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◆13 今日の夕飯は餃子が食べたいとリクエストされた。

 





 GW中、優哉は連日部活で学校に行く。ご苦労様です。お休みはまったりしたいオレとしてはマジで運動部パスしてよかったな。

「幸星、今日の夕飯、餃子が食べたい」

 お、リクエストですか優哉さん。

「わかった、餃子だな。今日はオカンも日勤で夕方に帰ってくるから大量に作る餃子はいいかもしれないな」

 オレがそう言うと、優哉は嬉しそうに家を出て行った。

 優哉は天から二物も三物も与えられていて、俺とは別の世界の住人だなと15年前は思っていた。当時は会話もなかったけど、この逆再生をしている今現在、ちゃんと家族兄弟していると思う。

「真崎さん、今日の夕飯は餃子がメインですけど、何か食べたいもののリクエストはありますか?」 

「幸星君にお任せします。……あの、食べ物じゃないけど……リクエストがあって……」

 莉奈ちゃんがソファに座ってるパパンの膝の上に登ろうとしている。微笑ましい。

「あ、はい、なんですか?」

「その、幸星君も真崎さんになっているので、そろそろ僕の呼び方を少し考えてほしいなと……ねー? 莉奈もそう思うよねー」

 心の中ではパパンと呼ばせてもらってますが、でもそれを口に出したら、フレンドリーすぎるだろ! 逆再生する15年前は会話もなかったし、真崎さんのことは真崎さんだったし、え、どうしよう、何て呼べばいいんだろ。


「……ソウデスヨネ」


 どうすればいいの? 『パパン』て呼ぶの? いやーそれはないだろ。

 お父さんって呼ぶの? 『お父さん』記憶に薄くなってきてるけど、『お父さん』とか『父さん』だとどうしてもあのクソ親父を連想しちゃうよなー。


「えーと……」


 優哉みたいに『親父』……なんか違う。優哉がオカンのことを『オカン』なんて呼ばないように、オレも真崎さんを『親父』とか呼ばないよ。


「うーん……」


 かと言って、『オトン』……これはないわー、だってこの人イケメンというかイケオジだよ? 

 真崎さんに優哉に莉奈ちゃんが並んでみると、どこの芸能人ですか的な印象なんですって、そこに『オトン』とか、この語感は合わねえだろ。

 ダメだどれもダメだ。お手上げ。


「あの、真崎さんはどう呼ばれたいですか?」

「もちろん、お父さんが理想かな?」


 ですよねー。


「でも……咲子さんから聞いているから、無理にとは言わないけどね」


 まあ、オカンは言うよな。オレがそういう目にあってたの知ってるから。

「咲子さんもそうだったから」

 うん、よくあそこで思い切ってあのクソ親父の元を飛び出してくれたものです。

 オカンは、この人と再婚して幸せだったよな多分。

「あんまり語らないけど、酷い男だったのは想像できるし。幸星君にとっても『お父さん』は、そのイメージが強いんじゃないかなって思う。距離を取られるのは最初から覚悟してたんだけど、幸星君は莉奈の面倒もよく見てくれて、優哉や僕にお弁当まで作ってくれてすごく気を使ってくれてるし、そうまでしてくれるのに『おとうさん』と呼べとは言えないなってわかってる。……でも真崎さんは……なんというか……」


 わあああ、そんな全部言わなくても! イケオジがそんな素直にただ漏れな心情を吐露するなよ。

 そんなこと言われちゃったら、逆再生前、大人の男の人、もとい自分以外の他人が怖くて引きこもりボッチをやったオレが、新しい家族に歩み寄ろうとするこの人のことを考えず、ただひたすら、自分を守りたいばっかりに殻に閉じこもって、就職したら何も言わずに速攻で家を出たその罪悪感が半端ねえよ。

 あー逆再生する前の真崎さんごめんなさい!


「じゃあ、えっと、その……隆哉(たかや)さん?」


 名前でさん付け、優哉だってオカンを咲子さんって呼んでるし、これが無難な気がする。


「コーセーお兄ちゃん、莉奈も、莉奈も呼んで!」

「莉奈ちゃん」

「どーして莉奈は莉奈『ちゃん』になるの?」

「可愛い子には「ちゃん」で呼ぶの。そういうものなの」

 莉奈ちゃんは嬉しそうに照れながら笑う。

 癒された……今ので癒された。

 それでいいよね? 真崎さんいや、隆哉さん。

 この別世界線ではオレも家族になれるようにがんばりますから。許してください。


 お昼はオカンが買い置きしてくれてた焼きそばを作った。麺三つ入りなので、このメンツで留守番する時にはいい分量です。残り野菜を適当に刻んでぶっこんでお弁当用に残ってたウィンナーも入れてみるとちゃんとそれなりにボリュームでました。

 お昼ちょっと過ぎに、夕飯の買い出しにでかけようとしたら、莉奈ちゃんと隆哉さんもついていくという。

 以前水島さんと一緒にプチシューを買ったスーパーへ三人ででかけた。

「ギョーザがメインなら、サラダは春雨ともやしとどっちがいいですか? 春雨はスープにいれますか?」

 オレはスマホでレシピを検索しながら隆哉さんに尋ねる。

 サラダは春雨ともやしどっちをメインにしても、入れる食材はだいたい決まってる。

 キュウリとハムを千切りに、カニカマあると彩りとかいいな。

 ごま油の香りとちょい辛なドレッシング。市販のドレッシングを買ってもいいんだけど、うちの家族で一本近く使っちゃうんだよな。作った方が安上がりなのか? 

 ごま油あるし、醤油も砂糖もみりんもあるし、豆板醤とあとは創〇シャンタンかウ〇ーバーとか、粉末じゃない練り系の中華だしの素があればそれなりになるのか。へー。ドレッシングも作ってみるか。

 スープは卵にして、でも、他に副菜あった方がいいよな。

 餃子もサラダも味がしっかりしてるから、優しい感じの箸休め的なやつがあるといいよね。

 どーすっかなー。


「こんにちは」


 カートのとってを握って一瞬だけ閉じてた目を見開いて、隣を見ると水島さんだった。


「こ、こんにちは」


 制服姿じゃない水島さん、ワンピースに薄いカーデガン羽織ってて、大人っぽい。

 近所のスーパーに買い物するだけでも、私服がお洒落とか。

 優哉といいこの人といい……ルームウェアに中学のジャージを着るオレとしては、ほんとお洒落さんだなあと頭が下がります。


「幸星君?」


 はっとして莉奈ちゃんと一緒に後ろから隆哉さんが来る。

 あ、莉奈ちゃんしっかりイチゴポッキー大袋をゲットしてる。ちゃっかりさんだなあ。


「お友達?」

 隆哉さんが水島さんを見てオレに尋ねた。

「あ、はい、クラスメートの水島さんです。水島さんはすごいんですよ、一人暮らししてるんです」

「はじめまして、水島遥香(みずしまはるか)です」

「初めまして、幸星君の義父です」

 莉奈ちゃんはキョロキョロと隆哉さんと水島さんを見上げてもじもじしてる。

 水島さんはそんな莉奈ちゃんに気が付いて、莉奈ちゃんに笑いかける。

「こんにちは」

 莉奈ちゃんはお菓子の袋からそっと顔をのぞかせて「こんにちは、莉奈です」と小さく呟く。


「あの、水島さん、中華の副菜で、あっさり味なやつ作りたいんだ、なんか思い当たるものある? メインが餃子、サラダがもやしか春雨かどっちかにして、スープは卵スープにしようかって考えてるんだ」

「あっさりで副菜……ですか」

「サラダも餃子も味がガツンとしてるから、スープともう一品はあっさりでいきたいんだよ」

 水島さんも考え込む。

「葉物野菜の炒め物はどうですか? 塩味で」

「おお!」

「ねえ、水島さん、よかったらウチでご飯食べないかい?」

 隆哉さんが水島さんに提案する。

「幸星君の料理は美味しいし、見たところ夕飯の買い物みたいだし」

「え?」

 隆哉さんの言葉に水島さんはきょとんとする。

 てか隆哉さん、どーして水島さんから死角の位置でオレの背をつつくんですか!?

 でも。水島さんの顔を見て、オレはこの間のチーズケーキのことを思い出した。

 ホールサイズのチーズケーキ。

 オレが持ち帰ったら、その日の夜に無くなるけれど、水島さんのおやつには何日か残るチーズケーキ。

 そして多分、きょうの夕飯も一人……。


「お願い、うちは5人家族だから! 餃子包むの手伝って! オレ一人じゃ手が足りない!」


 逆再生前のオレの夕食の風景。

 それこそ独りで、コンビニ飯。

 そして逆再生した今の夕食の風景。

 みんなでその日あったことを話しながらの手作りの夕飯。

 水島さんは、コンビニ飯じゃないけど、ちゃんと自炊してるけれど、でも、独りだ。

 毎日学校があるならいいさ、でもGWだ。

 学校はない。クラスの仲のイイ女子友達も、それぞれ都合があるだろう。


「あのね、あのね、コーセーお兄ちゃんはおりょーり、じょーずなの」


 莉奈ちゃんが水島さんのワンピースを小さく引いてこっそりと言う。


「おいしいの」

「そうなの?」 

「おねーちゃんもいちど食べて」


 莉奈ちゃん! おねだりの仕草が可愛すぎるじゃないか!

 隆哉さん、イチゴポッキー大袋もう一個買ってあげて!


「わたしがお邪魔してもいいんでしょうか?」


 水島さんが隆哉さんに尋ねると隆哉さんは頷く。


「さっきも幸星君が言ったように、手伝ってあげて。正直、僕と優哉は料理まるでダメなんだ」


 苦手なことをサラっといえる隆哉さん……カッコイイ。

 オレの義父はこういう人だったんだな。

 15年前は、こういう人だと知ることはなかった。

 でも、この別世界線に来てこういう人だって知ることができた。

 別世界線でなら、もう一度、15年前にできなかったことが……できるかもしれない。


「ね? 水島さん、オレの家で今日はご飯で!」


 オレは水島さんにそう伝えると、水島さんは躊躇いながら、でも嬉しそうに頷いてくれた。




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