カルラは満腹になるとお昼寝です
「おまえいつまでその娘をぶら下げているつもりなんだ?」
ザルデイは扇子の尻に噛みついたままぶら下がっているカノンを見る。
「そうは申しましてもねえ、子供ですからあんまり手荒な真似も出来ませんしねえ。」
「ふん、そいつもウィザーの戒律か?」
「それにしてもこのままと言う訳にもいきませんしねえ。まあ、腹でも減ったら離すかもしれませんねえ。」
エスペランはおしりを降ってカノンを見る。しばらく前まで唸っていたが今はおとなしくぶら下がっている。
「そいつ、嫌に大人しいと思ったら寝ていないか?」
「あら、ホント。おしりに噛み付いたまま寝ちゃってる。」
二人してスースーと寝息を立てて寝ているカノンを見る。
「しかし、ドワーフ族の女とういのは年に関係なく凶暴な連中だな。」
「いいえ~、この種族はとても家族思いで情が厚いんですのよ。」
「意外だな、今回の事を行うのにお前は積極的に支援をするから連中の事を見限ったのかと思っていたが。」
「私もこのドームでドワーフ族と関わってもう300年以上に成るんですよ。彼らと共に暮らしていますが自由奔放でいながら深い所で仲間意識の強い所の有る連中だということがようやく判ってきましたのよ。」
「その連中に危害を加えるワシの事をなぜ援助するのだ?」
「さあ、何故でしょうね?私にもよく判らないのですよ。」エスペランが首を傾げる。
「大体アタシはゲオラドームのウィザーギルドの責任者なんですよね。」
「他にも孤児院と学校を経営しているんじゃないのか?」
「まあ、一人でやっている訳じゃ有りませんけどね。」
「そんなお前がドワーフの娘の誘拐の共犯を良くやっているな。」
「誘拐したのはあなたでしょうが。」
「いやいや、お前も立派な共犯だぞ。これでドワーフ族の信頼は無いも同然だ、もうウィザーギルドには戻れないだろう。」
ザルディがエスペランに向かって恫喝をするが、エスペランはシレッとした物である。
「いいえ~、別にどうということは有りませんのよ。」
「そう言うものなのか?」
「ええ、そういうものですよ。」
「……………。」
ザルディには繋ぐ言葉が無かった。。
「ワシもウィザーの組織には詳しくはないが全体を統べる組織と言うのはないのか?」
「特には無いんですよ、アタシ達はそれぞれがそれぞれの判断で行動することになっていますから。」
「それでは戒律とは一体何なのだ?」
「戒律はわれわれウィザーと人間が軋轢を生じさせない為の物ですから。」
「お前たちの行動の基本コードではないのか?」
「そう決めた筈なんですけどねえ、はて?」
エスペランは特に当惑した風もなく疑問を唱える。
「何だあやふやな物なんだな。」
「ウィザーはこの世界で最も理性的で知性の高い存在なのですからね。なにがどう有るべきか等というのは実は殆ど差のない結論に落ち着くのですよ。だから何かを統べる必要など無いのです。」
「それはいくら何でもフカシだろう。お前たちを見ているととてもそうとは思えんぞ。」
その点だけはエマとザルディの意見は一致していた。
「それよりそのケツに食らいついているガキをなんとかしなくちゃな。」
さすがのザルディもエスペランの尻に食いついている幼児が目障りになって来た。
殺して良いのであればさっさと始末してしまいたいのだがエスペランの協力を得るためには仕方なかった。
「もうお腹が空いている頃だから食べ物を見せれば離れるんじゃないの?」
「そりゃいいが、ここに食い物なんか有るのか?」
「有りますわよ、食べ物くらい。」
「じゃあ直ぐに用意してやれ。」
さすがに考える事すら面倒になって来た。こういった面倒事は部下に押し付けるに限る。
「倉庫に用意して有るから温めるだけですのよ。」
扇子のウィザーはすぐにテーブル一杯の料理を用意する。
「ウィザーのくせに一体誰に飯を食わすためにこんなに食い物を常備しているんだ?」
すでにこの体を手に入れた時に物を食う事を放棄したザルディである。
幸いなことに物を食う事に対する欲求すら無くなり食べ物を食べた記憶すら曖昧になっている。
「ああら、ここはこのドームでは結構な観光スポットなんですのよ。」
「まさかあの彫刻を見に来るんじゃあるまいな。」
「ま、失礼なかなり評判はいいんですのよ。ですから観光客に食事を提供するための屋台も有るんですのよ。」
まさかあんな彫刻を見にわざわざやって来る物好きがそんなにいるのかと半ばあきれてしまった。
「お前、多角経営をやっていたのか。」
「ウィザーでもお金は稼がなくちゃならないですからね。」
意外とウィザーと言うのも世俗的な物なのだとザルディはその時に思った
部屋に食べ物の匂いが充満する。
するとそれまで扇子ウィザーのお尻に噛み付いたまま眠っていたカルラがバチッと目を開けた。
テーブルの上の食事を見つけると脱兎のごとくテーブルに向かって走り出す。
「あらら、元気のいいこと。」
カルラはテーブルの上によじ登ると並べられた食事を見てはっ、はっとよだれを垂らす。
「はっはっはっ、まるで野獣だな。」
やはり人間等このような下等な存在だとあらためて思う。
カルラはよだれを垂らしながらじっと二人の方を見ている。
「なんだ?あいつは食わんのか?」
「いいのよ、食べなさい。」
扇子はカルラに向かって優しく食事を促す。
それでもカルラはよだれを垂らしながら二人を見ている。
それを見ていた扇子は思い当たる事でも有る様に言った。
「考えてみたらこの娘はウィザー語はまだ習っていないのよね。ザルディ、いらっしゃい。」
「なんだ?ワシがなにをするんだ?」
「いいからテーブルの前に座るのよ。」
ブルマー男は言われるままテーブルの前に座る。
「さあ、お上がりなさい。」
そう言って扇子ウィザーはフォークをカルラに渡す。
カルラは満面の笑みを浮かべると嬉しそうに食べ物にかぶりつく。
「ガツガツ、モグモグ。」
ものすごい勢いで物を食べ始めた。かなりお腹が空いていたのだろう。
「どういうことだ?」
ザルディには子供の行動原理が全く理解できなかった。
「この子の親はちゃんと躾をしていたのよね。家族が揃うまでは食事をしてはいけないと言う事を教えられて来たみたいね。」
「ふむ?そう言う事か?ドワーフにしては意外だな。」
「人が生活すると言う事は私達とは違って簡単には最善の道を導き出せないものなのですよ、それ故に人間関係が棄損しない様にルールが必要になるんですのよ。」
「それが躾か?」
ザルディはあまり家族と言う物を重視しない生活をして来たので、そういった事には興味が無かった。
部下で有れば脅して言う事を聞かなければ、聞かざるを得ない戦場に送り込めば実によく言う事を聞くようになる。
「いいえ、躾などと言う物は理性の無い子供に人との付き合い方を押し付ける為の手段にすぎないのよ。」
「しかし今お前はこの子の躾が良いと言ったでは無いか?」
「いずれ大人になった時子供の頃躾けられた事を反芻して取集選択をして自分の行動のベースを作る物なの。躾は全てが良い事とは限らない物なのですけれどね。」
「お前の言っていることはさっぱり分からん。」
「あなたは人を見下したような考え方をしているようだけど、人がいて社会が有るからあなたが見下す事も出来るのよ。」
「フウム、お前は人間が好きなようだな。」
「人間が嫌いなウィザーはいませんよ。」
何なのだ?このウィザーは?言っている事とやっている行動が全く矛盾しているではないか。
「そこが判らんな、それなら人間を裏切ってまで何故ワシに協力する。」
「そういえば何でなのでしょうね?」
「お前は理由も判らずにワシに協力しているのか?ワシは人間に危害を加えるために造られたんだぞ。」
「そう言えばすごい自己矛盾を起こしていますね。」
「おいおい、お前はさっきこの世界で最も理性的な存在とか何とか言ってなかったか?やっぱりお前のフカシだろう。」
扇子はその事に反論するでもなくじっと食事をする子供を見ていた。
カルラは食べるのを止めると扇子の方をむく。
「じーじ。」
「どうしたの?」
「……?なんだ?なにを言っているんだ?」
「……じーじ。」
何かウルウルするような目で扇子を見る。
突然扇子はカルラを抱き上げると走り出した。
「わーっ、もうちょっと我慢して、まだ出しちゃだめよ。オマル、オマルーっ。」
「何だ用便か。」
なにか取り残された感のあるブルマー男はぼそっとつぶやいた。
そして正面を向いて指を指すとこう言い放った。
「おい、いい加減ぶるまー男はやめろ。ワシの名はザルディだ。」
用便を済ませたカルラは再びテーブルに戻ってくると喜々として食事を再開する。
しかし食べながらうつらうつらし始める。
頭がふらふら動くので扇子ウィザーが体を支えるとそのままウィザーに体を預けて眠ってしまった。
「暴れるだけ暴れてお腹が一杯なったら寝る、子供なんてこんな物なのよね。」
扇子ウィザーはカルラの口の周りを拭いて手や食べこぼしを綺麗に拭き取ってソファーにそっと寝かせる。
その様子をじっと見ていたザルディはずっと昔の事を思い出したような気がした。
「手慣れた物だな。」
「これでも孤児院を経営していますからね。」
扇子はまるまると膨らんだお腹をして眠っているカルラにタオルをかけてやる。
「食ったら寝る…か、赤ん坊は気楽でいいな。」
「さて、勝負はどうなったかしらね?」
意外とドワッフ族の躾は行き届いているようです。
ドワッフ族が夜這いに命を懸けるのは躾とは関係ない様です。以下次号




