第八話 : X視点
それは偶然だった。
宗が、ギフトカードをたまたまポケットに入れていたから。
そして、大量の血が流れポケットを濡らしたから。
いくつもの条件が奇跡的に噛み合って、宗を救った。
宗の発現した能力は『沸騰』。
文字通り、水を沸騰させるだけの能力。
だが、放課後の会話であったように対生物戦闘では、最強の能力だといえる。
理由は、一般的な生物の体の約半分が水分で出来ているためだ。
またとても『地味』であることも良点だろう。
長ったらしい掛け声や下らない詠唱、無意味かつド派手なエフェクトなど必要としない、つまり相手に気づかれずに攻撃することができる。
まさに一撃の『必殺技』。
先の熊のバケモノの死因は血液が気化して血管が破裂したから。それ以外にも徐々に体温を上げて、風邪に見せかけて殺すこともできる。
重ねて、ある程度沸騰させる部位をコントロールできるため、拷問にも最適だ。
眼球だけ破壊することも、舌だけ破壊することも可能。
これまで拷問より数倍捗る。
今はまだlev,1なので、対象に触れなければいけないが、ギフトレベルが上がる度に凶悪さは増していくのは明白である。
充分チートと呼べる能力。
けれどその全てが『殺す』『傷付ける』ことにしか通じない。
人によってはどうしようもないただのクソ能力でもある。
彼が能力を使って何かになろうとするなら、英雄か殺人鬼にしかなれない。まぁ英雄と呼ばれる者は大概、いや、間違いなく大量殺人鬼なんだが。
……宗が会話を思い出し、能力の本質を自覚するには、まだ少し時間がかかりそうだ。
◇
東雲 宗
ギフト 『沸騰』
lev,1 触れた対象を沸騰させる