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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エルフィン族の武道大会
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エマ本戦第一試合

 本戦当日午前中は弓と槍の試合なので、徒手戦と剣技戦は午後からであった。

 

 エマ達は準備をして試合場に出かける。

「いい事?今日は全員が試合に出るのであなた達はふたりだけで試合の観戦をしなくちゃならないから私達が戻るまで観客席を動いちゃだめよ。」

「はい、わかりました。」

 エマはふたりを観客席に連れて行った。

「試合までまだ2時間は有ります。弓と槍の部が終わると試合会場の模様替えが有ります。ちょっとした見ものですから、楽しみにして下さい。」

 ゼンドレの言うのがどんなものなのかは知らないがなかなか楽しみだとエマは思った。

 

 現在競技場はグラウンドとなっており弓の部と槍の部が交互に競技を行っていた。

 観客席はグラウンドからかなり高い位置に有り、席にはベンチが作られていた。

 天井は高く全体が光っておりグラウンド全体を明るく照らしていた。

 

 競技場はだ円形になっており観客席も同様にだ円形に競技場を取り囲んでいた。

 弓競技にはオルファ・イアリキーが出場しており今試合の真っ最中であった。

 試合と言っても弓も槍もポイント競技であり誰かと戦う訳では無い。

 

 弓は、遠くの的に当てる遠投、一定時間内に何本の矢を的に当てられるかを競う速射、動いている的にどの位正確に当てられるかを競う動射の競技が有り、それぞれのポイントの合計の高い者が勝者となる。

 今は動射の試合中であった。

 上から吊るされた的を物陰からブランコのように動かしてそれに当てる競技である。

 競技者が構えを取ると運営員が笛を吹く、すると物陰から的が滑り出して来るのだ。

 

 的の大きさは大きな鹿位の藁の束に的を書いた物である。

 イアン選手は構えを取ると隣に立っている運営員が短く笛を吹く。

 すると盾になっている物陰から天井から吊るされた藁の的が飛び出してくる。

 上から吊るされた藁の的は反対側の盾の部分まで一定の速度で動き盾の裏に隠れた運営委員に捕まえられる。

 

 的に刺さった場所によって点数が異なり10本の矢の合計点数で競われる。

 競技場に作られた掲示板には選手8人の名前が書かれそれぞれの競技の点数と合計点数が掲げられている。

 イアン選手が矢を射終わるとエマ達に気がついたのか手を振ってくれた。

 

 まあ、レイさんとラフレアの組み合わせでは目立つなと言う方が無理だろう。

 槍の試合も遠投、動射、そして威力があり威力は槍の貫通力を競う競技である。

 比較的近い距離から投げ板を何枚打ち抜けるかを競う。

 槍は各自の自前の物を使うので特に長さの制限は無い。

 重量にも制限は無いが重ければ貫通力が増すが遠投には不利である。

 槍の交換は認められ無いので軽くて遠投に向いたものを使うか?重くて貫通力の有る物を使うか?

 それぞれ考えて自分に有った槍を選ぶことになる。

 

 この競技を見てわかる通り弓と槍は戦争の為では無く、狩猟の為の技術の競技であることがわかる。

 この点において格技や剣技とは違った意味のある競技だと言う事がわかる。

 

 弓の動射が終わると今度は槍の動射になった。

 槍は弓よりもずっと近い位置で投げられる。

 それでも鹿を模していると言われるだけあって相当な速さで投擲者の前を動いて行く。

 正直こんなものに良く当てられる物だと感心する。

 

 全ての競技が終わり表彰が始まる上位2者のみが表彰される。

 イアン選手は3位の成績で残念ながら表彰はされなかった。

 それでもこの競技では一般出場の3位は大変な好成績らしい。

 弓の協議はエルフィン族のプライドをかけて6位独占が普通なのであるらしい。

 

 剣技と格技では一般出場の選手の上位がかなり出るのと大きく異なっている。

 弓と槍についてはエルフィン族かなりのこだわりを持っているらしい。

 表彰式が終わると照明全体が暗くなった。ウィザーが十人ほど現れ観客席を一周するように等間隔に並ぶ。

 

 荘厳な音楽が聞こえ、ウィザーの足元が光り始める。光は様々な色に変わりながらウィザーのシルエットを照らし出す。

 ウィザー達が一斉に両手を上げると一段と音楽が大きくなり光が天井を走り回る。

 やがて地鳴りにも似た音と共に地面が2つに割れグラウンドは両脇に吸い込まれて行き下から武道場の舞台がせり上がってくる。

 グラウンドに比べ遥かに小さな武道場の周りには椅子が設置され武道場を丸く囲んでいた。

 

 音楽は止みウィザーが手を下ろすと場内は明るくなってきた。

 ウィザーの立っていた場所の壁が開き周囲の観客席からせり上がってきた武道場の観客席への通路が出来る。

 人々は外側の観客席から内側の観客席へ順次移動して行く。

 

 エマ達も子供達を連れて内側の観客席に移動して行く。

「それじゃ、これはお弁当と水筒、それにおやつよ。おやつは一度に食べちゃだめよ。」

 エマはふたりにポシェットを渡す。

「ありがとうエマお姉ちゃん。」

「それじゃあ、あたし達は試合が有るから行かなきちゃならないけど試合が終わって誰かが来るまでここを動いちゃだめだよ。」

「はい、わかりました。」

 

「それではエマさん参りましょう。午後の試合は一時間後ですから。」

「それから今夜は出場者のパーティが有るから帰っちゃだめよ。」

「無論酒が出ますが、相手を潰さないようにしてください。」

 

 はて?何のことでしょう?

 

 組み合わせ表は事前に会場前に張り出されていたので分かっていた。

 エマは2戦目にラフレア、決勝でフローレと当たることになる。

「何よこれ?最悪じゃない。」

「エマさん、戦いとは常に最悪な状況で行われ最良の結果を求めて命を掛けて行われます。最初に諦めては迎えるのは死のみです。」

 

 いや、あたしゃ命まで掛けようとは思わないから。

 

「エマさん、いよいよなの!ラフレア頑張るから絶対に2戦目で当たりましょうなの。」

 いやいや、そんなに頑張らなくていいから。

 それでなくともラフレアちゃんて試合になると人が変わるけど、試合の記憶は残っているのかな?

 

 試合は剣技と格技を男女別に交代で行われた。

 格技女子一回戦、格技男子一回戦、その後剣技女子一回戦、剣技男子一回戦の順で行われる。

 それぞれの戦いの後に休息時間を取るためである。

 試合開始を待つ間エマは柔軟体操を行い軽くスパーリングを行う。

 持ってきた軽い食事を取り水を飲んだ。

 

 試合前は緊張する。

 まあエマにしてみれば試合をして勝って得るものは賞金であり、負けて失うものは特に無い。

 名声などというものに無縁な生活をしてきたエマにしてみればそれがどのような物なのかすら理解していない。

 しかしエルフィン族もマイリージャ代表もそれぞれの国の威信を掛け戦っているのだ。

 

「何か周りの人達ピリピリしているわね。」

 本戦からは控室を区切って小さなスペースを作ってくれていた。

 やはり対戦前に対戦者と顔エオ合わせるのは気まずい。

 その中で精神を集中したりトレーナーと作戦を練ったりするのだ。

 

「ラフレアさんとフローレさんに関しては言うことはありません、後はやれるか、やれないか、だけですから、精神的に押されたら負けです。」

「うん……。」

 試合が近づくに連れてだんだん口数が減ってきた。

 エマと言えどもやはり緊張している様である。

 ウィザーがやって来て手足に防具を巻いてくれる。

 

 本戦は前半5分の対戦と1分間の休息そして後半5分の対戦である。

 今回はエマのほうが先でラフレアはその後、1回戦で勝てばエマとラフレアの戦いである。

「だいたい酷いわよね外様のふたりを2回戦で当てるなんて。」

「まあ、ラフレアさんは優勝候補筆頭ですからね、決勝に外様二人が揃う事態は避けたいでしょうしね。」

 

「エマ選手時間です。」進行係の女性が現れる。

 非常に引き締まった体つきの女性だある。彼女もまたこの大会を目指してきた選手らしい。

 審判こそウィザーが行うもののその他全ての雑用は各エルフィンの道場が協力して進められる。

「最初の選手は長い手足を生かした打撃中心の選手です。打撃だけならエマさんの敵では有りませんが接近しての肘と膝には気をつけて下さい。肘を出しながらつかみに来ますから倒されると厄介です。」

「分かったわ。」

 

 試合上には既に相手が待っていた。名前を呼ばれて試合場に上がる。

 相手はエルフィン族の女性でエマより背が高く手足も長い、非常に引き締まった体つきをしていて無駄の無い鋼の様な体をしていた。

 非常にスレンダーであり、エルフィン族にしては胸が小さかった。

 

「ふっ、勝った!」

「エマさんここは大きさを競う勝負じゃ有りませんから。」

 

 わかってるわよー、うるさいなーもう。

 

 主審の合図とともに飛び出した。

 試合場の真ん中で向かい合うと相手は左のパンチを伸ばして来る。

 届かないと思ったらパチンと顔に当たった。

 相手のパンチは思ったより伸びてくる。

 

 慌てて後退すると相手はそれより早い速度で間合いを詰めてくる。

「ヤバイ!」

 そう思った途端顎に衝撃が走る。

 幸いガードをしていたので顔には直接には当たらなかった。

 しかし相手は間合いを詰めたまま肘打ちを連打して来る。

 次に来るのは膝か!

 

 膝が来たので後退しながら掌底で叩き落とす。

「場外!」

 主審が宣告する。

「エマさんまっすぐ下がっては行けません回り込んで下さい。」

 シドラが下から怒鳴る。

 

 いかん初っ端を制されて浮足だった。

「始めっ!」

 主審の声が響く。

 相手は一直線に突っ込んでくる、御しやすしと見たのか?

「ふっ、甘いわ。」

 エマは横にステップすると蹴りを放つ。

 

 しかし相手はガードで受けながら後ろに下がって威力を殺す。

 そのまま前に出るとエマに向かってパンチを繰り出す。

 再び横にステップし蹴りを出す。

 

 相手の選手はガードを上げるがエマの蹴りは一旦上がったものの今度は下に向けて蹴り降ろされた。

 

 …………………………

 

「良いですか?エマさん貴方の蹴りは人間離れした威力が有ります。しかし防具を付けた試合となれば当然ガードをします。」

「ガードごとぶっ飛ばせばいいじゃない。」

「しかしそうなれば自分の足も痛めます、相手もダメージを受けますが、これまでのように一発で倒すのは難しいでしょう。」

 

「それでシドラのはどうすればいいと思うの?」

「発想を逆転します。頭を狙わずに足を狙います。」

「はあ~っ?それこそ効かないんじゃないの?足だよ、足。」

「いいえ、太ももは非常に太い筋肉が付いていてその中心にはたいへん太い大腿骨が有ります。エマさんの蹴りと大腿骨に挟まれた筋肉は非常な痛みを感じるのです。」

 

「ホントかな~っ?」

「まあ、一度練習して見ましょう。」

 

 …………………………

 

 これが今回本戦に臨むに当たりシドラが授けた秘策で有った…。

 

 エマの蹴りは相手の太ももに当たった。

「あうっ!」

 相手の選手はガクッと膝を落とす。

 予想以上の痛みに相手選手の顔が歪む。

 

「もらったーっ。」

 エマは強烈な蹴りを相手の頭目掛けて繰り出す。

 相手選手がガードを上げるが間に合わない。

「やめっ!」

 すっと、主審の手がエマの蹴りの前に滑り込んで来る。

 

 勝負は終わったのだ。相手の選手が悔しそうに床を叩いている。


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