第五話 : ここまで全部がプロローグ
衣服がすれる音や、重なり合う喋り声で俺は目を覚ました。
どうやらあのまま寝ていたらしい。寝転んだ時より日が少し落ちていた。
飛び起きて、辺りを見回す。
クラスメイト達は離れた屋根があるところでわいわいやっている。炎を出したり、水出したりしてしてキャイキャイやっていた。ちなみにウェイウェイもやっていた。
……誰も起してくれなかったんだね。知ってたけど。
知らない人寝てたら俺も絶対起こさないな。
は?
俺はあり得ない光景に目を奪われた。
手から炎とか水とか出てるとか、そんなレベルじゃない。
よく見ると太陽らしきものが二つあった。
太陽?太陽どうした?
今までの人生で一番驚いた。8割嘘。
まぁ、これで俺が今いる場所が地球じゃないことは分かった。人生は驚きで満ちている。
それで、次にあり得ないものに目をやる。
手から炎とか水とか出てるのも割りとヤバいですね。
本当に異世界来たんだなぁと今更ながらに実感した。
人生は驚きで満ちている。感想の使い回しは害悪ですよ。
ぼーっと、戯れを眺めていたら、青空がニカッって笑って手招きしていた。俺は後ろを見たが、誰もいない。
アイツ誰を手招いてるの?
訝しげに青空を見ていたら、小走りで近づいてくる。
そして、俺の側まで来て、
「よっ!君……ぁ、しののめ君?やっと起きたんだね」
あっ、俺にしてたのね。普通に気づかなかった。
さりげなく名札チラ見して、名前特定するとかやり手の手口。
「……おはようございます」
何言ったらいいか分からないので適当に挨拶する
「あぁ!おはよう。シノノメ君面白いね!あっそうだ、君の能力ってさ何だった?」
こんな俺にまで声をかけてくるなんて流石リア充のトップだなぁとか思いつつ、青空の問いかけに答える。
「ふぇ?ああ、お、俺話聞いてなかったから、その、『ギフト』ってやつ?知らないんだよ、です」
死にてえェェェェ!
ドモッチャッタよーーー!
同級生に敬語使うなんてカーストに縛られ過ぎなんだけど。
さらに中途半端にしか使えてないし。
カーストなんて関係ない立場だと思ってたけど、本能的に青空を上に見てしまってる。
ま、どうでもいいか。
「あっ、そう。自業自得だね。後で教えてもらっときなよ」
そう言って青空は元いた場所に戻っていく。
「あっうん?うん!」
あっ、お前が教えてくれるわけではないんだな。
結構ひどいこと言われたけど、正論だし、妙に明るく振る舞ってしまった……。
去り際に青空は振り返って、
「いい忘れたけど、後でこのハイデルベルク城で晩餐会が開かれるからそろそろこっち来た方がいいよ」
「へ?あっ、ありがとう」
通常運転のキョドり感謝。
年上とか、性格似てるやつとかだったら普通に話せるんだけど、同級生はどうも苦手だ。
てか、この建物ってハイデルベルク城って言うんだ。なんか聞いたことあるな。
青空のありがたい言葉通り、人が集まってウェイウェイしているテラスに俺は向かう。
真っ白な塗料で塗られたテラスは、ただでさえ光って見えるのに、楽しげな笑い声でより輝いて見えてしまう。
この手の空気は苦手なので正直行きたくない。
なので隅っこで居ようと、テラスの陰になっている場所に移動したんだけど……。
時雨が体操座りでうずくまっていた。
体操座りってのが一々真面目なやつだ。
どうしようかと、考えていたら時雨と目が合った。
睨まれた。泣いてたのか、目が赤くなっている。
デリカシーがないと思われるのは嫌だから、何も聞かずにに時雨の隣に座った。
また、ぼーっとクラスメイトを観察する。
青空は安定して皆の中心にいる。
その周りで、一段と声を張り上げてる男子が二人。
名前は、山羊と、滑河?
滑河って凄い名字だな。
「ちょ、見てみて、俺のギフトカード!能力『Wi-Fi』だってヤバくね?」
と、山羊。Wi-Fi?
スマホのネット機能が使えるのかな?
知識チートができるな。
けどまぁ、
彼に膨大な現代の知識が使える技術があるのかどうかは別の話。扱えない知識や情報なんて邪魔でしかない。
大量の情報によって引き起こされる情報の錯綜は、古来からの戦争において初歩的な作戦の一つである。
相手を蹴落とすのが目的の戦術に使われるぐらいだ。大量の情報を保持することは本来はマイナスである。
よって、腐るほどの情報にアクセスできる彼の能力は使いづらい能力といえる。
実際、余計な情報に縛られることは多々あり、それによって正常な判断が下せなくなることはよくあるケースだ。
……なぁ~んてな。
「ははっ!凄いねぇ!ヤギに似て個性的だ」
個性的……アイツ山羊を誉めてんのか?
もしかして、青空って見かけによらず性格悪いかもな。
「俺も!俺も見てよ!」
と、忠犬みたいな滑河。
「ん?良いよ~」
青空の声音は明るいけど、裏に何かが有りそうな感じがする。
ただ俺がひねくれているだけか?
「俺の能力ワープだったんだけど!何でも違う場所に瞬間移動させられるらしい!」
「へぇ?どんな感じなの?」
「じゃあ、あのテーブルの上のリンゴをどっかに瞬間移動させるね!」
と、滑河はこちらに体を回転させた。
そして、手のひらを向けて力を込める。
……おいおいおいおい!ちょっと待て!嫌な予感しかしない。
確かに、リンゴの載ったテーブルが近くにあるけど!
滑河はわくわくした声で、
「俺、超能力使うなんて初めてだ!」
余計に不安になった。
やっべ、ここから離れないと、面倒臭いことに巻き込まれる!
立ち上がろうとした瞬間、割りと重いアジダスの袋に体勢を奪われてしまった。
「イクぜ!!ワーーーーープ!!!!!!」
滑河の雄叫びと共に奇妙な浮遊感が俺を包む。
どうか、神様どうか、ただの立ち眩みでありますようにと願いながら俺はその浮遊感に身を任せた。
嫌な予感ほど当たるのは世の常。
視界の端で時雨が驚いている顔をしていたので、多分ワープ餌食になったのかなぁ。
はぁ……。
ここから、名前も知らない世界で俺の新しい人生が幕を開けた。
ついでに自分の能力もまだ知らない。