今年の波はおおいに荒れる
好きな人・馨と恋人同士になった柴乃は
早くも三年生。
親友の杏珠とクラスが分かれて悲しむ中、
一行の前に幼馴染の紬が現れて・・・!?
「むぎちゃあん、久しぶり~❤︎ うちの制服ちょ~~~似合ってるね~かわいい~❤︎」
「ありがとう、姫ちゃん。私着物以外来たことないから、変じゃないかな?」
「ぜんっぜん変じゃないよぉ〜? ねっ、お姉ちゃんっ❤︎」
話題を振られても、開いた口が塞がらない。
この状況を分かっているのは、姫野をのぞいて誰もいなかった。
伊佐波紬。私の幼馴染でもある、東雲旅館の仲居さん。
そんな彼女が、どうしてここに? しかも、なんで制服を?
聞きたいことがあるのに、今の状況に追いつくので必死で言葉がうまく出てこない。
必死に整理をしている私に比べて、馨君はど直球に一言。
「……色々言及したいことはあるんだが、一つ確認させてくれ。お前の幼馴染って、俺達と同い年だったのか?」
「気にするとこそこなの、馨君!?」
「いや……働いてたから年上だとばかり……」
まあ確かに、馨君が思うのも無理はない気がする。
ただでさえ大人びた見た目と性格だし、私と並んで歩くと一人だけ大人扱いされることがしばしばある。
事実むぎちゃんは、仲居として今も働いてるし……
「実は私、今まで通信制の高校にしてたんです。旅館もあるから、なかなか暇が取れなくて」
「それは知ってるわよ。それとうちに来たのと、どうつながるわけ?」
「私、家のことしかやってないからそれ以外のことに疎くて……お母様に言われたの、都会の高校に一年だけ行って社会科見学をしてきなさいって」
「んでっ、それをきいたうちのパパがお金出してあげるから、姫野たちと同じとこに来なさいって❤︎」
なんとなく、話が分かった気がする。
確かにむぎちゃんは私と同じくらい箱入り娘状態だったし、外で遊ぶと言っても公園程度だったのは知ってる。
それ以上に納得いかないのは、姫野が裏でからんでいたことだ。
自分の得になると思ったことには、ことごとく糸を引いている気がする。
まったく、一年前にあったこと全然反省してないじゃない……これだから姫野は。
「でもよかった、柴乃とも隼人君とも同じクラスになれて。知り合いがいて安心しちゃった」
「……オレはすごく不安だよ……この一年」
「? 何か言った?」
「なんでも。ほら、もうすぐ始業式だし行くよ」
はぶらかすように去る隼人君を見ながら、私は正直安心してしまう。
男三人の中だったし、むぎちゃんがいてくれるのはありがたいな……
まああんちゃんがいないってことだけが不満だけど!!
「柴乃、行こう。早くしないと、遅れちゃうよ」
そんな彼女に言われ、うんと返事しながら足早にかけていったのだった。
「それにしても、驚きました。伊佐波さんが、まさか私達と同じ年だなんて」
退屈すぎた始業式も終わり、三年生の教室へ向かう最中。
私とあんちゃんの二人に、むぎちゃんが新たに加わっていた。
同じ高校生、同じ年なのにもかかわらず彼女だけが飛びぬけて背が高く、目立っているようにも見えた。
「それ、お客さんにもよく言われる。どうも昔から老け顔みたいで」
「ただ伊佐波さんが大人っぽいだけですよ。老け顔なんて言わなくても」
「紬でいいよ。同じ高校生なんだし、今は普通の生徒同士なんだから敬語じゃなくていいのに」
「あ、そっか……なんか、つい……じゃあ私も、杏珠で」
二人の会話を聞いているだけだった私はつい、ん? と耳を疑ってしまう。
今、あんちゃん自分から名乗らなかった?
自分の名前が嫌いで嫌いで仕方なくて、馨君や寺濱君にも名乗ろうとしなかったあのあんちゃんが!? 自分から!?
あり得ない……天変地異の前触れなんじゃないの……
「……柴乃。今私のこと、馬鹿にしなかった?」
「し、してないわよ! でもあんちゃん、どういう風の吹きまわし? だって自分の名前あんなに……」
私が言うと、彼女はこほんと咳こんでみせる。
目線をそらしたあんちゃんの頬は、少し赤らんでいた。
「いつまでも名前に謙遜してちゃだめだって思って……私も、柴乃みたいに変わりたいから」
私が、変わった?
「私もその気持ち、少しわかる。今の柴乃、昔の時より楽しそうに見えるもの。浅沼君と出会えたおかげかな?」
むぎちゃんまで言うものだから、どう反応していいか分からなくなる。
確かに男を毛嫌いしてた時期よりかは、今の方が楽しいかもしれないけど……
いつの間にか、私も馨君色に染められてるってことなのかな。
「そういえば柴乃、さっきから気になってたんだけど……」
「? どうかしたの、あんちゃん」
「あの三人って、いつの間に仲良くなったの?」
彼女が控えめがちに指をさす方向には、私達の少し後ろだった。
振り返るとそこにいたのは隼人君、寺濱君、馨君の三人だ。
馨君と寺濱君はもともと仲良かったのは、知っている。
そこに隼人君がいるのは、極めて珍しい気がした。
そもそもスリーショットなんて、今までで見たことないような……?
「なぁに人のことじろじろみて~んの」
私が見ていたことにいち早く気づいた隼人君が、嫌みったらしく口にする。
ばれてしまったのは仕方がないと開き直った私は、もやもやするのは苦手なため直接聞くことにした。
「別に。三人で話してるの珍しいなあって」
「そー? 別に普通じゃね? ねぇ馨くーん」
「まあ……普通だな」
「あはは……ちょっと春休みに色々ありまして」
春休み、ですって!?
ことごとく私がどこかに誘っても、全然オッケーしなかったのってこの二人のせいなの!?
彼女より友達優先とか、信じらんない!
「なんか前に人だかり出来てね?」
私の怒りなんかつゆ知らず、馨君が前見てみろと指をさす。
そこにあるのは掲示板で、たくさんの人が集まっている。
一番後ろには姫野の姿もあり、私達に気付くとつまらなそうに
「あーあ、せっかく三年連続一位狙ってたのになあ」
とつぶやいた。
「いきなり何よ姫野。何かあったの?」
「えーお姉ちゃん、知らないのぉ? ほら、あの掲示板」
姫野に言われ、目をこしらえて掲示板に張られている紙を見ようとする。
そこに書いてあったのはー
「美男美女コンテスト、撤廃のお知らせ……ですって!?」
波乱の新学期が、幕を開けるー
(つづく!!)
馨君と同じ反応の方がほぼほぼだと思いますが、
実は紬ちゃんは同級生なんです。
二年生編で出した時に、
年齢をあえて伏せさせていただきました。
さらに言うと、三年編を書くにあたって
馨と直樹の二人に隼人を加えたのは
個人的に、この三人の構図よくね?!
となったからです笑
どうやって仲良くなったかのエピソードも
書いてはいるのですが
そこは、皆さんのご想像にお任せします笑
次回、柴乃の怒り爆発!