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最強(弱)無双の魔法使いは無敵少女と旅をする。  作者: たけまこと
マイリージャの憂鬱
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ウィザー世界の怪物

 これまでの調査によりヘックス内の道は思ったより単純に出来ている事がわかった。

 

 ヘックスシティの道はドームを中心に大きな通路が放射状に何本か作られそれを繋ぐように扇状の通路が出来ている様であった。

 つまり人間の住んでいるドームとはヘックスの中心にあり、ドームを中心とした蜘蛛の巣の様な道路の構造であることがわかって来た。

 以前からドームがその様なつくりになっていることは想像されていた、各ドームが数本の通路で繋がっていることを考えればそれは自明の事であったがそれを外部から確認できたことになる。

 

 しかしそうなるとドームの人間が使用している通路によって、ウィザー世界はいくつかのエリアに分割されてしまうのだが、どうやら大きな地下洞窟によってそれらのエリアを生き物は移動しているように思えた。

 そうで無くともヘックス内部を通る河川の上空を通っているドーム通路の存在も分かっている。

 ウィザー世界は決して平たんな都市ではなく、逆に多くの植物と動物が生息する場所を縫って道路と建物が点在している様に感じられた。 

 あくまで生き物の生息を妨げないように作られているように見えるのだ。

 

 その証拠に人の通らない橋の存在が見つかっているのだ。明らかに動物たちの移動を促していることがわかる。

 もしかしたら隣のヘックスとの通路も河の下にウィザー専用の洞窟を掘って繋いでいるのかもしれないとすら思ってしまう。

 

 何故ウィザーがそんな事を行いその目的がどこにあるのか?リンには想像も付かなかった。そう言ったこともあの森を調べればきっとその手がかりが有るに違いない。

 

 森が近づいて来る。大きな道路の正面に木々の大きな影が見え初めて来た。

「アネゴ少し休もうぜ。さすがに苦しくなってきた。」

 ガイが弱音を吐く、無理も無い結構遠くまで来ている。

 慣れているとはいえ、スタミナ的にはやはり苦しい、ドームの中の人間なら動く事も出来ない大気の中で活動しているのだ。

 

「ガイ、その呼び方はやめろと言っているだろう。判った、目的地も近い事だし少し休んで体力を回復させよう。」

 リンは此処で休む事にした。水を飲み食事をする、この後森に入ったら何が起きるか判らない。その時、動けないようでは困るからだ。

 

 今までも何度か探検隊が組織されたが森までたどり着く事は出来たが怪物に追われ命からがら逃げ出してきている。

 工学的価値の少ない金属資源は川を隔てる壁の周辺でいくらでも盗むことが出来たし、盗品を下ろすために据え付けられた、ウィザーの技術を応用したクレーンをウィーザーが撤去することもしなかった。

 

 とは言え金属は重くヘックスの内側ではそれ程大量の金属を持ち出すことは出来なかった。

 外部の空気の中で行う重労働はそう多くの金属を持ち出すことを難しくしていたし、そこまでの金属需要も無かった。

 そもそも機械文明の発達していない世界において金属はそれ程多くの必要は無いのだ。機械文明が大量の金属と大量のエネルギーを必要としているに過ぎない。

 

「ネエサン、今までに集めた情報によるとあの森の周囲にはウィザーとは違う怪物が徘徊しているそうでやすが、何でも人間の十倍以上の高さが有る恐ろしい格好をした怪物らしいですぜ。」

「わかっているよバンダ、見つかったら逃げなきゃこちらの命が危ない。その為に体力の消耗は避けるんだ。」

 この探検が命がけであることは最初から判っている、あくまでもこれは将来に対する投資の意味合いが大きい。

 

「図体は大きいらしいが今までそいつに捕まって捻り潰された奴はいない。おそらく動きはすごく鈍いんだろう。見つかったら全速で逃げれば大丈夫だ。」

 そうは言った物の仮に怪物の目を盗んでお宝を手に入れたとしてもお宝を背負ってあの怪物から逃げきれるだろうか?探検は行く時より帰るときのほうが難しい物なのだ。

 森が近づいてくると怪物の声が聞こえ始めた。

 

「グギャアア~ッ。」恐ろしげな怪物の鳴き声である。

 

 普通の人間であればあの声を聞いただけで震え上がって逃げ出すかもしれない。

 怪物に見つからないように物陰を伝って更に森に近づく。怪物の姿が見える、森の前をゆっくりと横切って行く。後ろに有る木々の高さにも負けないその大きさがわかる。人間があの距離にいても豆粒のようにしか見えないだろう。

「でかいやつですな。」ノックが怪物を見て呟く。

 怪物は背も高かったが胴回りも非常に太い。まるで巨大な卵が歩きまわっているようにも見える。

 

「いや、あきらかに動きが鈍い。あれなら簡単に逃げられる。」

 リンはみんなを促して接近を試みる。

 

「あいつ、この辺りを離れようとしやせんぜ。こっちに気づいているんじゃありやせんか?」

 確かにその可能性は高い。先程から怪物はこの周辺を行ったり来たりしていて反対側に行こうともしていない。

「回りこむよ。」

 リンはそう建物伝いに怪物の徘徊している場所を迂回して森に近づいた。

 

「アネゴ、なんか森の前に有りますぜ。」

 森の周囲を囲む道路の向こう側に何かが見える。

「行くよ。」リンは森に駆け寄っって行く。

 森の周囲には高い壁が設けられていた。その壁の上には金属の細い紐が張られている。

 何の為なのかは判らないが、これが人を守りに入れない為のものである事は明白であった。

 

 壁にはなにか判らないマークが描かれていた。

「何でしょうか?何かのマークのようですが?」

 大きく四角く塗られた黄色の下地の真ん中に黒い丸が書かれており、その周囲に3つの黒い扇が描かれている。

「どういう意味でやしょうか?」

「さあな、ただここに人を入れたくないほど重要な場所だということだけはわかるよ。」

 

「へっ、アネゴこんな壁くらい簡単にこえられますぜ。おい、バンダ頼むぜ。」

「よし!」

 バンダは壁に背を付けると両手を前に組んだ。

 ガイはその手に足を乗せると飛び上がり、軽々と塀の上にある鉄線を掴んだ。

 

「あがががっ。」

 鉄線を掴んだ途端にガイは悲鳴を上げ塀から落っこちて来た。

 

「どうした?」

「鉄線を掴んだ途端に手がしびれた。」

「何だと?よしっ今度は私がやってみる。」

 同じ様にバンダの手に乗ると飛び上がりリンは鉄線に触れた。バチッという感じで手がしびれる。

 

「くそうこの鉄線にはなにか魔法がかけられている。」

「ウィザーの魔法でやしょうか?」

「多分な、ん?」

 その時ドンドンという地響きが聞こえる。

「いかん、怪物に気づかれた。」

 角を曲がったところから怪物の姿が表れる。

 

「グギャアア~ッ。」

 獰猛な鳴き声を上げるとこちらに向かって走り始めた。驚くほどの速度でこちらに向かってくる。

 間一髪の所で体を交わすと怪物はそのまま20メートル位先まで走り去る。やはり動きは鈍い。体が重すぎて簡単には方向転換が出来ない様である。

 

「みんな逃げるよ!」

 それぞれ散会して逃げ始める。

 怪物はバンダを目掛けて追いかけ始めた。

「グゲエエ~ッ。」

 

「チキショウなんだってオレの所にくるんだ。」

 そう嘆きながら逃げ惑うバンダであったが、たちまち怪物に追いつかれる。

 必死で横っ飛びに体をかわすと、そのまま怪物は目の前の建物に突っ込み建物を壊して中にめり込んだ。

 

 間一髪で逃れたバンダの目の前で壊れた建物に頭を突っ込んだまま怪物は足をじたばた動かしてもがいていた。

「なんだってコイツ、こんなに足が短いんだ?」

「今のうちにいくよ。」

 怪物はバンダを追って行ったのを見てリンはそう命じた。今のうちに壁を乗り越えるつもりである。

 

 再び壁の前に取り付いたリン達であったが、壁の上の方で何かが動くのが見えた。

「あちっ!」

「あちちっ」

 リンもお尻に熱いものを当てられたような気がして悲鳴を上げる。

 壁の内側に建てられた柱の上に付いているものがリン達の方向を追跡して動いている。

 

「あたたたっ!」

「熱いっ!」

「ひいいっ!」

 体中のあちこちに火箸を当てられたような痛みが走る。

 

「畜生!これもウィザーの魔法か?」

「死ぬほどの痛みではないが痛みを感じたところが赤くなって服が少し焦げている。炎の魔法らしい。」

 

「グエッ、グエッ!」

 ようやく建物の中から抜けだした怪物は今度はりん達に向かって突進してきた。

 走っているのではない丸い体を利用して転がって来るのだ。

 

「フンガアア~ッ!」

 雄叫びを上げながらリン達に向かって転がって来る、走るよりずっと早いスピードである。

 体中にやけどの跡をつけられたリン達はかろうじて怪物の突進を交すと再び怪物は建物に突っ込む。

 

「コイツ馬鹿じゃないか?自分達の家を壊してどうするんだ?」

 リンはそう思ったが現実はそれどころではない、再び炎の魔法がリンを襲う。

「あたたたっ!」

 体中を襲う痛みに転げまわる。

 

 瓦礫の中から立ち上がった怪物は今度は天に向かって口から炎を吹き上げた。


「フゴオオ~ッ!」

 炎は天高く吹き上がり熱はリンの肌を焦がす。あんなものに巻き込まれたら骨も残さず燃え尽きてしまう。

「みんな、逃げるよ!命有っての物種だ。」

 

「フンギャアア~ッ。」

 

 必死で逃げはじめたリン達の背後で怪物は再び天に向かって炎を吹き上げる。

 夢中で走ってきたが息が苦しくなって遂に動けなくなってしまった。この空気の中で過剰な動きをすれば息が出来なくなって死ぬことも有る。それでもリン達は必死になって走ったのである。

「呼吸の苦しさと体中の痛みにもうろうとなっているリンの横にウィザーの軌道馬車が泊まるのを感じた。

 

 人型のウィザーが降りてきてリンの首筋に何かが当てられるとリンは意識を失った。


 離れた場所から一部始終を見ていたゲイルはあきらめて竜を連れ村に帰った。

 そのうち無事に戻ってくるだろう、少なくともウィザーは人を殺さないからだ。

 

  ◆

 

 ドーム通路の中で畑仕事をしていた農夫達に取ってそこは一種神聖な場所であった。

 

 時々そのドームの一部が開いてウィーザーがドームと外界を行き来する場所になっていたからだ。

 村人達がいくら開けようとしてもその扉を開くことは出来ず、そこは人間が手を出してはならない場所として扉の両脇に社を祭っていた。


 人々が出ることの出来ない外界とドームを結ぶ扉であり、そこを行き来するウィザーを目の当たりにすれば人ならざる者に対する畏敬の念が生まれるのは当然の事でる。

 そこを出入りするウィザーを見かけた人々は両手を合わせて頭を垂れたのである。

 

 その日はいつもとは違う大きな機動馬車がそこから出て来ると数人のウィザーが馬車から降りてきた。

 ウィザー達は数人の男女を通路の地面に下ろすと首に何かを当てる。ウィザーはそのまま馬車に乗り込み再び外部に出て行った。

 村人が降ろされた人間の様子を見に近寄ると彼らは目を覚ましゆっくり起き上がった。

 

「ここは?どこだ?」

 その中のひとりが村人に聞く。

「エンデカの通路だわな。あんたらドームの外に出たんだがな。」

 通路の民は川辺の民の事を知っている。時々ウィザーが川辺の民を連れて置いて行くのを目撃しているからだ。

 

「何でオレたちはここにいるんだ。」

「外に出て行き倒れたんと違うか?ウィザーがここ迄運んできてくれるんだ。あんたらウィザーに感謝せねばならんで。」

 リンは体のあちこちに出来た焦げ目を見たが体の痛みはずっと少なくなっていた。体を触って見たリンは傷の上に何か油のような物が塗られているのに気がついた。

 

 あわてて体中の傷に触ってみると体中に油のようなものが塗られていた。

「お前たち体の方はなんともないか?」

「大丈夫でさあ、魔法の傷もウィザーが手当してくれたみたいでもう痛くもありやせんぜ。」

「ばっかやろう。気絶している間に体中に薬を塗られたんだぞ。」

 

「それがどうかしやしたか?」

 そう言った後みんなはその意味を理解してリンの方を見た。リンは真っ赤になって胸を隠す。

「ちっくしょう。ウィザーの野郎アネゴの裸を見やがったのか!!」

 こういう時言わなくても良いことを言う奴は必ずいるものである。

 

 リンはガイの頭をおもいっきりどついた。

 

「おまえ何を想像していやがる!」

「いや、その。」

 ガイは頭をさすりながら口ごもった。

 

「今回の探検の成果は無しか。」リンは残念そうに言う。

「また出直しですな。」

「あれ程の怪物が守っている場所だ。きっとすごいお宝が有るに違いない。いずれもう一度行ってやるさ。」

 

 リン達が森のなかに隠されたお宝の本当の意味を知るのはかなり後になってからであった


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