サルサ村の肝っ玉母さん
6人を乗せた馬車の前に大きな家が見えて来る、家のすぐ横に大きな木が生えている。
「けえっただよ。ベルラもいっしょだど。」
「兄ちゃんお帰り。おお、ベルトラも一緒だか。」
馬車から降りたベルトラに男が抱き付く。身長はベルトラの胸ぐらいまでしかない。
「さみしかっただよ~っ。もうオラを忘れてしまっただかと思ったで~っ。」
「あはは~っ大丈夫、大丈夫。ほれ、ちゃんと稼いできたしお土産も有るよ~。」
ベルトラには婚約者がいるとか言ってたがこの人らしいな。
「おらもう寂しくて寂しくて、早く子供が欲しいだで。」
男はベルトラの胸に髭だらけの顔を擦り付けて訴える。
「何を言ってるんだそんな事客人の前で言うことじゃ無いだろう。ほら、離しなって。」
男はそれでもベルトラを離さず頭を擦り付けている。
「やろ、やろ、今晩やろ、早く子作りしよ。」
ピキッと音がしてベルトラの頭に青筋ができる。
抱き付いている男をベルトラが蹴り飛ばすと男は庭の大木にべたっと張り付いた。
「あれは、おらのいとこのジンダだよ。ベルトラの婿になってこの家に来ただがまだ子供ができないだで家で修行中だ。」
「おお、ベルラ、ベルトラ帰っただか。」
離れになっている納屋から少し年を取った男が出てくる。
納屋には鍛冶道具が見える所を見ると、この男は鍛冶屋をやっている様である。
「おらの叔父のガルダンだ。鍛冶屋をやってていまジンダを仕込んでいるところだ。」
「なんだジンダこんな所さはっついて、またベルトラに蹴っ飛ばされただか?」
「相変わらずベルトラの蹴りは強烈だでや。」ジンダは木に張り付いたままニタッと笑う。
「そんなとこでサボってなや、男の修行は厳しいんじゃぞ。」
ガルダンはジンダの首根っこを掴むとそのまま納屋のほうに引きずっていく。
「ベルトラ~っ、ベルトラ~っ。愛しているよ~っ。」
ジンダは手足をじたばたさせながらベルトラに向かって叫ぶ。
「男は言葉ではなく腕で示せ。」
ガルダンがジンダの頭をゴツンとどつく。ジンダは白目をむいて引きずられて行った。
「まったく幾つになっても子供のままでどうしようもねえだな。それじゃ子供一人育てられんぞ。」
ぶつぶつ言いながらガルダンは納屋の方に歩いていく。
花婿修行も辛いものが有るようだ。
「畑には限りがあるだで次女以降の亭主は手に職でもつけんことにはな。」
シンゴは家の入口に向かって歩いていく。
すると土間から上がったところに一人の男がガツガツと飯を食っていた。
「オシッ。」
男はシンゴたちを見て飯を食いながら頭を下げる。
「母さんただいま。」
ベルラが叫ぶと少し年を取ったドワッフ族の女性が出てきた、どど~んと胸が張り出ている。
「おお、ベルラ、ベルトラ元気だったかい?」
お母さんがうれしそうするな顔をする。やはり親子である。
身長もベルラ姉妹より少し大きいが、顔と胸の形がよく似ている。
「あたしの母さんのザルエガ、こちらは友人のエマとウィザーのシドラよ。シドラには送ってもらったのよ。」
「これはこれはウィザー様のお手を患わさせてしまいまして。ありがとうございます。」
ザルエガはシドラに丁寧にお辞儀をする。ウィザーは田舎では名士なのだ。
「いえいえ、旅のついでですから。」
「旅を?ウィザー様がなさるんで?珍しいですね。」
実際には物資の流通等でドームを行き来するウィザーは珍しくない。
しかし全員が同じ姿なのでそれがわかりにくいのだ。
「母さんこの人は?」
「ああ、今朝家の前で行き倒れていたから飯を食わせているのよ。」
「オッス、お世話になります。某ゲンナイと申します。」
男は食う手を休めて挨拶をする。外見的には40歳を過ぎた感じだ。
「あなは傭兵なのですか?」
シドラはゲンナイの横に置かれた刀を見て尋ねる。
かなり大きな刀で背負い用の革ひもがついている。鞘を見る限り身幅のある曲刀のようだ。
「はあ、隣のジャルデ・ドームで通路警備の傭兵をやっとりましたが、少々問題がおきまして除隊して参りました。」
「ジャルデ・ドーム?マイリージャの傘下のドームですね。」
「はい、それから働き口を探してこちらのドームをうろうろしておりましたが、先日盗人に金をすられまして3日ほどなにも食っておりませなんだ。おかげで助かりました、このご恩は忘れません。」
どうやらリストラに会って食い詰めたオヤジさんみたいだ。
それでも見ず知らずの人に食事を出すんだからドワッフ族はみんな優しいんだな。もし悪い人だったらどうするんだろう。
そう思ってお母さんの腕を見る。
……あ、だめだ生半可な男じゃお母さんには勝てそうもない。
「まあそんなことは気にしないで仕事が見つかるまでゆっくりしていきなさい。」
「いやいや、そこまで甘えるわけにもいきませんから。」男が慌てて手を振る。
「困った時はお互いさまですからそのうちだれか困った人を見つけたら助けてあげてくださいな。」
おお~っなんと太っ腹な発言、なかなか普通に言えるレベルではない。
ドワーフ族のお母さんはみんな肝っ玉母さんなんだな~。
「あんたらもご飯食べるだろう?それじゃ作ってやるよ。お父さん!」ザルエガが家の中に向かって叫ぶ。
その声に呼ばれてドワーフのお父さんが厨房から出てくる。
「あ、はいはい。すぐに作りますから。」
「あれ、ベルラのお父さん?」
「そうだよ父さんのドルガ。」
腰の低そうなお父さんだな。まあドワーフ族全体が男はそうだからな。
「雲が山の方から下りてきただな。昼過ぎに雨になるだかな?」
お父さんが出してきたものは芋を煮て野菜と混ぜた雑炊のような物だった。
この辺では普通に食べられている食事らしい。丸座に座ってみんなで食べる。
相変わらずシドラだけは何も食べずに見ているだけだ。
雲が厚くなって来てゴロゴロと音がする。ドームの中で雷が起きるのは珍しい。
そんなに昼は熱かったのかな?
だんだん音が近づいてくる。時々閃光が走る、これは本格的だな。
「おかしいですね、ドームの中でこんなに激しい雷が起きる筈はありません。」シドラが首をひねる。
雷は決して珍しくは無い。しかし大規模なものは起きない。
今起きているような事はドームの中では普通は起きないのだ。
「なんだ?ありゃあ。」
様子を見に外に出たシンゴが頭をひねるような声を出す。
どどーん、どどーんと落雷が近づいてくるような感じだ。
子供が怖がってベルラにしがみつく。
ベルラが娘を抱き上げると安心したようである。
地上に落ちる雷の稲妻が二列に並んで順番に落ちてながらこちらに近づいてくる、明らかに異常だ。
シドラもいぶかしがって外に出てくる。
稲妻と稲妻の間に空中に浮いた人影が照らし出される。
「なんか空に人が浮いてるように見えるけど、あれシドラの知り合いなの?」
「いいえ、あんな浮いたような者に知り合いはいませんが。」
「確かにあれは周りから浮くタイプだわね。」ベルラが同意する。
いや、シドラは十分浮いているけどね。
近づいてきた人影は人族男のようであった。
年の頃は40歳位であろうか?全身にぴったりとした真っ青な服を着ており、腰の部分だけ真っ赤なブルマーを履いている。
体に密着した服はたくましい筋肉のふくらみをはっきりと浮かび上がらせており、その背中には真っ赤なマントを翻していた。
まあ……ドワッフ族の村では大したことないけど。
灰色の髪をオールバックに固め、鋭い眼光と強い意志を秘めたような顔立ちが印象的であった。
「わははははは、わしの名はザルディ・ゴウエン。世界最強の男である。あまねく世界の蛆虫どもよ我の強大なる力と威光の前にひれ伏すが良い。」
聞いていた全員の心に冷たい吹雪が吹きすさぶのを感じた。
「さ、寒いっ!」
はあああ~~~~っ?何こいつ、ばっかじゃないの?
「いい年かっぱらっているくせに何恥ずかしいこと言ってるのよ。」
「稲妻を操り空を歩く我の奇跡に愚民共よ、頭を垂れるがよい。」
「ああ~あっ、出てきたよ。」
全員が内向きになって顔を寄せ合う。
「やっぱり暖かくなるとこういうのが出るんですね。」
「うん、妄想と現実の区別がつかなくなるやつ。」
「へん、へん……。」子供がたどたどしい言葉で言う。
「この娘もそう思うってさ。」
なぜか珍しくシドラも意見が合うようだ。
「何とか言いましたね、んん~っ?なかふたつ病とか言いませんでしたっけ?」
なにそれ?聞いたことのない病気なんですけど。
「そうそう厨二病でした。」
「おいこらっ!聞こえているぞ。」
エマとシドラがなるべく相手を見ないように相手に背中を向けて喋っていたのだが、それに業を煮やしたのか向こうから話しかけてきた。
すごーく嫌そうな顔をして全員が顔を上げる。
アクセスいただいてありがとうございます。
中2病の子供の相手は非常に寒い思いをします。
黒歴史を作り続ける子供を不憫に思いつつ……以下次号
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