英雄の条件
一面の死体。死体。死体。
人間、獣、魔獣、ありとあらゆる生物の死体。
その全てが内側から爆発したように死んでいた。
泡立って、湯気が出ているものもある。
鼻が曲がりそうになるほどの強烈な悪臭。
内臓が垂れ下がっている者が最後のぐぐもった悲鳴をあげている。よく聞くと悲鳴は誰かの名前だった。同じような怨嗟の声が頭の中で無数に響く。
歩く度に、グチャリグチャリと柔らかで汚い音色が足元から伝わってくる。
ふと、背後から人の近づく気配がした。
味方だろうか。もしくは敵の兵士だろうか。
まぁ、どっちでもいいけど。
俺は振り返り、そいつを目で捉える。
少年兵らしく、震える手で銃を持っていた。
距離は50m位あり、弾は届かないこともない。
俺はただ最初の攻撃を免れた運の良いやつだと思った。
目に力を少し込めると、少年兵の上半身は打ち捨てられた死体と同じように内側から『爆発』した。
爆発を逃れた彼の下半身は力なく地面に崩れる。
何も感じなかった。
もう慣れた。
全部、俺が殺した。
アイツを、大切なモノを守るために、それ以外を殺した。
何かを守るためには、何かを捨てなきゃいけない。
何かを得ることは、何かを失うこと。
昔から、決まっている。
だから俺は、自分が人間であることを捨てた。
正しさを捨てた。
虚ろな瞳で手元のカードを見ると、ギフトレベルは400をゆうに越えている。
この世界の誰にも負けないレベルに達していた。
つまり世界最強。
「ハハッ」
思わず乾いた笑い声が出てしまう。
ふざけんな。どれだけ殺したんだよ。
ギフトレベルの上がる確率は1%だ。
上げる方法は簡単。人を殺すだけ。
つまり今までで最低でも400人殺した。
馬鹿かよ、もっと殺しているに決まってんだろ。
ギフトレベル。
これは、罪の数だ。
殺した人々が何時までも呪いのように俺に付きまとう。
死に際のあの苦痛に歪んだ顔が詳細に目に浮かんで、吐き気がした。
少年の生首と目が合った。
垂れ下がった舌は泥と混じり合った茶色い血液と違って、赤く、それはとても赤く色づいていた。
上を見るといつの間にか、天蓋までもが紅くなっていた。
どこを見ても真っ赤になっている。
地面も空も、自分自身も。
こんなこと、望んじゃいなかった。
いつまで続くのだろうか。
ふと、そう思った。
きっと俺が死ぬまでこの罪の十字架は降ろすことは出来ない。
抱えて生きないと。
絶対に生きないといけない。
俺が定めたたった一つの目的のために。
殺した者に生かされ続ける。
望んで得たわけでない『力』の代償。
これは最低な俺への罰であり、新たに始まる虐殺の序章に過ぎないのだろう。
◇
……ルナマグナ共和国とレヴァレンシア王国の国境戦争。
史上最大の規模で幕を開けた戦闘は開始10分で終わりを迎えた。驚愕すべきはその終結方法である。それは、戦場にいた全生命の死滅による、両国共に戦闘の続行不可のためであった。
犠牲者は合算で約60000人。
それ全てがたった一人の青年によって引き起こされたのであれば尚更驚愕に価するだろう。
その青年の名はシノノメといい王国の三等兵だった。
三等兵とは敵国の主力能力者のギフトを判明させるだけの捨てゴマであり、取るに足りない能力を持つ者が就くいわばカス能力の掃き溜めだった。
王国はもちろん共和国もノーマークだったに違いない。まさかそんな所に最悪の能力者がいたとは……。
ここからレヴァレンシア王国の無敵と言われていた戦線は崩壊する。
そして彼は共和国の英雄となった。
┅┅ある、老人の手記
こんな始まりだけどハッピーエンドに持っていきます。