◆11 セミナー合宿IN箱根
箱根か~元アラサーの俺は一度来たことある。第〇新東京市……聖地巡礼的な。
登山鉄道、ロープウェイ、芦ノ湖。いいよねー。でも今回はゆったり観光じゃねえよな。
観光で来たい場所ですよ。芦ノ湖に浮かぶ海賊船みたら莉奈ちゃんテンション上げてくれるかな?
正直に言うと、莉奈ちゃんとネズミーに行きたかった。お願い、オカン、可愛い莉奈ちゃんを写メって送ってください。
ちゃんと勉強するから。
プリントこなせばいいんだよね? やるよ、やりますよ黙々とね。と思ってたんだけど違いました。
確かにプリントや授業的なカリキュラムを90分×3でやるけど、それだけじゃなかったよ。なんでディスカッションタイムとかあるわけ? いや主題テーマは勉強にどれだけ時間をかけるかだったけど。なんでこんなディスカッションとかあるわけ?
学校側としてはこの機会に家庭学習の習慣を身に着け、大学受験に備えようと生徒に自覚させ、クラス内でのコミュニケーションを持たせるのが目的らしい。いやわかるけど。
なるべく大人しくしてよう。勉強頑張ります、はいディスカッション終了。これでよくね?
とか思ってたのに……。
「つまんねーな。喋れよ、ザッキー」
キクタン……お前が言うな、ていうかお前が喋れ。
「真崎、寝るなよ」
「いや、ザッキーの気持ち、オレわかる。眠い」
「つーかキクタンお前は自由すぎる。よくここに入ったな、一応わりと進学校だぞ、ここ」
委員長の富田君が菊田ことキクタンに注意を促す。
「なのに部活をガツガツしてるのはなぜなの? この学校」
キクタンはサッカー部だからな。
練習もハードそうだ。
「文武両道がモットーだからじゃね?」
そんな会話をしながらも、委員長は巧みにディスカッション的な話題に誘導していく。しっかりしてるなー。
そんなこんなでカリキュラムを終えると、みんな食堂に入っていく。
他校の生徒も一緒の夕食だ。
そう、他校……優哉のいる学校だ。
「成峰の子達、みんな頭よさそー」
「そうだねー」
「でも偏差値が無駄に高いと、なかなかイケメンはいないか~」
そんな会話を繰り広げている女子のグループがピタリと話を止めた。
スクールカースト頂点にいる女子が注目すれば、他の層も何事かとその視線の先を追う。
ああそうですよね、注目されないはずがないですよね。視線の先には優哉がいる。
頭も良ければ顔もいい多分あいつは運動神経もいい。
キクタンと委員長の影にこっそり隠れて、椅子に座ろうとしたら……ガシっと肩を掴まれた。
「なーに隠れてんだよ、幸星」
振り向きたくないが、声でわかる。イケメンめ!
お・ま・え、話しかけるなー! 内心で叫んだ。
お前に声なんか掛けられちゃったりしたらどうなると思う!? 話もしたことない女子から「真崎君、セミナー合宿の時、話しかけられたじゃない? 成峰の男子に。友達?」から始まって紹介しろとかラ〇ン教えろとかもろもろくるだろー!?
生まれてこのかた地味にボッチにコミュ障に生きてきたこのオレが、JK相手にのらりくらりと交わす術を持ってると思ってんのかあああああ⁉
言語は通じるが、会話が成立しない最たる人種だぞ!?
オレ別世界線に来たみたいだけど、女子なんてもっと別の世界線で生きてるんだよ!?
じゃーいいじゃん、どうせ会話が成立しないなら、俺が話しかけても問題ないだろとかシレっと言うんだよな。お前はそういう男だよ。
ここで知らない人です、人違いですとか言ったら、優哉は……どう思うかな。
そういう方法もあるけど、もしもだよ? もしも今の俺がそれを優哉にやられたら多分傷つくよな……。
知らんふりはできないか……。
「お前、いま他人のフリしようか一瞬悩んだだろ?」
お前はエスパーかよ⁉ 人の心読むなよ!
「明日はどこ見学?」
「大涌谷、優哉は?」
「彫刻の森美術館」
いいなーオレもそっち行きたい。今何展やってるかわからんけど。
美術館って割と好き。オレは二次元需要オタだから、刺さるものがあるんだよな。
いやいや大涌谷の黒たまごも捨てがたいけどね。
しかし美術館は個人的に行きたい場所だよな、学校行事で行く場所としては楽しめないというか……。今度莉奈ちゃん連れて動物園に行ったついでに国立西洋美術館とか行ってみるのもいいかも。今なら学割効くしね。
「お土産どうする? お菓子でいいのか?」
「大涌谷の方が売店多そうだよなー黒たまご買っても大丈夫かな……」
「火山の地熱であっためた卵?」
「そうそう、延命長寿、一個食えば7年寿命が延びるとか。そして通常よりうま味20%増しという……」
「何それ、食いたい買ってきて」
即答ですか。食い盛りですからね、そうでしょうね。
「優哉は小さめのお菓子をいくつかチョイスしてもらっていいか?」
お菓子が無難かな。
可愛いちっちゃい置物土産とかなら美術館の方があるかなって思うんだよ……。もちろん莉奈ちゃん用ですよ。莉奈ちゃんのお部屋、引っ越してきたばかりでファブリックは可愛いの選んでもらってるけど、そういうの少ないんだよな。
「OK」
「ん~でもな~」
「何?」
「やっぱ莉奈ちゃんのお土産、なんか可愛いの買ってあげて。小さくて可愛いの一つ」
「お前、ほんと莉奈大好きだな?」
「悪いか」
オレ……クソ親父にプチ虐待的なことをされてたから、小さい子が怖かったんだ。
もし、アラサーのまま時間が過ぎて、万が一の奇跡で結婚して(多分無理だろうけど)子供なんか出来たら、あのクソ親父みたいに子供に接するんじゃないかなって。
逆再生して莉奈ちゃんに会った時、そんな不安はどこかへ行ったんだよな。
笑顔がいいんだよ。莉奈ちゃん。赤ちゃんみたいに無邪気で可愛い笑顔なんだよ。
「悪くないよ、俺よりもいい兄貴だよ、幸星」
「は?」
「じゃあな」
何だ今の言葉は。
あいつ自身も小さい子ダメなのかなー。
莉奈ちゃんの髪ゴムを買いに行った時もさっさとショップから離脱してたし。
「今のイケメン、ザッキーの知り合い?」
キクタンが尋ねてくる。
「兄貴」
「えー双子―? 似てないじゃん……って……ああ、そっかそういうことね」
キクタンは言葉を途中で止める。
部活の時のオレの家庭の事情を覚えていたのかすぐに納得したみたいだ。
「じゃ、真崎が面倒見てる妹が、さっきの人の実妹なわけだ」
委員長もそう言う。
「仲がいいよな、真崎兄と真崎」
そうかな……。まあ15年前だったら会話とかもなかった状態だったし、それと比較すると違うよな。
優哉も餌付けか? 餌付けでなついたのか?
「委員長は兄弟いるの?」
「弟がいる」
「キクタンは?」
「オレは姉貴……恐ろしいぞ、姉貴のあの気の強さは異常。なぜかオレは姉貴のパシリをさせられ、断ろうものなら、殺気の籠った目で睨まれる」
……優しくて素敵なキレイなお姉さんは二次元にしかいない。わかります。
そんな兄弟談義から始まって、雑談しながら食事を終えた。
問題は食堂を出る時のことだ。
一部の女子に囲まれた。案の定、優哉が気になる女子からのお問い合わせというやつだ。
めんどくせえな。
食堂から出ていく成峰の学生の中から優哉を見つけて、オレはでかい声で優哉に声をかけると優哉はオレのところまできてくれた。
「訊きたいことは、本人に訊いてくれ」
優哉を女子グループの前に突き出すと。優哉は恨みがましい目でオレを見るが、それぐらいなんとかなるだろ、お前はオレよりコミュ力高いんだから。
オレは委員長とキクタンと一緒に部屋に戻ろうとした。
女子グループから離れてほっとしたところで、草野さんが水島さんを伴ってオレに話しかける。
「真崎君、さっきのイケメンと知り合いー?」
草野さんの言葉から察するに、水島さんからは何もきいていないようだ。
水島さんは他人の家庭の事情をペラペラと話す人じゃないのはなんとなくわかる、それどころか、オレに話しかける草野さんを止めようとオロオロしている。
ていうか草野さん、アナタ、漫画好きみたいだけど三次元もOKなの? 範囲広いな。
「訊きたいことがあるなら、さっき、うちの学校の女子グループに優哉を突き出したから、今行けば?」
「ううん、あたしは本人に興味はなくて、ただちょっと」
「?」
「さっきの真崎君とイケメン見てたら勝手に妄想しちゃって昂まっちゃって」
嫌な予感しかしない。
「どっちが攻めでどっちが受けがいいか真崎君の意見を聞こうと思って」
「……」
草野さん……あんた……。
三次元でもOKで腐なの?
なんでBL妄想をオレに申告するの!?
訊くなよ、ていうかその妄想ヤメロ腐女子!
攻めも受けもリバもねーから!




