ラフレアとの再会
次の日エマは大会の申込みに行った。
アイーラさんも一緒についてきてくれる。
受付日は今日の一日だけなのでたくさんの人間が集まっており、ウィザー同伴もエマだけではなかった。
受付に行くと申込書を配っていた。近くの台で記入をする。
氏名と年齢と性別に出身ドーム、あとは身長と体重を記入する。
最後に出場回数の記入が有ったが初めての場合は初めてと書く。
紹介状と一緒に受付に持って行くと受付嬢が受け付ける。
「エマ・オーエンスさんでよろしいのですね。」
「はい。」
「年齢は15歳女子の格闘技に申し込みで、初めてですね。」
「はい、そうです。」
「ああ、グレアン・ラウさんの紹介状ですか。あの方はいつも良い選手を送って来られますから。」
「有名な人なんですか?」
「格闘の名手でしたが今は引退したみたいですね。あなたも頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
「初出場の方は人数が多い場合は予備予選がありますので明日の朝試合の用意をしてこちらに来てください。」
「予備予選が有るんですか。」
「予選は16人づつが2つのグループに分かれて戦います。優勝者二人がが本戦に出られます。まずその人数に絞らなくてはなりませんから。」
「ふーん予備予選は何試合するの?」
「前回出場者以外は予備予選を通過しなくてはなりませんから、人数にもよりますが2,3試合ですよ。」
「そうか~、結構厳しいんだ。」
「それでもエルフィン族の予選に比べればずっと少ないんですよ。でも出場選手のレベルもそれなりに高いので楽だと言うわけではありませんけどね。」
昨日のあいつがぼやいていたのはこの事らしい。
「おや、エマさんラフレアさん達がやってきたみたいですよ。」
「振り返ると周囲より頭ひとつ大きな二人がこちらに向かって歩いてくる。」
「エマさ~ん。」
ラフレアちゃんが手を振ってる。
手なんか振らなくてもまるわかりだけどね。
「 やあ、エマさん申込みは終わりましたか?」
「はい、レイさん。先に済ませておきました。」
なんかレイさん、しばらくぶりの様な気がするけどすごく垢ぬけて来た。
やっぱり彼女が出来ると男も輝いて来るのかな?
「僕達はこれからです。」
二人の後ろからガルドともう一人のウィザーが歩いてきた。
「初めまして皆さん、私はバイファル・ドームのモイエラと申します。今回はレイさんのセコンドを務めさせていただきます。」
「モイエラは去年僕の出場権を得る為に尽力してくれたウィザーなんだ。」
「昨年までは私の所からは本戦出場者がいなかったので、不本意ながらこちらのドームのウィザーからの推薦をお願いいたしました。」
「ああ、そうか……。」
エマの場合はラフレアの道場のガルドが推薦してくれたけどレイの事は考えたことも無かった。
「私はレイさんの剣の腕を見まして是非ともこの大会に出場させたかったものですから。」
「ずっとモイエラの道場で修行をしていたんだが去年悲願の本戦出場を果たせたんだよ。」
「いえいえ、本戦出場どころか準優勝までしてくれましたので今年は大手を振って来れます。」
「おめでとうございます。本当に良かったですね。」
エマはモイエラににっこりと笑いかけてあげた。
「おお、あなたが噂のエマさんですね。ご活躍はかねがね。」
モイエラはエマの手を取るとぶんぶんと振り回す。
「し、シドラ?活躍って、もしかしたらウィザー通信とか?」
シドラがぐいっとモイエラの前に進み出る。
「はい、しかしそれはここではあまりお話にならないでください。」
「おお、これは失礼いたしました。」
シドラの迫力にモイエラはタジタジとなる。
「え?なになに?いったい何が有ったのエマさん。」
「ホント、エマさんはウィザーにもてるんですね~。」
アリーナさんそこで突っ込まないでよ。全然うれしくないんだから。
「エマお姉ちゃんゆーめーじんなの?」
まてまてティンカーちゃんそこは突っ込むなと言うとろーが。
「はい実はウィザーの間ではとても有名な人なのです。」
「どんなふうにゆーめーなの?」
「はい、ウィザーを遠慮会釈なく蹴り飛ばす女戦士だと。」
「え~っそうなんだ~っ、実はエマさんはすごい実力者なのね~。」
頼むよ~っ、モイエラもボケるのはやめて~っ。
「残念ながら昨年のレイさんの決勝敗退は多くは私の責任によるものです。」
「いいや、結局は僕の力不足だったんだよ。」
「私がレイさんを育てきれなかった物ですから、レイさんにこの一年武者修行の旅に出て自らを磨かせる事になってしましました。本来は私が指導しなければいけなかったのですが。」
「でもあっちこっちの道場を紹介してくれたじゃないか。」
「はい、私の予想以上に成長してくださってとても感謝しております。」
「今年こそは長い事苦杯をなめさせられてきたあのチャングに一矢報いさせてもらいます。」
「チャングって誰ですか?」
「昨年レイさんの優勝をかっさらって言った盗人です。」
いやいやそれは勝負に負けただけでしょう。
「誰が盗人ですか?聞き捨てなりませんね。」
「おおお~っ、あなたはチャング~っ、ここで有ったが100年目~っ。」
チャングと呼ばれているらしいウィザー横から声をかけて来た。
「あなたが出られなかったのはあなたが出場させる選手が弱かっただけの事でしょう。
「何を言うんですか?そちらのウィザーの推薦を出させる邪魔を散々しておいてその言い草ですか~っ?」
「邪魔などしてはおりませんよウチの2線級の選手と試合して勝てない様では話になりません。」
ふたりは仮面をぶつけあってぐりぐりと競り合っている。
なんかウィザーってそこいらじゅうで喧嘩してるのかな~っ。
「今年こそはウチのレイが優勝をさせていただきますからね。」
「面白い冗談ですな、1昨年まで誰一人選手を出せなかったウィザーが、神がかりな事をおっしゃる。」
「準優勝できたのは事実です今年はいろいろ秘策を考えてきました。」
「面白いですね~っ、ウチのローランに勝てる秘策ですか~っ?」
「なんですか目立ちがり屋の女たらしが、顔だけならレイだって負けていませんよ。」
「女にもてない選手が強いわけは無いでしょう。まあ、顔の好みは千差万別ですからねえ。」
「今年は絶対にローラン選手より目立って見せますからね~っ。」
「目立っただけで勝てるわけではありませんよ。少しは無い頭を絞りなさい。」
「ローラン選手の様な細マッチョに負けてたまるもんですか見なさいレイの太さを。」
「むむむ~~~っ。」
ラフレアの顔がみるみる膨らんでいく。
やめなさい、ラフレアちゃんが暴れたらウィザーでも取集つかなくなるから。
「ウィザーは喧嘩しちゃダメなの~っ。」
おおっティンカーちゃんの乱入だ。
「大丈夫よティンカー、お二人はねとても仲がいいからじゃれあっているだけなんですから。」
「そうなの?お姉ちゃん。」
う~ん天使の反乱はウィザーをも凌駕する。
「はいそうですよ私達はとても仲良しなのです。」
「はいはい、もちろんとても仲良しなのです。」
ふたりはびたっと寄り添うと抱き合った。
どうでもいいけど抱き合ったまま足を踏み付け合うのはやめなさい。
「今日はローランは来ないのですか?」
「ああ…はい。ローランは女の子との約束が有るので来られないと、それで私が代理として。」
「選手の管理がなっていませんね。一流の選手は一流の人間でなくてはなりません。」
ズムオオォォと言う音を響かせてモイエラが前に出る。
おお、シドラ以外でも擬音を発生させられるのか?
「仕方が無いでしょう。それこそが彼が剣を学ぶ原動力なのですから。」
「なんだ?それではあなたがローランを育てたのではなく単に天才を見つけただけでは無いですか?」
「人にはそれぞれ行動を選択する原因付けが有ります。それを引き出すのも指導者たる者の務めです。」
「詭弁です。」
「アリーナさんこれが大会の出場選手をめぐってそこいらじゅうで起きているんですか?」
「そうなのよ~、大会の一つの見どころね~。」
要するに自分の所の選手自慢ですか~?
「あんまり大口たたいて選手が負けたら眼も当てられないじゃないですか。」
「大丈夫よ、ウィザーはどんな事が有っても3秒で復活するから。」
「その点はシドラと同じですね。」
「はい、それがウィザー全員の特質なのですよ。」
恥ずかしい事自慢しないであげて。
「それで?グレアン・ラウさんは来られないのですか?」
ふたりの争いは放っておいてエマはゼンドレに聞いてみた。
「彼女は食堂の仕事がありますから、決勝の日には来られそうだと言ってましたが。」
「なにそれ?私が決勝まで行くと思っているの?」
「それはどうだかわかりませんが、決勝に残らなければ見る価値が無いと言っておられました。」
あのオバちゃんキツイな~。
「エマさんはアイーラ・エランさんのところに泊まっているんでしょう。」
「ええ、みんなも来るの?」
「ううん、私たちはウルド族の道場に泊らせてもらうの。」
「ああ、そうなんの?残念だわ。」
「あの道場には昨年ラフレアさんがお世話になったのですが……じつは昨年のラフレアさんの決勝の相手があの道場のフローレさんだったものですから。」
「あ……そうか……。」
「でもレイさんが一緒の道場だからさみしくないの。」
おお、さすが、やったね!ラフレアちゃん。
「それじゃ申込みが終わったら皆で食事にでも行きましょう。」
「明日は予備予選がありますけどレイさんとラフレアちゃんも出るんでしょうから今日はゆっくりしましょう。」
「いえ、お二人とも昨年の本戦出場者なので予備予選は免除されていますから。」
ああ、そうか、二人共昨年本戦に出てたんだ。
えーっ?ラフレアちゃん去年は11歳だよ?
「おい、ガルドこんな子供を武道大会に出して良いのか?」
「は?何のことでしょうか?」
「去年ラフレアちゃん11歳じゃないか。」
「いえ、ラフレアさんは当時12歳でした。可愛かったですよ身長も今より10センチは低くて、胸も今より小さくて。」
いや、そこはどうでも良い。
まて!1年で更に10センチ伸びたのか?
「出場の少し前に誕生日でしたから。」
「それじゃ今は?」
「はい、13歳になったの。」
だから何なのだ?という気がするが、言われて見ればその位の年ならばそれだけ成長してもおかしくはない。
ラフレアはエルーラとティンカーの方を見てニッコリ笑う。
ふたりはラフレアを見て後ずさる。心なしか怯えているようにも見える。
大丈夫取って食ったりはしないから。
「私はラフレアなの。エマさんのお友達なの。あなた達もエマさんのお友達なの?」
ラフレアはしゃがみ込むがそれでもふたりより頭が高い。
「は、はい。エルーラとティンカーと言います。」
「私はこの間13歳になったばかりなの。」
「わ、私は10歳この妹は7歳です。」
「嬉しいわ年も近いのね、お友達になってもらえるかしら?」
ラフレアはニッコリわらう。
「よ、よろこんでラフレアさん。」
ラフレアちゃんがニッコリ笑うと余計怖くなることに当の本人気づいて無いのか。
みろ、二人共震えてるだろう。




