シドラの災厄はこれからです。
エマの寝込みを襲った3人組であったが、まさか一緒にウィザーが忍び込んできていたとは思いもよらなかった。
「げげげっ、てててて、てめえは昼間のウィザー!ななな、なんだってこんな所にいやがる。」
男は股間に手を当てながら下げたズボンを必死で引き上げようとしながら叫んだ。
「いいえ、食事が終わって戻ってきたら皆さんが窓から入っていくのが見えまして、何をするのか興味が有ったので一緒に登って来ました。」
「ここここ、このやろう深夜に女の部屋に忍び込むなんざウィザーの風上にも置けない野郎だ。」
「あなたに言われたいとは思いませんが……しかし、コレでどうやって人を殺せると言うのでしょうか?先ほどから天国に送るとか、逝かせるとか言っておられますが。」
そう言うとシドラは男のアレをむんずと掴んだ。
「ふぎゅいええええぇぇ~~~っ。」
男が奇天烈な雄叫びを上げる。
「おかしいですねえ。確かに固くはありますが先端も丸いし人を突き刺して死ぬとも思えませんが。」
「や、やめてええ~~~っ、抜けちゃうううう~~~っ。」
「ほう、取り外しも効くんですか?その割には余分な繊維のせいか接続部分が見えませんね。」
シドラは掴んだアレの根元をまじまじと見ると、ぐいっと引っ張った。
「ち、違う~~っ、出ちまう~~っ。」
「出る?何が出るのですか?先端が外れて石礫のようにでも飛び出したりするのですか?」
「「あ、アニキ~~~っ。」」
残りの二人が男を引き離そうと引っ張る。」
「やめろ~~っ抜ける~~っ、抜けたら死ぬ~~~っ。」
「おやそうですか?それではお放しいたしますが?」
シドラが残念そうに手を放すともんどりうって3人ともひっくり返る。
「や、野郎どもやっちまえ。」
男がズボンをたくし上げながら叫ぶ。
エマは目を丸くしたまま呆然と4人のやり取りを見ていた。
「やかましい今度こそ串刺しにしてやる。」
「あなた方のソレで私は串刺しには出来ないと思いますが?」
シドラが可愛らしく首を傾げる。
「これなら串刺しに出来るぜ。」
一人の男が靴からナイフを取り出し、もう一人が背中に隠した小刀を抜く。
最初の男は何とかズボンをたくし上げたがアレはまだ出たままである。
「このやろうあの世にいけ!」
後ろの二人がナイフをシドラに向かって突き出してきた。
シドラは突き出されたナイフを避けることなく掴む。
「確かにこれなら人を殺すことは出来ますね。でもこれは刃物でアレではありませんから。」
刀を掴まれた男たちはナイフを取り戻そうと必死で引っ張る、しかしシドラはびくともしない。
「う、動かねえ。」
ようやく事態の進展に気がついたエマは口の布を外すと大声を上げた。
「きゃああああああぁぁぁぁ~~~~~っ。」
建物を揺るがすほどの大声に3人は慌てた、その途端にシドラはナイフを離したので3人はもんどり打って窓から落っこちる。
「「「ほぎゃああああ~~~~っ。」」」
ゴロゴロ、ドスンと派手な音を立てて3人とも絡み合って落ちて行った。
「はて?みなさんは何をしに来られたのでしょうか?」
頭をかしげるシドラであった。
頭をかしげたくなるのはシドラの頭の中身のような気がするのだが。
「エマさん、 ご無事で何よりでした。私の食事が早めに済んで本当に良かったです。」
「シドラ~っ、このぶあっかたれ~~~~っ。」
そう叫ぶといきなりエマはシドラの顔をぶっ飛ばした。
「あらら……。」
「族と一緒に忍び込むなんて何考えているんのよ~っ?」
エマはシドラの頭を思いっきりボカボカと殴りつける。
「エ、エマさん落ち着いて下さい。」
シドラは暴れるエマの両肩を持つとベッドに押さえつけた。
その途端ドアが開いて宿の亭主が飛び込んで来た。
「エマちゃん!無事か?何が有った?」
え~、その時の状況はですね”乳ポロリのパンツ丸見えのエマをベッドに押さえつけるウィザー”という構図でしたね~。
「てめえっ、ウィザーのくせに女の寝込みを襲うなんざとんでもねえ野郎だ!」
宿の亭主は麺打ち棒をかまえると目に怒りの炎を燃やしてシドラに迫った。
「はあっ?」
シドラは状況が理解出来ず周りを見渡した、しかしここにはエマとシドラしかいない。
「あれっ?はええええ~~っ?」
現在自分がどのような状況にあるのかをシドラはこの特初めて認識した。
「この、ド外道があああ?っ」
亭主は麺打ち棒を思いっきり振り回すと狙い違わず棒はシドラの仮面の真ん中を打ち抜いた。
カポーン!!
いい音が室内に響き渡る。
シドラはそのまま窓から外に放り出されると丁度下にいたキューちゃんの荷台に落っこちた。
「みいいいい~~っ???」
「野郎、待ちやがれ3枚に下ろしてやるからそこを動くな?っ。」
「ほいよっ、あんた包丁!」
女房が包丁を亭主に渡す。
「ぴいいい~~~~~っ!!」
キューちゃんが亭主のものすごい剣幕に悲鳴のような声を上げる。
シドラを乗せたまま慌てて逃げ出すキューちゃんであった。
………………………………
「きゅうっ、きゅう~っ。」
「ううっ、私が何をしたと言うのでしょうか?キューちゃん。」
荷台の中で伸びているシドラが嘆く。
「みゅう、みゅう。」
「運が悪かった?明日になればわかってもらえる、ですか?」
「きゅううう~ん。」
「ああっキューちゃん、キューちゃんはとてもいい子ですね~っ。私の味方はあなただけですよ。」
「みゆうう~ん、きゅいいい~っ。」
そのままウィザーを載せた馬車は再びドームの外に出ていった。
◆
さて、その頃エマを襲うことに失敗した3人組は必死に逃げていた。
「は、はやくしろ、ウィザーが追っかけて来るぞ。」
自分たちを追って窓から飛び降りてきたウィザーの悪魔のような顔を思い出す度に悪寒が走る。
いつ捕まえられて八つ裂きにされるかもしれないと言う思いで馬を走らせていた。
「アニキ~捕まったら俺たちどうなるんだ~っ?」
「決まっているじゃないか相手はウィザーだぞっ、殺されないまでも、あ~んな事や、こ~んな事をされていたぶられるぞ。」
「あ~んな事や、こ~んな事されちゃうんですかい?そりゃ大変だ~っ。」
いつの間にか人の少ない岩だらけの場所に着いていた。
「こりゃ~っ、おまえたち~っ。」
突然頭上から声が聞こえる。
「ひえええ~っ。」
「ま、まさかドクロード様?」
「俺達のこと見られていたのか~っ??」
男たちは慌てて馬を降りると平伏する。
3人の前に一人のウィザーが上空から降りてくる。よく見るとウィザーの体は半分透き通っており、体を通して後ろが見える。
ウィザーの仮面にはドクロのマークが書かれていた。
「ま~た、お前達は失敗したのか~あ??」
「へへ~っ申し訳ありやせん。あの娘の仲間のウィザーに邪魔をされまして~っ」
「だから今度はウィザーのいない夜に襲うように命じたのであろ~う?。」
「そ、それが、あの野郎いつの間にか戻っておりやして。」
「周りを確認しないお前らのドジであろ~う。」
「だ、だって旦那があのウィザーは一晩帰って来ないって…………。」
「おしおきだべ~っ。」
ウィザーの両手から火花が散ると3人の頭上に雷が落ちる。
「あぎゃあああ~~~っ。」
「ぎええええ~~~っ。」
「ふぎゃあああ~~~っ。」
「今後はもっと計画性 を持って当たるべ~っ」
「へ、へい…………わかりやした。」
パンチパーマになった頭を下げて3人は再び平伏した。
「それでは精進に励むべ~っ。」
ウィザーはそのまま消えようとする。
「お、お待ち下さい。ドクロード様。」
「なんじゃ~?」
「実は刀を奪われちまって、それにもう路銀が殆ど無くて。」
「酒ばっかり食らっておるからじゃ~っ。」
再び3人の頭上に雷が落ちる。
「「「はぎゃあああ~~~っ!!」」」
「ウィザーギルドのお前たちの口座に少し入れておいてやる。一生懸命励めよ。」
「へ、へい、ありがとうございやす。」
少し焦げたケツを痙攣させながら礼を言う3人組であった。
アクセスいただいてありがとうございます。
最弱無双のウィザーと言う触れ込みですが……本当の様です。
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