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アラサーのオレは別世界線に逆行再生したらしい  作者: 翠川稜


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◆9 部活動やってみます。チーズケーキ作ってみた。

 




 GW間近に迫って、オレの学校ではセミナー合宿というのがある。

 一泊二日で箱根へ行く予定だ。

 公立なのにホテル押さえて、一日お勉強合宿……。行きと帰りに観光的なものもあるらしい。高校時代はボッチだったという記憶しか残ってなくて、学校の行事関連は記憶の彼方だ。新鮮な気持ちになるけどさー。

 金曜日から土曜日にかけて出発っていうけれど……問題は莉奈ちゃんである。

 オレが見守らなくちゃ、誰がお世話するの!

 莉奈ちゃんしっかりしているけれど、小学一年生だからね。まだ給食終わってすぐに下校だから! 

 最近は曜日によってPTAの方がやってる放課後遊び教室……要は学童保育室を終了した高学年の子や、莉奈ちゃんみたいに学童待機児童を対象に、PTAの方が有志ボランティアで放課後の学校で遊ばせてくれるというものなんだけど、それに参加してて、夕方に帰宅することもあるけどね!




「えー、この今日やった、この活用の問題はーセミナー合宿の最終テストで出すので、よろしくなー」


 そんなことを考えていたら古典の時間が終わってしまった! ノートとらな!! ていうか、黒板いっぱいに活用法みっちりだよ。まじかよ。やべえ。

 オレががつがつとノートと黒板を交互に視線を走らせていると、数人がガタガタと立ち上がり、黒板に向かう。

 いやああああ、待て、やめて、まだ消さないでえええ!! 心の中で絶叫するも黒板を取り囲んだ数人は、黒板消しを手にすることはなく。

 手にしていたのは、スマホだった。

 彼らはひたすら黒板をカメラで撮っている。


「よっしゃ、全部撮った」

「オレもー」

「あたしこれラ○ンのアルバムにしてみた」

「おおお、端本仕事速いな! それクラスのグループラ〇ンで流してくれやー」

「おっけー」


 ……まじ?

 高校生にスマホ持たせるとこうなるの⁉

 何コレ……効率的すぎじゃね?


「オレ、これから部活~家帰ってからノート作ろー」

「ちょっとーセミナー合宿の服見にいきたいんだけどー由香ちゃん付き合って~」

「いいね~行く行く~はっしーも行く~?」

「行く~」


 呆然としてるオレのスマホにもピコンと着信音。

 これってさ……オレが以前生きてた世界の話だったら、必死こいてノートとってる場面じゃね? 風邪ひいて欠席してましたな生徒がいたら、板書をノートに写してコピーして手渡しじゃね?

 オレの場合は当然気にも留められない状態だろうけどな!

 なんなんだよ、板書を写メってクラスのグループ連絡網で一斉送信って……。

 なんという学習のペーパーレス化……。


「行き渡ったみたいだから板書消すよ~。今日掃除当番だから~」


 ……はい、黒板消していただいて結構です……ありがとうございました。


 これがこの学校のスマホ持ち込み可の理由か……。

 前々から思っていたけど、公立の進学校って校則緩めだよな。うん……。

 優哉の学校よりは偏差値のランクは下がるが、オレが以前住んでた中学校から進路希望するには進学校としては名前のあがる学校なんだよねこの学校……。

 だから、ロッカーに預けて休み時間のみ使用なんていう縛りがない。授業中にスマホの電源はみんなだいたい落としているかマナーモードにしている。

 そうだよな、みんな必死こいて受験してここにいるんだし……。そこんとこの記憶はオレは曖昧なんですけどね。ただ、土曜日に学校登校するって日が多いのも、逆再生前とは違っている感じがするんだよな。

 つまりはオレが周囲にいわれていた「ゆとり世代」ではないってことになるのか?

 ま、いいや。オレも家に帰ってノートを作ることにして、今日は部活に顔を出してみるか……ちょっと緊張するけれど……。


 ここ数日オカンが手作りおやつで莉奈ちゃんのハートをがっちりキャッチしている。というのも、オカンが莉奈ちゃんの心を掴むのは餌付けだと察したらしいのだ。莉奈ちゃんが「お兄ちゃんのお料理おいしい」と頻繁に口にすれば、主婦として母としてのプライドが刺激されたに違いない。

 だがオレも譲らないぜ「コーセーお兄ちゃんのおやつがやっぱりおいしいー!」とか言われたいじゃないですかー。

 今日は作るぜ手作りスイーツ。

 スイーツ部に入って正解かもな。水島さんに感謝。

 先週はアップルパイだったが、今週は何かなー。オレは特別教室棟の調理実習室のドアをノックして引き戸を開けると、部長の皆森先輩が顔を上げた。


「え、1年B組の、えーと、真崎君と水島さん?」


 オレははっとして後ろを振り向くと、小柄な水島さんが立っていた! 何時からいたの⁉ 気がつかなかったよ!

 オレが振り返ったので水島さんは顔を真っ赤にさせてる。


「真崎君が、いつ気がつくかなって思って、黙ってました」


 まって、なにそのセリフ。

 水島さんの呟いた言葉が、オレの頭の中で繰り返される「いつ気がつくかなって思って、黙ってました」しかも最後はドップラー効果で。

 一瞬あれ、オレこの子と付き合ってるんだっけ? 別世界線だから……とかまで考えちゃったぞ。

 なんだよ、莉奈ちゃん以外にキュンときちゃったじゃんよ、一瞬!

 やべーやべー正気にもどれ、オレ。そして本来の目的を思い出せ。今日は「お兄ちゃんのお菓子がやっぱり美味しいー!」の笑顔と一言を得る為にここにきた。よし。

 なんとか通常モードに戻ってオレは先輩に尋ねた。

「先輩、今日は何を作るんですか? オレも参加していいですか?」

「いいよー二人ともおいでー、今日はベイクドチーズケーキ作りまーす。真崎君は、妹さんにあげるんだよね、乳製品のアレルギーある?」

「ないです」

 イイ人だな。オレの入部の理由を覚えてくれているとは。


 実は今日、エプロンとバンダナも用意したんだよ。

 よく手を洗ってから先輩の指示に従って、作り始める。

「本当は、土台のクッキーから作りたいところですが、放課後のみの活動なので、市販のクラッカーを使用します。真崎君、これを砕いておいて」

 オレは頷いて、いわれるがまま市販のクラッカーをボウルに入れて砕く。

 時短の為に削れる要素を削るんだな。いいね効率的。

 もし莉奈ちゃんに好評だったら、家で作る時は土台作りから始めてみてもいいな。

「そこに無塩バターを投入。クラッカーに塩味がついてるからね、バターは無塩なの」

「レンチンしても大丈夫ですか? このバター、先輩があらかじめ冷蔵庫から出しててくれてたんですよね?」

「うんレンジで溶かしてもOK。クラッカーにバターをしっかりなじませてね」

「うっす」

 クラッカーにバターが馴染んだ。で?

「うん。馴染んだかな? 型にいれます。うちの調理実習室にあるのはこの18センチ型の丸いケーキホールコレ、底が取れるのでいいのよ」

 へーウチにあったかなー。でも、この型は百均仕様じゃねえな。製菓用の道具って百均で売ってるかな? 帰りに見てみよう。

「型にいれたらクッキングペーパーを敷いて、クラッカーを型の底に敷き詰めていくの。そうそう。まんべんなくお願い。そんな感じかな。じゃあ、今度はアパレイユ作ろう」

「アパレイユ……?」

「チーズ生地のことだよー。まず、クリームチーズをボウルに入れます。これも、あらかじめ冷蔵庫から出していたけど、レンジで温かくして溶かしてもいいよ。30秒から1分ぐらいで柔らかくなるからね。そこに入れるのは、グラニュー糖と卵、生クリーム。ミキサーがあるならミキサーでもいいけど、今日はハンドミキサーを使ってます。で、真崎君は、ごめん行き渡らないので、普通に泡だて器で混ぜてください」

 おう、わかってます。これでも一応男子なんで、力業で混ぜてやる。

「助かる―ダマにならないようにねー」

「了解です」

「で、薄力粉は少量なんだけどでもきちんと振るい入れて……そうそうそんな感じ、そしてレモン汁を大匙で1杯半いれます、そしてひたすらダマにならないように混ぜます」

 ふむ。

 ベイクドチーズケーキって思ったより砂糖使うのな。

 80gていう数字的には少ない感があるけど、実際計測するとけっこうな量だよな。

 ただ生クリームこってりなショートケーキと違うから、これは優哉でも食えそうじゃね? 真崎パパも食べるかなー? あの人、酒は飲まなくて、結構お菓子好きなんだよね。なのになぜか太らない……謎だ。元アラサーのオレ的には羨ましい……。オレがあの年で菓子なんか食ったらメタボ一直線なのは間違いない。

「真崎君やっぱり慣れてるねー音が違う」

 オレの横で水島さんがハンドミキサーを使いながらオレのボウルをのぞき込む。

「そう……かな?」

「うん、すごい」

「で、混ぜ終わったらこれを型に流し入れます、パレットナイフで表面均等にならしながらお願いしますねーそうすると、焼きあがりが綺麗になるの。できたらオーブンに入れまーす。今回170℃で予熱してます。オーブンに入れて、40分から45分焼きます。オーブンによってはこれは違いがあるので、自宅のオーブンを使う時は、時間も温度も調整してもらうことになるかな」

 ケーキをオーブンに入れたところで、先輩が黒板に今回の材料と分量を書き出した。


 アパレイユ(チーズ生地)

 ・クリームチーズ  250g

 ・グラニュー糖    80g

 ・卵 2個

 ・生クリーム    200g

 ・レモン汁    大匙1杯半

 ・薄力粉     大匙3杯


 土台ボトム

 ・クラッカー     90g

 ・無塩バター     40g


 オレはスマホを取り出して黒板に書き出された材料をカメラに収めてみた。

 部員はケーキが焼きあがるまで、使った調理器具を洗っておくみたいで、オレもひたすら洗いましたよ。

 先輩たちはコーヒーや紅茶を各々淹れてティータイムです。


「真崎君、さっそく参加してくれてありがとね。うちの部は文化部でも弱小で目立たないからうれしいよ」

「そーそー、今時、自ら手料理ってないしー。うちらは好きでやってるからさー」

「三年が卒業したら同好会扱いに格下げだったからねー」

「文化祭が近づくと、需要があるからみんな思い出すぐらいだもん」


 そんなもんなのか……なんか幽霊部員でいいかと思ってたけど、割と頻繁に顔を出した方がいいかな……いろんなお菓子作るみたいだし。

 お菓子作り女子ってもっと女子っぽい人が多いかと思っていたけど、話を聞いていると、普通な人が多い。

 というよりやや、さばさば系? というかむしろ職人系?

 リクエスト提示したらそれ採用されて実習とかできるのかな。


「月末にセミナー合宿でしょー?」

「あ、はい」

「毎年、どこかの公立高校と宿が被るのよねー」

「へー」

「むしろそっちに注目してた! あたし!」

「あたしもー! イケメンいないかガン見してたわー」


 あ、前言撤回、これ女子っぽいや。

 距離をとろう。

 オーブンの前に進み出て、中のケーキを見てるのがいい。

 大丈夫と思ってたけど、こういうのはダメだな。遠くで見てる分にはいいけれど、この手の会話の周辺にいると話の流れからこっちにむかってきそうで、やっぱ怖いわ。「そういえば真崎君は―彼女いるのー?」から始まってくるアレですよ。

 容赦ないっていうか、確実にオレのメンタルを傷つけてくる。本人たちは軽い弄りとか思っているだろうが弄りとイジメは一文字しか違わないことを理解してもらいたい。


「焼きたてより、一日冷蔵庫に入れていた方が、しっとり感がでます」

 いつのまにか横にいた水島さんがそう言った。

「へー」

「あと、ナイフを温めてからカットすると、ケーキの断面が綺麗になるの」

 水島さんがスマホで検索して、「こんな感じに」と画像を見せてくれた。

「はー確かに……違いがある」

「ケーキだから。妹さんに作るなら見た目とかも考えてあげたらいいかもしれませんね」

「見た目か……」

「ケーキ屋さんなんかはデコレーション用の砂糖菓子とかもあるし、それを載せるだけでも違う感じになります。あとはプチシュー盛ったり」

「プチシューって?」

「小さいシュークリーム」

「へー」

「デコレーションを考えるのも楽しいですよ、他のケーキでも応用効くから、ほら、こういう風に」

 またまたスマホで画像をみせてくれる。


「なるほど……」


 プチシューを盛ったチーズケーキの画像。う、確かにこれは女子受けしそう。莉奈ちゃんはテンションあがるな! 






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