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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
木こり達のドーム
36/211

山道ではキューちゃんもコケます

「おはようございます。エマさん。」

 次の朝シドラは寮の前で待っていた。

 

「ラフレアさんは昨日よりも大きな荷物を持っていますね。」

「お弁当なの、昨日食堂であまりものを詰めてきたの。」

 全く朝食の事を失念していたエマはラフレアの周到さに舌を巻いた。

 

「ごめん、ラフレアちゃんそんな事すっかり忘れていた。」

「いつも連休の前は食堂に行くとあまりものをくれるからそれで作るの。」

 休みの日は食堂も休みなのだが、まだそういった事に慣れていないエマはすっかり朝食の事を忘れていたのだ。

 

「それじゃ荷台に乗って下さい出発しますから。」

「キューちゃんよろしくね。」

「きゅっ、きゅい~っ。」

 日の出と共にキューちゃんに乗って二人は出発した。

 

 出発するとラフレアはすぐに荷物をほどいて大きな包みを取り出した。

「はい、エマさん。」

 ラフレアは赤ん坊の頭位の大きさのあるヤイのおにぎりをエマに渡す。

 

「うわっ、すごいっ。」

「野菜の塩漬けと干し肉もあるの。」

 

「周りに巻いてあるのはなに?」

「シロバ葉っぱの塩漬けなの。」

「ああ、香草のシロバね。」

 

 大きくて薄い葉っぱをつける香りのいい草の葉の塩漬けを干した物で巻いてある。

 

「ん、おいしい。こんな食べ方もあるんだ。」

「この野菜の塩漬けとよく合うの。」

「パンと食べるよりこっちの方が合うね。」

「うん、おいしいなの。村を出て一番良かったのはお腹いっぱい食べられる事なの。」

 

 二人は荷台に座って朝食を取っている間シドラは御者台に乗っていた。

 

「すぐに山道に入るから早く食べておくの。」

「山道?」

 そういえばこのドームは山の中腹だけに平地が少ない。

 それでも山から流れて来る川の両脇には畑が有り、それに沿って道が出来ていた。

 

「でも馬車で通れる道が有るんでしょ。」

「馬車の通る道はあるの、でもかなりデコボコなの。このドームはそういう道が多いの。」

「それじゃ品物はどうやって運ぶの?」

「基本的には自給自足、定期的にウィザーの馬車が来るし行商も来てくれる。木こりの宿舎が出来てから行商の回数も増えたので助かるの。」

 

 ふ~ん結構大変な生活をしているんだな~。

 

 エマのいたドームは緩い丘陵地帯であまり坂道は無い。

 大半の土地は畑か牧草地になっていた。こんな坂だらけのドームが有るとは夢にも思っていなかった。

「それじゃキューちゃんも村までは行くのは大変なんだ。」

「村にはウィザーが巡回しに来てくれるから大丈夫。なんでもウィザーの馬車は特別製だからかなりの悪路でも大丈夫みたいなの。」

 

「空でも飛んでくるのかしら?」

「いいえエマさん、ちゃんと道を走って行きますよ。多少幅の狭い所もありますが。」

「あんた行ったことあるの?」

「いいえ、ですがギルドで道筋は聞いてきましたから。キューちゃんならば別に問題なく行けるそうです。」

 

 どうやらガルドに道を聞いてきたらしい。

 

「農閑期には村中総出で道を整備しているの。でも一度にそんなに作れないなの。」

「道が整備されれば村の生活も豊かになるのにね。そういえば村にはどの位人がいるの?」

「家が100戸位だから多分3~400人位なの。」

 

 あ~っ、でも結構大きな村なんだ。

 

「学校は有るの?」

「医者もかねて3日に一度くらい、ウィザーが交代に回ってくるの。学校は古い廃屋を村のみんなが直して使っているの。」

 エマの学校は街にあったからウィザーが自分たちで建ててたけどね。

 ラフレアの村はエマの村より数段不便な所みたい。

 

「ラフレアちゃんも学校には行っていたんでしょう。」

「学校ではいろいろな事を教えてもらえるので好きだった。でもお父さんが死んで兄弟だけになったのでウィザーに誘われてこの下の町に降りてきたの。働きながら学校にも通えるの。ラフレアはガルドにうんと感謝しているなの。」

 

 やがて川はだんだん狭くなり流れも急になって来る。意外と水量は豊富である。

「お食事は終わりましたか?もうじき山道に入りますから揺れると思いますが大丈夫でしょうか?」

「「は~い。」」

 

 二人は荷物を片付け始めた。

 

 川沿いの道はそれなりに広かったが川が狭くなり両側に山が迫ってくると道が狭くなり、山へ向かって伸びる脇道に入って行く。

 はっきり言ってそれは山道である。

 最初はそうでもなかったが進むにつれて道が道の形をしなくなってくる。

 

「シ、シドラ大丈夫なの?道が無いよ。」

「いいえ多少狭いようですがほらちゃんと路肩に杭が打ってあって崩落を防いでいますよ。」

「いや、絶対幅が足りないじゃないの。」

「大丈夫ですよキューちゃんは8輪駆動8輪独立懸架ですから。」

 

 なに?そのもっともらしい訳のわからない説明は?

 

「ちょちょちょ、ちょっと馬車がものすごく傾いているんですけど。」

 馬車は片輪を斜面に乗り上げながら走り続ける。

 エマは必死で荷台にしがみつくがエマの視線の先には下の斜面が大きく広がって見える。

 

「ちょっとちょっと、お、落ちる~っ。」

「大丈夫ですよキューちゃんですから。」

 

 キューちゃんだから何?キューちゃんだと逆さになっても走れるわけ?

 

 当のシドラは馬車の傾きをものともせずに御者台に座ったまま馬車の動きと一体になって体を傾けたまま座っている。

 なんつーか、器用な奴。

 

「あんたどうやったらそんな器用なことできるのよ。」

「それはもう、ウィザーですから。」

「あんたの使っているのが魔法ならあたしたちにもそれをかけなさいよ。」

「残念ながらこの魔法はウィザー専用の魔法でして、皆さんには効果がないのですよ。」

 

「この裏切者!」

 

 エマがそう言った途端、馬車の後輪が滑って馬車が上向きになる。

 荷台が後ろに向かって極端に傾きエマ達は荷台を滑り落ちる。

 

「ひいいいい~~~~っ落ちるっ落ちる~っ。」

 

「ふんむっ。」

 ラフレアが片手を御者台に掛けぶら下がる。

 ラフレアの荷物とエマは荷台から放り出されそうになるが、片手でエマをつかみ、落ちかけていた荷物を足で挟み込む。

 

「ぎゅっぎゅっぎゅううう~っ。」

 馬車が変な声を上げながら斜面から這い上がる。

 

「はあ、はあっ助かった~っ。」

「みなさんご無事でしたか。」

 

 この馬鹿、馬車が落ちかけたのにしれっとしてる。

 

「あんた人の事殺す気なの?」

「いえいえ、今のはちょっとしたアクシデントでして。」

「きゅっきゅうう~っ。」

 

 キューちゃんはそうは言ってないぞ!

 

「もういい、あたし歩く。」

 エマはげんなりしたように言った。

 こんな馬車に乗っているなら歩いた方がマシだ。

 

 それにしてもウィザーは毎回こんな道を通って村を巡っているのだろうか?

 

「エマさん、ラフレアも歩くなの。」

 ラフレアは大きな風呂敷包を肩から担ぐと馬車を降りた。

 その後二人はシドラの馬車の後ろから歩いてついていった。

 

 ラフレアは大きな荷物を背負ったまま快活に山道を歩いている。

 

「ラフレアちゃんもたいがい丈夫ね~っ。」

「ドワッフ族は丈夫だけが取り柄なの。」

 

 ま、それは前に見て知っているけどね。

 

 その後も何度かシドラの馬車はひっくり返りながらようやくラフレアの村が見える所まで着いた。

「あんたもいい加減諦めが悪いわね。」

「いいえこの位どうということはありません。ほかのウィザーは皆やっている事ですから。」

 

 シドラは枯葉を体のあちこちにくっつけた姿で答える。

 

「あんた絶対に間違った道を教えられているわよ。」

「そう、ここは旧道。新しい道はもう少しゆるやかなの。」

 唐突にラフレアはとんでもない事を言ってのける。

 

「え?そ、それではこの道は?」

「人が歩くための道で、あまり手入れされていないなの。」

「ぬあんですとおおおお~っ?私はあのガルドに騙されたのですかああああ~っ?」

 シドラは間抜けな声を張り上げた。

 

 意外とあんたも抜けているのね。

 

「下りは滑りやすいからきっとあと何回もひっくり返ると思うの。」

 冷たいラフレアの言葉にうなだれるシドラ。

 

「も、もういいです。ハイ。」

 

 尾根から見えるラフレアの村は川が少し緩やかになった場所で川の周囲には畑が広がっていた。

 畑の周囲にいくつもの家屋が点在している。

 狭い盆地に出来た小さな山間の村のようである。

 

「どうしてドワッフ族はこんな所に住み着いたんだろう。ふつうは通路の出入り口の近くに住むだろうに。」

 

 その事はラフレアが説明してくれた。ドワッフ族の伝承によれば昔ドワッフ族の中で大きな戦争が起こってらしい。

 その時に負けた人たちはこのドームに逃げ込んできたと言われている。

 それでも勝った人たちの追撃は止まずに人々はこのドームの更に奥に逃げ込まざるを得なかった。

 

 勝った人たちもそれほど負けた人たちを憎んでいたわけではなかったのでそれ以上は追わなかったみたいである。

 それで勝った人達はこのドームの中で暮らし始めたのだ。

 ところがこのドームは山ばかりで暮らしにくかった為なのか、攻めてきたドワッフ族は通路の部分を残して結局引き上げてしまったみたいらしい。

 

 戦争に負けて山奥に逃げ込んだ人々はそれを知らずっとここで暮らしてきた様である。

 

 村に向かって山を下って行く。時々シドラがこけているがあまり気にしないことにした。

 シドラ達がまた斜面を落っこちて行くと藪から飛び出してきた物がいた。

 大きな熊であった、どうやら落っこちてきたシドラの馬車に驚いて姿を表した様である。

 

「ひええええ~っ、あんな大きな熊が~っ。」

 エマが大声で叫ぶと熊もこっちを見る。

「ふむっ!」ラフレアが睨み返す。

 

 熊もこっちをにらんでる。なんか熊の額に汗が流れているような気がするんだが?

 

「ぐおおおお~っ。」

 突然熊がこちらに向かって走ってきた。

「いやあああ~っラフレアちゃんこっちにくるよ~っ。逃げなくちゃ~っ。」

 

 エマは悲鳴を上げて逃げ出そうとした。

 

「ふがああああ~っ。」

 ところがラフレアは荷物を下ろすと両手を広げて動かない。迎え撃つつもりらしい。

「うごおおおっ」

 

 熊が立ち上がり両手を広げて威嚇する。

 

「ラフレアちゃん逃げないと殺されちゃうよ~っ。」エマは涙目で叫んだ。

 

 そのまま両者は駆け寄るとラフレアと熊はがっしりと4つに組んだ。

 

「ふごおおおおっ。」

 腰に手を回したラフレアはすくい投げの要領で熊を投げ飛ばす。

 どしんという音と共に熊は背中から落ちる。

 

「な、なにやってんのよ、ラフレアちゃんは。」

 木陰に隠れて様子を見ていたエマは恐ろしいものを見ているようにがくがく震えていた。

 

「な、なに?あれ?」

 投げられた熊は嬉しそうにラフレアに体をこすりつけていた。

 一方ラフレアは熊の体を撫でている。

 

「エマさん。怖がらなくでも大丈夫なの、この熊は私の友達のドンちゃん。」

「ドンちゃん?友達?なにそれ?」

「小さい時から一緒に遊んでいたの。二人ともこんなに大きくなっちゃったけど仲はいいの。」

 

 なにあれ?熊の頭をなでるっていうのは冗談じゃ無かったんだ。

 

「ラフレアの村では誰も熊をいじめないなの。熊もあまり里には近づかないの。だから山で合っても喧嘩はしないなの。」

 いや十分喧嘩だったような気がするんですけど。

 

「ラフレアはよくこの子と相撲を取って遊んだの。」

 そんなのはおとぎ話の世界の話じゃないのか?

 

「きゅきゅっきゅう~っ。」

 シドラはキューちゃんと一緒に斜面を這い上がってきた。シドラはだいぶボロくなって体中に枯葉をまとっている。

「おおこれは、ラフレアさんのお友達ですか?」

 

 またこの天然ボケは。

 

「お初にお目にかかります。わたくしはウィザーのシドラと申します。」

 シドラは熊の目線に合わせて腰を折って話しかける。

「カプッ。」

 いきなドンちゃんはシドラの頭にかみついた。

 

「あららららあっ。」

 シドラは手足をじたばたさせながら必死で熊の口から頭を抜く。

「ドンちゃん駄目なの。ウィザーなんか食べたらお腹を壊すの。」

「そっちですか~っ?」

 

 シドラが涙目で抗議する。

 

「ドンちゃんにもお土産が有るの。」

 ラフレアは荷物をほどくと干した魚を取り出した。

 

「はいこれ、ドンちゃんの好物でしょう。」

「がふっ、がふっ。」

 熊は魚の干物をおいしそうに食べる。

 

 3人はしばらくそこで休むと熊と別れて再び村を目指した。

 

 尾根を越えると村が見渡せる場所に出る。

 木々の間から見る村は比較的大きな川から少し離れた山の斜面に数軒づつの家がまとまって建っておりそれが川に沿ってずっとつながっていた。

 

 河原部分は畑になっており作物が植えられていた。

 山には木々が良く手入れされた状態で育っており、山の所々に伐採したようになっている斜面が見える。

 おそらく計画的な伐採を行っているのかも知れなかった。

 比較的細く曲がりくねった道をエマ達は歩いて下って行く。

 

 後ろの方では時々シドラが転げながら下って来る、もう慣れたものである。

 

アクセスいただいてありがとうございます。

足柄山の金太郎、ここでの金太郎はラフレアちゃんでした。

ドワッフ族の村に着いたエマ達は真正ロリキャラに出会います。

でもスポット登場です。残念!!  次号 村での生活

 

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