狙われた王女 7
お待たせしてすみません。
楽しみにして下さった皆々様方、満足して頂けたらと思います。
もし、待ち遠しく待って居られたのなら、感激の限りです!!
ありがとうございます!!!
では、いってらっしゃい
目的地を捉えると、城壁の陰に隠れて様子を窺う。
深紅の瞳が向けられた場所には硝子張りの建物、温室があった。
その中には、二つの人影が存在した。
ラグリアと似た面立ちの少女と金髪の男は立ち話をしていた。
少女はミルクリウス・リィシェル・カロス、ラグリアの姉でありシャオフェンの従妹。
そして、金髪の男は火竜騎士爵家の長男だった。
姉の普段と変わらない様子を見て、ラグリアは胸を撫で下ろした。
幼少の頃から間を置く事なく舞い込んでくる見合い話に対して、ミルクリウスは嫌な顔を一つもする事なくあしらってきた。
世継ぎに恵まれ周辺国との関係も一部を除いて良好である王家には政略結婚の必要性は無く、国王も宰相も恋愛結婚を推奨している。
とはいえ純朴な恋心を踏み躙る事は出来ず、縁談を請けては断る事を繰り返していた。
ラグリア達の目の前に居る金髪の男は今迄の純朴な恋心の持ち主達とは違う。
それはミルクリウスに向けられている狂喜を帯びた目付きで一目瞭然だった。
(心配のしすぎかな?姉様が気を許す筈は無いし、アリィの守りの刺繍だって・・・・・・・・・)
このまま見守る事に徹しようかと逡巡していると温室内で変化があった。
男がミルクリウスの腕を掴んで引き寄せて腰を抱いたのだ。
ラグリアとシャオフェンの顔が怒りでひきつる。
シャオフェンが温室に向かって走り出し、ラグリアは魔術を詠唱する。
「影法師ノ悪戯ダヨッ夕闇ニ落チテ!移動の紋・シャドートリック!!!」
シャオフェンはラグリアが発動させた魔術に気付き振り返ろうとして姿が消える。
瞬間、シャオフェンがいた場所にミルクリウスが現れ温室の中ではミルクリウスがいた場所にシャオフェンの姿があり男と口付けを交わしていた。
シャオフェンは直ぐ様男の腕を掴み投げ飛ばした。
ぐぁっと悲鳴をあげて地面に打ち付けられのたうち回る男の鳩尾に鋭く蹴って気絶させると、素早く口元を拭い脳裏に再生された記憶を追い出し荒く息を吐き出した
母の額に口付けを落とし就寝の挨拶を交わして自室に向かおうとした時、悲しびな表情を見せる父に対して罪悪感にさいなまれた。
父は多忙故に自分に構う余裕が無いのであって大切にされているのに、理解はしていても納得は出来なかったのだ。
父に辛く当たり毒を吐くかわいげのない自分が嫌で堪らない。
それなのに、自分の態度を叱ることもなく済まな相な顔をして怖ず怖ずと話し掛けてくる父の姿が嫌いだった。
弱弱しい声でおやすみと言われ腹立たしさと悲しみが込み上げてくる。
父が叱ってくれたなら、優しく抱き締めてくれたなら、今すぐにでも謝って泣き尽くせたのに。
今宵も父は自分を救ってはくれないのだ。
「父上、屈んで下さい」
父は目を白黒させながらもゆっくりと屈んでくれる。
母の微笑ましいものを見る視線を感じつつ、父に近づいて額に口付けをしようとした。
「つっ?!!」
「んっ・・・!!!」
自分が言ったと通りに屈んだまでは良かったのだろうが、それからどうすれば良いのかわからずに父が腰を上げたのだった。
最初の口付けは酸味と苦みにめまいと吐き気を催すもので、そのまますぐに打っ倒れたのだった。
《ぅああ”あ”あ”ぁぁぁっ?!なぜに最後まで鮮明に思い出してるんですっ?!はぁぁぁ・・・・・落ちつきましょう》
因みに倒れる程ショックが大きかった訳ではなく、父親がシャオフェンに就寝の挨拶をしにくる前に飲んだワインのアルコール分に酔ってしまい倒れたのだった。
シャオフェンは微量の酒にも酔ってしまう程の下戸であった。
《そういえば、あの時の父上は父親らしかったです・・・・・ふふふっ》
今から一年程前、シャオフェンの成人式でその事件は起こった。
「こちらが我が領地の特産品で“|貴婦人の宝玉”と呼ばれる赤葡萄を贅沢に使った最高級ワインですっ!殿下のお生まれになった年に出来たものを、今日この時まで寝かせておいたのですっ!どうぞお試し下さいっ!ささっぐぃっと!!!」
亜竜騎士爵の少し肥えた初老の男が鼻息荒く詰め寄ってくる。
シャオフェンは男の様子に若干顔をひきつらせそうになる。
それだけではなく幼少期に起きた事件で判明した自分自身の弱点を前にし、どうやってこの場を切り抜けるかを考えるのに忙しく表情筋に気を配る事が出来ていないのだった。
それでもなんとか平静を装い亜竜騎士爵の男に愛想笑いを浮かべて男が欲しがるであろう言葉をかける。
だが時間稼ぎもそう長くは続かない。
気分が悪くなったと言って控室に引っ込んでしまおうかと考えていると、すっと隣に現れた人物がグラスを持ち上げワインを一口含んだ。
その人物の行動にシャオフェンと周りにいた貴族達の動きが止まる。
皆の注目を集めているのにもかかわらずワインに舌鼓を打つ己の父の姿にシャオフェンは笑みを崩し小さな声で父上?と呼んだ。
「・・・・・・・・・・かわいっ・・・・・」
シャオフェンと変わらない程度の声量で発されたアイミンの心の内は貴族達には聞こえなかった。
「・・・・・陛下?」
アイミンは息子の方に向いていた視線を声をかけてきた貴族達の方へと向け直し妖艶に微笑んだ。
その微笑に目の前の貴族達は皆見惚れてしまう。
「・・・・・このワイン・・・誰が持って来たのかな・・・・・」
シャオフェンは父の様子に違和感を覚えたが言い出せる雰囲気ではなく、そのまま夜まで話をする機会は訪れなかった。
そして真夜中になり、父に話を聴くべく執務室へと向かった。
回廊を歩いていると前方の柱間に人影を見つける。
「父上・・・・・?このような所で何をなさってるんです?」
「シャオ・・・・・シャオフェンこそ、こんな所でどうしたの・・・もしかして僕に何か用でも・・・・・そんなわけないかな・・・・・」
やはり父の様子がおかしいと確信したシャオフェンはアイミンの前に立つと深々と頭を下げた。
手早く要件を済ませて父を寝室に放り込まなければならないからだ。
その後は母に任せておけば何等問題はないだろう。
「えっと・・・どうしたの・・・・・シャオ?」
「今日は庇っていただきありがとうございました」
あぁと気の抜けた返事をし、気にしなくていいよと続けて言われる。
その様子に不安を掻き立てられ頭を上げようとしたが途中で何かに当たって動作を止めてしまう。
この体勢のままでいるのは辛いのだが、自身の頭に触れているものが何なのかがわかり動けなくなってしまった。
父の手がぎこちなく頭を撫でてくれているのを感じ、嬉しく思いつつも居た堪らなくなってくる。
「・・・・・ちっ、父上、加減の程はいかがなのですっ?」
シャオフェンの言葉を聞いてアイミンの手が止まり頭上から離れていった。
少し残念に思ったが今は其処ではない。
頭を上げてアイミンの顔を見る。
顔が若干赤らんでいる気がする。
さぁ話してもらおうかとでも言う様に詰め寄ると、一歩後ろに下がろうとして柱にぶつかった。
アイミンが目を逸らし口篭もる。
その仕草に苛立ったシャオフェンは両腕を柱にぶつけた。
左右にはシャオフェンの腕があり背には石柱、勿論正面にはシャオフェン自身がいるのでアイミンはどこにも逃げられなくなった。
「シャオ・・・・・する相手を間違えてない?」
「間違えていませんし、今の所そのお相手もいませんよ」
真面目に聞いているんですと続いた言葉にアイミンは観念したのか息を張った。
それを真上から見たシャオフェンは溜息が下がり、腕を下して一歩下がった。
「ワインの中にね・・・・・その・・・惚薬が入ってたみたい・・・」
「はっ?」
ワインを飲んでから様子がおかしくなっていたから、ワインに何かあるとは思っていた。
思っていたが、予想とは大きく違う現実に自分の心配はなんだったんだと八つ当たりしたい気分になった。
「心配させちゃってごめんねシャオフェン」
「いえ・・・・・まだ薬が抜けていないのでしょうか?」
心配等特にしていない風に装う自分に子供染みた真似はよせと心の声が言っているが、父を前にすると如何してもこういう態度になる。
もう癖になっているのだろう。
「シャオはいつもかわいいけど、今日は特にかわいいね・・・・・あぁぁぁっもう抱き締めてもいい?いいよね♪」
「えっちょどうしたんですっ?!父上!!目が怖いですっ!!!」
「・・・・・怖い事は何にもしないよ?今夜は僕と一緒にねんねしようか・・・・・ねぇシャオ?」
シャオフェンは方向転換して走り出した。
母のいる寝室は駄目だと思い、伯父夫婦の寝室を目指す。
全速力で走るのだが一向に背後から迫る者との距離が広がらない・・・。
「鬼ごっこ楽しいねぇ!!!シャオすごく速いよっ!!!ふふふっ僕も本気出さないとねっ!!!つかまえちゃうよぉ~!!!!!」
「あああぁぁぁぁぁぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“っ!!!伯父上っ!!!兄上っ!!!
助けて下さいっ!!!!!」
叫び声を聞き駆け付けた伯父と兄のおかげで騒ぎは収まったのだった。
(・・・・・うん、最後の方は忘れるべきですね事ですね・・・・・今度こそ落ちつきましょう・・・・・)
ありがとうがざいました。(; ・`д・´)
今後ともお付き合いの程宜しくお願いします!