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狙われた王女 5

先週投稿できなかったので今回は2話続けて投稿します。

記憶がこんがらがってきてしまい投稿が遅れる又は出来ないかもしれません。

興味を持って閲覧して頂いている方々度々申し訳ありません。






硝子(がらす)の壁の向こうには木々が立ち並び、その根元には色取り取りの花が咲いている。

天井も硝子で出来ており植物の光合成を邪魔する事は無く、年中一定に気温を保つ温室は陽光も相俟(あいま)って美しく幻想的な楽園と呼ぶに相応しい場所だった。

季節や環境に影響されず咲き誇る花達はどれも品種改良がなされたもので、ここにしかない種類も沢山あった。

手入れの行き届いた箱庭は訪れる者達に安息を(もたら)す筈だった。


身形の良い男がいた。

品のある佇まいに一級品で揃えられた背広、淡い金髪に緑色の瞳の男は他者に好感を抱かせるそれらの要素を台無しにする笑顔を自身の前に立つ少女に向けている。

粉雪を髣髴(ほうふつ)させるふんわりとした長髪をリボンで編み込み背中に流し、若草色のドレスに身を包んだ愛らしい少女は男の笑顔に対し困り顔を浮かべた。



「ここは実に素晴らしい所ですね。澄み渡り緑に溢れていて・・・」




(無性に穢したくなる・・・・・・・・・・)




少女の機嫌を窺う様に猫なで声で話す男は一層笑みを深くする。

少女は男の声に不気味さを覚えながら、どうしたものかと思案している最中だった。

男の名はジョン・コーテ、次代の火竜騎士爵である。

甘いマスクに柔らかな物腰の好青年で、貴族の子女達からは絶大な支持を得ている。

表の顔はだが・・・。

裏では己の地位に酔いしれ権力をふるい、民を虐げる悪評高い男だった。


ジョンの正体を知っている少女からすれば、優しい声音も(にこ)やかな笑顔も全く意味がないのだがジョンは気付いていない。

不躾に見詰めるその目は少女を舐め回す様に頭から足先までさ迷い、胸部で止まり動かなくなる。

低い背丈に幼い顔立ちで実際の年齢より年下に見られる事の多い彼女だが、その一点は年相応かそれ以上に思われるほど豊かに実っていた。

彼女自身も少々自慢というか、意中の相手が意識するものだからつい強調するかのようなドレスを選んで着てしまうものだった。




(今日のドレスは大きなリボンと豪奢(ごうしゃ)なフリルで胸を隠しているのに・・・胸の所ばっかりに装飾がされているから余計に目立つのかしら?

というか()ちのめしていいかな・・・・・・)




少女が物騒な考えをしているとは思ってはいないジョンは視線をそのまま口を開く。



「そのドレス大変良くお似合いですね。少々、少女趣味が過ぎる気もしないでは・・・いえ失礼!女性の服装に口を出す等不躾でしたね」



それ以上に無礼な態度をとってばかりだろうと思ったが心の内に止めて花やかな笑みを零した。



「お褒め下さって嬉しいですわ。今日の為に沢山悩んで選んだものですの!

とっても素敵でしょう?ふふっ」



少女の微笑みにジョンは心を奪われる。どす黒い感情が込み上げてきて必死に表情を繕う。




(なんてっ・・・なんて美しいのだろうっ!一片の穢れも知らない純粋無垢な姿っ!!!あぁっ・・・歪めたいっ穢してっ私の色に染めたいっ)




ジョンの変化に気付かずに少女はドレスのスカートを(つま)んで俯き思いを懸けていた。




(去年の誕生日のプレゼントにアルコルさんが作って下さったのですよね。(わたくし)が胸を強調するドレスばかり着るからって・・・かわいいですっ)




いとしくて仕方無いとばかりにドレスを抱き締める。



「・・・・・・寒いですか?」



思考の海原に旅立っていた少女はジョンの言葉を聞き、体をビクリと震わせた。

敵を前に余所見(よそみ)をする等以ての外だと、緩んでいた気を締める。



「平気ですわ、お気遣いありがとう」



「そうですか?なら良いのですが・・・()()()()方に体を壊されたくはないですから」



妻の部分を強調して言うジョンに少女は顔を(しか)めてしまう。

ジョンの生家である火竜騎士爵家から王家へ縁談が申し込まれた為、二人はこの場所に居たのだ。

少女の両親はこの縁談を快く思っていなかった。

娘に慕う相手がいる事を除いても、外見ばかりを取り繕う中身の無い男に娘を嫁がせるつもりはなかったからだ。

其の上火竜騎士爵は国が禁じている人身売買に手を染めており、その他の違法行為にも着手している可能性があった。

火竜騎士爵はルーン王国内において王家を除けば最高位の権力を持つ。

その力は国の中枢を占めており今日まで野放しになっていたのだが、慢心が出て来たのか尻尾を掴みかけている状態なのだ。

その為にこの縁談を受け時間を稼いでいる現状、報せがあるまではこの場を繋ぎ止めておかなければならなかった。


表情の変化は気付かれなかった様で、ジョンの機嫌は良さそうだった。

怪しまれない為には、彼が今迄出会って来た女性達の様に振る舞った方がいい筈。

理解はしているつもりだったが、抵抗があり間があいてしまう。

それでも何とか顔に紅葉を散らしてジョンから視線を外す。

そのまま立ち話をする訳にはいかないからと言い温室の中央にセットされているテーブルまで案内しようとした。

警戒していなかった訳でも無いのに手首を捕まれ、簡単にジョンの胸元まで引き寄せられる。

体を密着させられ腰に手が当てられた。

体が言う事を聞かず、力が抜けていく。

腰を抱く手に力が入れられ自然と胸を押し付ける格好になり、頬が朱色に染まる。

己の手中にいる少女の反応に感情が昂り、ジョンは恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべる。



「あぁっ・・・本当に堪らないっ!その表情っとってもそそられますねっ!!!

ぐちゃぐちゃにしてっ壊してっ!!!」



何を言われているのか理解が追いつかず、考えが上手く(まと)まらない。

ただ、自分に何か異常が起きているのだろうという事はわかった。

自分ではどうする事も出来ない事も。




(頭が痛い・・・何かが入り込んでっ・・・嫌っ!!!

止めてっやめてやめてっ!!!この男・・・を・・・(わたくし)が・・・好き?そんな訳ないっ!!!)




「・・・・・嫌っ止めっ・・・て・・・・・イヤァァ」



薄緋色の瞳から涙を零し、小さな体を震わせか細い声を漏らす少女。

その姿に愉悦を隠そうともせず一増笑みを深くし、ジョンは少女の頬を伝う涙を

舐めとった。

ヒッと声を上げた少女に追討ちをかける様に口を開く。



「普段の貴女は天真爛漫で子供の様なのにとても気丈で、つまらないんですよね。でも今の貴女は違う・・・・・どんな精神が屈強な人間でも逆らえない、光属性魔術の禁忌『魅了』の前ではね?どうですか?頭の中を埋め尽くす私への愛情っ!!!最っ高でしょう!!!貴女は私に相応しい人だっ!

私達に互いの絆を深める時間等不要ですっ!!!

・・・・・・・・・・今ここで契りを交わしてしまいましょう?」



言い終わると顔を近付けられて、唇が重なる―――――――――――――――――












見て下さってありがとうございます。

次回も楽しみにして頂けたらと思っています♪

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