表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/33

第九話 : 薄れゆく意識の中で

「……ぇ」 


 何が起こったのか理解するのに、少し時間がかかった。

 今分かるのはまだ自分が生きているということだけ。


 目の前にいたはずのバケモノは忽然と姿を消しており、生暖かい血液が柔らかに降り注ぎ俺の体を赤色に染め上げた。


 全身から力が抜けて、その場に座りこむ。

 たまたま触れた地面に生えていた背丈の短い草は、朝露がまだ残っていたらしく俺の体と対照的に冷たい。


 力が抜けたせいで忘れていた右腕と内臓の痛みがぶり返した。

 その痛みに思わず顔をしかめる。

 

「ゲホッ…ゲホッ……。あぁ、くそっ、生臭っ」


 噎せかえるほどの激臭が辺りに漂っていた。

 状況を察するにどうやら助かったらしい。

 助かった理由は全く理解できないが。

 でもまあ十中八九、この世界でいう異能力でも発現したのだろう。

 

 目に血が入ったので視界が悪い。

 嫌な霞み方だ。

 眼球自体が痛い。

 さっきまで極限状態だった事も関係しているのかもしれない。

 緊張が一気に緩んだ。

 目を擦りたくても、肝心の手のひらも血でべっとりで拭いても意味がない。

 不快だが放っておくしかない。

 

 そんな視界の端で動くものがあった。

 多分時雨だろう。

 時雨は、少し遠くの場所にいた。

 一応、怪我だけしてないか聞いておかないと。後々大変なことになりそうだ。

 

 俺は残り少ない力を込めて立ち上がった。

 ぬかるみに足を取られて、ふらついてしまう。


 ガクンと、体が沈んだ。


 駄目だった。

 思ってたよりも出血していたらしい。

 込めたはずの力が膝から抜けて、あっけなく地面に倒れ伏した。

 口に広がる泥と鉄の味。

 その時顔面を強かに打ったが、それほど痛くは感じなかった。


 時雨の声が聞こえた気がする。


 傷口が熱い。まだ血は止まってない。当たり前か……。


 このまま死ぬのかななんて、弱気なことを考えてしまった。

 

 折角助かったのにな。


 意識が薄れている。

 

 白くなってきた。


 ……まだ、生きたいなあ。


 

 そう思った瞬間、不意に俺の背中に誰かの手の感触がした。


死にません。まだ死にません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ