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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
97/211

エマの涙

「エマさんおめでといございます。見事な戦いでした。」

 

 さして長い戦いではなかったが終わった途端に汗が吹き出してくる。

 エマは荒い呼吸を繰り返した。

「良かったよ、シドラの戦法が功を奏して、これで一回戦通過ね。」

「私の助言が有効でしたので私もうれしいです。」

 隣を見ると次の試合を待っているラフレアが鬼のような形相で試合場を見つめている。

 

 エマの試合を見ていても何も感じていない風である。

 おそらくエマが声を掛けても気が付かないであろう。

「次はラフレアさんです。あまり体力を消耗しなかったのは幸いです。」

「ラフレアちゃんの試合が始まるわよ。」

 エマはその場に座り込むとラフレアの試合を見ることにした。

 

 ラフレアの相手はエルフィン族にしてはかなりガッチリした感じの選手であった。

 それでもドワッフ族に比べれば遥かに細いと言えるだろ。

 しかしパワーとスピードのバランスの取れた良い選手に見えた。

 普通の相手ではほぼ無敵と言っても良いかもしれない。

 

 これまで見てきた選手の中ではフローレとの比較になるがかなり良い勝負になったであろう事は想像に難くない。

 身長もエマより高く体は十分に太かった。

 相手はラフレアの実力を知っており、そのパワーにはかなり用心しているようであった。

 絶対的なスピードではラフレアは体格的にもそれ程早くない。

 したがってとにかく相手はラフレアを寝かすことに終始していた。

 

 ラフレアのパンチをかいくぐって背中に回るとラフレアを抱えて後方に倒す。

 直ちにラフレアの胸の上に膝を載せ腕を取る。

 ラフレアは腕をロックしそれに対抗するが相手は足を入れ替え腕ひしぎの体制に持ち込む。

 ロックした腕を足を使って切るがラフレアの太い腕は伸ばす事が出来ない。

 かなり体格の良い選手であるにもかかわらず足の力をラフレアの腕の力が凌駕しているのだ。

 

 ラフレアは再び腕をロックするとそのまま体を入れ替えて相手の上になろうとする。

 素早く相手は体を伸ばしてラフレアから逃れると離れ際に素早く蹴りを出す。

 ガツンッと音を立ててラフレアの頭に当たる。

 しかしラフレアは全く反応しない。

 

「なまじの蹴りではラフレアさんには効きそうもありませんね。」

「あたしの蹴りではどうかしら?」

「急所に当たればラフレアさんでも倒せるでしょう。」

「どんな急所かしら?」

「延髄、こめかみ、天頭…位でしょうか?」

 

「顎は?」

「膝蹴りですか?走って行って体ごとぶつければ可能性はありますね。」

「回し蹴りの顎なんてのは現実的ではありませんしね。」

「掴まれたらおしまいね、離れて戦わなくては。」

 

「やるとすれば鼻面ですが…一発で倒すのは難しいでしょう。試してごらんになりますか?」

「冗談じゃないわよ、そんなことしてラフレアちゃんが逆上したらどうすんのよ。ウィザーなら本当に止められる?」

「まあ、判りませんが……。」

「そこで本音を晒すんじゃないわよ。こっちは命がけなんだから。」

「それは今戦っている人も同じだと思いますが……。」

 

 エルフィン族の選手もいささか攻めあぐねる状態になっていた。

 寝技、関節技が圧倒的な体力差ではね返されるとなると残るのは打撃技しかない。

 それとて効きそうな場所はあまりない。

 

 ラフレアは前面にガードを固めるとじりじりと相手を追い詰め始めた。

 相手の選手も立ち技から蹴りを出すが蹴った途端に足を掴まれたら話にならない。

 唯一の望みは最初の攻撃ポイントで判定がどの位出ているかであるが、このまま逃げ回っていたら判定は間違いなく覆るだろう。

 

 ラフレアはさらに相手を追い詰めて行く。

 突然エルフィン族の選手は大きく足を上げると踵落しをラフレアに見舞う。

 おそらくラフレアに通じうる最後の手段と考えたのだろう。

 これは明らかにラフレアが予想していた。

 しかし身長差からそれ程の威力は持ちえなかった。

 

 ラフレアは足を掴むと軸足を払って相手を押し倒す。すぐにサイドに回って相手を潰しにかかる。

 サイドポジションになるのを嫌って相手が膝を体の間に滑り込ませるが、ラフレアはそのまま両足を広げて相手の体の上にのしかかる。

 ラフレアは身動きの取れなくなった相手の首の後ろの手を回し強く引きつける。

 

 相手が完全に潰されるとすぐにラフレアは体制を入れ替え相手の頭の上から覆いかぶさり上四方に固め体の位置を下げる。

 会場から一斉にどよめき声が上がる。

 ドワッフ族必殺のパフパフ締めである。

 

 エマにしてみれば応援する所であろうが、次の対戦相手が自分となれば相手に逃げて欲しいと言うのが偽らざる本音である。

 下の選手は必死でもがいている。主審は体を低くして選手を覗き込んでいる。

 選手がぐったりなったので主審はラフレアを止める。

 

 相手は腕が一本顔の前に入っていたがラフレアの胸は腕ぐるみ相手の頭を締め付けていたようである。

 なんというスイカであろうか。

 選手はぐったりとなって動かない、すぐに主審が活を入れると選手は息を吹き返す。

 

「行くわよシドラ。」

 主審のコールを聞くまでもなくエマは控室に引き上げる。

 ところがエマは控室に戻った途端にシドラに泣きを入れた。

 

「ね~っ、シドラ~っど~しよ~っ、あんなの勝てっこまいよ~っ。」

「え、エマさん気をしっかり持ってください。」

 

「やだよ~っ、あんなのラフレアちゃんじゃないよ~っ、殺されちゃうよ~っ。」

「泣かないで下さい、エマさん。貴方が怖いのは負ける事ですか?ラフレアさんの事ですか?」

 

「だって、だって~っ、あんなに容赦のないラフレアちゃん見たこと無いもの~っ。」

「大丈夫ですよ、これは殺し合いではありません、ウィザーがあなた方の安全は保証致します。」

  

「い、いや怖いはラフレアちゃんと戦ってその後ラフレアちゃんとどんな顔して合えばいいのよ。」

「エマさんこれは試合です。命を掛けることなく戦う戦場なのですよ。安全を約束された殺し合いの模倣なのです。」

 

「こんなに試合が怖いと思ったのは初めてなのよ~。」

「エマさんは面白い方ですね、あの恐るべき力を持ったザルディに真っ向から立ち向かった貴方がそれより遥かに力の落ちるラフレアさんを怖がっています。」


「怖いわよ、あんな大きな体で向かって来られて怖いはずが無いじゃない。」

「貴方が恐れているのは多分ラフレアさんの力が分かるからでしょう。」

 

「だけどみんなすごいよね、あんなすごい娘に恐れもせずに立ちむかうんだもね。」

「貴方が恐れているのは自分がラフレアさんに負ける事も有るでしょうが、ラフレアさんに勝つことも恐れていると思います。」

 

「アタシが?ラフレアちゃんに勝てっこ無いじゃない。」

「そうでもありませんよ、勝負は時の運です。」

 

「…………………。」

「これまでの相手は知り合いでも友人でもありませんでした。今回初めて友人と戦うことになります。勝っても負けてもお互いが傷つく事を恐れているのだと思います。」

「そう……かも知れない。」

 

「何故相手を傷つける事を恐れるのかと言えばそれは貴方が戦士では無かったからです。」

「当たり前よ私はただの田舎の村娘よ。」

「貴方が戦士で無かったのはとても幸運な事だっのですよ。」

「どういう意味?」

 

「かつてピクシー族はドワッフ族の侵攻を受け、多くの死者を出しました。そして多くの女たちが奴隷として拉致された事はご存知ですね。」

「だ、だけどそのおかげでピクシー族とドワッフ族は融和したんじゃないの?」

「その間どれだけの人が戦で死んだかご存知ですか?」

 エマは首を横に振った。

 

「当時の人口の約4割です。」

「そ、そんなに死んだの?」

「はい、グラス・ドームが無ければドワッフ族はフェブリナ・ドームに侵攻してきた筈です。」

 

「あ、ちなみにこれらの事はもちろんパンフレットに書いてあった事ですから多分正しいでしょう。」

 

「マイリージャの選手は全てが兵士です。戦場で人を殺すのが仕事の兵士なのです。」

 

「貴方が茶化したタックリー選手も、戦場に出たのかどうかは知りませんが人を殺す為の訓練を受けた兵士なのです。」

 

「シドラは何を言いたいの?」

 

「戦場では親子や兄弟ですら殺し合いを行います。良くも悪くも目の前の相手を殺すのが兵士の仕事ですから。」

 

「怖じ気を感じるのは恥ずかしい事ではありません、むしろ当然の事でしょう。しかも相手は圧倒的な力を持っています。」

 

「貴方が怖いのは負けることよりも友人と戦う事に恐れを感じているのです。むしろ戦場ではためらいなく相手を殺すことが最善なのですから。」

 

「私はエマさんに戦士になって欲しくは有りません。戦いを恐れ、人を気遣うあなたが私は最も好ましいと考えております。」

 

「今までエマさんは私という後ろ盾が有る中で戦ってきました。最後は私がいるという安心感が有りました。」

 

「いま、貴方は自分自身の意思で貴方の友人と戦う事になりました。今回の戦いは誰も助けてはくれません。自分ひとりで戦かわなくてはなりません。」

 

「心配しなくてもこれは模擬戦ですし、第一エマさんがラフレアさんを傷つけられるとも思いませんが。」

 

「な、何よそれ、アタシに勝ち目が無いっていうの?」

「はい、今のエマさんであればまず勝ち目は無いでしょう。でも………。」

「でも?なによ。」

「いえいえ、なんでもありません。」

「なによ、途中まで言って止めないでよ。」

 エマはシドラが仮面の下でニヤリと笑うのを感じた。

 

 この野郎もったいを付けやがって。

 

「それで?」

「良いでしょう、それは………。」

「それは………?」

 

「逃げる事です。」

 

「逃げる?」

「はい、10分間逃げ続ける事です。」

「だってそれじゃ勝てないよ。」

「おや?エマさんは勝ちたいのですか?」

「ま、まあ………それは………。」

 

「はっきり言ってエマさんに勝ち目はありません。」

「足へのキックは?」

「あの太い足には多少は効くでしょうが決定的ではありません。」

「一応場外に出ると反則裁定が有りまして、一回だけでは負けにはなりませんが3回やれば反則裁定になります。」

「逃げ回って最後は判定で勝つの?」

「はい、逃げながら相手を場外にたたき出す、それしか無いでしょう。」

 

 エマは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

「それとも真っ向から立ち向かって玉砕するかですね。ラフレアさんは全ての試合が1分以内ですから。」

「それしかないのかな~。」

「まあ、どちらにしてももうすぐ試合は始まります。」

「うう~っ。」

 

「まあ気楽に考えなましょう、命までは取られませんから。」

「他人事だと思って~。」

 

「ただこれだけは言えます。勝っても負けても精一杯戦えばきっとおふたりはもっと仲良くなれますよ。」


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