ドンちゃんは災難です
「今日はこれから薬草を取りに南の斜面に行ってくるの。」
「はい、行ってらっしゃい。いい薬草が見つかると良いですね。」
スカウスがアオタンを付けたまま愛想良く笑う。
『カノンモイク。』
カノンがラフレアの裾を引っ張る。
「エマさんカノンも行きたいらしいなの、いいかしら?」
「一緒に行って大丈夫なの?山なんでしょう。」
「大丈夫何度も一人で行って遊んできてるなの。」
遊ぶと言ってもあの熊の事じゃないわよね。
「あそこは熊もいるけど狼の方が多いなの。」
「そんなとこに一人で行って大丈夫なの?」
「大丈夫、遅くなったら狼が送ってくれるなの。」
……狼とも友達らしい。
「馬車で行けますか?」
シドラのさすがに転がり飽きたらしい。
「道は広くないけど勾配は緩いから行けると思うの。」
「それではキューちゃん行きましょう。」
「きゅいっきゅいい~っ」
『コノバシャナンカシャベッテル。』
「きゅうう~っ。」
キューちゃんは目を伸ばしてきた。
『ナニコレ?』
「キューちゃんの目ですから突っついちゃだめですよ。」
「きゅっきゅっ」
キューちゃんの目がカノンの前でゆらゆら動く。
『アハハハハ』カノンちゃんが目を追いかける。
キューちゃんの目はゆらゆら動いてカノンから逃げる。
『キャハハハハ。』笑いながら目を追いかける。
カノンは目に繋がる紐の部分をつかんでギュッと引っ張った。
「ぎゅええええ~っ。」
キューちゃんが変な声を出した。
『キューちゃんが痛がっているから離すなの。』
『ゴメンナサイ。』
カノンはすぐにキューちゃんを離す。
うん、カノンちゃんいい子だ。
スカウスはニコニコしながら皆を見てる。アオタン付きの顔で。
全員でキューちゃんに乗ると出発した。
「大丈夫かなこれ。今回はひっくり返らないよね。」
「大丈夫……だと思うなの。」
そう言いながらラフレアはカノンをしっかり抱いたまま乗っていた。
……やっぱり信用していないな。
比較的緩やか森の中の道を進んでいく。
道に機動馬車の跡も残っている。どうやらウィザーもこの道を通っているみたいだ。
やがて山頂付近の大きく開けた場所にに出る。
「おととし伐採したばかりの所なの。」
木の苗がたくさん植えられているが木が小さい今の時期はたくさんの下生えが生えている。
「エマさん薬草は見つかりそうかしら?」
「わからないけど雑草が多いからどうかなあ?」
少し離れた森の木々の間に2,3頭の狼の姿が見える。
私たちがいるので様子を見に来たのだろう。
『アハハハハ、オオカミサン。』
カノンは喜んで狼の方に走って行く。
「大丈夫なの?」
「大丈夫、この森の狼は人を襲わない。」
「ほほうそれは面白いですね、狼は肉食ですからね。」
「食べるものはたくさん有るの、ウサギやシカは狼が食べないとすぐ増えるの。」
「熊は何を食べるの?」
「木の実やなんか、今の時期は魚を沢山食べている。冬眠するから。」
「狼は熊の食べ残した魚を食べるの、だからこの時期は狼の近くに熊がいるの。」
『オオカミサン!』
先ほどまで仲良く遊んでいたカノンが大きな声を上げる。
しかしオオカミは走って行ってしまった。どうやら遊び飽きたらしい。
狼が行ってしまったあとカノンは一人で遊んでいた。
エマも何種類かの薬草を摘んでいる。
「あまり高く売れる薬草は無いわねえ。」エマはため息を付く。
「やっぱり駄目かしら?」
尾根に熊の姿が見える。
「おやあれは昨日のドンちゃんではありませんか?」
いち早く気が付いたシドラが言った。
「え?どこどこ?」
「ああ、間違いなくドンちゃんなの。」
「昨日の場所からずいぶん移動してきていますね。」
「狼たちが帰って行ったのはドンちゃんに気が付いたからなの。」
熊が立ち上がってこちらを見るとラフレアが手を振る。
「グホッ。」
熊はこちらに向けて走って来る。
「カノンちゃん。ドンちゃんよ~っ。」
丁度ドンちゃんとラフレアたちの中間にカノンがいた。
狼が行ってしまったので花を摘んでいたカノンが後ろを振り返るともうドンちゃんはすぐ後ろに迫っていた。
『アハッ、クマサン。』
カノンが嬉しそうな声を上げる。
熊がカノンの所に着いて動きを止めるカノンの匂いを嗅いでいる。
「ガハッ!」
いきなり熊の肩に矢が刺さるのが見えた。
「ガハッ、ガハッ。」
熊が痛みにのたうちまわる。
『クマサン、クマサン。』
カノンが暴れる熊にしがみつく。
山の斜面から走り降りて来る男がいた。
いち早く熊の所に着いたラフレアは暴れる熊を押さえ付ける。
『カノン、どいて!』
女の子が熊を押さえ付けるのかよ。
「暴れないの。今矢を抜いてあげるの。」
斜面を駆け下りてきた男が大声を上げる。
「おお~い、大丈夫か?今行くぞ~!」男は走りながら大声で叫ぶ。
ラフレアに負けないくらいの大男だ。
ぼさぼさの金髪に顔中が長い髭に覆われており、革の胸当てをして大剣を持って駆けてくる。
この男がドンちゃんに矢を射った男だ。
「どけっ、今止めを刺す。」
男は熊の前までくると剣を大きく振りかぶった。
ラフレアは涙を流しながら振り返ると思いっきり男を殴った。
「ふぐおっ!」
おお、見事なアッパーだ、あの大男が3メートル位飛んで行ったぞ。
「ガフッ、ガフッ。」
「痛いですか?しばしお待ちを。」
シドラがドンちゃんの首筋に手を当てると火花が飛び散った。
熊は力が抜けてぐたっとなる。
『クマサーン、クマサーン。』カノンが悲鳴を上げる。
「シドラ!なんて事するの?」
「はい、運動中枢に電気を通して一時的に気を失わせました。今のうちに矢を抜いてあげて下さい。」
「なんだそうだったの?」
さすがウィザーと言いかけてエマは止めた。
「待ってその前に矢の確認をしなくちゃ矢じりが体内に残っちゃう。」
エマは男の所に行くと男襟をつかみ頭を振り回す。
「ちょっとあんた起きなさいよ。」
「な、何だ、今のは?もう一頭熊がいたのか?」
エマは黙って男の頭をどついた。
「あたたた。」
男は頭を抱えた。あのパンチを受けて状況を認識できていないようだ。
男が頭を振りながら起き上がってきた。意外とはタフな奴だ。
「良く見なさいあの娘のどこが熊なの?」
ラフレアを見て男はしばらく言葉を失った。
「熊より怖い顔をしている。」
「何ですって!?」
エマはもう一度男の頭をどつくがそこでシドラが口をはさむ。
「エマそれより矢を調べるのではないのですか?」
「ああ、そうだった。あんたの矢を見せなさいよ。」
「あの熊は君たちが飼っていたのか?」
「あんたここの人間じゃないわね。」
男は金髪をしており、明らかに背が高くドワッフ族の者で無い事はすぐに分かった。
しか体は見事に鍛えられており、ただの旅人ではないことはすぐ見て取れる。
「私の名はレイ・ブラッドリ、バイファル・ドーム出身、人族の騎士見習い候補だ。」
騎士見習いにもなっておらんのかい。
「なんでもいいからあんたの矢を見せて。」
「わ、分かった。」
エマは矢筒から取り出された矢を見ていた。
「あんたの矢の鏃は返しをつけていないの?」
普通は鏃に返しを付けるつける、そうでなければすぐに矢が抜けてしまうからだ。
「ああ、獲物を仕留めた後で矢を回収できるように返しはつけていない。ウサギ程度ならそれで十分だからね。」
「あんた騎士候補生じゃないの?」
「この山にこもって修行をしていた。しかし食うためには獲物を仕留めなくてはならないからね。」
何か知らないけど騎士様も大変なのね。
「鏃はかなりしっかり付いているわ。これならそのまま引き抜いても大丈夫そうね。」
エマは採取した薬草の中から一つを選ぶと良く揉んで傷口に当てる。
「幸い当たったのは肩だから命に別状は無いわね。」
そのまま思いっきり矢を引き抜いた。
『クマサン、ダイジョーブ?』
「結構深く刺さっていたわね、あんた毒は使わないの?」
「獲物は首を狙う。たいてい一発で仕留める。」
エマは男の弓を見た、かなり太くて強力そうな弓だ。
確かにこの体でこの弓を使えばたいていの獲物は一発で仕留められるかもしれない。
「その割には今回は下手ね、急所からこんなに離れているわ。」
エマは別の薬草を手で揉むと矢を抜いた傷口に押し付ける。
「血止めの薬草よ。ラフレアちゃん押さえていて。」
「子供が危ないと思った。熊を一撃で殺すより追い払えば良いと思って体を狙ったんだ。」
……負け惜しみか?
「このドームの熊やオオカミは人間を襲わないの。あんた今までに彼らを殺したの?」
「いや、ねらうのは大体が鹿や猪だ。しかし実際は罠で捕ったウサギや鳥が多かった。」
「もう長いの?」
「3か月になる。」
「その体なら十分に強いでしょうに。」
エマは男の体を見る190セルメはあり熊の様な筋肉をしている。
「いや……。」
「何か問題でも起こしたの?」
「父がマイリージャの正騎士になれなかった。それゆえ私に期待したのだ。」
「マイリージャ?マイリージャ公国?」
「マイリージャの正騎士になれば親にも楽をさせてやれる。父は騎士見習い候補の時に戦争に出て負傷しそのまま退役させられた。負傷した後は町で雑用を行っている。」
これだけ立派な体をしながらなぜ取り立ててもらえなかったんだろう?よっぽど武道の腕が悪いとか?
「エマさんドンちゃんが目を覚ました。」
『クマサン、シンジャイヤーッ』
「薬草を変えて傷を押さえていないと出血が続くわ。シドラ、もう少しおねがい。」
「はいかしこまりました。ちょいさっと。」
シドラがドンちゃんの首を撫でるとビクンと痙攣をして再びドンちゃんは意識を失う。
「しばらく安静が必要だからこのまま村まで連れていく?」
「ラフレア、ドンちゃんの面倒を見るなの。」
「それじゃキューちゃんに乗せて村まで運びましょう。」
「わかったの。エマさんドンちゃんの傷口を押さえていて。」
ラフレアはドンちゃんの下に潜り込んで持ち上げようとした。
「いや、さすがにそれは難しいんじゃないの?」
100超キロ級の熊である。
気絶してぐったりとなった生き物を持ち上げるのはその倍の重さを持ち上げる位難しい事なのである。
「私も手伝だおう。」
男がドンちゃんの下半身を持ち上げる。
「おお、さすがに二人共も怪力だわ。」
大きな熊であったが二人でやると軽々と持ち上がり、キューちゃんの荷台に乗せる。
「それじゃキューちゃんあまり揺らさないようにゆっくりと山を下りましょう。
「きゅっきゅきゅうう~っ。」
え~っ、一応この男がヒーロー候補なんですが、果たして話がうまく展開するでしょうか?
ま、駄目だったら適当な所で降板しちゃえばいいか? 無責任に以下次号




