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◆14 水島さんと餃子を作ってみた!

 




 スーパーから自宅へ向かう、途中で水島さんが荷物を置いていくので、隆哉さんと莉奈ちゃんに食材を持って先に戻ってもらった。

 水島さんのマンションのエントランスで彼女を待っていると、ほどなくして彼女がきた。


「いきなりで、ごめんね。せっかくのGWなのに」


 我が家の夕飯のお手伝いとかさせてしまう。申し訳ない。

 だって花のJKですよ、予定だって盛沢山な気がする。


「いえ、こちらこそ、何も予定がなかったから」


 そんな返しをしてくれるなんて優しい……。

 水島さんは長くおろしていた髪をお団子にして肩にトートバッグを下げている。

 料理の手伝いをお願いしたからだろう、ほんとこの子きちんとしてる。


「あの、ごめんね、どうして一人暮らしなのか聞いてもいい?」

「あ、はい、親が海外出張に出てるんです。時折日本に戻ってきます。英語圏だったら一緒に連れて行くことも考えていたみたいですが」

「高校受験と海外出張が重なったんだ?」

「はい」

「でも水島さんはしっかりしてるからご両親も安心だね」

「そう思われたいです。なんだか日本を離れるの怖くて」

「海外留学とかは考えないの?」

「恥ずかしながら英語は苦手で」

「ああ……」


 そして思い出した、GW過ぎたらすぐに中間テストがあることを。

 中学の中間テストは、国・数・理・社・英ですが、オレの高校の中間テスト科目、古典・現代文・数一・数A・化学・現社・地理・コミュ英・英表なんだよね。

 自信ねええええ。


「どうかしました?」

「迫りくる中間テストを思い出した。中間の科目で水島さん得意教科何?」

「化学……かな?」


 まさかの理系女子!?

 だから英語苦手なのか!? いや、オレなんかは全般的に不得意教科ですけど。


「あと数学? あの先生、すごく丁寧ですよね。わざわざプリントとか自作してくれて」

「確かにアレはいいよね、ノート作りやすい」




 同じクラスなだけあって共通の話題があってよかったなと思いながら、自宅へ戻った。

 自宅へ戻ると、莉奈ちゃんが廊下を走って「おかえりなさーい」と言ってオレに飛びついてくる。そしてスーパーの初対面時よりもテンション高く水島さんに「いらっしゃいませー」と言った。どこの店員さんですか、莉奈ちゃん。

 水島さんも莉奈ちゃんと隆哉さんに「お邪魔します」と頭を下げる。

 隆哉さんは冷蔵庫に食材をしまっておいてくれてたみたいだ。


「あの、それでこれ、手作りで恥ずかしいですが、みなさんでどうぞ」


 水島さんがトートバッグから可愛いラッピングを施したお菓子を取り出す。

 わあああああ。申し訳ない!

 こちらが付き合ってもらってるのにそんな気遣いを!

 つーかほんとにできたお嬢さんだよ! 親御さんはさぞ自慢だろう! 隆哉さんも驚いてそれを受け取る。


「え、水島さんが作ったの? ねえ、幸星君、今時の高校生はこんな感じなの?」

「いえ! 水島さんがきちんとしてるだけです!」

「だよねえ。優哉の中学時代も女の子が来たけど、こういう子いなかったよ」


 ……優哉……お前自身はスペックが高いのに、群がるのはなぜそういう系なんだよ。

 機会があったら聞いてみよう。

 水島さんとオレは手を洗ってキッチンに向かう。

 水島さんは肩にさげていたトートバッグからエプロンを取り出す。

 それを見た莉奈ちゃんは、自分の部屋に戻ってエプロンを首から下げてきた。

「コーセーお兄ちゃん結んで」

 オレは莉奈ちゃんのエプロンを蝶々結びにして見せる。

 その様子を見ていた水島さんは「髪も結びましょうか?」と聞いてきた。


「莉奈ちゃん、水島さんに髪を結んでもらおうか、お料理する時、髪が邪魔になっちゃうから」


 オレがそう言うと、莉奈ちゃんははっとして自分の部屋に戻り、可愛い髪ゴムやブラシの入った小さいカゴをもってきた。

「おねーちゃんみたいなのにしてください!」

「お団子にするの?」

 莉奈ちゃんはうんうんと頷く。お団子かあ……どうやるんだこれ。

「わたしがやりましょうか?」

「いいの!? お願い可愛くしてやって! 中華だから両サイドにお団子にしてやって!」

「はい」

 オレは水島さんの器用な手つきを見ていた。小さくて細い指なのに、すげえ器用だなあ……。

 ゴムとピンだけお団子完成。

「パパ、おにーちゃん、莉奈お団子にしてもらった!」

「莉奈可愛いぞ! ありがとう水島さん!」

 隆哉さんがめっちゃ感激してる。女の子が髪を弄ってるの好きなのかなー。オカンもそうしてるし。オレが莉奈ちゃんをハーフツインテールにした時も感激してたし。

 いや、オレもぶっちゃけ好きです。

 女の子のストレートロングっていいなあと思うけど、そういう子がシチュエーションに応じてヘアスタイル変えてくれるの好きだ。

 こんなことを公言したら「うっわ、めんどくさい男」とか冷ややかに言い切られそうなんで絶対女子の前では言えませんがね。

「莉奈ちゃんお料理前にもう一度、手を洗いに行きますか?」

「行きます!」

 すっかり莉奈ちゃんは水島さんになついてしまった。立ち上がる水島さんの手を莉奈ちゃんが握る。

 オレは先にキッチンに立って、ニラとキャベツとネギを刻んでおくことにした。


 オレは下味をつけて捏ねるだけにしていたボウルを二つ、莉奈ちゃんの前に差し出す。

 もちろんネタを捏ねる係は莉奈ちゃんです。

「真崎君、どうしてボウル二つなんですか?」

「大葉入りとそうでないやつ、隆哉さんが大葉入りも食べたいって言ったから」

 莉奈ちゃんに捏ねてもらってる間に、オレは副菜のサラダに取り掛かる。

 サラダは、もやし、キュウリ、ハム。

 水島さんがもやしを洗ってちゃんと根までとってくれてる。これ何気に手間かかるんだ。ありがたい。もちろんオレも根を取ります。今日は莉奈ちゃんオカン以外にも水島さんがいるからカロリー的にも春雨サラダよりこっちだと思ってもやしにしてみたんだけどね。

 もやしの下処理に先が見えたら、ひたすら食材を切る。

 ハム千切り、キュウリ千切り、あと塩炒め用の青梗菜と小松菜を洗ってざく切り。

 水島さんが根本を取り終わったもやしをさっと湯がいてくれる。


「ただいまあ」


 お、腹ペコ小僧が帰宅してきたぞ。


「誰かお客さんー?」


 スポーツバッグを肩に下げたままリビングに入ってくる優哉。

 莉奈ちゃんがボウルに手をつっこんでいるのを見下ろして、リビングのソファに座って新聞を読んでる隆哉さんを見てからキッチンに視線を向ける。


「おかえり」

「お邪魔してます」

 水島さんはオレの影からひょっこり顔を上げて挨拶する。

「ええっと、水島さん……だよね。え? 幸星、お前がナンパしたの!?」

「ナンパしたのは隆哉さん。オレはお願いしただけだ。そして優哉、お前はこれ以上キッチンに近づくな、はよ着替えて手を洗え、そして洗濯物を取り込んで畳んでくれ」

「イエス・マム」

「誰がマムだ。オレか!? オレなのか!?」


 オレはお前のかーちゃんではなく義弟ですよ。

 水島さんがクスクス笑ってる。


「ほんと、仲良しですよね、真崎君とお兄さん」


 うん……。まあそうですね。オレもこんな風に会話ができるとは思ってなかったので日々新鮮ですけどね。

「ちょっと卵を使ってもいいですか?」

「いいよー」

 何を作ってくれるのかな? ちょっと期待。

 水島さんは手際よく片手で卵を割る。やだカッコイイじゃん! オレも片手で割れる? スープの時ためしてみよう。

 割った卵に砂糖とだしを入れてカチャカチャと溶き卵を作り始める。

 オレはとりあえずフライパンをコンロにおいて、セットしておく。

 焼くと思うんだよね。

 では水島さんにその卵をお任せして、オレは小さなボウルに、濃い口と薄口の醤油、みりんとお酢と、ちょい砂糖と豆板醤入れてごま油を入れてみた。

 中華ドレッシングだ。

 莉奈ちゃんにネタを混ぜるのを終了してもらう。

 莉奈ちゃんの手を濡れ布巾でふいてあげて小さな泡だて器を渡す。

 莉奈ちゃんにこれでゆっくり混ぜてねと伝えて渡す。

「あんまり力入れちゃうとこぼれちゃうから、ゆっくりね、混ぜたらオレに頂戴」

 絶対楽しくて混ぜ混ぜ夢中になっちゃうとこぼしちゃう可能性大。注意を促しておく。

「はあい」

 餃子のネタはラップしておいて、次は副菜。

 オレは冷凍庫からシーフードミックスを取り出す。これを葉物野菜の塩炒めにいれてみようかと思う。

 レンジで解凍して水を切る。そのまま魚介の味も沁みてる水は捨てずに、練り系の中華だしの素と入れて混ぜておく。

「コーセーお兄ちゃん、まぜまぜしたよ!」

「おお、莉奈ちゃんありがと。包むまで手を洗って待っていてね」


「いえす! まむ!」


 優哉ああ! 莉奈ちゃんが真似したぞ! どーしてくれる!?

 オレは莉奈ちゃんが撹拌してくれたドレッシングをスプーンですくって味をみる。うん。ちゃんと中華ドレッシングになってる。

 オレは水島さんに小さなティースプーンを取り出して渡す。

「ドレッシング、これで大丈夫?」

 水島さんにも味見をしてもらう。

「はい、大丈夫です。でも真崎君、よく目分量で作れますね」

 うん、目分量だった。ていうかオレが作るのだいたい目分量だ。中華ドレッシングって味が想像できるし配合これぐらいな感じでってやってみたんだけど。

「うん、このぐらいかなーって感じでやってみる。スイーツはきっちり量るよね、砂糖とかめっちゃ減らしたくなる。チーズケーキの時とかも驚いた」

「わたしは思い切りがないのでレシピどおり、きっちり量って作るスイーツが好きというか安心感があるというか」

「理系女子的発言だ」

「理系女子……」

「オレは単純におおざっぱなんだろうなあ。そんな気がするよ。え? カニカマほぐしてくれただけでなく錦糸卵まで作ってくれたの? それさっきの卵だよね?」

「はいサラダの彩りとしてなんとなくいいかなと……」

「うわーさすがー。よし、これも莉奈ちゃんに混ぜてもらおう。莉奈ちゃーん、お仕事でーす」

「はーい」

「サラダお箸で混ぜて」

「おはし大きいね」

「あー……まって、まって、これがあった」

「はさみ?」

「トング」

「とんぐ……」

 これなら長い菜箸よりも莉奈ちゃん使いやすいよね。オレが見本をみせる。

「はさんでこうしてドレッシングが全体にからまるようまぜてね」

「はーい」

 様子を見ていい感じになってきたな。小皿二つにサラダを乗せる。

 莉奈ちゃんと水島さんに渡す。

「どうだろ?」

 莉奈ちゃんパクっと一口で食べたね。


「おかわり!」


 いやそんな元気よく言われても……。

「いや、それ味見だからね」

「あじみ……」

「おかわりしたいなら上手にできたのかな?」

「はい!」

「じゃあ包みますか、餃子」

 オレはダイニングテーブルに大皿を出した。大皿の上にキッチンペーパーを布いて餃子の皮とさっきのネタと小皿に水溶き片栗粉を用意した。

 優哉はその様子を見てる。

「手伝ってくれてもいいのよ? オニイチャン」

 オレが優哉にそう言うと、優哉は眉間に皺を寄せる。

「やだ、俺は絶対皮を破ると思う」

「失敗したら自己責任で処理しろよ」

「やだよ、俺はちゃんとした餃子が食いたいの! だからそっと見守らせてください。あと、そのサラダの味見もさせてください」

「味見はお手伝いの人限定です!」


 なんだそのショックを受けた顔は。そっと見守ってろ。


「じゃ、水島先生、よろしくお願いします」


 水島さんは「なんで先生なんですか……」と言いながら、その小さく細い指で器用に、綺麗なヒダを作りながら包む。

 オレも餃子を包むのに集中するのだった。






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