予選本戦の開始
本予選の当日はアイーラやフローレも来てくれてセコンドに付いてくれるそうだ。
組み合わせは壁に張り出されている。
「一回戦でラフレアちゃんに当たったらどうしよう。」
エマはドキドキしながら張り紙を見に行った。
ほおお~っとため息を付く。
ラフレアはAブロックでエマはBブロックであった。
本戦まで二人が当たることはない。
「良かった~。ラフレアちゃんとは当たっていないわ。」
「良かったですね、エマさん。これで心置きなく相手をぶちのめせますね。」
相変わらず能天気なシドラであった。
「誰をぶちのめすんだって?」
後ろから剣呑な声が聞こえた。
エマの後ろにガイア・タックリーがすごい形相でこちらを睨んでいた。
なんでコイツあたしにこんなに突っかかるんだろう。
「アンタとは3回戦目に当たるね、せいぜい他の選手に潰されないように勝ち上がって来るんだね。」
「いいわよ、あたしもうんと頑張るから。」
ニコッと笑ってエマは答える。
ガイアは渋い顔をして去って行った。
「エマさんも随分人当たりが優しくなりましたね。」
「突っかかって来る人間にはああやっていなした方がプライドが傷付くのよね。」
「さすがエマさん、人間の悪さに磨きがかかって来ていますね。」
あーうるさい。
「エマさん来ておいででしたか。」
「あ、レイさん。組み合わせはどうでした?」
「はい、明日の試合ではゲルド・ミシュラーには当たりませんが2回戦目にはあのピクシー族の男に当たりますね。」
「ふーんそうなんだ強敵だけどレイさんなら大丈夫だよね。」
ニコッと笑ってレイを応援する。
「まあ、やって見なけりゃわかりませんが、頑張りますよ。」
「そだね。それじゃ私はラフレアちゃんの所に行って来るわ。」
「さすがエマさん、レイさんのやる気が跳ね上がっていますね。」
「あったりまえじゃない。あんなマイリージャみたいな連中に勝たせてたまるもんですか。レイさんには精一杯あたしの笑顔で頑張ってもらわなくちゃ。」
「悪女の微笑みは男を狂わせますからね。」
あー、気にしない、気にしない。
エマは更衣室に行ったがラフレアは準備室でアップしているとの事だった。
「ラフレアちゃーん」
予選でラフレアと当たらないと分かったのでエマは思いっきりの笑顔で控え室に入った。
ギロッ!!
ラフレアの周囲に暗黒領域が色濃く渦巻いていた。
「な、なに?ラフレアちゃん……。」
慌ててガルドが走り寄って来る。
「あ、あ、あ、エマさん今はラフレアさんに近づかないで下さい。今は集中していますから、誰が来ても分かりません。」
「な、何よそれ。」
ラフレアは準備室に有る丸太に向かって張り手を飛ばしている。
「ふうううん!!」
ドカン、ドカンとラフレアの手が丸太に当たる度に部屋が揺れた。
な、なんじゃこら?地震か?
「ラフレアお姉ちゃん怖い。」
ティンカーはエルーラにしがみ付く。
「大丈夫よ、ラフレアちゃんは試合前で少し気が立っているのよ。試合が終われば元のように優しいラフレアちゃんに戻るわ。」
エルーラはティンカーを部屋の隅に連れて行く。
「ラフレアちゃんいったいどうしちゃったの?」
「いえ、試合に意識集中し始めた頃からいつもこうなりますので。」
「あんた、いったいラフレアちゃんに何をしたのよ!」
エマはガルドの首を締め上げた。
「いえいえ、私はなにも。ただ、多分ですがラフレアさんは優しい娘ですから、相手と戦うときには自分を押し込んでしまうのでは無いかと?」
むむ、なんとなくラフレアちゃん性格からしてわかるような気がする。
エマは以前製材所の食堂で大暴れしたラフレアの顔を思い出した。
しかしあの時とは違って我を忘れている訳では無いようだ。
「あ、ティンカーだめよっ。」
ティンカーがエルーラの手を振り切ってラフレアの前に飛び出した。
「ラフレアお姉ちゃん。」
ラフレアが再びギロッとティンカーを睨む。
ところがティンカーを見るといきなりラフレアの表情が変わる。
「ティンカーちゃん来てくれたの?」
「うん、お姉ちゃんの活躍を見に来たよ。今日はうんと頑張ってね。」
ラフレアはティンカーを抱きしめると嬉しそうにほほ笑む。
「うれしいなの。ラフレアうんと頑張るから応援してほしいの。」
「ラフレアちゃん、頑張って下さい。ティンカーと一緒に応援していますから。」
「エルーラちゃん、ありがとうなの。二人に応援されたら勇気100倍なの。必ず優勝するなの。」
良かったあの時とは全然違ってちゃんと自分を保ってる。
「ラフレアちゃんお互いに頑張ろうね。」
しかしエマが声をかけた途端にいきなりラフレアの顔つきが変わる。
再びあの怖い顔のラフレアに戻っていた。
エルーラがそそくさとティンカーを連れて隅に退避する。
ラフレアは部屋の隅に置いてあった丸太を掴み上げる。
胸のスイカをぐるぐる回してとカパッと両側に開くと丸太をそこに押し込む。
「ご覧くださいエマさん、昨年の失敗を踏まえて今年はサラシの巻き方を研究しました。その結果このように胸の動きの自由度を上げることに成功いたしました。」
アンタはエイリアン製造機か?
「ふううん!!むぐぐぐぐ~っ。」
ラフレアは真っ赤になって力を込める。
丸太がメキメキと音を立て始める。
「はがああああ~~~っ!!!」
バキンッと音がして丸太が砕ける。
ひえええぇぇぇ~~~っ。
「な、なに?あんなことされたら選手の頭が潰れちゃうじゃない。」
「だ、大丈夫です。その前に審判が止めますから。」
「審判に止められるの?本当に止められるの?」
「も、もちろん。審判はウィザーですから大丈夫です……多分。」
「何それ?最後の間はなに?」
「もちろん選手の安全には注意を払って……。」
「死んじゃうよ、あんなことされたら本当に死んじゃうよ。」
あ、アタシ本戦に残ったらラフレアちゃんと試合をするの?
「見るんじゃ無かった、知るんじゃ無かった。ラフレアちゃん、今のラフレアにとって子供以外はすべてが戦う相手なんだ。ましてやアタシは試合の相手だぞ。」
「エマさん、涙目になっていますがご気分でも悪いのですか?」
あーんもう、うるさいなー。
ダメッ夢とか希望とか努力とか、あの巨乳の前のには何の意味もなさないわ。
あの巨乳に勝てる人間なんか存在する筈がない。
いや、大きさのことじゃなくってさ。
「エマさん準備運動をなさって下さい。少なくとも予選で優勝すれば少ないですが賞金も出ますし。」
「え?ホント?」
いきなりエマの瞳の中に金のマークが現れる。
「はい、マイリージャがスポンサーになってから賞金が出るようになりまして、本戦出場者には全員金一封が出るそうです。」
「金一封てどのくらいかしら?」
「金額までは分かりませんが、些少ではないでしょうか?」
「でも、出るのよね。」
「はい、無論本戦優勝と準優勝にはそれなりの賞金がでます。」
「よっしゃーっ。頑張って本戦出場を目指すわよ。」
「エマさんを動かすにはお金をぶら下げるのが一番ですね。」
あー、もうほっといてよ。
「エマさんそろそろ着替えをするわよ。」
アイーラがエマの着替えに誘う。
「あ、はい。」
「子供達はフローレにお願いするわね。」
「任せといて、ママ。それじゃいこうか?」
「「はーい。」」
子供達は観客席の方に向かった。
「貴方は外で待っていなさい。」
エマが更衣室の前でシドラに向かって言う。
「はい、ちゃんと学習しておりますから、ドアの外でお待ちしております。」
「よろしい、いい子にしているのよ。覗いたら殺すからね。」
シドラの目の前でドアがピシャリと閉められる。
「あー、しかし何か寂しい気がします。」
「それじゃエマさん服を脱いだら胸にサラシを巻くわよ。」
「サラシで胸を締め付けるんですか?」
「ちょっと苦しいけど相手の選手にドワッフ族がいるからサラシで潰しておかないと胸を挟まれるわよ。」
うう~っせっかくの胸の形が崩れちゃうのか。
「あまり締め付けると息が苦しいし、ゆるいと動いているうちに緩んじゃうから。」
アイーラは慣れた手つきでエマの胸にサラシを巻いていく。
「苦しくない?大きく息を吸ってご覧なさい。」
大きく息を吸うと胸が広がってサラシが胸を圧迫する。
「ちょっと、苦しいかな?」
「うーん、これ以上緩めると動きながら下に落っこちたう危険が有るのよね。」
「とりあえずこれでパンチを打ってご覧なさい。」
アイーラが綿の入った革製の手袋を付ける。
エマはその手袋に向かってパンチを繰り出す。
「はい、左、左、右、左、右、そこで右足!」
アイーラは自分の顔の左側に手袋を構える。
ズパーンといい音がしてアイーラの手袋にエマのキックが食い込む。
ぐらっとアイーラ体制を崩す程の威力があった。
それをしばらく続けているとエマの息が荒くなり体全体から汗が吹き出す。
「どんな感じ?」
「何か汗が滲みていい感じにサラシが締まってで来たわ。」
「じゃあいいわね。さ、お水を飲んで。」
アイーラが汗を拭いてくれる。
ドアがノックされ準備室に集まるように指示される。
ドアの外に出ると律儀にシドラが待っていた。
「なんだアンタ待っていたんだ。」
「はい、エマさん行く所にシドラ有りです。」
「それじゃあせいぜい相手の情報を教えてちょうだい。」
「はいっ、シドラにお任せ下さい。」
控え室ではウィザーが手足の防具を巻いていた。
「ではエマ選手。」
「はい。」
「椅子にお座り下さい。」
エマが椅子に座ると二人のウィザーがエマの手足に防具の布を巻いていく。
見るとラフレアは既に巻いてあった。しかし手に付いている防具が異常に厚みがある。
「なんでラフレアちゃんだけあんなに大きな防具になっているの?」
「だってあの娘がそのまま殴ったら相手が死んじゃうでしょう。」
やめよーよ、そんな物騒な話は。
そのまま椅子に座って出場順を待つ。
「エマ選手どうぞ。」
若い娘が迎えに来る。会場係だろう。
会場に入ってみると前回とは打って変わって観客が大勢入っていた。
「なに?すごい人数じゃない。」
「予選は各ドームから応援の人達が見に来るから。本戦出場するとそのドームでは英雄なのよ。」
「ラフレアちゃんも?」
「あの娘は出るとこに出ると有名人なんだけど当人はそういうのが嫌いだから。」
まあ、ラフレアちゃんならそう言うだろうな。
歓声が上がる見るとラフレアちゃんがリングに向かっている。
セコンドにはガルドが付いていた。
「良いですね、ラフレアさん。本気で顔はだめですよ、相手は女性ですからね。」
なんかガルドがラフレアちゃんに言い含めてる。まああの体で顔殴られたら人相が変わっちゃう。
…って冗談じゃない。予選に通ればあたしも戦うかもしれないんだから。
「ラフレアちゃんの動きをよく見ているのよ。本戦じゃ私はセコンドに付けないから。」
そうか~っ、当日のセコンドは結局あのシドラか~、役にたつのかな~?足引っ張ることだけは無いだろうけど。
リングの上ではラフレアの戦いが始まっていた。
相手の選手もそれなりの大型の人族の選手だったが、やはりラフレアと比べると2周り以上大きさが違った。
相手の選手はやはり接近しない様に遠くから攻撃を仕掛けてくる。フェイントを交えて飛び込んで離れる攻撃を仕掛けて来る。
ラフレアもパンチを出すが相手の選手は攻撃したらすぐに後退するので当たる事はない。
このまま判定を狙っているのだろうが判定でもラフレアが勝つだろう事は用意に想像できる。
何しろ前回の準優勝なんだからウィザーはらフレアを選ぶことは想像に難くない。
判定はどちらがより期待できるか?という極めて恣意性の強い判定基準だからだ。
「ふんぐっ!!」
攻撃をして来ない相手にラフレアは両手を大きく広げて前に出る。
全くガードをせずに相手に近づくのであるから相手は顔を狙って打てるので有るが、もし掴まれればあの恐怖のスイカ攻撃がある。
相手の選手はリングの外周に沿って逃げ続ける。
ラフレアが足を使って相手の選手を追っていく。
相手の選手は必死出ラフレアから逃げようと走り続ける。
しかし遂にラフレアの手が相手の腕を捉える。
相手の選手は必死でラフレアに蹴りを出す。
蹴りはラフレアの顔に当たるが眉ひとつ動かさずに相手の選手を床に叩き付ける。
「顔はだめですよー!!」
ガルドが必死で呼びかける。
まるで聞こえていないかのようにラフレアは相手の選手めがけてパンチを繰り出す。
「ひいいいぃぃ~~~っ。」
相手の選手は恐怖に顔を歪ませる。
「止めーっ!」
主審の声が響きラフレアのパンチを片手で止めるウィザーの姿があった。
相手の選手はあまりのラフレアの迫力に腰が抜けて立てなくなっていた。
「あー良かったー。流石にウィザーだわ、あのままじゃ死人が出る所だったわ。」
頼むよ~っ、あんまり物騒な事を耳元で言わないでよ~っ。




