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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆12 俺の義弟は主婦だった。(優哉視点)





親父から再婚すると言われたのは受験が終わった時だった。

祖父母に預けていた莉奈が戻ってきた時もその頃。

この春から家族が増え始めると思うと、憂鬱だった。……俺と親父の二人だけの生活サイクルが確立していたのに、妹が戻ってきてオマケに新しい母親はシングルマザーで俺と同じ年の息子持ち。

莉奈だけでなく、弟まで出来るとか。いままで通り自由気ままというわけにはいかない。

ちなみに莉奈はそんな俺の雰囲気を感じ取っているのか、すごく大人しい子だ。大人しすぎて会話が少ない。

新しい義弟も大人しいといいんだけど……親父が言うには「内弁慶で大人しいらしいよ、文英高校に合格したんだって」とのこと。

文英に入れるならバカではないようだ。幾分マシかもしれない。ヤンキー崩れだったら対応のしようもないところだ。

親父の再婚相手の咲子さんは、からっとした性格で、莉奈を見て「可愛いー!」を連発していたが、それを上回るのは、義理の弟となる幸星だった。

お子様ランチに手をつけない莉奈に、サラダやオードブルを取り分けるし、取り分ける時も親父に莉奈にアレルギーあるか質問してるし、大人しいとは聞いていたし、確かに雰囲気は落ち着いてる。

その甲斐甲斐しく世話している様子は確かに微笑ましいけど聞いた印象と違っていた。


その顔合わせから翌日、俺の家族と幸星の家族も一緒に住むので、俺達が住んでいた住まいから、同じ町内のマンションに引っ越した。

親父と咲子さんは三日ほど有給をとって、両家の引っ越しを完了させた。

驚いたのは、引っ越し中、幸星が「役所に転居届は? ガス水道ライフラインに連絡は? 郵便局にも」とか言い出して、コイツ引っ越しを自分でしたことあるのかぐらいに親父に質問していた。15歳の質問じゃないだろ。

ライフラインといえば、家族になるならスマホは家族割を考えた方がいいじゃないかと親父が言うとうんうんと頷き、「莉奈ちゃんのスマホデビューには早いけど、キッズ携帯は持たせないとダメです、いま物騒な世の中ですよ真崎さん!」とか言っちゃうし。

お前、そこは自分のスマホの新機種選びに狂喜乱舞するところでは? とか思った。幸星と咲子さんは莉奈の両サイドに陣取って「莉奈ちゃんの携帯、ピンクとかいいと思う~」「いやいやオカン最近の女子は意外と薄いブルーとか好きだよ!」とか張り合ってるし。

莉奈はご機嫌でニコニコしてた。莉奈は大人しい子だけど構ってもらえるのが嬉しいらしい。

買い出しといえば、新居に引っ越しということで自分の部屋の家具を買い足すことになったのに、そこを気にしないのだろうか。母子家庭で多分それまで住んでた部屋のスペース的に勉強机も本棚もなかったようで、初めての自分のパーソナルスペースに歓喜するところでは? なんでライフラインを一番最初に気にするのか⁉ 生活するうえで最重要だけどさ。

じゃあパーソナルスペースについて考えようという段になると、自分のそっちのけで莉奈の部屋のファブリックを咲子さんとあーでもないこーでもないとか言いあってるし。


「優哉君、幸星を確保して自分の部屋の家具を選ぶように促してちょうだい!」


最後には咲子さんにそう言われる始末だ。

引っ越し初日の夜はお約束の蕎麦だった。

そこで幸星が言い出したのは。

「優哉がいるんだから、蕎麦だけで足りるわけないだろ、優哉は中学の時から運動部にいるんだよ! 成長期の運動部の食欲はオレと違うんだよ! オカン天ぷら、天ぷら作る!」

神かよ、この義弟。

スーパーの出来合いか外食になるかと思っていたのに。

「オカンかき揚げ作ってね、オオバとかも揚げた方がいいよな色どり的に……ていうか、そろそろ終わる春野菜の天ぷら……やっておきたかった」

その言葉に親父が反応した。

「春野菜の天ぷら! 食材買ってくるから! タラの芽と、ふきのとうと、ウド? こごみ?」

親父がキッチンに向かってかなり食い気味に言葉をかける。

莉奈がお手伝いしたそうにキッチンの前をいったりきたりしてる。揚げ物だから莉奈は危険だ。

「莉奈、こっちおいで」

オレがそう呼ぶと、莉奈はしぶしぶこっちにきた。

隣に座った莉奈に、オレはスマホを見せる。

「幸星お兄ちゃんと咲子ママが美味しいの作ってくれるみたいだから、莉奈は大人しく待とうな油とか火とか使うからな」

「莉奈もおてつだいしたいの」

「お片付けの時が俺と莉奈の出番だからな」

莉奈はうんと頷いていた。

「莉奈ーパパと一緒にお買い物いこう!」

「いく!」

莉奈はぴょんとソファから立ち上がって親父と一緒に買い出しに行った。

母子家庭の家族って男でも料理するものなのか? いや単純に……幸星は料理するのが好きなんだろう。

でも限度があるんじゃないか? そう思ったのが入学式の翌日の朝の食卓だった。

新しいダイニングテーブルに人数分の朝食が用意されてる!

親父も俺も驚いたね。

咲子さんは夜勤だから帰宅はあと2時間後ぐらいだ。こんなことできるのは幸星しかいない。

そしてあろうことか幸星は俺と親父と自分の弁当を作っていた。朝から炊き立てゴハンにお味噌汁とか、同年代の女子でもこれはできるか怪しいだろ。前世料理人とかじゃなく、背中のどこかにチャックがついてて中身おばちゃんじゃないのか? だって莉奈の髪までセットしてるし。親父は感動してたし、俺もありがたいけど。器用なやつだ。


器用といえば、その日の帰り、幸星は駅ビルで、ちゃっかり女子と一緒だった。なんでもナンパされてた女子に話を合わせて切り抜けようとしていたらしいが……。

幸星とクラスメートだというその女子は。確かに小さくて可愛い子だから、ナンパもくるだろう。

荒事に無縁とか言う幸星は、多分、殴られる覚悟でこの女子の話に合わせて相手してたんだろうな。親父や俺に話しかける時、ワンテンポ躊躇うし。咲子さんから「前の旦那に虐待されてて……まだ小さかったけど記憶にあるみたいで、それがトラウマなんだと思うのよ。会話が苦手なところもあったんだけど、あたしの再婚で頑張って気を使ってくれてるのかも」それが咲子さんと前夫の離婚理由らしい。

言い争いも喧嘩も苦手そうなのに、ナンパされてた女子を助けるとか……。


「さすがイケメンパワーは違うね、さっさと逃げてってくれました。助かったー」


なんて飄々としてるけど、内心はやっぱり怖かったんだろう。見た目はちょっと童顔で中身はおばちゃんとか思ってたのに、男気もあるじゃないか。

幸星が助けたクラスメート女子は見た目も可愛いが中身もきちんとしている。自慢じゃないけど、同い年の女子って、俺を見るとけっこう寄ってくる。

周囲も「そりゃ、お前が、イケメンだから」と一蹴するけど。でも、自己紹介をしてくれた水島さんは、そんな雰囲気はなく、幸星に感謝してる様子が見て取れた。それだけで好感度高い。

これは幸星、さっそく高校生活に彼女が出来るチャンスなのでは? とか俺は思ったのに幸星は莉奈の髪ゴムを買うとか妹ラブっぷりを発揮させてるし、お前ここは水島さんと話して距離縮めるところじゃないのか? 

それでもってまたおかしいのは妹の莉奈には激ラブだけど、ほかの小学生女児は怖いとかショップの前で固まってるし。強引に引っ張って目的の髪ゴムのケースを見せたら秒でその怯えが消えて、めちゃくちゃ選んでる。ほんとおかしいだろ、お前。

でもいい奴なので水島さんには今後とも、うちの義弟をよろしくお願いしたい。

この件をクラスの連中に話したら、「そっと見守れ、お前がちょっかい出すな」「下手したらその女子が義弟じゃなくてお前に惚れてしまうだろ」「そうなったら弁当まで作ってくれる義弟から嫌われてお前の兵站そこで断たれるぞ」とか口々に言われた……理不尽な。


幸星はほどなくしてスイーツ部、要はお料理クラブに入部したようだ。適材適所、こいつの料理スキルは普通じゃないのにさらにパワーアップさせる気か。本人は「幽霊部員でもいいっていってたし、作ったお菓子をお持ち帰りだし、部費も材料費のみでリーズナブルだから」という。

入部を決めた当日、そのクラブからリンゴをもらってきた。一個だけ。見学に行ったらアップルパイを振る舞われたとか。

一個だけのリンゴはその日の夕食のサラダに入ってた。ポテトサラダにリンゴが入ってるの初めて食べたが、食感がシャリっとしててポテトとリンゴの味がマッチしている。よくこんなの考えるな新食感だ。メインはハンバーグで、玉ねぎだけじゃなくてピーマンとニンジンも入ってた。これも美味かった。莉奈もお手伝いしてて、プチバーグなるものを作ったと親父に自慢していた。お弁当にも入れてくれるらしい。


「莉奈ちゃん、オカンと莉奈ちゃん用にもハンバーグ作ったんだよ、市販のマフィン買ってきてもらうように連絡するね、明日、オカンとハンバーガー屋さんに行った気分で食べてね」


莉奈は目をキラキラさせて何度も頷いていた。

正直、年が離れすぎてる妹とどう接していいかわからなかったが、幸星は実に莉奈の気持ちを掴んでいる。

世間では「男を落とすのは胃袋で」と言われているが、子供にも有効なんだなと思った。

もちろん、俺も親父も幸星と咲子さんの飯には全面降伏だ。

クラスの連中の言うように、幸星の怒りを買って兵站を断たれたら生きていけないかもしれない。

夕飯の後。幸星が学力測定で引っかかった問題があるというので、一緒に勉強をしていると、莉奈もやってきて横で算数のドリルを広げ始めた。俺と親父と暮らし始めた頃に比べて、莉奈は俺にもなついてくれているようだった。


そしてスイーツ部に入った幸星は、チーズケーキを作って持ち帰ってきた。

小さいシュークリームをデコレーションしてチョコペンでアイシングしているそれは女子受け絶対間違いない代物だった。

いや毎日幸星の料理を食しているが、これはちょっと見た目が普通の域超えてるぞ、莉奈のテンションはMAXで「おみせやさんのケーキみたーい!」と声をあげていた。まさしくそんな感じ。絶対想像もつかなかった。こんなの夕食後のデザートに出るとか!


「水島さんに教えてもらったんだ」


あの駅ビルで会った小柄な女子と幸星は同じクラブに入ったのか。

小柄で色白で可愛くて、ちゃんと敬語で話をする女子は貴重だぞ。

てか文英は都内でも生徒数最大だからな、いろんなキャラクターがいるだろうが、水島さんは幸星にいいと思う。

ちなみに俺の学校の女子は、やっぱり進学校に入るだけあって、チャラチャラしたのは少数派だが、その他はやっぱり仲良さ気な感じはするものの、水面下でバトルしてるんだろう少し怖い。幸星にお勧めできない。

そんなことを考えていると、咲子さんから箱根合宿にいくなら服とか必要でしょと言われオレと幸星に買い物するようキャッシュを渡された。

ルームウェアが中学の時のジャージっていうのが、俺も問題があるとは思っていた。本人はそれが動きやすいからいいんだと言うけど学校にいる気分になる。

親父も幸星の服に関しては前から思っていたようだ。「優哉。ウチの料理男子の見た目をなんとかしろ。モテないじゃないか」と俺に言ってくる。

まったくだ。人の事をイケメン連呼する義弟は自分の見た目をイマイチわかっていないようである。イケメンといってもタイプ別があるように、こいつもカテゴリで分ければ砂糖顔の可愛い系なのだ。


「おうち帰ってきたら一歩も外にでないからいいんだ~今のところは」


とか言うけど、水島さんとプライベートで会う時とか想像しないのか。クラブが終わって一緒に帰ってきて家が近所だったと話していたじゃないか。


「デートする時はどーするんだ」


そう突っ込んだら。


「優哉、誰もがお前みたいにモテるわけじゃないんだ。分相応という言葉があるじゃないか、オレは自分をわかってますよー」


わかってねえよ。

自分のそっちのけで幸星の服を選んでやった。幸星が莉奈の髪ゴムや部屋のファブリックを選ぶ気持ちがわかった。これはこれで楽しいと、俺は気が付いた。

静かで自由気ままな生活ではなくなってしまったが……にぎやかで明るくて、飯の旨いこの生活はいいのかもしれないと、幸星の服を選んでやりながら漠然と思った。





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