製材所で働こう
「ううう~~~っ、頭痛い~。」
エマは10人分の酒代を取られた上に二日酔いのおまけまでもらってシドラの馬車の上でうなっていた。
「初めてお酒を飲んだのに2日続けて男を10人も潰すからですよ。」
シドラは二日酔いのエマには容赦がない。
「男ったってピクシー族でしょう。」
しかも飲ませてもらう筈が全額をエマが支払う羽目になってしまった。
どちらかと言うとその方がエマにとってはきつかった。
「ふつうは10人相手に飲み比べて全員を潰すことはありません、それも2日連続でやったら内臓がおかしくなるものです。」
「だって飲んでいたらなんか周りが見えなくなっちゃってさ、気が付いたら一人で飲んでいたし。」
ピクシー族は結構計算高い種族だそうで、まあエマはいいようにもてあそばれたと言うところだろう。
「だったら頭痛ぐらいで文句を言わないで下さい。」
自業自得とはいえ痛いものは痛い、両方の意味で。
「うううう~っ、シドラの薄情者~~~。」
「だいたい2日続けてあれだけ飲んで頭が痛くらいで収まるほうが異常ですよ。」
「そうなの?」
「お酒を飲みすぎると人は死ぬことがありますから、これを教訓に少しは自分をコントロールする術を覚えて下さい。」
「わかったわよ、これからは控えるようにするから。」
エマは財布の中身を数えると大きなため息をはいて道の両側を見ていた。
「あ~っ碌な薬草も生えていないし、こりゃ本格的に仕事をしないとな~っ。」
「そこらに生えている草を摘んでお金にしようと思うからです。」
「薬草は道端に生えていたら皆取られちゃうからな~っ。この間みたいな事はめったに無いわよね~っ。」
薬草はそこらに生えている雑草と言うわけにはいかない。
似たような形の草の中から薬効の有る物を探し出し、なおかつ薬効の高い物を選ばなくてはならない。
それ故大体の薬師は自分が使う薬草は自家栽培するのが普通なのだ。
「甘かったな~っ。もっと稼げると思ったのに。」
「元々が十分な路銀を持たずに旅に出る方が間違っているとは思いませんか?」
「そんなこと言ったってシドラが旅に同行してくれるっていうからお金が無くても何とかなると思ってたんだけど。」
「思った以上に出費が多かった、ですか?」
「はうううう~っ。」
「まあ、そのへんがエマさんらしいといえば、それらしいですが。」
そうは言っても旅の途中での大きな出費に稼ぐ当てのない状況は上手くない、何とかしなくちゃと思うエマの溜め息である。
「大丈夫ですよ。次のドームに行ったらウィザーギルドで仕事を紹介してもうよう頼んでありますから。」
「いつの間にそんな事してたの?」
「はい、前のドームでギルドのウィザーに頼んでおきました。」
「ギルドってそんな事もしてくれるんだ?」
「はい、農閑期のような時は結構仕事が無いもので仕事の紹介を頼む人もいましてね、そのうち雇う人もギルドに頼むようになりまして、おかげで手数料ガッパガッパ。」
「悪徳商人。」
「な~にを言っているのですか。そのお金で皆さんの学校を作ったり、農業指導を行なったり、色々な事に使っているんですよ。」
「へ~っ、そうなんだ。」
そう言われてみれば学校なんか授業料を取ってはいなかったな、寄付は募ったりもしていたみたいだけど。
「次のドームでは木材生産が盛んで周囲のドームに輸出をしているんですが慢性的に人手不足でして、ドワッフ族やピクシー族もずいぶん出稼ぎに来ています。」
「木材生産?ずいぶんきつそうな仕事みたいね。」
「なに、力仕事ばかりじゃありませんしエマさんに丁度良い仕事を探してくれますよ。まあ給料の高い仕事はそれなりにきつい仕事でしょうが。」
「あんた基幹知識を見れない割によく知っているわね。」
「はい前のドームのパンフレットに書いてあります。」
「あ、そう……。」
なんかこのウィザーと一緒にいるとウィザー像全体が崩壊しそうな気もする。
ウィザーと言えば魔法使いで独特の戒律によって生きている人間で、彼らの行動規範はあくまでも人が行きていける為に必要な事を行うと言うものらしい。
ドーム世界の管理を行なっていると言われており、実際にウィザーを神の使いと考える宗教も有ると聞いている。
しかし実際に彼らのやっていることは学校を開き無償で子供たちに教育を行なっており、農家に対し農業指導を行い皆が飢えない様にしてくれる。
ドーム内で産出されない様々なもので生活に欠かせないものは、どこからか調達してきて人々が普通に手に入れられる値段で売ってくれる。
一方で決して人間同士いさかいに関与することはない。つまり飢饉で人々が飢えても小麦粉は売ってくれないのだ。
つまりドーム内で人が生きて行くのに必要不可欠な援助は行うが人の生活には干渉しないということらしい。
エマが暴漢にナイフを突きつけられたときにシドラが戸惑ったのはこの為である。
考えようによっては聖人君子のような生き方とも言えるが、実際の生活を見ていると変わり者の集団以外の何ものでも無い気がする。
「それにしてもこの通路はいやに曲がりくねっているわね。」
「はい、山が近くてまっすぐは道が作れないものですから。」
「山?このへんももう山じゃないの?」
エマの通路の両脇には大きく育った木々がそびえている。通路の周囲が何故か低い木しか生えていないのは磨き虫が手入れを行なっているのであろうか?
「はい、この様な山の中腹に次のドームは有ります。」
「ちなみに次のドームはどんな所なの?私がする仕事って何なんだろう?」
「山の中腹ですから畑に向かないようでして、昔から林業がさかんなドームでしたから。」
シドラは脇をチラチラ見ている。どうせパンフレットでも読んでいるんだろう。
「でもピクシー村でも結構木が生えていたじゃない。」
「殆どのドームでは自給自足です。木が欲しければ木を植えて孫の時代に家を作る用意をします。元々家屋というものは人が住んでいれば数百年は普通に持つようですから。」
「それもパンフレットに書いてあったの?」
「いいえ、ここに来るまでにいくつかの建物や人々を見ました。樹木や畑の生育状況などをみた感想です。」
なるほど、とエマは思う。
確かにエマのドームのことを考えると今のシドラの解説は殆ど的を射てると思う。
「それじゃあ林業が盛んと言ってもどこに売るわけ?大抵のドームが自給自足だったらそんなに売るところは無いでしょう。」
「もちろん需要が無ければ産業は成立しませんから、ピクシー村やエマさんのドームにも運ばれているようですね。」
「そうなの?」
「はいここに来るまでの道すがら材木を積んだ馬車と何台かとスレ違いましたが、樹種がそのドームのものとは違っていましたから。」
「あんたよく見ているわね。」
「ウィザーですから。」
何故か胸を張るシドラ、余程ウィザーで有ることに誇りを持っているのだろうか?
「すると私の仕事は林業関係の仕事ね。」
「まあ、エマさんは女性ですからあまり力仕事と言う訳にはいかないでしょうが。」
「手頃な仕事があればいいんだけど。」
「尤もドワッフ族の女性はかなりの数が来ているとパンフに有りました。」
「ドワッフ族の?」
「はい男の方はピクシーのドームでも多くおられました。しかし女性に会ったことはまだありませんか?」
「そうね、三助さんの話だと男よりも大きくて力も強いとか。」
「はい、そのようです。」
「で?あなたは何を積んでいるの?」
ピクシー村を出る前にシドラは沢山の袋入りの荷物を積んでいた。
「ああ、塩ですよ。あそこのドームは山の中腹で塩の産出が無いものですから。」
「それでこんなに沢山の?」
「これでも20日分位だそうです木こりは体の大きな人が多いですから。」
話しをしているうちにドームに入る。ドームの片側は大きな山の中腹にあたっているらしく大きく傾斜をしていた。
「山の中腹である為に農業が出来ないばかりか住むのにも不便でして、入植して人が増えたのは最近の事のようですね。」
斜面を下りて行くと下の方に大きな町が見えた。街の裏手には湖が広がっており沢山の木材が浮かんでいた。
「街の裏手の湖は後で住人たちが川をせき止めて作ったようですね。ほら下流に川をせき止めた堰が見えます。」
シドラが示す方向にダムのような土塁が見える。結構たいへんな工事だったみたいだ。
斜面の一部には木を下ろす為の通路らしい物が何本も見える。
「あの斜面に付いている筋は木を滑らせて下ろすための通路かしら。」
「そのようですね木材はあの街の近くに下ろしたら水に落として浮かべて運ぶのでしょう。」
斜面に切り倒された木が横たわっている。周りに何人もの人が集まって枝をおろしていた。
山の斜面ごとに木々の大きさが異なっている。
「斜面ごとに木々の生育状況が違っています。かなり前から植林は行われていたようですね。」
「あれは何をしているのかしら。」
大きな丸太の両側にロープを張ってそれを何人もの人が引いている。
「ああ、ああやって丸太を斜面に落とすのでしょう。」
引っ張られて少しづつ移動する丸太はやがて斜面を滑り始める。町の近くまで滑り落ちると止まった。
「あんな大きなものが滑り落ちるんだから近くで見たらすごい迫力でしょうね。」
「大きくて重いですから近くにいたらすごく危険だと思いますよ。」
「でも見事な物ねちゃんと予定の位置まで滑っていくんだから。」
「まあ、それが仕事ですからね。」
やがて町に近づくと多くの人が働いているらしく町は活気に満ちていた。
町には大きな体の人が多かったが意外にもピクシーを数多く見かける。
「ピクシーは体は小さいのですが事務能力に優れた人が多いので事務仕事を行なっているようです。」
確かにな~、ピクシーが斧を持てる訳も無いし。
「ここがこの街のウィザーギルドです。」
街の中の建物の一つの前に馬車を止める。
エマがシドラと建物の中に入るとそこはエマのドームでも見慣れたウィザーギルドそのものだった。
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最強の酒飲みであることを発見したエマは、決して無敵の酒飲みではなかった様です。
空になった財布を満たすためにアルバイトです。以下次号。
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