第20話 : 裸白衣って何だ?
リーマン予想!リーマン予想!fuuuuuu!
(本編とは全く関係ないただの作者の興奮です)
時雨がリバースして数分後、後始末を終えた俺は上半身裸で椅子に座っていた。
時雨自身に被害がないのが幸いと言うべきか、なんと言うべきか……。俺が代わりに害を被ったんだけど。
カッターシャツは捨てた。
元々熊に引き裂かれてボロボロになっていたから後悔はない。
当の時雨は隅でちっちゃくなってる。
そこだけ空気の重さが違っていて、光が当たっているはずなのに暗かった。
「まぁ、結構グロい話だったからな。気持ち悪くなるのは仕方ないと思う」
一応フォローしても反応がない。
はぁ……。こういう時の行動の仕方が全く分からん。
青空みたいなイケメンなら、ニカッて笑って「気にしないで!」とか言うんだろうな。
ふ、一生無理だな。まず表情筋鍛えるところから始めないと。
いつまでも裸でいるのは、じいさんに服を貸してもらった。
裾がダボダボで短足に見える。はぁ……。(二回目)
ため息吐きすぎて幸せが逃げてしまう。
俺にとっての幸せについて考えると多分死ぬまで考えてるから割愛。幸せの定義って難しい。
短足に見える理由はヨレヨレの白衣を着てるから。
裸白衣っていう前衛的過ぎるファッション。
時代を先取りしすぎて、あのパリピの原宿でもまだ無いだろう。はぁ……。(三回目)
取り敢えず『ギフト』についての話は置いといて服を買いにいくことにした。いつまで流行の最先端(一周回って最後方)にいるわけにもいかない。ついでに他の生活にいるものも買わないと。
「……ほら、俺は別に気にしてないから。それより服とか買いに行くぞ」
だめ押しのフォローをもう一度。
時雨はこちらを振り向いてじっと見てきた。
気にしてないって言ってるのに……。
乙女か!あっ、まごうことなき乙女だった。
はぁ……。(四回目)
幸せが逃げる?もうどうでもいい。迷信だろ、結局。
「……俺は何にも見てない。これでいい?」
すみっこぐらしを止めてこっちにきた。はい、著作権。
ある意味単純だな。だから面倒くさい。
◇
町は人で賑わっていた。
休日なのだろうか、比較的家族連れが多い。
天気が良いからピクニック日和だな、なんて暖かい目で見ていたら、母親らしき人物が娘を俺の視線から外れるようにかばった。
や、俺不審者じゃないから。腐心者かもしれんけどな。
腐心者って単語今作ったから意味は知らない。よし、作ろう。
意味――『心が腐っていて物事をひねくれて見てしまう。不審者の一歩手前』
実際の『腐心』とは意味が違う。
だって、心を砕いてまでやりたいことが無いから。
ただの言葉遊びだ。
危険なものを見る目で俺を見た人妻(言い方に悪意がある)は、早足で遠くに行った。
その行動は割と心にキたので、
「なぁ、今の俺ってそんなに変か?」
「……私が言うのも何だけど、すごく変よ」
時雨は俺の姿をちらりと見ると申し訳なさそうに感想を言った。
「やっぱりか。俺も裸白衣は駄目だとは思った」
「いえ、多分あの人達が見て逃げたのは、多分あなたの笑顔のせいだと思うのだけれど」
こいつ俺の心からの微笑をブッ叩いてきやがった。
まあ?心から出したせいで自分でもニタァってした感じは否定できないな。うん。
でもやっぱ憧れる、家族でピクニックとか。
家族は物心ついたときから一人だけしかいなかったし。
そいつも忙しかったからな、休日も働いていた。
「笑顔が否定されたら、どういう顔すれば人に好かれるんですかねぇ……」
俺は沈んだ声で時雨に抗議した。
だが時雨は淡々と、
「笑わなかったらいいじゃない。いつも通りでしょ」
だから何でこいつ、俺がいつも笑ってないって知ってるんだよ。
ここに来るまで全く関わり合い無いはずだ。
「俺だって笑いたいけど、俺を笑わせる出来事がこの世の中にないな」
「さっき幼女を見てニヤついてたくせに……」
俺が見てニヤついてたのは家族という集団について何だけど、とか言ったら「何で?」って絶対聞いてくるから言わない。
だからやんわりと否定した。
具体的には、俺好きな人いるからって。
幼女なんて目に入らないぐらいそいつのこと好きだって。
時雨が顔面をはたかれたような顔した理由が全く分からなかった。
謎。何でショック受けてんの?
だって、俺の好きな人ニーチェだから。哲学者の。
この世にいないから。死んでるから。
と言うかニーチェ自体が好きな訳じゃなくて、ニーチェの著作が好きだから。
いや待てよ。俺、人名言ってねえ。
……取り返しのつかない悪手を打った気がする。
ニーチェは男だから俺がホモだって思われるじゃん!!
俺、ニーチェ好きなんだ。
幼女なんて目に入らないぐらい……。
ね?
どう考えてもアウトからの嘔吐(out)。
どん引きされて終わる未来が確定した。
「あ~いや、やっぱり好きな人なんていなかった。てか、初恋もまだだし」
俺が頭を搔きながらぼかして否定すると、
「や、やっぱりそうよね。良かったわ。あなたに好かれてる人が可愛そうだもの」
凄く嬉しそうに時雨は俺をdisってきた。
頼むから、もうちょっとオブラートに包め。さすがに傷つく。
俺が心傷を慰めていると、時雨はニコニコして、
「さっきから不思議に思ってたのだけど、あなたって結構な筋肉ついていたのね。ビックリしたわ」
と、俺の胸元を指さしてきた。
「おい、別に日陰者が筋トレしてたって良いだろうが」
何ですか?非リアは筋トレしてたら駄目なんですか?
そんな世界なら俺は壊してやる!!
筋トレが出来ないから世界を破滅させるって動機が『復讐』ぐらいくだらないな。
冗談だよ。
「だってずっと教室で本読んでるから、てっきり軟弱な体型してると思ってたのに」
「あ~まぁ、家庭の事情ってやつ?かな?筋トレせざるをえなかった」
そうしなかったら、俺は物理的に人の悪意から逃げることが出来なかっただろう。
体力は必須だ。
「ぁ、ごめんなさい……」
時雨の中で何かの結論に達したらしく、顔をうつむけた。
その行動から時雨が俺の事を知っている理由に思い至った。
そっか、そりゃそうだ。知ってるに決まってる。
俺が有名人って事忘れてた。
駄目だなぁ。
気をつけなかったら知らない人にまた殴られる。
「――おい、服屋に着いたぞ」
俺達はいつの間にかベージュのレンガ造の建物の前に立っていた。
窓から店員が見えて、営業してることが伺えた。
俺は時雨に声を掛けると、時雨が俯いたまま、
「ねぇ、あなたは勘違いされたままでいいの?」
は?
その言葉に俺はひどく動揺した。
あの事件が作られたものだという事を知ってるかのような言葉。
誰も知らないはず。
俺が口に出したところで、もっと声の大きいやつらにかき消された真実。
「……もう過去の事だろ。どうにもならない」
そう口に出した言葉はやけに自分でも震えてるような気がした。
時雨はまだ何か言おうとしていたが、手を胸に当てて止めた。
それで良かった。
これ以上あのことに触れられると、奥底に捨て去ったはずの苦い記憶が溢れてきそうになったから。
「なぁ、俺ファッションセンスないから、服選んでくれない?」
そんな思いをかき消すように俺はテキトーなこと言った。
普通こんなこと言わない。どうかしたんだろう。
時雨は悲しそうに笑って、頷いた。




