予備予選第一試合
次の日予備予選が始まるのでエマ達は会場にでかけた。
「何これ?すごい。」
会場はドームの外に有った。
ウィザー用の出入り口から中に入るとそこはドーム付きの陸上競技場の位の大きさの会場であった。
「すごいですー。」
「私も初めて。」
エルーラとティンカーが目を丸くしていた。
いくらウィザーの施設にしてもこれはやりすぎじゃ無いのか?
だってここはドームの外だろう。
ウィザーが出入りする外壁の扉から会場に出入りするのである。
「ドームの外だから良いのです。ドームの内側にこんなものを作ったら住民の生活に支障が出るでしょう。」
確かにエスペランの洞窟もドームの外だったけど。
「ゼンドレの道場は?」
「ウィザーギルドの収入でドームの中の人間が作っていますの経済活動の一環です。」
そういう考え方もあるのか。
確かにこの競技場の施設は人間離れしていてウィザーの魔法なしには作れないような物ばかりだ。
こんな物を街の中に作ったらそこだけ異世界になってしまう。
ドームの外は元々が異世界であるから逆に人々は納得してしまう。
入り口の前は大きな空き地があり馬車置き場になっている。ここは普段は屋台などが出店している場所らしい。
馬車置き場には数十台の馬車が止めてあり、乗り合い馬車もたくさん出入りしている。
ウィザー専用の駐車場もあり、何台もの機動馬車が止めてある。
「ぴいいい~っ」
キューちゃんは嬉しそうな声を上げると目玉を伸ばす。
「きゅうっ、きゅうう~っ」
みんな同じ形をしているから区別がつかない。
他の馬車達も目玉を伸ばしてお互いに絡め合う。これが馬車達の挨拶なんだろうか?
絡み合って取れなくならないだろうな。
エルーラとティンカーはアイーラさんが観客席に連れて行ってくれた。
今日は格技と剣の予備予選なので観客はあまり多くない。
その代わり出場選手と応援団でごった返していた。
登録所で登録を済ませて控室に行くと組み合わせ表が張り出されていた。
隣に大きめの字で大会ルールが示されている。
目や金的への攻撃禁止、ズボンへの掴み禁止、噛みつきや引っ掻きの禁止など禁止事項が書かれていた。
試合時間は5分でノックアウト規定が書かれていた。
ノックアウトは審判が危険と判断した場合としている。
降参は手のひらで何処かを叩いて審判に知らせる。
引き分けの場合の判定の基準が面白かった。優勢ではなく面白い戦い方をしたほうが勝ちとなる。
簡単に言えば派手な技を連発した方が有利ということらしい。
ウィザー審判に対する信頼が有ったら成立しないルールとなっているとアイーラが言っていた。
それはかなり問題発言だろう。
出場選手は50人程、14人が選ばれるのでエマは今日2試合することになる。
予選にはガルドとフローレが来てくれてセコンドに付いてくれる。
予選以降はシドラがセコンドについてくれる。今日は見習いの為に客席にいる。
エマは試合着に着替えたが、とりあえず今回は短パンに胸を収める薄いベスト、その上に生地の厚い道着を着てみた。
ガルドがエマの手足に防具を巻いてくれる。
この巻き方にも規定があるが、ウィザーであれば誰でもすぐにマスター出来るらしい。
セコンドにウィザーが付いていない選手も控えのウィザーがいて巻いてくれるらしい。
競技場の様なグラウンドの真ん中に客席と試合場が有る。
試合場は高くなった舞台の真ん中に2メートル位の円が有りその外側に6メートル位の円、その外側に1メートル位の円が色違いで塗り分けられている。その外側に5メートル以上の床が広がっていた。
円の最外部を超えて動きが止まった場合や離れた場合は真ん中に引き戻されるが、組み付いたままであれば継続される。
円の外側に自分から逃げた場合はペナルティで3回すると失格になる。
審判は主審が一人だけだが危険防止の補助審判員が4人周囲に付く。
なんでも槍と弓はこの闘技場を解体して模様替えをするらしい。それでこの広さがあるそうである。
ウィザーの魔法がなければ出来ない競技場である。
午前中は徒手の予選があり、午後は剣の予選らしい。
レイはアイーラ達と観客席にいる。午後の予備予選を見るらしい。
試合が始まり選手たちが次々に試合上に出ていく。待たされる者のピリピリした感情がそのまま伝わって来る。
勝って喜ぶ選手、負けて涙する選手がいる中でエマはラフレアと歓談して過ごしていた。
やがてエマの番が来て呼び出される。
試合上に上がるとあらためて競技場の大きさを実感する。競技場が大きすぎるので観客席は闘技場の周囲に少し有るだけで後はガランとしていた。
「頑張れーっエマさ~ん。」
「おねえちゃんがんばってー。」
子供達の声が聞こえるので手を振って上げる。
もともと勝てば儲けもので賞金目当てで大会に出ているエマである。
負けて元々、失うものは何も無くうまくすれば賞金丸儲け……ムフフフ。
「エマさ~ん、よだれが出ていますよ~。」
うるさいな~、本音を暴露するんじゃないわよ。
相手選手は人族であったが非常に長身であり、手足も長い、その分胸周りは小さく有り体に言えば貧乳であった。
要するに非常にスレンダーな体型をしている。
ふっ、勝った。…エマの口元が歪む。
ドワッフ族、エルフィン族と巨乳体型の種族に囲まれて過ごしてきたエマに取っては久々の人族の胸の大きさにホッとするような相手選手の胸であった。
何しろ今日のセコンドはラフレアちゃんである。あれと比べられたらたまらない。
相手選手はエマの微笑みを挑発と受け取ったのか厳しい顔つきに変わる。
「ああ~ら、エマさんまるでベテラン選手みたいに相手を挑発しちゃってるわ。」
アイーラはエマの微笑みを勝手に解釈してくれている。
「ね、挑発って、何を挑発しているの?」
「自分の方が上でお前なんか問題にならないぞって笑って見せているのよ。」
「あの笑いはそういう事なのね。」
エルーラは納得したようにつぶやいた。」
「エマさーん大きさではありません強さです~!」
シドラが叫ぶ、アイツまた心を読んだな。
「シドラー、大きさって何のことー?」
「はい、ティンカーさんはあと10年ほど経てば分かりますよ。」
「ふーん、そう?」
ティンカーは訳がわからず首を傾げるが、その手はなんとなく胸をさすっていた。
試合前に審判の注意が有って両者は円の外に出される。
主審が始めの合図と共に両者とも円の真ん中に駆け寄る。
最初にパンチを出してきたのは相手の選手で有った。
リードパンチで間合いを図ると踏み込んできて打つ、パンチ主体の攻撃をしてくる選手の様だ。
エマはそれまでこういったパンチ主体の攻撃で来る選手は殆ど経験が無かった。
実のところ相対しての打ち合いをする選手が少なかったのだ。
グレアン・ラウの所ではむしろ組み討ちの練習しかしていなかったのだ。
長いリーチを生かして射程の有るパンチが出てくる。
エマはリーチが足らずにパンチを出せない。
しかし相手の繰り出すパンチを今の所は何とかかわしている。
「やっば~っ、これじゃこちらの攻撃が出来ないじゃない。」
エマは直線的に躱していたのですぐに場外に追い詰められる。
「エマさ~ん場外に気を付けて~っ。」
後ろからフローレが指示を出してくる。もっともエマにはほとんど聞こえていない。
かろうじて横に逃げて場外を回避するが相手の選手の攻撃は止まらない。
再び後ろに下がるエマ、今度は相手がニヤリと笑う。
いかん付け焼刃がばれてる。
やはり経験不足はいかんともしがたい、簡単に相手にばれる。
さらに相手は盛んにパンチを出してくる。
5分間だけの試合で有る、相手の様子を見ているより攻撃した方が良いのである。
エマはまたしても後退を余儀なくされる。
再び場外に詰め寄られる、足元に場外の線が見える。
この2重線の外側の線を越えると場外だ。
チラッと線を見たエマの視線を相手選手は見逃さなかった。
いきなり上体を下げるとエマの足をタックルに来た。
「馬鹿め、戦いの最中に相手から視線を切る奴があるか?」
「やばいっ、足に手がかかってる。」
「このまま倒して上を取ってやる。」
ふたりの思いがこの一瞬脳裏に浮かぶ。
エマは大きく後退したため完全にバランスを崩していた。
相手選手の頭がエマの胸元まで迫っている。
「だめっ、倒れちゃう!」
「やっぱりコイツ素人だ。このまま押せる!」
エマは必死で相手の頭を掴むがそのまま倒され相手がのしかかって来る。
「やばっ、やばっ、やばっ。」
必死でエマはうつぶせになり這って逃げる。
「え?」
相手がエマを追って来る気配がない。
後ろを見ると相手が倒れたまま動いていない。
副審が駆け寄って相手選手を見ているが、すぐに相手は起き上がって来る。
主審がエマの勝利を宣言した。
「なに?あたし勝っちゃったの?」
相手選手も大したことは無いようであるが顎をさすっている。
どうやら防御しようと上げたエマの膝が相手の顎に当たったようである。
頭を掴んでいたので威力が倍増したみたいだ。
いや~っラッキー、ラッキー。
試合場からおりてくるとラフレアが抱きついてきた。
「エマさんすごいわ。一撃でノックアウトよ。」
「なに?何があったの?」
「相手の突進に合わせての見事なカウンターの膝攻撃でしたよ。」
そうなんだー、アタシの見事な攻撃だったんだ~っ。
ホントかよ?
観客席のアイーラとレイがすごく喜んでる。
エルーラとティンカーは何が有ったのかわからず微妙な顔をしている。
もう一度手を振って上げると嬉しそうに手を振り返す。
殆ど疲れていなかったが控室に行くとガルドが体をマッサージしてくれると言う。
僅かな時間だったがやはり体の筋肉が硬直していたらしい。
「筋肉が固くなっています。ほぐして血行をよくしますから。」
控室にある台に寝て手足をマッサージしてもらう。
いやーこりゃ気持ち良い。
「はい、エマさんの筋肉はとても状態が良いようですね。」
な、なんかゼンドレの怨嗟の叫びが聞こえるような気がするが?うん、気のせい気のせい。
しばらくして次の試合の呼び出しがある。
「やはりこの上着は掴まれるのでやめたほうが良いでしょう。」
ガルドにそう言われて上着は脱いでいく。
「エマさん、前の選手が試合が始まります。出ますよ。」
そう言われてガルドに連れられて試合場に赴く。
今行われている試合は昨日会ったガイア・タックリーの試合だった。
相手はドワッフ族で大きな胸をしている。
ふたりとも接戦らしく顔が少し腫れて赤くなっていた。
息を切らしながらガイアがタックルにでる。相手が膝蹴りを合わせて来る。
顔面に当たるがものともせずに腰に抱きつき強引に相手を倒す。
ああ、さっきアタシはあれをやったんだ。
あの時は運よく膝が相手の顎に当たったので相手が倒れてくれたんだ。
馬乗りになって相手を殴ろうとするが相手は頭を持って自分の胸に引きつける。
パフパフ締めが有るのでガイアは胸の谷間に左腕を入れてガードする。
突然ガイアが悲鳴を上げ必死で腕を振りほどき頭を上げるが左手が離れない。
「あれは胸の肉に腕を挟まれているのですね。」
「腕に対するパフパフ締めか。なんつー技だ。」
「ドワッフ族の近接戦には注意が必要です。」
ガイアは力任せに腕を引き抜くと起き上がって来る選手に向かって膝蹴りを見舞う。
運良くこめかみにヒットしたみたいで相手の動きが止まる。
ガイアは傘にかかって相手の頭を打ち続けたがドワッフ族の選手は物ともせずに立ち上がる。
さすがにドワッフ族はタフだわーっ。
立ち上がりざまにガイアのキックが相手の頭にもろに入って相手がふらつく。
もう一発蹴りを出すと今度は確実に後頭部にヒットする。
それでもドワッフ族は倒れない。
3発目を出そうとした所で主審の止めが入った。
ふらふらしながらそれでも相手は倒れなかった。
「格闘におけるドワッフ族の優位さはあのタフさにあります。エマさんもしっかり心に留めておいて下さい。」
「ドワッフ族か、あそこまでタフだと大変だよな~。ま、良く知っているけどさ。」
辛うじて勝利をもぎ取ったガイアは競技台を降りる際にエマを睨んで行った。
なんかアタシ嫌われてるな~っ。
競技場の反対側ではエマの相手の選手が競技台の下で待っていた。




