新米ウィザーは頼りになりません。
街はずれから馬車に乗った男がやってくる。
馬車と言っても馬が引いているわけではない。
馬もいないのに勝手に動く馬車の御者台の上に一人の男が座っている。
男はフードを目深にかぶっていたがその顔には仮面をかぶっている。
全身を覆うフード付貫頭衣の袖は手よりも長くて全身から肌の見える場所は無かった。
その仮面には斜めになった四角が書かれていた。
その男は何かに気が付いたように右手を上げると頭の横に持って行った。
「はいはい、ウィザーのシドラです、おお、フェブリナ・ドームのヴァルガですか?何の御用でしょうか?」
誰もいない道を馬車に乗りながら一人でしゃべっている。他の人が見たらアレな人かもしれないと思うかもしれないがこれはウィザーが使う連絡魔法の一つである。
「はあ?娘を一人?運搬してほしい?」
「あなたねえ、人間は運搬とは言わないでしょう、この場合は同乗と言いませんか?」
「は?細かい事はどうでも良い、その人間の行きたいところまで連れて言ってやれ?」
「いやいや、そうなりますと今の運搬作業が出来なくなりますが?」
「なに?研修期間は終わったから、本採用の仕事になる?あんたもいい加減飽きただろうから世界を見せてやる?」
「いや~っ、本当ですか?いよいよ私も独り立ちですね~。それじゃ早速基幹知識へのアクセスをお願いします。これでウィザー通信も見れますね~。」
「なんですって?それはお預けだ?もう少し修行したら考えないでもない。」
「いやいやいや、せっかく楽しみにしていたんですからそんな意地悪をしないでくださいよ。」
「特別な客?私の保護対象者になる?なんとこれはそんな重要な仕事なのですか?」
「はい!はい!精いっぱい頑張らせていただきます。え?これでお前も少しは世間の荒波にもまれて来い?お任せください私は最強無双のウィザーですかえら荒波などすいすい~っと乗り切って見せますから。」
「え?ウィザーは戒律で人間には危害を加えられないから最弱だ?正しく言えば最弱無双だろうって?」
「いやいやいや、何ですか~?せっかく俺THUEEしたいと思っていたのに最弱ですか~?」
「専守防衛が原則だから無双でないと成立しない。なんですか~?その理屈は~。まあ良いですよ、わかりました。これから村に向かいます。」
ウィザーは頭から手をはなすとガッツポーズを取る。
「きゅいっ、きゅきゅきゅ~っ。」馬車がきしるような音を立てた。
「フェブリナ・ドームのヴァルガから新しい依頼が有りましてね~、これで退屈な運搬業とはおさらばですよ。」
機動馬車の御者台に座っているウィザーは馬車に向かって話かける、すると馬車は相槌を打つように何かきしるような音を出した。
どうやら馬車はウィザーと会話をしているように見える。
「きゅきゅ、きゅうう~っ。」
「え?あまり期待をするな?ウィザーは足元に穴を掘るのが好きだから?」
「うきゅううう~っ。」
「いやいやそんな事を言っちゃいけませんよ。……その割にはウィザー通信に繋げてもらっていませんね。」
「きゅうっ、きゅうっ。」
「う~ん、なんか少し不安になってきましたね~。……まあ、その時はその時の事として……。」
ウィザーは機動馬車と話をしながらフェブリナドームを目指していく。
機動馬車とは人間が使う馬車と違い魔力によって動く馬車のことであり、ウィザーだけが乗ることの出来る乗り物の事である。
普通の馬車は木の車輪に鉄の輪をはめた物を4箇所に使用した物を指すが、機動馬車は荷台の下に小型の8輪のゴム状のタイヤを使用しているのが特徴である。
馬車には使い魔が取り付いており、ウィザーの命令にしたがって運転を行ってくれる。
ウィザーは御者台に座ったまま、あるいは荷台で寝ていたとしても目的地につけるのだ。
もっとも昼間から眠りコケるウィザーはいないのだが
馬車はやがてフェルビナ・ドームにあるセムルの街に差し掛かる。ヴァルガに指定された街であり今日は此処に卸す荷物も運んでいたのだ。
フェブリナ・ドームには行政府とは別に幾つのもの街があり、ここセムルの町は付近の農家の為の小さな街である。
それでもここにはいくつのも店と酒場、それに学校や孤児院、病院もありそこではウィザーの医師が見立てをしてくれる。
そして何よりウィザーのギルドが有るのだ。
機動馬車に乗ってギルドの前に止まったウィザーは荷台の荷物に目をやる。
「今回の配達は余り量が多くないようです。早速降ろしてしまいましょう。」
「きゅいっきゅいっ。」
「はいはい、後でちゃんとあなたのお食事も取れますよ。」
「きゅうう~っ」
馬車は嬉しそうな声を出す。
その一人と一台を見ながら物陰に潜む3人の男達がいた。
ウィザーが荷台から荷物をおろし始めると音もなく一人が後から近寄って、いきなりウィザーの後頭部を金属の棒のようなもので思い切り殴りつけた。
突然の攻撃を受けたウィザーはその場に倒れ付し、動かなくなる。
「きゅいっ、きゅい~っ。」
馬車が悲鳴のような声を上げるが構わず暴漢達は馬車の荷物を漁り始める。
「おい、早くしろ。」
「ウィザーの後頭部を固いもので殴ると動かなくなるってのは本当だったな。」
「急げ、目を覚ましたらオレたち3人だけじゃ刃が立たねえ。」
「チッ、コイツは塩だぜ。もうちっといいものは積んでないのか?」
「おいアニキ、見ろよ、コイツは薬みたいだぜ。」
「こっちは銀のビーズだぜ。」
「急げ、かっぱらったらすぐに逃げるんだ。」
男達が荷物の袋を肩に背負って逃げようとするといきなり馬車が動き出し男達を振り落とした。
「こ、この野郎!この使い魔が!」男は剣を抜くと馬車に斬りかかる。
無論金属製の馬車であるから切れはしないが男達はガンガンと剣で馬車を叩く。
「ぴいい~っ、ぴい~っ。」
馬車が悲しそうな悲鳴とも取れる様な音を出す。
「この車輪に剣を突き刺したらどうなるのか?前から試したかったんだよな。」
一人の男が剣を構えると車輪に突き刺そうとした。
「ぴゃあああ~っ。」馬車が一段と大きな音を上げる。
「あの……皆さん。」
突然後から声がした。
3人が振り向くとそこにはさっき倒したウィザーが立っていたではないか。
「てめえ、気が付きやがったのか?……って、何だその頭は?」
「は?頭?、頭がどうかしたのですか?」
ウィザーの頭は不自然に横に倒れていた?
「こ、コイツ首が折れてるのも気が付かずに立ち上がってきやがったぜ。」3人共思わず吹き出してしまう。
「コイツはいいや。ウィザーってえのは変な奴ばかりかと思っていたがこんな奇人変人もいたんだな。」
「あ?ああ、そういえば少し景色が傾いていると思いました。」
ウィザーは両手を首にかけるとグリグリと頭を動かす。
ゴリゴリと音がし、2,3回動かして頭をまっすぐ前に向けるとカポンと音がして首が正面を向く。
「おお、これでよく見えるようになりましたね。」
頭を数回動かすして確認するようにウィザーは言う。
それを見ると今まで笑っていた男たちの顔が引きつって青ざめる。
「こ、このバケモノが!!」
最初の男がいきなり剣を向けてウィザーに斬りかかる。
「ひえええ~っ、何をするんですか?」
間一髪剣を躱して叫ぶ。
「この野郎、おとなく伸びてりゃ死なずに済んだものを。」
「いやああああ~っ。そんなので斬られたら死んじゃうじゃないですか~?」
ウィザーとも思えないようなひっくり返った声を出す。
「だから殺してやるって言っているんだよ。」
男は剣を大振りにしながらウィザーを追いかけて行った。
「どうせウィザーは死んでも次の日には生き返って来るんだろうが。」
「いやいやいや、誰がそんな事言ったんですか~?」
ウィザーは浴びせかける刀を必死でかわしながら言う。
「みんな知ってら~っ、この魔法使いが。」
「魔法使い?」
その言葉を聞いて、ウィザーはポンと手をたたくと逃げるのをやめて振り返った。
「そうでした。私は魔法使いのウィザーだったんでした。」
突然振り返ったウィザーに対し3人はあらためて剣を構え直す。
「野郎、歯向かう気だな。」
3人は油断なくウィザーににじり寄って行っく。
周りでは争いに気がついた人々が物陰や家の中から事の成り行きをじっと見つめていた。
もっとも…「あの馬鹿どもが、ウィザーにはかないっこないのに。」これが町の人々の共通の認識であった。
ウィザーは両手を前に出すと手を合わせ両手を右腹の横に持ってくると、か○は○波のポーズを取った。
もっとも両手とも長すぎる袖の中に隠れ手のひらがどんな恰好をしているのかまでは判らなかった。
「何の真似だ。」
「どどん~~~。」
その格好からいきなり両手を前に突き出しす。
「ぱっ!!」
ドンッという音がして目に見えない何かが3人を吹き飛ばした。
「「「うわわわっ。」」」
光も風も無いのに何かに当てられた3人はもんどり打ってギルドの入り口まで転がっていく。
「く、くそっ、ウィザーの魔法か!!」
一人がすぐに起き上がると剣を振りかざしてウィザー目掛けて突進する。
「ほいっ。」
ウィザーは片手を上げると途端に暴漢が振り上げた剣が根元からポッキリ折れて宙を舞う。
ウィザーが使うもっともポピュラーな魔法である。
「魔法を使われちゃかないっこねえ。」
残った男は周りを見渡すと、丁度そこにヴァルガを訪ねて来たエマと鉢合わせをした。
男はいきなりエマを片手で抱き寄せると剣をエマの喉元に突付ける。
「やいっ、ウィザー見ろっ!オレたちに手を出すとこの娘の顔に傷が突くぞ。」
「ひえええええ~~~~っ。」
いきなり抱きつかれたエマは悲鳴を上げる。
「え~っと……困りました。このような時にはどうすれば良いのでしょうか?」
ウィザーはさも困ったようにエマを見つめる。
「おめえはオレたちがお宝を持って逃げるまで大人しくしてりゃいいんだ。」
「お宝?そんなに値打ちのあるものは積んでいませんが。」
ウィザーは頭をひねって考えるようなしぐさをする。
「銀が有っただろう。」
「銀?はてそんな物積んでいましたっけ?」
ウィザーはしばらく上を向いて考えていた。
「ああ!」
ウィザーはポンと手をたたく。
「あれは錫ですよ。お持ちになっても余りお金にはならないと思いますが。」
ウィザーはコクリと首を傾ける。
「な、なんだと~っ。」
なぜかエマの危機を見ながらも全く他人事の様に話を進めるウィザーである。
エマはその態度にだんだん腹が立ってきた、何アタシの事無視してんのよ、あんた最強無双のウィザーでしょうが!
「ちょっとあんた~っ。そこのウィザー!!」エマはウィザーに向かって怒鳴り付けた。
「は?何でしょう私のことでしょうか?」
ウィザーは自分しかいないことを確認するように周りをキョロキョロと見回した。
「可憐な美少女が暴漢に襲われて危険な目に会っているのよ。あんたもウィザーなら何とかしなさい!」
「ええ~っと、もしかしてあなたはその男に抱きつかれているのが不愉快と言うことでしょうか?」
「当ったり前じゃない!!年端もいかないつぼみのような少女が暴漢にその身を陵辱されているのよ!!」
「は?つぼみ?」言葉の意味が判らないのか頭をひねるウィザーである。
「そうよ!このいたいけな少女が危機に瀕しているのが見えないの!?」
ウィザーはエマの胸を見てエマの顔を見るとおもむろに言った。
「いいえ、どう見ても大輪のようにしか見えませんが。」
ちなみにエマは年の割には大柄で、当然それに伴って非常に発育もよろしい。
しかもこの村は乳バンド等と言う洒落た物は無く農村で働く女性は皆ノー○ラということでして、エマを抱き寄せた暴漢は必然的にエマの胸を「むにゅっ」と握ってしまったんですね。
ウィザーにそう言われて初めて男はエマの胸を「むにゅっ」としていることに気がつくと顔をだらしなく崩す。
「お、おめえ、いい乳しとるじゃないか。」
事のついでに2,3回「むにゅ、むにゅ」してしまったんですね。
この人ヨダレまで垂らしています。
エマは真っ赤になるとドーム中に響き渡るような悲鳴を上げた。
「いやあああああぁぁぁぁ~~~~っ!!!!」
悲鳴と共にエマは足を後ろに大きく振り上げる。
「うげっ!」エマの足は男のキ○○マを直撃した。
男は物も言わずに悶絶する。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁ~~~~~っっ」
そのままワンピースの裾をひるがえし、回し蹴りで男の頭を蹴る。
男は股間を抑えたまま顔から地面に突っ込んで動かなくなる。
「このバカああああああああああ~~~~~~っ」
エマはそのまま体を回転させるともう一人の男に後ろ回し蹴りを食らわす。
「げふっ!」
激しい衝撃にたじろいだ男の頭の上からエマのかかと落としが降ってきた。
あの、お嬢さん、パンツ見えてます。
「ごふっ。」
もろにかかと落としを脳天に受けた男は白目を向いてひっくり返った。
「はあっ、はあっ、はあっ。」
エマは肩で息をしているが目は異様に爛々と燃え上がり怒りが納まらないような顔をしていた。
「このっ、このっ、よくも乙女の純血を。」
おおっ、女性はスカートの裾を持ち上げて転がっている男達を踵で何度も踏みつけています。
な、なんという凶暴な女性でしょうか?
ウィザーのシドラの頭から冷や汗が流れ落ちるのを感じていた。
これが魔法使いシドラと少女エマとの最初の遭遇で有った。
アクセスいただいてありがとうございます。
登場人物
シドラ 新米ウィザー 身長182セルメ
機動馬車 ウィザーの乗る馬車型使い魔
スカール・アルカーイ 長男
ポンビニオ・アルカーイ 次男
タンザリー・アルカーイ 3男 3人合わせてスカポンタン兄弟
何やかやと有りますが、割とのんびりした道中記になります。
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