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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
エマの旅立ち
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お金儲けは簡単ではありません

 馬車はトコトコと道を歩んでいく。エマ達の乗る馬車の前には馬車の一団がゆっくり歩いている。

 交易隊の一行らしい。重そうな荷物を載せている所を見ると穀物だろうか?

 反対側からは動物を載せた馬車が歩いてくる。

 

 薬草も丁度良い具合に乾燥したのでエマはキューちゃんの荷台から薬草を下ろし紐を外した。

「きゅうう~~~っ。」

 なんかキューちゃんがほっとしたような声を上げる。

 

 うん、きっと気のせいだ。

 

 薬草をまとめて袋に入れる。大きめのバッグ位の量になった。

 どの位で売れるかな~っ?売れないとこの先困るのよね~っ。

 ううん大丈夫、結構貴重な薬草なんだから絶対高く売って見せる。

 

「向こうからくる馬車にはずいぶん動物が乗っているのね。」

「はい、次のドームは川が流れていませんから大きな木が育っていません。ドーム全体が草原になっていますので牧畜が盛んなようです。」

「大きな町はあるのかしら?」

 

「大きいとはいえませんが、この通路はエマさんのドームとピクシー族のいるドーム、それにジャデル・ドームにつながる3本の通路が有りまして、それぞれの通路の根元に町が出来ています。」

「そこでこの薬草が売れると助かるんだけどな。」

 

「どうでしょうか?このドームはまだ開拓途中ですからそれ程町は大きくありませんよ。その町はあくまでも交易の中継地点以上のものにはなっていませんから。」

 

 そう言いながらシドラは後ろを向いてこそこそと何かを見ている。

 

「ふーん、ってちょっとあなた何見てんのよ。」

「いえ、特に何も見ておりませんが?」

 

 怪しそうな手つきで何かを後ろに隠す。

 

「ちょっと見せなさいよ。」

「いや、その、ちょっと……やめて……。」

 エマはシドラが背中に隠したものを無理矢理取り上げる。

 

「なにこれ?」

 シドラが持っていたものは小さな冊子でウィザー語が書かれていた。

 読んでみてみると隣のドームの事が色々書いてある。

 

「なにこれ?アンチョコじゃないの!」

「え?ああっ一応行き先を調べて置きませんといけませんから。」

 

 エマは更に読みす進んで見たがこのグラスドームの先のドームの事は書かれていなかった。

「こんなものどこで手に入れたのよ。」

「はい、それはウィザーのギルドで配布していますよ。交易カウンターの横に置いてあったでしょう。」

「え?そうだったっけ?」

 

 交易カウンターは交易を行う者達の便宜を図る場所である。普通のドーム住人にはあまり用のない所だけにエマも訪れた事が無かった。

 

「この先のドーム事は書いて無いの?」

「はい、各ドームは隣接するドームの解説書は配布していますが全体マップは配布していません。」

 改めてエマは冊子を詳しく読んでみる。

 書かれていることはドームの大きさや概略の人口、内部の特性や住人の特徴そして名所特産品や観光スポットなどであった。

 

「なにこれ観光案内じゃないの?」

「はい、そうですよドームの皆さんにもっと外の世界を知ってもらおうと各ドームのギルドが作っています。それぞれに特徴を出そうと頑張っていますから、そのうち解説書ラリー等の企画もあるそうですよ。」

 

「なんじゃそら?」

 

 とにかくこの冊子には自分のドームと隣接する3っつのドームの特徴が書かれていた。

 ところがそれぞれのドームの解説書の書き方はずいぶん違っているように見える。

 どうもこれは各ドームがそれぞれ作ったものをエマのドームのウィザーギルドが一冊にまとめて作った物らしい。

 

「ウィザーは人々にドームを移動させたいのかしら?」

 この冊子を見た最初の印象はそれであった。

 

「そうですねえ、やはり人々がドームの中から移動しないと様々な知識もまた移動しないと考えていますから。」

「それなら何故それらの冊子を一冊にまとめて大きな地図を作らないの?」

「さあ、私も新米なものですからあまり詳しいことまではわかりかねますが。」

 

 エマはもう一度冊子を見る。

 

 固めの紙ではあるが綺麗に装丁されている。人間が作る本ではこうはいかない。

 紙その物が手漉きの紙で、まだ比較的貴重品である。

 ところがウィザーが魔法で作る紙は人が作る物と異なり非常に綺麗でつやが有る。

 

「まさか?」

 

 エマは思い当たって本を取り出す。エマが拾われた時に持っていた本である。

 比べてみると紙の質や装丁方法は違っているが全体的な印象は非常に近いものが有った。

 

「どうしました?エマさん?」

「この本て、やっぱりウィザーが作ったものなんだわ。」

「この本ですか?」

 

 シドラが本を手に持ってしげしげと眺める。

 

「確かにこの本の装丁はウィザーの物に近いようですね。」

「う~ん、なんだろうな?すごくこう作為的なものを感じる。」

「あなたの事はヴァルガやウィンドウから聞いていますが、あなたの出生にはウィザーギルドが絡んでいてもおかしくはありませんね。」

 

「あなた私と同じことを考えているわね。」

 

「はい、あなたの旅に私が同行するのも同じ理由かと。」

「う~ん、なんか悪意を感じるな~っ。」

 

 などと悩んでいても答えは出ないので仕方なくふたりはそのまま馬車で移動を続ける。

 橋を渡ったこちら側の通路には川が流れていなかった。

 その為に入り口の付近だけは密生していた木々も通路進むとすぐに少なくなり草の茂る道が続くことになる。

 此処では水が少くなくとも育つ芋やとうもろこしを作っているようである。

 

 人々は井戸を掘って水を確保しているが緩やかな風が恒常的に吹いている通路の中では灌漑用水を風車でくみ上げている。

 それに以外には通路の外に降った雨が地下水になって通路に湧き上がって泉になるのでそれを使っているらしい。

 ドームの外と内で大きく環境の異なるドームだと言えるだろう。

 

「そんなことはどうでも良いとして街はまだかしら。」

「まあ夕暮れまでには何とかと言った所でしょう。」

 

「実際問題としてエマさんの炉銀はどの位有るのでしょうか?そう、例えば何回宿に泊まれるのか?と言う勘定で。」

「大体フェブリナドー厶で20回泊まれる位かしら。」

「そんな物ですか?それでは早晩働ける所を確保しなければなりませんね。」

 

「大丈夫よ薬草を売ればそれなりにお金にはなるから。」

「どうでしょうか?あまり楽観はしないほうがよろしいかと。」

「まあ、取り敢えず街に入ったら薬屋を探しましょう。」

 

 ………と思っていたのだが。

 

「何これ?」

「雑貨屋と何軒かの酒場と数十軒の家が有るだけですね。」

 小さい町だとは聞いていたがこれ程小さな町だったとは。

「まだ入植からそれ程経っていませんからまだ通路の開拓が進んでいる段階なのでしょう。」

 

「と、取り敢えず薬屋が無いなら雑貨屋に入ろう。」

 

「あ~っ、インドラニジスね~。」

 雑貨屋のオヤジが気のない声で答える。

 

 な、なに?その反応?

「これは強壮剤、と言うか回春剤だろう?」

 

 なに?そのカイシュンザイって?

 

「見れば判るだろうが此処には店が有る訳じゃないし、行商の連中が泊まるだけの街だからねえ。」

 店?そりゃ確かに店は少ないけどそれが何の関係が有るんだろう?

「えっと、どう言うこと?」

「需要、つまり欲しがる奴があまりいないって事さ。」

 

「欲しがる人がいないって、つまり………。」

 

「ウチじゃいらないな~。」

「あ……そう……。」

「もし売りたいのなら隣のドームに温泉街が有るからその街まで行けばそれなりに売れるとおもうがねえ。」

 この薬草と温泉と何の関係が有るんだろう?

 

「判ったわ……ありがとう。」

 薬草が売れないと分かってエマはがっくりと肩を落とす。

 

「ああ、傷薬や胃腸薬だったらそれなりに需要は有るから今度見つけたら持ってきておくれ。」

「はい、そうします………。」

 エマはトボトボと雑貨屋を後にした。

 

 うう~っ、あてにしていたのに~。

 

「世の中そう甘くは有りません。」

「仕方ないわ、次の街まで持っていってそこで売れば何とかなるかしら。」

「ご心配無く、もし炉銀が尽きても我がウィザーギルドが仕事を斡旋いたしますから。」

 

「アンタ随分嬉しそうな声で言うわね。」

 

「いえいえ、その様な事はございません。ただこのままだと遠からず野宿かと。」

「この調子だと、早晩そうなりそうね。」

 

「考えても仕方ありませんよ。今晩は此処に泊まって明日は朝早く出かけましょう。」

 

アクセスいただいてありがとうございます。

商品は需要が有ってこその供給です。

供給だけ増やしても人に買う理由とお金が無ければ商品は売れません。


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