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◆15 優哉が語る呪術的なチョコの話

 





「ただいまあ~……あれ?」

 餃子を包み終わったところでオカンが帰宅。

「おかえり咲子さん」

「おかえりなさい咲子さん」

 隆哉さんと優哉がオカンに声をかける。

「お、お邪魔してます」

 水島さんがペコリと頭を下げる。

「オレのクラスメートの水島さん」

「あ~幸星と同じクラブの子ね、チーズケーキのデコレーションをアドバイスしたとかの! あらあら、ようこそ~って、なんでお客さんに手伝わせてんの?」

 オカンの言葉に、オレは隆哉さんを見ると隆哉さんは優哉を見る。そして優哉はオレを見る。なんだよこの三すくみは!

 そもそも隆哉さんがナンパしたんだよ! え、だけど、オレ? 「手伝って」って最初に言っちゃったのはオレ? オレか? オレなのか……。


「スンマセン、オレが頼みました」


「幸星~あんたって子は~」

「咲子ママ、あのね、あのね、お団子にしてもらったの! おねーちゃんに、可愛い?」

 オカンの攻撃からオレをかばって両手を広げて必死にオカンに言い募る莉奈ちゃん!

 ありがとう!

「あら~可愛くお団子にしてもらったの~?」

「だからコーセーお兄ちゃんは悪くないの!」

「もう~せっかく遊びにきてくれたのに手伝わせちゃってごめんなさいね、ほらほら、あとはあたしがやるから、幸星、お茶お出しして」


「イエス、マム」


 本当のマムにはかないません。

 オレはコーヒーを淹れながら、夕飯の途中工程をオカンに説明する。

「じゃあ、餃子はあと焼くだけね」

「そうなんだ。右側大葉入りで、左は大葉は入れてない。で、あとスープともう一品、葉物の野菜の塩炒め。でもごま油ヤメテ、餃子もサラダもごま油でくどくなっちゃうからシーフードミックスを散らしてあっさりな感じにしようと思って」

「OK、続きはやるわ、ありがとね幸星。それとさー」

 オカンはこっそりオレに囁く。

「水島さんって、想像してたより可愛い子ね。付き合うの?」

 は? なんでそうなるの!? 水島さんはね、しっかりしたお嬢さんだよ? オレなんかよりも全然お似合いの男子はクラス内にいると思うよ⁉ ていうかこの家にもいるよ? かなりの優良物件が。俺はお呼びじゃないですよ。

「クラスメート。ただ近所に住んでるから、親が海外出張で受験と重なって、独り暮らしでさ……だから隆哉さんが夕飯に誘ったんだよ? でもあの子は普通に誘っても断るかなって思ったから手伝ってもらうの口実にしたんだ」

 でもお茶も出さずに手伝わせてしまったのは反省。

 オカンは「そっかあ……」と呟きながらスープを作る。

「あ、オカン、コメまだセットしてない」

「はいはい」

 オレはオカンにもコーヒーを置いて、トレイに人数分のコーヒーと莉奈ちゃん用のホットミルクを乗せてリビングにいるみんなにコーヒーを持っていく。

 水島さんが持参してくれたクッキーもちょこっと乗せて。じきに夕飯だから少しね。


「ごめんね、水島さん、お茶も出さずに手伝わせて」

「いえ、ちゃんとしたお料理ができて楽しかったです」

 コーヒーを出しながらそう言うと、水島さんはそう返してくれた。

「優哉、これ、水島さん手作りなんだって」

「へー、すごいね」

 って言うけどさ……キミはそういうの、たくさんもらってそうだもんなあ。

「莉奈も、たべてもいいの?」

「夕飯前だから少しね」

 オレがそう言うと、ショボーンとした感じで「すこし……」と残念そうに呟く。

「明日の分に残そうね」

「あした!」

 ぱあっと笑顔になる。ニコニコ笑ってる莉奈ちゃんと水島さんが並ぶと華があるなあ。

「おねーちゃんのクッキーおいしい! えっとね紅茶の味がするの! コーセーお兄ちゃんも食べて! おいしいの!」

「え、紅茶クッキーなんだ。紅茶クッキーって茶葉を生地に練りこむの?」

「はい、使用する茶葉はなるだけ細かい茶葉がいいです。型抜きがしやすいです」 

 オレもご相伴にあずかる。一つだけつまんで口の中に入れると、サクッとして紅茶の香りが広がる。

 そういえば、JKの手作りクッキーなるものを食したのは一度目も二度目も含めて人生で初めてだ。

 腹減ってるのか優哉……よく食うな……。

「優哉が女子の手作りクッキー食べてるの初めてみたな」

 隆哉さんがぼそりと呟く。

「中学時もそういうのもらって帰ってきたことあるけど、食べてないから」

「ちゃんと食えるものを作れる人が持ってきたものは食える」

 どういうことですか?

 食えないモノを作って渡されたってことがあるのか?

「幸星と一緒に夕飯作っていた時点で安心感があるから食えるってこと、今までは怖くて食えない代物だ」

「はい?」

「バレンタインデーのチョコなんてその筆頭。お前、そのチョコの中にナニを入れたと問い質したくなるものを渡されて以来、女子から渡される手作り系の菓子はダメ」

 訊くのが怖いが訊いてみる。

「何が……入ってた?」

「香水はまだまし」

 え? 食い物に香水入れるの? それ食えるの? そしてそれが「まだマシ」ということは他に何が入ってるの?

「血がねりこんであるとか髪が入ってるとか」

 ホラーかよ!

 食べ物で遊んじゃいけませんよ!

 水島さんが「あ~おまじない的な……アレですね」と呟くと、優哉は頷いてもう一個クッキーをつまむ。

「え? 何それ黒魔術的な何かなの? 女子はバレンタインデーのチョコにそんな呪術を仕込むモノなの?」

 水島さんは残念そうな表情になる。

「えーと……要はその好きな人に振り向いてもらえるようにとか……」

「らしいよ、そういうのが一定数混じってた」

 優哉も呆れ気味に呟く。

「食えないじゃん……」

「食えないよ、貰っても。だからオレは女子の手作り菓子はそれを理由に断ってる」

「あ~だから優哉がある年から市販の高級チョコをもらうようになったのか」

 隆哉さんも呟く。

 そりゃー手作りよりは市販の高級チョコの方が断然に安心感あるもんな、そしてちゃんと食べられて美味しいし。

「でも、よくそんなんが入ってるって口に入れる前にわかったな」

「もらった量が量なんで、放課後クラスの男子連中とつまもうとしたら、異物混入チョコを渡してきた女子が慌てて教室に入ってきて、チョコに入ってる内容物をばらした」

 自分の身体の一部が入ってるから優哉に食べてほしいので、他の子はダメと叫んだそうだ。その場にいたクラスの男子はもちろん、優哉もドン引きだったという。

「バレンタインのチョコがモテる男のバロメーターだと思ってる奴等も、その現場にいたことで考えを改めて俺に同情するようになったよ」

 ごめん、一般的にチョコの量がモテる男のバロメーターだとオレも思ってました。

 そんな異物混入な手作りチョコが含まれているなんて、全然想像もしてませんでした。

 優哉……お前……、食べるの好きなのに、そんなものを渡されていたなんて……可哀そうだ。

「優哉、食べろ。安心してこの紅茶クッキーを食え」

 小柄なJK美少女が作ったという希少価値も含めて味わうといい。

「でも幸星、俺、餃子食べたい」

「わかった! 手伝ってくる。水島さんはゆっくりしててね!」

 俺は腹ペコ兄さんの為にキッチンにもどった。




 優哉待望の餃子ができて、みんなで食卓を囲む。

 ちょっと大きめの皿に、大葉入りと、普通の餃子。サラダや塩炒めは小鉢や小皿に盛ってそれぞれの前に。

「えー大葉入り餃子って初めて食べたけどさっぱりしてるのな」

 優哉は声をあげる。

「うん、想像どおりで美味しい。幸星君、水島さんありがとうね。莉奈もがんばってくれたよね」

 隆哉さんもお気に召したようで何より。

「水島さんも自分で作ったんだから、遠慮しないでたくさん食べてね!」

 オカンが水島さんに声をかけてる。

 莉奈ちゃん……意外と塩炒め好きなの? サラダちょっと辛かったかな?

「本当に、今日はありがとうねー水島さん、おうち近所なんだって? よかったらちょくちょく遊びに来てね」

 なんてオカンは言う。

 これがまだ莉奈ちゃんぐらいの小学生なら普通に行き来するだろうけど、高校生だからね、水島さん。

 クラスメートではあるけど男子の家にちょくちょく遊びには……なかなか。

 これがまた呪術系チョコを優哉に送るようなタイプなら言質とったとばかりに来るだろうけど、しっかりしたお嬢さんだから遠慮するだろー。

 でもさ……。

 こうしてみんなでご飯食べるの美味しいし、楽しいよね。

 ほんと水島さんさえよかったら、来てほしいよ。


「オレも料理楽しかったし、水島さんも料理上手だし、また一緒に料理しようよ」

「莉奈も! 莉奈もおりょうりする! おねーちゃんにまた髪の毛お団子にしてもらうの」


 水島さんはどうしようかと思ってる感じだった。

 なんとなく察しちゃうけど。

 この場は今うるさいぐらい賑やかだけど、水島さんは普段は独りだからな……。

 独りって自宅に戻るとまたその静かさが耳に痛いんだよな。

 賑やかな場所にいたらそれだけその反動があるから。


「それにGW過ぎたら中間テストだろ、化学教えて。英語は優哉に訊いて」

「俺かよ⁉」

「オニイチャンの学校、都内公立トップクラスだから、教えてくれるよね?」

「じゃあお前は俺に何を教えてくれるわけ?」

「失敗しない卵焼きとか、目玉焼きとか、ゆで卵の作り方」

「……なんで卵限定なんだよ」

「優哉ができそうなところから、そして基本形」

 オレがそう返すと「基本ねえ」と呟く。

「いいじゃん、学校の連中で集まると遊んじゃうけど、このメンツなら全然オッケーなんじゃないか?」

「水島さんは真面目だからな……いいよ、けどお前、これ以上人数は増やすなよ」

 はい!?

 優哉お前、オレがクラスの連中とわきあいあいやれるキャラだと思ってる!?

 クラスでは大人しい派だよ! 

「どう? 水島さん、こいつ学校での様子は」

 ちょっと待て、優哉、お前保護者かよ⁉ なんで家庭訪問に来た先生に子供の学校の様子を伺う質問的なことを水島さんに尋ねるの?

「あーそれは僕も聞きたいな」

 本物の保護者ものってきた。

「水島さんが困っちゃうだろ! よく考えてみようよ、普通クラスの男子にそんな注目する女子はいませんから! クラス担任ならまだしも、水島さんは普通に一般生徒!」

 隆哉さんと優哉は舌打ちした。

「えーと、同じクラスの委員長と菊田君という男子生徒とわりと一緒にいる感じですね。クラス自体も落ち着いてますから、特に悪目立ちすることもなくて、成績の方はおうちの方の方が詳しいのではないのでしょうか?」

 オレはがっくりと肩を落とす。

 水島さん……アナタ天然ですか……。

 それは素で言ってるんだろうけど、まんま学校の先生ですよ。


「先生、うちの子をよろしくお願いします」


 何故……オカンまで乗っかるのか、このノリに……おかしいだろ。

 まあ、これはこれで、水島さんも楽しそうだからいいか。






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