洗濯板の意地
レイ達の申込みが終わり皆で食事に出た。
アイーラさんフローレさんにラフレアちゃんにレイさんそれに子供ふたりと、すごいな去年の本戦出場者が4人も揃ってら。
ついでにシドラとガルドもついてきた。メシも食わんのに。
食堂の椅子に座るとレイとラフレアのなんと大きいことか。
隣に座った姉妹の小さいこと。テーブルに隠れて姿が見えない。
しかしなぜアタシの両脇にウィザー4人が陣取るのだ。鬱陶しい。
「エマさんに付いている悪い虫から守らなくてはなりませんから。」
「エマさんを卑劣な虫から守らなけれなりませんから。」
「「卑劣な虫とは私たちの事でしょうか?」」
チェングとモイエラが同時に声を発する。
ええい、お前達以上にお邪魔虫な奴らがいるか?
「エマさんはとてもウィザーにモテるんですよね。」
「シドラだけではなくガルドにもすごく好かれていたんですもの。」
誤解です。
「いえいえ、私はエマさんの格闘センスには惚れておりますよ。」
「その汚い手でエマさんの手を握ろうとしないで下さい。」
「おやおや、私は貴方と違って風呂を覗いたりはしませんから。」
「ね、お姉ちゃんそのウィザーさん達なぜ仲が悪いの?」
おお、再びテインカーちゃんのウルウル攻撃か!
「いいえティンカーさんウィザーは喧嘩などいたしません。」
「シドラの言う通り、私達は仲など悪くありません。」
「はいはい、そうです。仲が良いのでじゃれ合っているのに過ぎません。」
「ただお互いの選手の自慢話に花を咲かせているだけです。」
「ほんと?」
「「「「はい、本当です。」」」」
「ホントに本当?」
「「「「本当にホントです。」」」」
「じゃ仲良くご飯食べよー。」
「「「「わかりましたー。」」」」
いつもこの位聞き分けが良ければいいんだけどねー。
「ふふふふっ、ウィザーも子供にかかればそんなざまか。」
エマ達の近くで食事をしていた人族の一団が声を掛けて来た。
「意外とウィザーも可愛い所が有るんだな。」
「よくお分かりですね。私たちはとても可愛いのですよ。」
シドラが屈託なく答える。こんな時、馬鹿は助かるわ。
「ふっ、ぐふふふふっ。」
「がっ、がはははっ。」
何人かはシドラの発言にバカにしたような含み笑いをする。
「なによ、あんた達うちのシドラに何か用なの?」
いかん、なんでシドラの事でアタシが腹を立てなくちゃならんのだ。
5人程の集団であったが昼食と酒を飲んでいたらしい。かなりガタイの良い連中だ。
こいつらも今回の大会に出場する選手か?
「あんたらも今回の大会に出場するつもりなのか?」
気の強そうな顔をした女が聞いてくる。
紋章の入った革の胸当てを付け、グレーの長髪を背中で束ねた女だ。
エルフィン族の中じゃ大したことは無いけど人族としてはかなりの美形だ。
「そうだけどアンタ達もなの?」
「ん?ふっふっふっ。」
「何がおかしいの?」
「待て待てお前たち、少しは礼儀をわきまえろ。」
集団の中でも顎鬚をたくわえたガタイのいい男が立ち上がる。
男は革鎧に直剣を下げていたが、他の連中も揃いの格好に異なる武器を携えていた。
こいつらどこかの兵士か?
「我々はマイリージャ公国の騎士団の者だ。」
「その騎士さん達がアタシ達に何の用が有るのかしら?」
さり気なくラフレアちゃんがトロル姉妹を自分の後ろに隠す。
偉いぞラフレアちゃん。
「ね、シドラ~喧嘩になっちゃうよ~、止めないの~?」
「ウィザーの戒律はご存知ですね。人間同士の争いには関わらないのですよ。」
「だってエマお姉さんが~。」
「大丈夫ですよ、騎士が街中で刀を抜くほど馬鹿じゃありませんし、素手でエマさんに勝てる人間は多くは無いですから。」
「そうなの~?」
「いやいやなかなかすごい連中が隣でメシを食ってたんでなあ、我々もご挨拶でもしなけりゃまずいと思ってね。」
「そりゃご丁寧に。でもウィザーに喧嘩を売るのは馬鹿しかやらないから、止めたほうがいいわよ。」
「なにい!?」
先ほどの女がすごい目でにらんできた。
エマと同じくらいの身長だが服から出ている肩や腕は贅肉が無くかなり鍛えられているのがわかる。
しかし胸当てを割り引いてもエマより胸はかなり小さいようだ。
「ふっ、何か文句有る?」
エマはこれでもかと胸を反らす。
「まあまあ、お嬢さんそんなに殺気立たなくても何もしないよ。」
「まあ、もっとも。」
男は胸の小さな女の方を見て言う。
「こっちもだいぶ殺気を放っているようだが。」
「仕方ないだろうこれだけの連中がまとめて飯を食ってるんだ、つい突っかかってしまったんだよ。」
あ、胸の事気にしてたんじゃないのね。
「そっちの大きな男はレイ・ブラッドリー、女の方はラフレア・ジオだな。噂にたがわず大きいな。」
「二人共昨年の準優勝者なんだろう。」
「ご存知だったのですか?優勝者以外は記憶にも残らないと言うのに。」
レイは淡々とした口調で話す、こんな所で喧嘩をする訳にも行かないだろう。
「知らいでか。我が国ではこの大会で準優勝すれば騎士に取り立ててもらえるんだ。」
「なに?この大会そんなにメジャーなの?」
「うむ、この大会で優勝すればそれこそ騎士頭に取り立ててもらえる事すらもあり得るのだ。」
へーっ、マイリージャってそんな国なんだ。
それじゃレイは何故マイリージャに就職しなかったんだろう。
「それなのに去年準優勝しながら騎士見習い候補生のままでいるとは。」
細身だが背の高い男が馬鹿にしたように言った。
就職に失敗した若者を笑うんじゃないよ、確かにレイはニートだけどさ引きこもってはいなかったぞ。
「それはあなた達のようにマイリージャ本国の人達の話です。私のように地方の衛星国出身者にはそのような特典は有りませんから。」
男はしばらく間を置いて答えた。
「確かに君の言うようなことは有るようだな。悪かったなウチの連中が馬鹿にしたような事を言ってしまった。」
その場をなだめるように言った。
「明日以降我々はこの大会で相対する事になる。その前に自己紹介しておこう。私は剣技出場のゲルド・ミシュラーだ。」
「格技出場のイアン・リスナー。」
やや細身で背の高い男が答える。
「剣技出場ゼオラ・エンゲルス。」
ガッチリした感じの女が答える。
「弓術出場オルフェ・イリアキー。」
中有肉中背でやや年を取ったが目つきの鋭い男が言った。
身長は高くないが非常に鍛えられた上半身をしていた。
「徒手出場ガイア・タックリー。」
先程の女が答える。なる程コイツの得意技はタックルか?
「他にもいるが連中はどこかでメシを食っている。」
「それじゃ今度はこっちの番ね。レイとラフレアはもう知っているわね。私はフェブリナ・ドーム出身エマ・オーエンス。格技に出場するわ。」
「あんたが格技に?」
ガイアがふっと馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「どう見ても予備予選を通過できるようには思えないけどね。」
「まあ、田舎娘が記念に参加したいとでも思ったのだろう。悪い事は言わん、危ないと思ったらすぐに降参するんだな。」
イアン・リスナーと名乗った男が言った。
「何よ、なんでアタシがあなた達に負けると決まっているわけ?」
エマがガイアを睨みつけてそう言うと、皆あっけに取られたような顔をして大声で笑い始めた。
「あっはっはっはっ。」
「むむっぷ、あははははっ。」
「いや、すまんすまん、あまりにも面白い事を言うのでね。」
「アタシなんか面白いこと言ったかしら?」
「いやいや、アンタもその連中と一緒にいるからって同じように強いわけじゃないからね。」
ああ?レイ達と一緒にいるから唯の威勢のいい女だと思われていた訳か?
ま、試合に出るのなんか初めてなのは確かなんだけどね。
「あんた、面白い防具を付けているわね。」
ガイアが立ち上がるとエマのそばに来た。
「革のように見えるけど革じゃ無いようね。だけどそんなものじゃ戦場では何の役にも立たないわよ。」
この女、立ち上がるとエマよりも少し身長が有る。
「さあ、どうかしら。もっとも戦争に行ったことなんか無いから分からないけど。」
「アタシ達はね、いつも戦場で鍛えて来たのさ。子供の格闘ごっことは違うのよ。」
ガイアはゆっくりとエマの周りをまわる。
「そう?戦争に行くのがそんなに良いことなの?」
「祖国の為に戦うんだよ名誉な事じゃないか。」
「悪いけど私は別に国のために戦争しなくちゃならない義理は無いから。。」
「ふん、情けない奴だね。」
いきなりガイアはエマの頭めがけて蹴りをはなった。
切れの有る鋭い蹴りであったがエマにははっきりと見えた。
エマは左手を上げるとガイアの蹴りを軽く受け止める。
蹴りは威嚇のつもりだったらしくエマの頭の直前で止まる蹴りだった。
それでも腕に当たった蹴りは派手な音を立てる。
「ふ、意外とやるじゃないか。」
さすがウィザー製の防具は半端じゃない。
かなりの衝撃が有ったはずなのに全く痛みを感じない。
それに対して相手は丸太を蹴った様な痛みが有った筈だ。
「どうだい、アンタその防具とアタシの騎士団の鎧を掛けて決闘をしてみないか?騎士の正式の決闘の申込みだ。逃げる訳にはいくまい。」
「あいにくアタシはただの田舎娘だからね騎士さんが何を言おうと興味無いわ。」
「逃げるのかい?ふっ、まあ田舎娘だから仕方無いのか?」
コイツ馬鹿じゃないのか?万一アタシに負けたら騎士廃業物だぞ。
「アタシがあんたに勝っても何のメリットも無いでしょう。」
「こいつガイアに勝てる気でいやがる。」
「ん?」
エマが妙な感覚を覚える、何か冷たい風が心をよぎる様な寒気を感じた。
慌ててその感覚がどこから来るのか確かめようと周りを見渡す。
寒気の方向を見るとマイリージャの選手の後ろにウィザーが音もなく現れる。
それを見てシドラ達が一斉に立ち上がった。
ウィザー同士の間にも何かしら冷たい雰囲気が流れる。
それに気が付いたオルフェ・イアルキーと呼ばれた男が前に出る。
「ガイアいい加減にしないか。素人のお嬢さん相手に何をやっているんだ。」
「し、しかしオルフェ・イアルキー。」
「見ろ、子供が怯えてお嬢さんの後ろに隠れているだろうが。」
ラフレアの後ろで震えているトロル姉妹を指さす。
さすがにガイアと呼ばれた女もそれ以上は何も言えなかった。
「失礼したお嬢さん。試合が近づいて来て気が立っているんだ、許してやってくれないか?」
「ま、いいけど。」
「不愉快な思いをさせてすまなかったな。我々は宿に帰って明日のために休むとしよう。皆さんはゆっくりお食事を楽しんでくれ給え。」
「そうだなエマ・オーエンス、失礼をした。さ、みんな帰ろう。」
ガイアもエマに決闘を申し込んだことを詫びる、それ以外のメンバーも席を立ち店を出て行く。
マイリージャのウィザーは何も言わずにただ立っている。
「お嬢さん、それからそっちのお二人さん、邪魔して悪かったな、後はゆっくり食事をしてくれ。明日は当たるかどうかわからんがその時は全力で戦おう。」
「わかりました。ゲルド・ミシュラーさん。でも僕は予備予選免除なものですから。」
ミシュラーは頬をピクリと動かした。
「そうだったな、忘れていたよそれでは予選を楽しみにしているよ。」
皆が出て行く中5人のウィザーは声もなく見つめ合い続ける。
やがてマイリージャのウィザーはふっと身をひるがえすと声もなく去って行った。
最後まで残っていたガイアが帰り際にエマの方を振り返った。
「アンタ多少大きさに自信が有るようだけどドワッフ族とエルフィン族の前じゃ人族なんか大同小異よ。巨乳を自慢したけりゃピクシー族の所に行きなさい。アンタなんかそこにいるスイカの足元にも及ばないんだから。」
ガイアはそう言うと後ろも振り返らずに去って行った。
「く、くそーっ、何であたしがあんな洗濯板に言われなくちゃならないんだ。あの女絶対にぶち殺す。」
エマの背後から地獄の業火が燃え盛り始めた
「おお~っエマさんが轟々と燃え上がっております。これはいよいよ試合が楽しみですね。」
「エマさん、試合、一緒に頑張って決勝まで行きましょうなの。」
「うう~っ、ラフレアちゃんはいい娘だな~っ。」
「そしてふたりで戦おうなの。」
ちょっと待て、せっかく忘れかけてたのに、私にパフパフ締めを仕掛けるつもりなのか?
寮に帰って来るとエマはシドラに昼間の事を聞いた。
「昼に来たあのマイリージャのウィザーなんか変だったわよね。」
「はい、何か分かりませんがひどく変な感じを受けました。全員が一度に立ち上がったのは全員がそれを感じたからだと思われます。」
「う~ん、そうよね~っ。」
「もしかしてエマさんも何か感じたのですか?」
「分からない。分からないけどあの時にいた4人と全く異質な感じを受けたのよ。」
「全く同じです。考えにくい事ですがあのウィザーは……。」
「あのウィザーは?」
「きっと悪い人だったのでは無いでしょうか?」
「………………。」
ゴメン、アンタに聞いたのが間違いだった。




