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第二話 : 容姿説明は短い方が良い

やっとヒロイン出て来ます

「話の腰折りやがって、全く。あぁ~あ言いたいこと忘れた」

 

 太郎がぐしゃぐしゃと自分の髪を掻き乱す。


「もういいや、話しようぜ。なんでもいいから。先生暇なんだよ」


「いや、あんたさっき暇なら勉強しろって言ったばっかりだろ!実行しろよ!」


「社会人は生きていくだけで、知識が得られんだよ。生きてるだけで勉強してんだ」


 太郎はキメ顔でそういった。

 こいつ<物語>好きなのか?


 何か無駄にカッコ良かったのがムカついた。    

 だから、その屁理屈に食って掛かる。


「なんの根拠もない暴論だ、ソースだせソース!」 


 すると、太郎は左手の親指を立ててビッ、と自信満々に自分を指した。


「O☆R☆E」


「はい、出た。一番説得力に欠ける根拠。一人称!」

 

 ビックリした。

 こいつ絶対酔ってる。間違いない。

 つい、二重肯定してしまうぐらいに今の太郎は痛々しいかった。


 あれ?いつもか。なら仕方ないな。


 俺が諦めの境地に達そうとした時、不意に太郎の顔が真面目になった。


「一人称って聞いてふと、思ったんだが、そーいや、ラノベって一人称多いよな」


 真面目な顔と、言ってる内容の陳腐さとのギャップで笑ってしまいそうになる。

 けれど、ここで茶化したら機嫌を損ねて課題を追加されそう。それか、イベント周回させられそう。

 他人のデータの周回って虚しくなるだけの拷問なんだよなぁ。(実体験あり)

 

 過去を振り返って、思わず涙しそうになった。

 なので黙って、俺は話に乗っておくことにする。


「う~ん、そうですねぇ。主人公に感情移入しやすいのが一人称の魅力ですし。でも一番の理由は書きやすい、でしょうね」


「一人称が、か?」


「ええ。一人称は、全てが主人公のさじ加減ですから。主人公のしたいことだけで話が成り立ちますし。他の登場人物の内心に深く入り込む必要がない」


「まぁ、言いたいことは分からんでもないな」

 

 太郎はうんうんと大袈裟に頷いた。


 俺は、そうだとばかりに、手を叩いて太郎に尋ねる。


「あ、一人称で思い出しけど、俺も言いたいことあったんですよ」 


「ん?何だ?」


「一人称小説特有の、長ったらしい容姿の説明ですよ」


「あぁ、あれね。別に一人称小説だけじゃなくね?どんな小説でも大事じゃん。いかに読者を想像させれるか、が文字で綴る小説の醍醐味だと俺は思うな」


「そうはいっても、同じ表現ばっかじゃないですか~」


 俺はヒロインや、隣のイケメンを描写する、あの行稼ぎとしか思えない文章が苦手だった。

 特に四字熟語を多用するやつ。

 容姿端麗。文武両道。完全無欠。頭脳明晰。大和撫子。etc……

 主人公は決まって平凡の二文字!

 

 そもそも四字熟語は表現を短くするためにあるはずだ。それを繋げて長くするのは、根本的に間違っていないのか?

 いや、でも、一人称って言換えると『主観』であって。そこに客観性を持たせようとするには、客観性を認められている言葉で飾るのが手っ取り早い。

 それは古来から使われ意味が広く認知されている、つまりある種の客観性を保持している「四字熟語」が当てはまるのか?

 いやいや、これは、四字熟語を繋げることの答えにはなってないし……。

 

 俺が思考の彼方に行きかけた時、太郎の目つきが変わった。


「ーーなら少し実演してみてくれないか?」


 その視線は俺を捉えてなく、その後ろを見ているのだが、俺自身はそれに気づいてない。


「えっ実演ですか?急に?」


 想像もしてなかったことを言われたので俺は分かりやすく戸惑った。


「そうだ。お前は、容姿の説明が、ワンパターンだから嫌いなんだろ?なら新しい表現を考えてみろ」

 

 更に戸惑う。嘘ぉ……。あまりにも無茶ぶり過ぎて、いつもの事ながらめんどくさくなった。

 でもこれまでの経験から、拒絶は絶対に認めてくれないって分かってるし。

 

「そういや、誰の容姿、表現するんすか?」

 

 やる気の無い声で太郎に問うた。


「ん~~俺は、かっこいい!イケメン!の一言で済むしぃ」


 二言だよ、死ねよ、と俺は内心思ったが口には出さなかった。


「自分自身を表現するのは痛いナルシストだしぃ」


 一秒前にお前してただろ、てかナルシストはお前だろ、あと死ねよ、と俺は思っ(ry


「そぉーだ!時雨京香にしようぜ!アイツ、ラノベのヒロインまんまじゃねえか!」


「あぁね……。てか、一教師が生徒の容姿を評価していいんすかねぇ。しかも女子だし、自分のクラスの生徒だし……。」

 

「別に悪く言ってるわけじゃねし、良いだろ」 


 呆れてため息も出ない。


「じゃっ、それで宜しく!制限時間は一分な!」

 

「えっ、制限時間もうけるんですか?」


「人生に制限は付きもの。当たり前だよなぁ?」


「死ねよアンタ」


 ついうっかり、暴言が口から出てしまった。

 しかし、太郎は気にする事なくニコニコしている。

 

 俺は嘆息すると、その容姿を表現するために、『時雨京香』という女生徒をも思い浮かべた。


 黒髪長髪で、顔が整っている。

 加えて勉強が出来て、運動も出来る、らしい。


 いや、全く関わったことないから知らんけど。


 羨望の的となっていることぐらいはボッチでもわかる。


 けど、うん。本当にヒロインだな。

 ファンクラブでも出来てたらギャルゲー移植出来るレベル。


 ここは、あえて使い古された四字熟語でいってみるか。


「完璧超人☆」


「はい、没」


「んなッ!なんでですか!」


 俺は、こうなることは分かっちゃいたけど何故か焦った。


「馬鹿にしてんの?」


 冷静な太郎の声。


「はい。しました」


 冗談が通じなさそうな雰囲気だったので今度は真面目に考える。


 比喩使うか?直喩は引っ張りだこ、隠喩は文豪の専売特許……。擬人法は?そうだ、擬人法があるじゃん!人を擬人化するって新しくね?

 

 冷静になると、どう考えても無理なことに気づき、素直に前二つの比喩を使うことにした。


「あぁ~、ごほん」

 

 準備が出来たことをアピールするためわざとらしい咳払いを入れた。


「参ります。……雪が落ちてきた。今年初めての雪が。初雪はなぜこんなにも心を捉えるのだろうか。ただの雪じゃなく、初雪が、だ。僕が少年だった時、雪が降ることはとても嬉しいことだった。けれど年を重ねるにつれてその感動は薄れてしまう。それはどうしようもないこと。それでも、初雪だけは僕をいつも感動させてくれる。

 今年の初雪は春に降った。入学式で彼女を見たとき、初雪が降ったんだと図らずも思ってしまった。彼女の儚げな表情。触れたら溶けて消えてしまいそうな雰囲k……」


 知らない間に饒舌になっていた俺は、周りの光景が眼に入らず、目の前の太郎がプルプル震えて笑いを堪えていることに気づかなかった。


「オイ、アンタがやれって言ったんだろが……。ちゃんと聞けや」


「……うんっうんっ聞いてあげるよ。ちゃんと最後までね。でもね、一回後ろ見ようか……。ねっ?」


 太郎が俺の後ろを指さして嗤っている。

 

 何となくオチは読めているので、後ろを見たくない気持ちで一杯何だが、まぁ、状況を整理するためにも一旦振り返った。


 案の定そこには、氷のような目つきをした時雨京香が立って俺を見ていた。

 

 右手には進路のプリントが握られていて、少しばかりしわがよっていた。

 どんだけ嫌だったんだよ……。


「お忙しい所すいません。田中先生。これが書き直してきた進路指導用紙です」


 京香はにこやかに皮肉をぶちかましてきた。

 口は微笑みをたえているが、全くもって目は笑ってない。

 

 そんなことも気に止めずに太郎は半笑いで京香に感想を聞く。


「いやはや、ぶっちゃけどうだたった?こいつの愛の告h……」


「気持ち悪い」


 表情筋を一切動かさずに食い気味で否定してきた。

 即答かよ……。


「まず、告白じゃないし……」


「無理だろ。誰がどう見ても告白じゃねえか」


「だ~か~ら、あんたが、ラノベっぽくしろって言ったんだろ!」


「俺、あんな情熱的に痛々しい表現すると思ってなかったし。内心想ってたことがふと出たんじゃない?よっ!青春楽しんでる?」


「はぁ?……いや、はぁ!?」


「はぁはぁうるさいな。発情期?やっぱり時雨に発情してんだな?」


「発情期じゃなくて思春期って言えや、この教師!」


「あっ。時雨に発情してるのは否定しないんだ」


「否定する項目が多いんだよ!お望みなら一個一個、否定してやる!」


 マジでこの教師いっぺん殺す!

 京香が近くで白い目をしているのも忘れ、俺は食って掛かる。


 すると、


「用事終わったので帰りたいのですけど。いいですか?邪魔です」


 京香が抑揚なく、淡々と言ってきた。


「ん?あぁ、悪い悪い。おい、俺、退いてやれ」


 ちょうど俺が出口を塞ぐ形になって出れなかったようだ。


「……何かごめんなさい」


 どうしようもない罪悪感が俺を包んだ。


 京香は俺を一瞥すると、去り際に、


「気持ち悪い」


 と、微かに聞こえる小声でボソリと呟いていった。


「何か本気で嫌われたみたいですね……」


「アッハー!ドンマイ!!呟いて言ったとこが、マジ感を醸してるな。お疲れちゃん!」


 太郎が、俺の肩をバンバン叩いて、面白がる。


「これが、ファーストコンタクトですよ!初対面で嫌われるとか、あり得ないですって!」


「フラグ立つとでも思った?学年一の美少女と?ないない!お前だけはない!」


 太郎はまだ、発作が収まっておらず、腹を抱えて悶絶してる。


 ないって三回も言わなくていいじゃねえか!

 別に言われなくても自分でも分かってるし。

 

 恋愛フラグが立つのは主人公だけ。

 モブに立つのは死亡フラグのみ。


 でも今日学んだことは、それじゃない。


 声を張り上げて言おう。


 やっぱり、容姿説明は短い方が良い!!


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