リザードマン登場
「それで?アンタ何をうかがっているわけ?」
ナーガを倒し次の扉へ入ろうとしていたのだが思った以上にシドラが慎重で扉の外から何度も中をうかがっている。
「入った途端また何かに巻き付かれたりいきなり落とし穴に落されかねませんので。」
あの扇子ならやりそうな事だな~。。
そっとみんなでそっと中を覗くと空っぽの広間にぽつんと一人の男が立っていた。
半裸に近い上半身に短いスカートのような腰巻きをしており、腰の前にはメダルのような物がぶら下がっていた。
その腰には刀がぶら下がっており、明らかに戦士の雰囲気があった。
「ね、あの男もしかして……。」
「うむ、銅像の中に有った竜族に似ておるな。」
男の顔は確かに人間の物ではなく、その肌けた肩から腕にかけては鱗のような肌が見えていた。
「あの銅像とは少し違うわね。」
「あの銅像には尻尾なんてあったかい?」
「いや、無かったよ。かあさん。」
「あいつが今度の相手なのでしょうね。」
「どうした入ってこい。」
突然ん部屋の中から野太い声が聞こえる。あのブルマー男の声だ。
立っている男の後ろにすうっと人影が現れる。
左側に扇子を持ったウイザーが顔を半分をその扇子で隠して現れた。
先ほどとは違いピンク色のウィザーのフードコートを着ていたが、その正面には派手な刺繍が施されていた。
右側にはブルマー男がソファーにふんぞり返っていた。
これも先程とは異なり革製の甚平羽織のような格好の上着を来ており中の服装も体にピッタリした濃い色の上下に革製のブーツを履いていた。
そして二人の間には台の上にカゴのような物が置かれていた。
そのカゴの中には小さな女の子が寝ているのが見える。
「カルラ!!」
お母さんはそう怒鳴ると孫めがけて猛然と走り出した。
二三歩走った所で天井から金ダライが落ちてきてお母さんの頭に命中する。
しかし全く何も感じていないようにそのまま一直線に孫の方に向かって走り続ける。
更に水の塊が降ってきてお母さんをびしょ濡れにする。
しかしお母さんは気にする素振りも見せずに突進し続ける。
竜の男がお母さんの前に立ちはだかろうとするが、まるで見ていない。
そもまま跳ね飛ばすと孫に駆け寄って抱きしめようとする。
ところがその太い腕は孫に届くことはなく空を掴む。
「オーホッホッホッホッーっ、慌てちゃ駄目ですよ。これは幻ですから。」
「本物のワシらは隣の部屋にいる。」
ブルマー男が凄みの有る顔でニヤリと笑う。
「せっかく罠を仕掛けたと言うのにあっさり無視するとはなかなかお母さんもやりますね。」
やっぱりシドラが先に入ってくるのを見越して罠を仕掛けていたみたいだ。
「どうやら受けを狙おうとして罠を仕掛けていたようですがお母さんに無視されてスベッてしまっいましたね。」
「やーい、一発ギャグに失敗して一生懸命取り繕ってるわ、みっともないわねー。」
「やかましいわよ、あんたがあのタライに頭をぶつけてコケた所を大笑いする予定だったのよ。」
オイオイネタバラシするなよ。スベりの上塗りだぞ。
「孫に何をしたんだい?」
「何もしてはおらん。噛み付いたまま離れないから食い物で釣ってみたら飛びついてきおったわ。そのまま腹いっぱい食ったらすぐに寝てしまったのだ。」
うん、確かにお腹がパンパンに膨らんでる。少し大きめだけどやっぱり赤ん坊に近い子供なんだ。
「それよりあなたに踏まれたそのリザードマンがおかむりのようですわよ。」
頭に足跡をつけられたリザードマンがお母さんの肩を無言で掴む。
「やかましい!!」
振り向きざまのお母さんのバックブッローが炸裂し男が吹っ飛ばされる。
しかし男は屈脚すると2回転してそのまま両脚で着地した。見事な運動神経である。
おい!そこで両手を上げてポーズを取るな。
どうもシドラの行く所には親戚みたいなやつらがやたら多いような気がする。
男がジタバタしながら悔しがっている。
ん?シドラを指差しているぞ。
「あれはボディランゲージですね。どうやら言葉が話せないようです。」
「で?何て言っているの?」
「『なかなかやるな、そこのオバさん。さすがドワッフ族の女だ、だが俺の力はこんなものではない。』と言っております。」
竜人の男は最初の位置に戻ると腕を組んで仁王立ちになる。
「んで?だから何だって言うの?」
男が慌てたように再びボディランゲージを始める。
あれ絶対に忘れてたな。
「『俺は卑怯者だ、全員を相手にして勝てる自信がない。一人づつなら相手をしてやるから順番にかかって来い。』だそうです。」
いきなり男はシドラの所に駆け寄ってシドラの頭を思いっきりぶん殴ると、シドラの前でボディランゲージを始める。
「『全然違う事を言うな、殺すぞ。』と言っております。」
「アンタ全然判らないのに適当な事を言ってない?」
「いえ、私はウィザーですからちゃんと理解しております。彼の表現が個性的過ぎていささか誤解を生みやすかったのではないかと愚行する次第です。」
ホントかなー?
男は元の場所に戻り再びボディランゲージを始める。
「今度はなんて言ってるの?」
「『お前たちは一人づつでは私の相手になるまい。構わないから全員まとめてかかってこい。』だそうです。」
「大した自信であるな。」
「それからこうも続けています。『もし一人で戦う勇気のある者は申し出よ。その者の望む武器で立ち会ってやろう。』」
「さっきとまるで反対の事言ってるじゃない。」
「不思議ですねー。さっきは確かにそう見えたのですが。」
エマはジト眼でシドラを見ている。
「そうかい?それじゃああたしが相手をしてやろうじゃないかね。」
お母さんがバキバキと指を鳴らしながら前に出る。
「ちょっと、お母さん!」
「あんたは黙ってな。」
ベルトラが一喝されて引き下がる。
「げ、ゲンナイさん。お母さんは大丈夫かしら?」
「某にもわかり申さん。ただ、奥さんからはかなりのオーラを感じる事が出来る。」
「オーラ?」
「武士から発せられる雰囲気の事だ。ある程度修行を積んだものであれば外見からおおよその強さは感じられるものなのだ。」
竜男が再び手足を動かす。
うん、この緊張感の中なんとなく間抜けに見えるけど。
「『素手で良いのか?』と聞いています。」
「いいよ。」
その言葉を聞いて竜人は腰の刀を外し後ろに置き一歩前に出る。
手のひらを上にして前に出すといかにも馬鹿にしたようにオイデオイデをする。
「ふん、馬鹿にしおって。」…
お母さんは悠然と竜男の前に進み出る。
こうしてお母さんの後ろ姿を見るとすごい体をしている。
丸く盛り上がった肩の下に大ぶりなメロンが2つある。広背筋は力強く広がり、ウエストは女性にしては太いがたるんだ感じは全くない。
ヒップは太った女性特有の丸みはあまり感じず、むしろ大きく後ろに張り出しており腰の強さを感じさせる。
うん、全体としてはラフレアちゃんの縮小版だ。
縮小と言ってもラフレアちゃんが桁外れなだけで、お母さんは実際私より大きい。
竜人を前にしても体格的には全くの互角以上である。
「それではエマさんとゲンナイさん、これをどうぞ。」
「なにこれ?」
「マイクと言います。声を拾う魔法のステッキです。」
「こんな物どうするの?」
「もちろんウィザー通信の実況中継です。」
なにそれー?
「いよいよ始まりました世紀の一戦!孫を取り返す為に引くわけには行かないドワーフ族のお母さん!!迎え撃つは伝説の竜の化身、竜人のリザードン。」
「ね、あいつの名前はリザードンて言うの?」
「今、私が付けました。」
なんちゅういい加減さ。
「いいんです。突如として現れたこの戦いのワンダーランドに無粋な詮索は不要なのです。」
「さてエマさんこの戦いどうご覧になります?」
「孫を取り返すために単身リザードンとの戦いに挑むことを決めたお母さんの意気込みに感動しています。」
「お母さんがんばれーっ!」
「おお、後ろからもお母さんに対する激しい声援が飛び交っております。」
一人だけどね。
「まずはお母さんの先制パンチ!リザードンが予想以上のダメージか?ふらついています。」
「リザードンのエルボーで反撃!おお、お母さんは何でもないとでもいう風に胸を払っております。」
「お母さんのパンチ、リザードンのエルボー、互いに一歩も譲ること無く激しく打ち合っております。」
「ゲンナイさん序盤は殴り合いから始まりましたね。」
「まだ相手の力量を計るという段階であるな。」
「まずは探り合いという状況ですね。おっリザードンがみぞおちに蹴りを入れた。」
「効いたのであるかな?前かがみになっておる。」
「おお、お母さんが前かがみのタックルでリザードンを倒した。蹴りが効いたのはフェイクだったのか?」
ドワッフ族の筋肉量は半端じゃ無いからね、あんな攻撃はなんとも無いわよ。
「倒れたお母さんは直ぐにリザードンの上に乗りかかります。これはマウントポジションだーっ!」
「いいわ序盤戦から直ぐにマウントを取るなんて流石はドワッフ戦士の末裔。」
「エマさんそのそのシチュエーションどこで聞かれました?」
「今私が決めたの。」
「なんちゅういい加減さでしょうか?」
あんたもやってる事でしょうが!
「ではギミックと言うことでこのまま続けさせてもらいます。」




