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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
ドワッフ族の迷宮
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イリュージャ・ドーム

 ベルラは帰って来た時から元気一杯だったが母親と旦那に言われて家でおとなしくカルラちゃんと遊んでいた。

 出稼ぎに出ていたんだからうんと子供と遊んだほうがいいよ。

 

 武道大会も迫って来たのでエマ達は出発することにした。

 

「それじゃお世話になりました。」

「エマさんまた遊びに来てちょうだいね。」

「カルラをありがとうごぜえましただ。」

 シンゴが頭を深く下げる。

 

 まあ、大元はアタシが原因だからなー、ちょっと複雑だな。

 

「久しぶりに暴れられて楽しかったよ。」

 いえいえ、お母さんはまだ現役ですから。

 

 その足で扇子の所に行くと子供達が待っていた。

「それじゃエルーラとティンカー、もう用意は良いですね。」

「はい、エスペラン先生。」

 ふたりは元気よく返事をする。

 

「いい事?エマさんの言うことをよく聞くんですよ。」

 エスペランはふたりを抱きしめる。

「はいっ。」

 コイツこんなに子供に優しいのになんでカルラをさらう手伝いをしたんだろう。

 

「お母さんに合えることを祈ってますからね。」

 子供達もエスペランを抱きしめる。

 出発の時子供達が全員で見送ってくれた。

 もし親が見つかればここには戻って来ないからだ。

 

「この馬車の名前はキューちゃんよ。」

「きゅっきゅきゅー。」

「お二人によろしくと言っています。」

「よろしくお願いしますキューちゃん。」

「よろしくー、きゅーたん。」

 

「私はウィザーのシドラですよ。お二人をイリュージャ・ドームまでお送りします。エスペランからご両親の手がかりはエスペランから聞いていますが、エマさんの試合の合間に探すことになりますのでしばらくは我慢なさってください。」

「はい、わかりました。」

 少し緊張しているのか対応が固いなー。

 

「エマさん、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

「なに?シドラ。」

「なぜお二人はそのように荷台の後ろの方に寄り添って座っているのでしょうか?」

 ふっ、私の教育の成果だよ、シドラ君。

 

「さあ、なぜかしらねえ、あそこの方が過ごし安いんじゃないの?」

 エマはペロッと舌を出した。

 

 その晩は橋の袂に有る宿に泊まる事にした。

「ふたり部屋は有るかしら。」

「あるよ、その子達と泊まるのかい?」

「はい、そうです。」

「食事は?」

「お願いします。」

「銅貨5枚だね。」

 

 前のドームで仕事をしたのでお金は有った。

 しかしこのままずっとこの子達の面倒を見るとなるとちょっときついかな?

 そんな事をエマは考えてしまう。

 

「では、これでお願いします。」

 エマの後ろからシドラが金を出す。

「アンタその金どうしたの?」

「エスペランから預かりました。子供達の旅費に使うようにとの事です。?」

「ちょっと見せなさいよ。」

 エマは金袋をひったくる。意外な程多くの金が入っている。

 

「こんなに?」

「余ったらエマさんが使っても良いそうです。」

「あいつもいい金持っているのね。」

「はい、ウィザーですから。」

 エマは渋い顔をした。

「ま、いいわこれはアンタが持ってなさい。」

 

 姉妹は旅の疲れかひとつのベッドでふたり仲良く眠っていた。

「それでは私は出かけてきますのでこの子達の安全はあなたにお任せ致します。」

「まあ、この子達の事を攫う悪党もいないだろうから。」

 

「はい、でもここはドワッフ族のドームですから夜這いに来るかも知れませんよ。」

「平気よ、あんな連中。」

「貴方ではなくそちらのお二人です。」

「バカ言わないでこんな子供に夜這いをかけてどうするのよ?」

 

「いえいえ、ピクシー族の成人女性とそのお二人を彼らに区別出来るでしょうか?」

 げ?そういうことか?

 

「それでは私はこれで失礼致します。」

「あ、シドラ。」

 出ていこうとするシドラにエマは声をかけた。

「何でしょうか?」

 

「い、いえなんでもないわ。」

 なぜかシドラがニヤリと笑ったよな気がした。

 シドラの言葉が気になってその夜エマは一睡も出来なかった。

 

 

 

「エマさん、どうしました?目の下にクマができていますよ。」

 

 誰のせいだ?だれの?

 

 馬車は橋の出口に並んで出発を待っていた。

 この時になってエマは呼吸器が一個しか無いことに思い至った。

 エマはマスクを姉妹のどちらに付けさせようかと考えていた。

 

 ベルラ達は大人だったし少し位何かが有っても問題は無かった。

 しかし今回は子供である。どちらにとっても体に大きな負担となるに違いない。

 そもそもあの鬼畜のシドラは喜んでこの二人やエマに電撃を食らわして目を覚まさせるだろう。

 

「どうしました?エマさん。」

「ね、ねえシドラ子の呼吸器の予備は本当にないの?」

「はい、元々それはエマさんの為の特別装置ですから。」

「だってこの子達に呼吸器を付けさせずに橋を渡る訳には行かないわよ。」

 

「ああ、その事ですか。橋を渡っている時は交代で呼吸器の空気を吸えば問題ありません。」

「なにそれ?」

「3回深く呼吸して次の人に渡せば3人位でしたら気を失わずに橋を渡れるでしょう。」


「それじゃなんでベルラ達の時は教えてくれなかったの?」

「ああ、一度蘇生法の実験をしてみたかったのですよ。ドワーフの女性でしたら少々の事では死にませんから。」

 エマはシドラの首筋をつかむと荷台に引きずり下ろし顔と言わず胸と言わず踏みつけにしてやった。

 

「あ、いやっ、エマさん、そこはちょっと。」

 全く効いた風もなくされるがままに蹴られるシドラを幼い姉妹は恐怖の目で見ている。

 足跡だらけのシドラを御者台に放り投げると呼吸器を持って姉妹の方を向く。

 

「さ、いらっしゃい。橋を渡るからね呼吸器をつけるわよ。」

 ふたりは抱き合ったまま、すすすっと荷台の反対側に移動する。

 

「あ、いや、大丈夫だから………。」

 エマは引きつった笑顔でふたりを見ていた。

 後ろでシドラがこの反応を見て喜んでいたのは言うまでもない。

 

 何やかやの大騒ぎの末なんとか呼吸器を付けて3人共無事に橋を渡る事が出来た。

 

 

 

 エマ達が橋を渡るとそこはエルフィン族の国である。

「なにこれ?」

 橋を渡ったところに有る建物には長蛇の列が出来ていた。

 

「はい、エルフィン族は元々排他的な種族でして、それが侵略を受けてからは人の出入りに関しては非常に厳しくしている様です。」

「それでこれか。」

 ここで期限付きの滞在許可証を発行され、滞在中は常時持ち歩かなくてはならないのだ。

 占領された経験から他種族の移民を基本的に認めていないそうだ。

 

「エルーラ姉妹はもしここに住む事になった場合はどうなるのかしら?」

「その場合は永住許可を受けますが、身元保証人が必要ですね。二人とも未成年ですからこの場合ウィザーという事になるでしょう。」

 

「行商人もみんなこの滞在許可証をもらうのかしら?」

「一応エルフィン政府の発行する行商免許が有れば凝り返し使えますし、並ぶ必要もありません。」

「あんたらウィザーは?」

「私たちは身元が完璧ですからフリーパスです。」

「あそっ。」

 

「それじゃ何でシドラも一緒に並んでいるの?」

「何事に限らずイベントはすべてクリアしておくのが旅の醍醐味ですから。」

「アンタの価値観はようわからんわ。」

「あんた達アタシ達から離れちゃだめよ。」

「「は~い。」」

 

 通商のための馬車も荷物を調べられ密航者などがいないかどうか厳しくチェックされていた。

「お姉ちゃん。」

「うん、やっぱしあたしたちの計画は穴だらけだったようね。」

 エルーラはもし自分たちが橋を渡れたとしてもこの検閲で見つかっただろうと思った。

 

 そうすれば犯罪者として投獄されるかドームに送還されるかどちらかだったろう。

 しかし今回はシドラ達のおかげで無事に橋を渡ることが出来そうだ。

「あんな薄情なウィザーでもエスペラン先生の言う通り役に立つものだわね。」

「うん、お姉ちゃん。」

 

 等と言うひそひそ話には気付くこともなく滞在許可証は発行された。

 検閲所を通過するとそこはずっと農地が続いていた。

 通路は無駄なく耕され非常に高い収穫を誇っているように見える。

 以前にドームを占領され通路に閉じ込められた種族だけ有って通路部分の整備はすごくいい。

 

 住んでる人も他の通路の比べると遥かに多いようだ。

 かつてはこの通路がエルフィン族全体を養っていた時期が有ったそうだ。

「こちら側の通路には軍隊を置いていませんがマイリージャ側には砦が有って軍隊を常駐させている様です。」

「やっぱり昔侵略してきた国と対峙しているから当然でしょうね。」

「ただ通商路の関係で最近は融和政策を取っている様ですが、エルフィン族は警戒を解いてはいない様ですね。」

 

 昔はこのイリュージャ・ドームはドームいっぱいに森が広がっていた。

 エルフィン族は森の中に住み樹上に家を作っていた。

 彼らは狩猟と農業をして暮らしていたという。

 その頃は今よりはるかに少ない人数しかいなかったらしい

 

 マイリージャがこのドームに侵攻したのはその豊富な樹木が目的だったそうだ。

 産業が進みドームが許容する以上の人間が住み始めた為に燃料も食料も自給できずに周囲のドームに侵略を行っいるのだ。

 イリュージャ・ドームはマイリージャの隣のドームで有った為かなり初期から侵略を受けてきたのだ。

 

 侵攻してきたマイリージャ軍はエルフィン族を殺し木を伐り始めた。

 何度もエルフィン族はマイリージャ軍に攻撃を仕掛けたが軍は砦を築きながら木を伐り続けた。

 マイリージャ軍もそれなりに被害を受けたが軍の人数は圧倒的にマイリージャ軍の方が多く、エルフィン族は後退を続けた。

 

 兵士の大半を殺されたエルフィン族はふたつの通路の手前に砦を作りそこにたてこもった。

 マイリージャ軍の目的は樹木だったのでそれ以上の侵攻は無かった。

 マイリージャとしては木を切り倒した後に入植するつもりであったし、入植して人間が定住すればそれで支配は完遂するからだ。

 

 しかしエルフィン族は多くの仲間を失ったが通路の中では安定した農業を行った。

 かつて宿敵だったドワッフ族もピクシー族達が農業に協力してくれ物資の支援も行ってくれた。

 イリュージャ・ドームをマイリージャに突破されれば自分たちのドームが危ういからだ。

 ピクシー族を取り込んだドワッフ族はかつてよりはるかに機智に長けていた。

 

 それから20年間エルフィン族は子供を作り人口を取り戻した。

 20年の間子供たちに戦士としての訓練を続け恐ろしい程精強な軍隊とした。

 その後の凄惨な戦闘はあまり語られていない。

 彼らはかつての森の民として培った技術に新たに暗殺術としての技を加え徹底したゲリラ活動を行った。

 

 その結果ドームに存在した軍隊と入植者の半数を死に至らしめた。

 しかもエルフィン族はほとんど犠牲者を出すことは無かったのだ。

 ハンターとしての天性の能力に暗殺技術を加えたエルフィンの戦士は確かに最強の戦士であった。

 

 結局マイリージャはこのドームの支配をあきらめ通路を封鎖した。

 長い時を掛けドームの奪還に成功したエルフィン族ではあったが、そこにかつての森はなかった。

 それは悲しむべきで事ではあったがこの20年に増えた人口はこの後さらに増える事を意味していた。

 ベビーブームである。

 

 何が幸いするか分からない。森を失ったエルフィン族は広大な畑を手に入れる事になったのだ。

 その後に起きる人口爆発を農地によってしのいだエルフィン族はこの勝利を忘れないようにする為に。

 ドームの奪還に成功したエルフィン族はその後も再び他国の侵略に対抗するために国民の戦闘能力の維持を目指した、

 その為に年に一回この武道大会を開催することにして、今も大会を続けている。

 エルフィン族の若者の大半はこの大会に出場するために日々鍛え続けている。

 

「……とパンフレットには書いてあります。」

「アンタ本当にマメね。」

「はい、この程度しか能力が有りませんから。」

 

 エマ達はトコトコと通路を走って行く。

 トロル姉妹は周り中に自分と同じ顔をした人間がいるのを見るのは初めてだろう。

 エルフィン族の大人を見ることすら初めての経験なのだ。

 

「お姉ちゃん、みんなすごくきれいな人達ばっかり。」

 扇子の彫刻の通り皆一様に背が高く痩身である。

 顔の彫りも深く全体的に美形であった。

 ちなみに耳は尖っていないが多少横に広く前を向いている。

 なんでも狩猟民族なので音が良く聞こえるような形になっているらしい。

 

「エマさんほら女の人、あんなに多くな胸をしてる。」

 エマはぴくっと頬を引きつらす。

 大部分の女性は胸が大きい。あの彫刻に嘘は無かった。

「大丈夫ですよあなた方も後5年もすればあれくらい大きくなりますから。」

 

 いらん期待を持たせるんじゃない。

 

 …と思いつつ、ついエマは自分の胸と見比べてしまう。

 ん!負けてない!……と思う。

 

「個体差が有るのですから単体で見比べる事に意味が有るとは思いませんが。」

「なんでアタシの考えていることがわかるのよ!」

「付き合いが長いですから。」

 はあっ、とエマは溜め息を付く。

 

 姉妹は出会う人全てがエルフィン族なのを見て目を輝かせている。

「エルフィン族は閉鎖的な種族であまり外のドームには出ていかないそうです。」

「そうなんですか?」

 

「それ故お二人がゲオラ・ドームにいた事自体珍しい事と言えましょう。」

 なるほどね、それであの3人組は前から目を付けられていたんだ。

 姉妹はまだ幼いと言いながら目鼻立ちの整ったかわいい顔をしている。

 このまま育てば二人共非常な美人になるだろう。

 

「それでさらって売り飛ばそうとしていたんだ。」

「そう言えばシドラあの連中はこのふたりをどこに売ろうとしていたのかしら。」

「今度聞いておきますが多分マイリージャでしょう。あの国は奴隷制度を認めていますから。」

 

 またマイリージャかロクな国じゃ無いんだな。

 

 前もピクシーをさらって売り飛ばそうとしていたもんな。

「私達もマイリージャを通過しますからエマさんも誘拐されない様に気を付けて下さい。」

「そうね私って美人だから気を付けなくちゃいけないわね。」

 エマは周囲に薔薇の花を咲かせながらそう言った。

 

「はい、女性奴隷同士のリアルファイトが人気を集めているそうですから。」

「ちょっとそれどういう意味?」

 エマが牙をむきだしてシドラの胸ぐらをつかむ。

「あ、お二人が怯えておいでですよ。」

 

 姉妹が抱き合って荷台の隅に移動していた。

 


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