三年生は辛いよ
桜の花が、きれいに咲きほころんでいる。
一つの花びらがひらひらと、私のもとに落ちてくる。
何度見ても美しいその景色は、みんな一度は足を止めて見入ってしまう。
「あああの、渕脇柴乃さんですよね!?」
振り返りたくもないようなその声で、一気に現実に引き戻される。
その少年の制服はまだ新しく、新入生だということを横目で見ながら確認する。
「ぼ、僕っ、ファンなんです! あの、メアドだけでも交換してください!」
顔を真っ赤にさせながら、携帯を差し出してくる。
仕方なく正面を向いた私は、満面の笑顔を浮かべて一言。
「あー、そういうの私心底うざいんで嫌です~❤︎ 他をあたってくださぁい❤︎」
と言ってその場を退けた。
またやってるよとざわざわ騒ぐ声が、私の小耳に入ってくる。
「もう柴乃、毎度毎度のこととはいえ言い方考えようよ? 相手の子、かわいそうだよ?」
「いいのっ! 厳しく言わないと、しつこくてしょうがないんだもん!」
「それでも限度ってものがあるような……」
呆れるように言う彼女に、それでもいいのと言い返す。
私、渕脇柴乃は今日からもう三年生。
あんなに長かった二年間もあっという間に過ぎていくものだから、時って不思議なものだなとつくづく思う。
隣にいる親友のあんちゃんこと渉杏珠と歩きながら、校舎に向かっている最中に……このざまだ。
何度断ろうとやってくる男、男、男!
いくら私が可愛いからって来すぎだと思うんだけど!? なんなのよ、これは!!
「すんませーん、渕脇柴乃さんですかー?」
「何よ、告白ならお断りよ」
「呼ばれたらなんでも告白に結び付けるとか、どんだけ自意識過剰なんだよ。お前」
嫌味ったらしく言われる一言に、ぱっと振り返る。
そこにいたのは告白しに来た男子……ではなく、彼だった。
浅沼馨。うちの高校が誇るイケメン生徒。
スタイル良し、成績良しの文句なしの優等生。
私が彼を知ったのは一年前の、今日のような桜が咲いていた日。
あの日から大きく変わったことが、一つだけある。
それが……
「な、なによ馨君! 私で実験しないでくれる!?」
「うぬぼれんのはいいけど、だまされたりすんなよ~? お前、すーぐ他の人に目移りしそうだから」
「そっ、そんなことしないわよ! 私をなんだと思ってるのよ!」
「ならいいんだけど。お前は俺のもんだってことを忘れないよーに」
お前は俺のもん。それがこの一年間、変化した私達の関係。
つまりそれは、私が馨君の彼女だということだ。
なかなか認めたくなくて、素直になれなくて、この思いが何なのかイライラしていたけれど今ならわかる。
話しているだけで嬉しくて、一緒にいれるだけで幸せで……
たっくさんの女性に目をつけらようと、どんなにキレイな人が告白しようとも私は痛くもかゆくもない!
なんていったって、イケメン優等生浅沼馨の心をゲットした女よ!?
こんなにかわいい私だもの、他の人に負ける気がしないわ!
「そういやこれからクラス割だっけ? 毎年毎年入れ替わると、めんどいったらねぇな」
「そういうもんでしょ。ああ、どうかあんちゃんとだけは一緒のクラスになれますように!!」
「もう、柴乃ったら。ほら、みんな教室に集まってるよ。行こ?」
あんちゃんにそう言われ、馨君と三人で歩きながら教室へと向かう。
クラス替え、それはその一年を左右するも同然の新学期恒例のイベントだ。
日頃の行いがいいせいなのか、高校での二年間はあんちゃんと同じクラスになれた。
高校生活最後の一年こそ! あんちゃんと一緒のクラスにしてもらわなきゃ困る!
そして欲をいえば、馨君とも一緒に……!
「あっ、噂をすれば来たよ~? 直樹君っ❤︎」
「本当ですね。おはようございます、柴乃さん、渉さん。馨」
教室につくが否や、クラスを見ようと集まる人ごみの中に見慣れた顔ぶれがあった。
それは私が最も苦手としている、言ってみればもう一人の私。
それが彼女、渕脇姫野だ。
生まれた時からずっと一緒だった、双子の妹の姫野は私より性格のたちが悪い。
男の子は皆下僕、自分が一番かわいいと思っているらしく姉の私にも容赦はしない。
そんな姫野に唯一認められたのが、馨君の友人でもある寺濱直樹君だ。
こっちはこっちでザ・普通っていうかなんていうか……特に目立ったことがないのよね……
まあ双子は同じクラスになることはないって聞いたことあるし、姫野とは違うクラスなのはわかってることなんだけど。
「なんだ直樹、先来てたんなら言えよ」
「あはは、ごめん……馨、早く起こすと機嫌悪くなっちゃうから……」
「何、あんなに下僕いたのに寺濱君と二人で来たわけ?」
「だってぇ無駄に群がっちゃって、迷惑だったんだもぉん。そんなことよりいいのぉ? お姉ちゃん。もうクラス割、出てたけど」
はっ! そうだった、クラス割! こんなことしてる暇ないんだった!
慌てて教室に入り、黒板に掲示されている紙の存在を確認する。
群がっている人をかきにかきわけて、一番前へと出る。
ぱっと目に入ったのは、一番最初に書いてある馨君の名前でー
「ふーん、俺また1番かーちぇっ」
「うわっ! あんた、よくもまあ人ごみをうまくすり抜けてきたわね?」
「お前も人に言えないだろ? あ、直樹ーまた一年一緒だぞー」
「えっ? 本当? よかったあ、今年もよろしくね~馨~」
ちょっ! またここの二人一緒なの!? いい加減離れなさいよ!
っと、人のこと気にしてる場合じゃないわ。渕脇、渕脇……
「あーあ、姫野二人と離れちゃったあ~でも渉さんとは一緒だねっ❤︎」」
「ほんとだ、なんか新鮮だね。あれ、ってことは柴乃は……」
あんちゃんと姫野の会話を聞きながら、まさかという考えが巡りにめぐる。
やっと見つけた自分の名前と、違うところにあるあんちゃん達の名前を見つけて愕然とする。
まさか……こんなことって……
「これじゃまるで、柴乃ちゃんハーレム状態だね~実質」
聞き慣れた声がして、はっと振り返る。
そこにはいつのまにか、海藤隼人君がいた。
私の幼馴染で、二年の二学期から転入してきた……
「い、いつからいたのよあんた……っていうかハーレムってどういう意味?」
「男子の名簿順見てないの? 柴乃ちゃんのクラス、二人だけじゃなくてオレも一緒」
言われてみて、馨君と寺濱君の名前の間に隼人君の名があることに気付く。
まさか、こんなうれしくない偶然があるだろうか。
馨君だけならまだしも、男二人とも一緒なのよ!? 何かのいじめじゃない!
私何かした!? どうして、どうしてあんちゃんと離れるのよぉぉぉ!
「名前っつったらさ、同じクラスにすんげーきになるのがいるんだけど」
「あ、やっぱり馨も? ってことは皆、そう思ってます……よね?」
「はい……なんか、見覚えがあるなあとは」
ん? 何、まだなんかあるわけ?
もういいわよ、これ以上あったって私にはみじんも関係な……
「ねぇ柴乃ちゃん、オレらの見間違いであってほしんだけど……どうして彼女の名前があるの?」
隼人君に無理やり顔をあげさせられ、仕方なく自分の目で確認する。
彼が見せてくれたのは、私のクラスの名簿だった。
見たことあるようなないような人の名前の中、一つだけー
「ふふ、びっくりしてくれた? サプライズなんて久しぶりだから、緊張しちゃった」
透き通るようなきれいな声。きれいに整えられた新品の制服。
そして優し気な笑みー
「皆さんに会うのは、夏以来ですよね? お久しぶりです、私のこと覚えてますか?」
「む、むむむむむぎちゃん!!?!」
(つづく!!)
続編をお待ちになっていた皆さん!
お待たせしました!
本日より、Gemell☆★Princess、通称「双子姫」
三年生編の開幕です!!
二年生編との違いは、色々案はあったものの
気がつくとどうでもよくなっちゃって
タイトルにfinaleを付け足しただけになりました
なんか、すみません笑
早速一話からキャスト勢揃い、という
帰ってきた感がすごいありますが
詳しいことは
次回に多く語らせていただきます!
なんとあのキャラが本編に本格参加します!