第十話:良薬は口に苦すぎる
不規則に揺れる光が俺の瞼をくすぐる。
微睡みから徐々に意識が覚醒し始めた。
ゆっくり目を開けると、もうそこは森の中ではなかった。
背中に柔らかい感触があったので、多分ベットの上に寝かされているのだろう。
揺らめいた光はランプの光だった。
明りが足りないのか部屋は薄暗い。
急激な状況変化に、寝起きということもあって思考がまだ追い付けていなかった。
それを除いても今日は濃い出来事が多すぎる。
一旦出来事を整理するために、さっきまで起こっていたことを一つ一つ確認しようとすると
「やっ!起きたかい!思ってたより随分早く目が覚めたんだね~。まだ五時間ぐらいしか経ってないよ」
少し離れた所から、知らない男の声がした。
やや早口なのが特徴的だ。
そいつは水の入ったコップを持って近づいてきた。
反対の手には、得体の知れない緑色のゲルが入った皿があった。
ニコニコしながらベッドの隣にある年季の入った椅子に座る。
「はい、これ、化膿止め」
そう言って得体の知れない物体をズイッと口元に差し出してきた。
強烈な草の緑臭さが、鼻孔をくすぐるどころか、刺してきやがる。
俺が口に含むのをためらっていると、
「ほら、遠慮することはない。この薬草がどんなに入手困難だったとしても、治療しようと決めたのは僕だ。行動の責任はとろう。最後まで看病するよ。イヤなに、この化膿止めに使われている薬草は10年に一度しか咲かないと言われている、ラジウムフラワーが使われていて……」
俺の渾身のイヤな顔を気にすることなく淡々と言葉を繋いでいく。
うッ、イヤなタイプの人間……。
相手の良心に攻撃してくるタイプ。そうやって、道徳的に選択肢を狭めてくる。
人の眼があるところなら効果は二倍だ。
俺の必殺技シリーズ、馬耳東風が使えない。
「あっ、ふーん」「ソダネー」「割とあるね」。
以上三つの言葉を適当に使うことで、テキトーに会話を終わらせられる。
このタイプの人は、分かってやっている頭がよくて性格悪いやつか、ただの純粋バカかの二択だ。
目の前にいるこの男は多分、前者だろう。
うっわ~余計に苦手かも。
「……だからね、とても効果があるんだ!驚きでしょう?驚きだよね?ゴキブリの体液で育つなんてロマンでしょ!?」
はい、NGワードいただきました……。
なんで、ラジウムなのにゴキブリ出てくるんだよ。せめてそこは放射能であってくれ。
てか、この人初対面なのにグイグイ来るなぁ。
さらに口に入れる気を無くしてしまって途方に暮れていた俺は、覚悟を捨てようと……
「うんっ!早く飲もうね!」
強制的に流し込まれた。
閑話っす。
昨日、手を切りました。
人間関係じゃないです。普通に刃物で。
リンゴ剥くの難しいな。




