エルフィン族の姉妹
まあ、今回の事はアタシが原因みたいなものだからべルラが帰って来るまでは家にいることにした。
どうせ次のドームに行っても大会の受付時間まではしばらくあるんだし。
シドラがウィザーとの連絡をしてくれる筈なのでそうすることにした。
とは言えタダ飯を食うわけにも行かないので家の手伝いや子供のおもりをしたりして過ごした。
「エマさん街まで買い物に行きませんか?」
シドラがザルエガから用を言いつかったみたいだ。
「ん、いこいこっ。」
という訳でエマはシドラと一緒にキューちゃん乗って街に買い出しに出かける。
「きゅっきゅ、きゅう~~~っ」
キューちゃんも嬉しそうだ。温泉に入ってこよう、またシドラの逆さ釣りを見てみたいな~なんてね。
「今回は風呂場には近寄りませんから悪しからず。」
げっ、コイツまたアタシの心を読んだな。
「あっはははは~っ、そんな事考えていない、いない。」
「何を考えておられたのですか?」
いかん、墓穴を掘った。
「いやいや、また温泉に行ったらサツキちゃんに会えるかな~なんて考えたりなんかしたりして~。」
「温泉に入って夜這い付きのゴウコンに行きますか?」
「なにそれ?」
訳の分からない事をシドラは言う。
「いえ、なんでもありません。」
「そういえば宴会の後何が有ったのかしら、ぐっすり寝ていたから何も覚えていないわ。」
「そうですか、幸いでしたね良くお休みになれました様ですから。」
「ベルラ達が変な事言ってたけどアンタ何か知ってるの?」
「いいえ、私は別の所で逆さ吊になってましたから。」
「アンタもお酒でも飲んだら人が変わるかもしれないわね。」
「いえ、ウィザーですから。」
な~んか引っかかる感じであったが、まああまり考えても仕方がないので考えるのをやめた。
街に着くとやはり賑やかで活気に満ちている。
「先に買い物を済ませましょう。」
エマ達が馬車を降ようとした途端不穏な発言が飛び込んできた。
「あ、覗きのウィザーだ!」
「覗きをやった逆さ吊りにされたウィザーだ。」
シドラは馬車を踏み外して思いっきりコケた。
「オーホッホッホッなんとシドラじゃありませんか恥ずかしげもなくまたお顔をお出しになったんですか。」
癇に障る笑い声が響く。
扇子が3人の子供を連れてシドラの方を見てあざ笑っていた。
3人ともドワッフ族では無く人族のようだ。
扇子の服はベルトラたちに好評だった事に気を良くしたのか更に派手さを増して、体の前面に刺繍を施した物を着ていた。
「ななな、なんですかー?あなただって木の天っ辺から逆さ吊りにされたくせに。」
「嘘だーい、エスペラン先生が女湯なんか覗く筈ないじゃないか。」
「いやいやいや、女湯を覗いたんじゃなくてウィザーの戒律を……。」
「やっぱり覗いて無いじゃないかー。」
「スケベウィザー。」
「いやらしいわねー、最低ね。」
「ううううーっ」
あららシドラが悶てる。よっぽど悔しいんだ。
「先生なんかすごいんだぞ、こないだの地震のあと泥だらけになってドームを守ったんだから。」
「これこれ、私はそんな事は言ってませんよ。」
扇子は手に持った扇子を開いて口元を隠す。
コイツ絶対仮面の下で笑ってる。
「ん?だってあの地震と閃光の後泥だらけになって帰って来て地震はこれ以上被害が出ないから心配無いって言ってたじゃない。」
「そうよ~先生はいつだってあたし達の安全を考えてくれるんだから。」
「うう~っ本当の事が言えないのが辛い~っ」
まあな~ウィザーの信用に関わる問題だもんな~っ。
「それよりアンタどうしてこんな所にいるの?監禁されてたんじゃないの?」
「オーホッホッホッウィザーを監禁しても意味なんか有りませんことよ。」
「なんだこの女は?エスペラン先生が悪いことする筈が無いじゃないか。」
「あたしたちの大切な先生なのよ。」
周りの子供たちがエマの言葉に対して一斉に反発をする。
「えーと、この子達は?」
「ああ~ら、ごめんなさい。この子達は私の経営する孤児院の子達なのよ。」
「失敗でした、いくらウィザー通信の全世界放送を行っても人間は誰一人あの放送を見ていないんでした。」
あんたのツメの甘さが結果として出たわけね。
「ごめんなさい、皆さんの相手をしてあげたい所だけどちょっと急用がありましてね。」
「ウィザーが急用?そんな事有るの?」
「俺達の友達が家出しちゃったんだよ。」
どうやら子供が行方不明になったらしい。
「そんな物魔法でなんとかならないの?」
「この人は今魔法を使えないのですよ。」
「ああ、そうか、そういうことなんだ。」
「それじゃ急ぎますからこれで失礼するわ。」
そう言うと扇子はいそいそと子どもたちを連れて行ってしまった。
「なんかあの時と違って結構しっかりとウィザーやってるのね。」
「それはもう、腐っても枯れてもウィザーですから。」
あんたが一番ウィザーらしくないってことかね。
「何かいいました?」
「べつに、さあ早いとこ買い物済ましちゃお。お腹減ってきたし。」
エマ達は買い物を済ますとお昼を食べる事にした。
街の広場には屋台がたくさん出ておりエマはその中から饅頭のような物を買った。
「あそこに座れる所が有るからあそこで食べよう。」
「それでは私はこの荷物をキューちゃんに載せて来ます。」
エマは椅子に座ってシドラが戻るのを待っていた。
たとえ相手が物を食べなくても誰かと一緒に食べるほうが食事は美味しいからだ。
「あれ?」
今置いたばかりの饅頭の包が無くなっていた。
周りを見ると子供が一人必死で走って行くのが見えた。
エマは追いかけようと足を踏み出したが、考え直して追いかけるのをやめた。
「あんなものを盗むなんて、きっとお腹をすかしているんだ。」
そう思うと追いかける気も無くなってしまった。
「おや、エマさんお食事はもう終わったのですか?」
シドラが戻ってきてエマに尋ねた。
「ううん、子供みたいなのに盗られちゃった。」
「子供が食べ物を盗んだのですか?おかしいですね。」
「なんで?」
「ウィザーギルドの有る街では食事が満足に取れない子供は必ずギルドが配給を行いますから。」
ウィザーは驚くほど子供を大切にする。それはウィザーに言わせれば未来への投資なんだそうだ。
だから飢えて死ぬ子供を出したらそれはウィザーギルドに取っては大変な恥となるらしい。
「あれ?てことはもしかしてさっき言っていた家出した子供って事じゃないの?」
「あ、そうですね、もしかしたらそうかもしれませんよ。」
シドラはポンと手をたたく。
「シドラの魔法で探せないの?」
「さあ、どうでしょうね?」
シドラが空の方を見ながら答える。
コイツとぼけているのか?
「もしかして探せると言ったらアタシに覗きが出来る事がわかってまずいとか思ってるんじゃないでしょうね。」
「そんな事はありません。覗けても覗かないのがウィザーですから。」
それって自慢になるのか?
「どちらの方に逃げて行きましたか?その子の特徴を教えて下さい。」
「そうねえ、あっちの方向かしら。髪の毛は金色で緑色の服を着ていたわよ。」
「どれどれ、うう~む。」
シドラは頭に手を当てて何かの見るような格好を取る。
どうせカッコつけてるだけだろうけど。
「うう~む、多分路地みたいな所に隠れているとは思うのですが……。」
「どうやら追いかけて来ないわ。」
先程エマの饅頭を盗んだ少女は後ろを振り返ってそう思った。
それでも後ろに気を使いながら路地の狭い道を何度も曲がりながら妹の所に向かう。
曲がりくねった細い路地裏を周りを見ながら家の物陰をさぐる。
「お姉ちゃん。」
「ちゃんと隠れていたな。」
7歳位のエルフィン族の女の子が物陰から表れる。
「うん、さっき誰かが近くを通ったけどじっと隠れて動かなかったよ。」
「いい子だ、ほらご飯をかってきたよ。」
先程エマから盗んだ饅頭を差し出す。
「お姉ちゃんこれひとつしかないよ。」
「いいんだよあたしはお腹が空いたから先に食べてきたんだから。」
そう言って饅頭を妹に押し付けた。
「うん、ありがとう。」
よほどお腹が減っていたのだろう。女の子はモクモクと饅頭を食べ始めた。
「おお、見つけました。どうやらもう一人の子供が一緒のようです。」
「もうひとり?」
「小さい子の方が何かを食べていますね。」
「わかったわ案内して。」
「逃げられる危険がありますから私とエマさんで挟み撃ちにしましょう。」
「わかったわ。その子が扇子の言っていた子でなくても放ってはおけないものね。」




