優哉も一緒に連れだって入場門近くまでいくと、莉奈ちゃんのクラスメートと思われる女の子たちが莉奈ちゃんを取り囲む。

 仲良しのお友達もできたんだね。お父さんは嬉しいよ。兄ですけど。

 スマホで莉奈ちゃんの待機中の様子を撮る。

 そうしてると、莉奈ちゃんのお団子にした髪に小さい枝をぶっ刺してきたクソガキが写りこんだ。

 周囲の女子児童も莉奈ちゃんのお団子を崩したクソガキに抗議の声を上げる。

 莉奈ちゃんはお団子を崩されて少し泣きそう。

 オレは立ち上がってそのクソガキを睨みつける。

 お前が「ゆはらかずき」かあ!!


「莉―奈―」


 優哉が声をかけると、待機中の児童を見ていた保護者上の50代から、莉奈ちゃんの周囲にいた女子児童も優哉に一斉に注目した。

 莉奈ちゃんを呼んだのに、どうして周囲の女性達の方が優哉に視線を向けるんだよ。

 すげえな……イケメンの吸引力。

 クソガキは優哉に怯む様子が見えた。


「ちょっとおいで」


 莉奈ちゃんは素直にオレ達のそばにくる。


「幸星、結び直してやって」


 OK。ブラシが欲しいところだが、莉奈ちゃんの髪がサラサラなのが救いだ。

 あとできちんと直すからね。

 ぺいっとぶっ刺さった枯れ木を取り捨てて、綺麗にお団子にしてみせた。

 覚えたんだぞ、お団子スタイル。

 オレが手早くくるくるのお団子にして見せると、莉奈ちゃんのお友達が「わー、はやーい」と声を上げる。


「できたぞー莉奈ちゃん、後できちんと結わいてあげるからね」

「コーセーお兄ちゃん……優哉お兄ちゃん……」

「幸星が何度でも莉奈の髪を可愛く結わいてくれるから、泣くなよ、頑張ってこい」

「頑張れ、莉奈ちゃん」


 莉奈ちゃんは嬉しそうに笑顔を見せる。


「はい、頑張ります」


 アナウンスが入って莉奈ちゃんは慌てて行進の列に戻る。

 オレと優哉はその様子を見守っていたが、優哉が口を開く。


「アレだろ、気になる女の子に振り向いてほしくてちょっかいかけるという……莉奈に向かっての悪意とかじゃなくて」


 そりゃーうちの莉奈ちゃんは可愛いですよ、ですけどね! 他に方法あるだろうよ。


「理由がなんであれオレは身内に手を上げる男はダメ。それが子供だろうとダメだ。オレのトラウマが刺激されてダメだね」


 自分でいまびっくりした。オレの声かよと思うぐらいには、ドスが効いてる。

 優哉も驚いてオレを見下ろしている。


「だから優哉、お前にもし、好きな子ができて意地悪とかして気を惹こうとするなら、オレ、絶対お前の飯は作らねえぞ」


 自分が好きで惚れたんなら、なんでマウントとって気を惹こうとするよ、五体投地、全面降伏でいいだろうが。

 惚れた相手にはどうやったってかなわないんだから。

 まあ優哉は好きなヤツに嫌われるとかはないだろうけど。

 ダンス玉入れで曲に合わせて振り付けして、曲の転調の時に一斉に玉入れしている低学年の競技に参加している莉奈ちゃんを動画に収めた。


 そして他の競技をいくつか終わって午前の部の最終競技、低学年のリレーだ。

 莉奈ちゃん頑張れ。

 あーでも真崎家の運動神経の良さってほんとマジすごいな。

 玉入れだって、莉奈ちゃんカゴの中にいくつか入ってたよ。まだ一年生なのに。

 徒競走だってぶっちぎりだったし。

 運動会のリレーってやっぱ花形だよね。

 それに出ちゃえるのはすごいよ。

 リレーは結局莉奈ちゃんが最初トップをとったグループは巻き返されて2位という結果。でも莉奈ちゃんは嬉しそうだった。



「これで運動会午前の部を終了します。午後の部は12時50分から開始されますー」


 高学年の放送部の子のアナウンスが校庭に響く。

 児童たちは自分の座席からそれぞれ保護者の方へ戻ってくる。

 オカンが莉奈ちゃんを褒めまくっていた。

「咲子ママ~お兄ちゃん~」

「莉奈ちゃん! 滅茶苦茶速いのねえ! ママ感動した!」

「一年の競技はこれで終了で午後はだいたい高学年だけなんだな」

 隆哉さんがプログラムを覗いて呟く。

 オレはオカンとの合作弁当をビニールシートの中央に広げた。

「おお~から揚げに卵焼き~ウインナーちゃんと蛸さんにしてるね、アスパラのベーコン巻きもある!」

 隆哉さんはオカンのおかずを見て嬉しそうだ。

 いずれも定番な感じですが、一家全員分だからそれなりの量なんですよ。

 そこを褒めてくれる隆哉さんえらい。

「わーおいなりさん!」

「こっちのタッパーがゴマでこっちがワサビ、そんなに辛くないから莉奈ちゃんも大丈夫かも、お揚げが甘いからね」

 オカンがみんなに割りばしを配って、「いただきます」となった。

「ゴマ入り食感がプチプチしてる~腕を上げたわね幸星!」

「……ほんのりワサビになってる、すごいね、幸星君! 初挑戦なのこれで!?」

 オレは卵焼きをほおばる。

 甘めの卵焼き……オカン……砂糖だけじゃねーな、みりんも使ってるだろ、すげえな。俺も今度優哉と隆哉さんの弁当にこれ作ってみよう。

 定番のおかずを美味しく作るのは基本だもんな。


「コーセーお兄ちゃん、咲子ママ、お弁当美味しい!」


 莉奈ちゃんの笑顔で早朝のお弁当作成の甲斐がありました。






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