◆16 中間テストを乗り切った感じです。
GWはだいたい家事で終了した。合間に勉強もしたけど。中間テストあるから。
そしてこのGW明けの中間テスト一週間前になるとクラブ活動中止だ。
優哉の学校も同様、部活中止で放課後早めに帰宅してる。
「この時間が非常にもったいないというか、バイトしたい」
「何、幸星、お前バイトしたいの?」
我が家の家庭教師優哉先生と一緒に中間テスト対策です。
莉奈ちゃんは放課後遊び教室でまだ学校。
「したい。あの学校。申告しておけばバイトOKだし。でも家のこともしたいから~週一か週二ではいれるところがいい」
けど、そんなゆるゆるなバイトとかって、なかなか見つからないんだよな。
高校生バイトは週3日からっていうのが募集要項では大部分。
オレは高校生に逆再生した現在、いろいろ行ってみたいところがある。
箱根合宿の時にも思ったけど、美術館や博物館とか学割で行けるところ。あと映画とかも観たい。そこは主にアニメですが。
その為の軍資金が必要なのだ。
もれなく莉奈ちゃんも絶対行くとか言ってくれそうな気がするからさー。
でもなあ、高校生のバイトって……多分コンビニか……飲食か……、接客というのがオレはやったことないんだけどどうかな、ちょっと怖いよ。でも金の為ならやるしかないのか……。
「夏休みあたりに短期でバイトするかな~」
できればこの中間終わったあたりからバイトしたいんだけどね。
「幸星お前、何気によく動くよな」
「へ?」
「俺は親父から、お前は内気で内弁慶で大人しいって聞いてたんだけど」
「内弁慶だろ、ていうか家でも大人しいだろ。学校でも大人しいよ。ね? 水島さん」
実はこの場に水島さんもお招きしている。
というのも、オカンも隆哉さんも「水島さんをちょくちょくウチに誘うように、独り暮らしなんだから、心細いでしょ」とか言うんだけどさー。
あんまり頻繁に誘うと水島さんが気を遣いすぎるかもしれないので、ほどほどな感じで誘ってみることにした。
水島さんは大人しいけど、女子友、結構いらっしゃる方ですよ?
クラスのぱっとしない男子の誘いよりも、同性の友達の方が安心感もあるし気も遣わないでいいんじゃないかと個人的には思うんだ。
しかし、両親がうるさいので、本日、優哉先生つきの試験対策という名目で誘ったらOKがでたので我が家にお招きしたわけです。
「賑やかなのは菊田君だから……でも、真崎君は菊田君と一緒にいますよね?」
それはキクタンがからんでくるだけであって、オレは全然からんでないよ!
「キクタンは誰にでもああいう感じだからでは?」
誤解ですから!
「女子からも結構声かけられますよね?」
その言葉を聞いて優哉がニヤニヤするけど、それは完全な誤解です。
「声をかけられる原因はそこでにやついてるオニイチャンのせいだよ。箱根合宿の時からなんか話しかけられるけど、でも、全員が「箱根合宿の時に成峰の男子とお話してたでしょ~」から始まるんですよ。つまりは今、オレの前に座ってるイケメンにつなぎをとれと、そういうことですよ」
水島さんはオレと優哉を見比べて、「ああ……」と呟く。
優哉は眉間に皺を寄せる。
「断れよ、俺は自分の学校のその手の連中をさばくので手一杯だ」
逆再生の15年前なら、その言葉は「モテ自慢ですかこのイケメンリア充」と思うところだが、人体の一部を仕込まれたチョコを渡された過去を聞いた今なら、イケメンは意外と苦労しているのかもしれないと考えを改めている。
「顔知ってるけど、あんまり話したことがないとか適当にごまかしているけど? 素直に新しいオニイチャンですと言ったらどうなるかわかってますよ」
けど今解いてる数式はわかりませんがね。
あー……コレ、どうする。
数学のプリントを見て唸ってると、優哉がシャーペンの頭でオレの引っかかってる数式を指し示す。
「お前、コレここで割ってないから躓いてんだよ」
「あ、はい、ありがとうございます」
勉強もこうしてみてくれるし、いいオニイチャンだよ、この人。
優等生お二人のご協力を得て、中間を無事乗り切りました。
うん。学力測定よりは解けた気がする。
ていうかさ、逆再生の15年前よりもなんか解けてる? アラサーだったから15年前の学校のテストなんて記憶にもないし、授業内容も覚えてない。
なのに、今は違う。これってどういうこと? 異世界転生じゃないけど何かの補正がかかってるのかな……。まあアラサーのまま記憶あやふやで高校のテストを解けと言われたら一文字も書けないで白紙提出だろう。
授業を聞いてても、自宅学習しても理解できてる。できないよりできるんだから、まあよかったってことにしようか。
で、後日、テストの結果が戻ってきた時、教室で変な声が出そうになった。
テストの結果はクラスの平均ギリギリとかだったらいいな、ぐらいだったんだけど。
オレ、高校時代、こんなテストの結果がよかったことは……ないぞ。
これは優哉先生と水島先生に足を向けて寝られねえんじゃね?
「化学の岡部先生が、テスト前の女子の『あたし、全然勉強してないからっ!』っていうのはだいたいが嘘で男子の『オレ、全然勉強してないから!』ってのが100パーで真実だよねって話はさーお前には当てはまんねーな。ザッキー」
「キクタン……」
オレ『全然勉強してないから!』なんて一言も言ってませんが?
「そこはちゃんと勉強してないという結果を出して、オレと一緒に英表の補習を受けるべきと思うんだよね」
……キクタン……お前さん、勉強しなかったのかよ……。
聞けば部活が忙しく、テスト一週間前になった部活停止期間は、それまで連絡してなかった中学時代の友だちとわいわいやってちょっと遊んじゃったようで……。
「お前は大人しく補習受けてこいよ」
富原がため息まじりにそう言って、キクタンの肩をたたく。
「トミー、今度勉強教えて、そしてザッキーはオレの代わりに部活に出てきて」
なんでだよ⁉ 本当に高校生のこういう発言って、おかしいだろ。
いや、キクタンのキャラクターがそうなのか……。
キクタンは他にもいろいろ謎発言をかましながら足取り重く補習へ向かっていった。
頑張れ、心の中で応援するぞ。
さ、切り替え切り替え、ともかく次のイベントですよ。
オレの学校のイベントは体育祭なんだが、まだ一か月ちょい先だ。
オレの学校の体育祭の前に莉奈ちゃんの小学校も運動会があるのだ。
「幸星~、優哉君~、君たち二人、莉奈ちゃんの運動会見に行く?」
「オレは行く、ていうか弁当作る。オカン手伝うぞ、どーする? あんま凝ったヤツではない方がいい? からあげとソーセージは定番でいれとくとして、卵焼きと? あと何を作る? メインはおにぎり? あーでもいなりずしって作ったことないから作ってみたいな、食べやすそうじゃん?」
「ちょっと待て、いなりずし! 俺も食いたい!」
「オカン、優哉も行くって~」
オレがそう言うと、オカンははいはいとプリントにオレと優哉の名前も書き加える。
オレはそのプリントをのぞき込んだ。
「何コレ」
「えー来校保護者の申請書」
「……え? 莉奈ちゃんところの小学校公立だよね?」
「そうよ?」
「オレが小学生の頃ってそういうの……あった?」
「何言ってんの、あったでしょ?」
いや、そんなのなかったぞ……。オレはそのプリントをじっと見つめる。
「ほらー物騒な事件があったからー学校のセキュリティあげようって話になったの、もー忘れちゃった?」
……多分……その学校施設の安全管理に関することはオレが小学校の頃にはなかった。
確かに学生の頃に学校のセキュリティはあったけど……。
「どうかしたか? 幸星」
逆再生別世界線なんだっていうのを、実感したオレはよほど変な顔をしていたんだと思う。
「なあ、いなりずしに入れるのはシソがいい? でも莉奈ちゃんシソ食うかな?」
オレは優哉にそう伝えて、自分の中で沸き上がった複雑な気持ちをごまかした。
すでにオレは一回死んでこの世界にはいなかった。
今の生活が以前の生活とは違って、幸せだと思うから、こうして時々感じる世界の本当の時間軸を知って動揺しちゃうだけだろ。
大丈夫。
オレが死んだ年にオレが15になったのは、きっと未来を自分で感じろって、そういうことかもしれないんだし、それはそれで悪くないことだ。多分。
優哉はオレを軽く小突く。
「んだよ、お前さあ、人の事食欲魔人か何かのように言うけど、お前もたいがいだろうが、真剣な顔して言うことソレかよ⁉」
優哉が呆れたようにそう言った。
「オレ的にはワサビ稲荷に挑戦したい、ほんのりワサビ味」
「え。何それ、美味しそうじゃん」
この会話をポチポチとラ〇ンで隆哉さんに送ったら帰宅の帰りますの通知に「ワサビお稲荷さん、それ絶対作ってお願い」と返信がきた。
逆再生前には絶対になかった家族との会話。
自分から話しかけて、そしてそれに答えてくれる誰か。
そんな今に生きているなら、多少の時間軸のズレは別にたいしたことはないと思う。
その通知を見つめて、オレはOKマークのスタンプを押した。